カロート
「それは出来ない。」
色紙さんはそう言い切った。何故と聞きそうになるが直ぐに教えてくれるだろうと黙る。
「タイムスリップにも回数制限がある。」
聞きたい事があるが、質問して良いのか分からず、また黙る。
「さっきの言い方は少し悪かったかも。同じ時代にタイムスリップは2回しか出来ないと言った方が良いかも。」
確認であれば口を挟んでも良いだろうと声を出してみる。
「同じ時間に同じ人が居ても良いのは2人までってこと?」
意外と嫌な顔をせず答える。
「ほぼ正解。例えば私が今ここにもう一度タイムスリップして私が2人になるのはセーフ。そこに3人目が来るのはアウト。」
「アウトって言うのは法的にアウト?」
「いや、これははっきり何故かは答えられない。未だに原因不明だけど、3人目が現れた時点で3人目が死ぬ。」
3人目が死ぬ?考えてみるが、何故か、どういう結果になるのかがさっぱりわからない。その心情を顔で表してみる。
「ここにもう1人の私が現れて、更にもう1人現れた瞬間、3人目が死ぬ。そういう事ね。因みに、今の例には決定的な矛盾がある。何か分かる?」
3人目が死ぬという事すら理解できていないのに分かるはずがない。ため息を吐いてみる。
「今ここに3人目が現れて3人目の私が死ぬなんて事、私が見るはずがないってこと。今までの説明を真面目に聞いてたなら分かるはず。」
期待をもったような言い方をする。しかし、さっきに説明で大体察しがついた。
「最未来か。」
端的にそう答える。
「もっと詳しく。」
答えはあっていたが、途中式を書いていなかったようだ。
「色紙さんが生きている今は最未来。つまり、今より先の未来がない。だから、今の色紙さんが未来の色紙さんを見る事はありえない。」
「そういう事。ちゃんと聞いてたみたいだね。さっきの例は分かり安いだろうと思って言ったの。」
意図せず試してようになってごめんと言って色紙さんはお茶を飲んだ。
肘の絆創膏を見つめ、シワになった部分を撫でている。それで直るわけでもなく、少し剥がして貼り直してみるが、余計シワになる。
絆創膏を剥がして、新しい絆創膏を取り出しながら話しかける。
「私が経験できるのは3人目しかない。例えば、今日忘れ物をして、朝7時にそれを教えに行く。その後更に忘れ物に気付いてもう一度朝の7時に会いに行くと3人目になって死ぬ。会いに行った2人はタイムスリップしてるし、会いに来られた私もこの時代にタイムスリップしてるから、タイムスリップ3回目ね。」
「その考え方なら、最未来の色紙さんはタイムスリップしていないから、タイムスリップ2回して3人目まで会えて4人目で死ぬのか。」
「理解が早いね。この時代に居る私はタイムスリップしているから既に1回カウントされてる。だからもう一回しかこの時代にタイムスリップ出来ない。タイムスリップしていない私には2回タイムスリップして3人目まで揃う事ができる。そこで。」
言葉を区切り、お茶を飲む。ペットボトルからまたお茶を注ぐ。
「さっきの話に戻る。私達がタイムスリップ場所に待ち伏せてる奴らに殺されるからタイムスリップなんて出来ないと思うって話。今ならどう思う?」
そう聞かれて、頭で考えるよりも口に出した方が整理出来ると考える口に出してみる。
「連中は最未来からタイムスリップして、この2017年のタイムスリップ場所に待ち伏せてる。これでタイムスリップ1回目。そこへ色紙さんが現れる、そして連中に殺される。」
「私そんなに弱くないよ。」
そう言葉を挟まれる。話を区切られるのが嫌いなのに、自分は区切るとはなかなか達が悪い。
「今日やられてたでしょうに。」
「あれは理由があったけど、今は言わないでおこう。」
反論してみたが、嘘か本当か分からないはぐらかしを食らってしまった。仕方ないので続きを話す。
「連中に殺された色紙さんを助けに、最未来から応援が来る。タイムスリップ1回目。連中が殺される。連中の仲間が報復に来る。タイムスリップ1回目…。これの繰り返し。」
色紙さんの目を見る。感情は読み取れない。
「正解ね。甘いけど。」
何かが足りなかったようだ。考え続けようかと思うが色紙さんが口を開いた。
「繰り返しまでは100点ね。最後は成員の多い方が勝つ。それはどっち?勿論、私達よ。」
圧倒的に色紙さん達、歴史を改変させないチームの人数が多いようだ。
「だから連中はタイムスリップしたばっかりの私達を殺す事はできない。だけど、似たことはできる。」
お茶を一口いただく。苦めのお茶で、今後も飲みたいなと思う。
「まさに今日会ったこと。私を殺すと決めて、連中が殺しにかかる。私からの連絡がなくなって助けが来る。そこで連中がタイムスリップポイントに張っていたらさっき言った物量戦で負ける。だから、タイムスリップポイントから殺人現場までの間に潜む。殺人現場に向かえるルート全てに張る。そこにやって来る未来人皆殺しね。これで成功。」
その話に矛盾を感じ、質問をする。
「タイムスリップポイントから殺人現場までのルートに張ったとしても、結局物量戦で負けるんじゃないの?」
「まあ、そうなるね。ルートに潜むからこちらは連中が何処にいるか分からない。手間はかかる。死ぬ人が増える。だけど、こっちの方は人数多いから連中を殺し切る事は出来る。ただ、たかが私1人のために払う犠牲ではない。」
なるほど。タイムスリップポイントを奪還するためには色紙さん達総動員で戦う必要がある。しかし、色紙さん1人にタイムスリップポイントを奪還する以上の犠牲は必要ない。そういう事か。そうであれば、殺人のあとタイムスリップポイントで色紙さんの味方を殺す作戦を実行すると、色紙さんの味方はタイムスリップポイント奪還作戦に移行し、確実に連中は負ける。だからルートに張り、確実に色紙さん1人を仕留める。それが正しい選択だ。
「今日、私は見事にその罠にかかった。きっとここまで来るのに連中が張ってる場所をいくつか通ったはず。殺人現場まで入る未来人には注意を払うけど、出る未来人はあまり興味がなかったみたい。それに隠れてたし、近くに三城君がいたから油断したのかもね。まさかあの殺人の後に過去の人間と接触する筈がないからね。」
今日会った事は大体理解できた。だが、それが本当かどうかあまり信じる事はできていない。
「さて。」
そう言って色紙さんは立ち上がる。
「見たからには、責任取ってもらうよ。」
その言葉がどういう意味か、それを判断するには、頭の整理が出来ていない。ただ思ったことを口にする。
「色紙さんにとってここはカロートみたいだな。」
色紙さんくすりと笑う。
「私は墓荒らしを退治する門番ってところかな。」