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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生春
71/125

事情聴取

 明日の連休初日に、用事が何も無くて良かった。普段から真面目に部活も勉強もせず、友達が多いとも言えないから当たり前ではあるが、それでも少し寂しさはある。

 そういえば連絡先を知らなかったと思い、めぐにゃんと連絡先を交換した。路地で別れた後、家に帰ってメッセージを送信した。内容は至ってシンプルで、

 “明日何時に会える?”

 というだけだ。

 想像よりも早く返事が来た。

 “午前中と夕方練習なので、13時なら大丈夫です(*´꒳`*)“

 何というか、練習が多いということよりも、文末の顔文字が気になった。普段、ぶっきらぼうというか、あまりテンション高く話をしない人がメールやLINEで顔文字がいっぱいだと不思議な気持ちになる。

 ”明日の昼にどこかで落ち合おう。“

 つられて顔文字でも使おうかと思ったが、慣れない事はしないことにする。

 ”どこが良いですか?(´・ω・)“

 “めぐにゃんの都合良いところで良い。”

 “それじゃあ最寄駅で一回会いましょう!(`・ω・´)”

 まあ、話がすんなりと進むなら問題はない。

 


 ちょうど13時に、駅の東口にめぐにゃんは現れた。黒のロングスカートで大人っぽいと思うが、adidasのロゴがある。スポーティーとフェミニンの塩梅が良い。そして少しオーバーサイズの薄手のパーカー。背の小さい女子が、こういう格好をするのも良いなと思う。

 「お待たせしました。」

 昨日のメッセージのテンションとは変わって、酷くローだ。なんとなく、彼女自身テンションは高めだが、それを表に出すのが苦手なのではと思う。

 「お昼は食べた?」

 「いいえ。」

 「それじゃあ何か食べようか。何が良い?」

 「何でも良いです。」

 そういうと、めぐにゃんのお腹が鳴った。パッとお腹を抑えて、頬が赤くなる。

 そりゃ朝から練習していれば、お腹も空くだろう。

 「それじゃあ、サクッと食べれる所にしよう。」

 変に洒落ている所にするより随分と良い。ぐるりと辺りを見渡すと、マクドナルドが目に入る。ちらりと目で訴えると、こくんと頷いた。


 自分は期間限定バーガーのセット、めぐにゃんは同じセットにマックフルーリーを追加してた。

 2階の席へ進み、人が1番少ない窓が正面となるカウンター席に並んで座る。

 GWの初日から、不思議な事になったなぁと思っていると、めぐにゃんの方から口を開く。

 「あの、鋭い目付きの人は誰ですか?」

 「昨日、ベラベラ喋ってた人?」

 ポテトを食べながら頷く。

 「あの人は色紙四季さん。俺の同級生。」

 めぐにゃんはしばらくもぐもぐと口を動かしながら、正面のガラスの向こうの交差点を見た後ごくんと飲み込み、スプライト飲む。

 「あの人は強いですよね。」

 なんか、少年漫画みたいな価値観の人だと思い笑ってしまう。

 「何で笑うんですか。」

 露骨にむすっとしている。

 「悪気はない。でも、本当に強いよ。俺の師匠。」

 こちらも少年漫画の様に返す。

 「それじゃあ、私も色紙さんに稽古付けてもらえば。」

 ポテトを齧りながらぶつぶつと呟いている。

 ハンバーガーの包みを開け、食べる。どうしてマクドナルドはたまに食べたくなるのか、不思議でたまらない。

 昨日のことについて、めぐにゃんに詰問されると思ったが、意外とがっついてこない。より強い色紙さんからの言葉に従っているのかもしれない。体育会系だ。

 しばらく無言でハンバーガーを食べた後、ジンジャエールを飲み一息付いて質問する。

 「昨日は、俺に会うまで何してた?」

 「昨日は…。」

 言いにくそうに俯く。何かぼそぼそ喋っているため、耳を近付ける。ふわっと良い匂いがして、どきりとする。午前の練習の後、シャワーを浴びてきたのだろう。

 思わず顔を引いて、めぐにゃんが話し出すのを待つ。

 「昨日は、三城先輩の秘密を暴いてやろうと思って。」

 ちらりとこちらを伺う。

 「ずっと後を付けてました。」

 「はぁ?」

 思わず喧嘩腰の言い方になってしまう。

 「すみません。」

 言葉とは裏腹に、きっぱりと強い口調で言う。

 「それはまあ良いけど。」

 実際、良くはないが話を進める。

 「何をどこまで見てたの?」

 「先輩が学校から帰って、どこか練習に行くのかなと思いました。だって、私と引き分けする人があんな適当な部活の練習だけで鍛えられてるとは思えなかったので。」

 剣道部へのディスと自分への高評価の両方は入り混じった、何とも主観的な意見だ。ただ、そのどれもが事実だ。

 彼女は木曜日以外は、学校外で練習があるはずだ。たまたま休みだったのかもしれないが、もしかすると、本気で確かめるために休んだのかもしれない。

 「それで後を付けようと思ったんですけど、途中で見失って。」

 「どこで?」

 「学校出て直ぐです。友達に会って話をしている間に。それで、この時間なら南地区の練習会やってるなと思って、私が普段行っていない練習会です。そっちを偵察を兼ねてこっそり見ていこうと歩いてたら、三城先輩がビルとビルの間を飛んでるの見えて。」

 さすがにあれは目立ち過ぎたか。色紙さんに怒られなければ良いな。

 「何やってるのか聞こうと思って一生懸命追いかけたら、路地で三城先輩が誰かと喧嘩してて、そこにもう1人も乱入して。しばらく見てたんですけど、やっぱり先輩強かったですね。っていうか、真剣持ってるんですか?」

 めぐにゃんの目が輝いたように見える。これに答えるのは、色紙さんとの約束を破ってしまうため

 「ノーコメント。」

 と答えた。

 すると、いつも通りの感情の読めない顔に戻り、話を続ける。

 「後はその通りですよ。1人に勝って1人逃げ出しそうだったんで、捕まえる手助けして恩でも売って、色々聞き出そうと思ったら相手は海だし、よくよく考えたら喧嘩してる時に真剣使ってるし海はアスファルト壊すし、そもそも先輩は死んでもおかしくない高さから飛び降りるし。色紙先輩は銃持ってたし。」

 息が続かなかったようで、そこで言葉を区切る。

 「そうですよ、色紙さんっていう変な人もいるし。」

 まだ、ほとんど話をしたことがないのに変な人認定された色紙さんが可哀想だ。

 「詳しく教えたいけど、俺には権限がない。」

 めぐにゃんはじっと俺の目を見つめる。

 「色紙さんに聞くと良い。」

 しばらく黙った後、

 「分かりました。」

 と、目線を外して言う。

 やはり、絶対強者の色紙さんには逆らえないらしい。

 大体の経緯は分かった。ほぼ、自分の落ち度だ。色紙さんに謝ろう。過去に戻って、めぐにゃんの気をそらすなり、俺に忠告するなりできるだろう。

 夕方にも練習があると言っていたから、あまり拘束するのも良くないと思い、時間を確認するためにスマホを見る。すると、色紙さんから着信があった。急いで出る。

 「もしもし。」

 「どう?」

 色紙さんは基本的に無駄を極限まで省く。それにも一年掛けてやっと慣れてきた。

 「大体分かった。」

 「こっちも色々分かった。一回、情報共有会をしたいけど、明日の今くらいは暇?」

 頭の中のカレンダーを見るが、別に何もない。

 「大丈夫。」

 「めぐにゃんはどうか聞いておいてくれる?」

 「今聞ける。」

 めぐにゃんの方を見る。

 フルーリーを食べている彼女に

 「明日の今くらいは暇かって色紙さんが。」

 と尋ねると、口を開けないらしく何度も頷いた。もしかすると、練習はあったのかもしれないが、色紙さんと会うことを優先したのかもしれない。

 「大丈夫らしい。」

 「それじゃあ、私の家にめぐにゃんを連れて来て。」

 「分かった。」

 そう言うとじゃあねもなく電話は切れた。

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