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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生春
72/125

細部までしっかりと

 色紙さんの部屋にめぐにゃんと共にやってきた。今日はちょうど練習はありませんでしたと言うが、真偽は分からない。今日は気温が暖かいためか、ゆったりとしたハーフパンツにノースリカットソーだ。

 色紙さんに招き入れられ、いつもの様にドアガードを閉める。色紙さんはキッチンへ消えるが、リビングに向かう。その間にめぐにゃんは小声で先輩慣れてるとか凄い立派と感嘆の声をあげたのが聞こえた。

 テーブルの周りのソファには鹿折さんとその横に花露辺さんは座っている。目の前にはカップが2つ置かれていて、鹿折さんの前には空のお菓子の包みがいくつかある。

 いつもより人が多いなと思うが、ソファとは別に机の近くに椅子が2つ据えられている。そこに腰掛ける。

 色紙さんがカップを2つ持って、俺とめぐにゃんの前に置く。湯気が立つそれは珈琲のように見える。熱いだろうからまだ手は付けない。

 色紙さんはソファに座り、カップに口を付けてから話し出す。

 「皆様お忙しいところお集まりいただきありがとうございます。」

 珍しく感謝の言葉を綺麗な声で冒頭に述べ深くお辞儀をするが、これは色紙さんのボケのようだ。思わず鼻で笑ってしまうが、鹿折さんもははっと小さく笑った。めぐにゃんの顔は変わらず、花露辺さんも顔に感情を出していない。

 「早速だけど、私は煩わしいことは嫌いなのでざっくりいくよ。」

 めぐにゃんと花露辺さんを交互に睨む。

 「今日の最終目的は小菅(こすげ)君の処遇を決めること。その過程で昨日何が起きたのか、小菅君と花露辺さんの関係は何か、桃生さんの対処をどうするかを決める。」

 小菅君というのは、話の流れからしてXの事だろう。実に端的で分かりやすいが、めぐにゃんにとっては何が何だかわからないだろう。

 「あらかじめ言っておくと、私は美夜と三城君の言う事は信じる。信用を置いているので。小菅君、花露辺さん、桃生さんの言う事は疑ってかかる。信用してないので。そこは悪く思わないで欲しい。私の命も美夜の命もかかっているので。」

 信用という言葉が非常に嬉しく思う。普段適当な事ばかり言っているが、信用は置かれてるようだ。

 「そもそも、私達は小菅君の話を一切聞かずに殺す権限があるんだから、これは随分優しいこと。」

 花露辺さんをじっと見て言う。そう言われても、彼女は臆する様子はなく表情は変わらない。

 「それじゃあ、昨日何をしていたか、まず桃生さん、話して。」

 色紙さんに促され、めぐにゃんは昨日のことを訥々と話し始めた。

 

 一通り、昨日自分が聞いた事と同じ事を話し終えると色紙さんが、目線でその通りかと尋ねる。それに対して黙って頷く。

 「随分と大胆ね。」

 悪戯に笑ったのは鹿折さんだ。めぐにゃんは固まっている。突然知らないお姉さんに茶化されたのだ。反応には困る。鹿折さんはadidasのセットアップを着ていて、色合いが派手めだ。

 「それじゃあ、花露辺さん。小菅君との出会いから昨日までを話して。」

 「出来るだけ簡潔にまとめたほうが良いですか?」

 初めて聞く花露辺さんの声は、想像よりも力強い。

 「いえ、細部までしっかりと。」

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