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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生春
69/125

連休前のMr.X

 ゴールデンウィークの助走とも言えるこの日は、倦怠に満ちている。

 1日の半分を終えるまであと10分程であり、空腹もピークを迎える。それは皆同じであるようで、ノートに板書する音は一切聞こえない。

 頬杖を突いたり、窓の外を眺めたり、机の下に隠してスマホを見たりと、銘々がやり過ごしている。

 教師もそれを黙認しているのか、それとも同じ気持ちなのか分からないがひたすら喋り続けている。

 チャイムは鳴ると同時に、皆ノートや教科書を机や鞄に仕舞い、教師も待っていたと言わんばかりに教科書を閉じ喋るのを止めた。

 

 今まではめぐにゃん側で、俺の実力を測りかねているような、訝しげな顔をされる事が多かった。こちらとしては、めぐにゃんとの稽古はとても有意義な反面、全力を出せずもどかしい思いをしていた。

 その鬱積を晴らした先週の試合。

 めぐにゃんが恐ろしく強いことと、重度の負けず嫌いが発覚した。その翌日に廊下ですれ違った時に、当日から筋肉痛がやってきて寝れなかったと言っていたが、筋繊維のオーバーユーズだろう。

 引き分けに終わったため、約束とは違うと、強さの秘密を聞かれずに済んだ。

 それっきり、何も聞いては来なくなった。

 元々、部活以外で顔を合わせるわけではなく、先週の部活から会っていないだけではある。その後は校内ですれ違う事はあっても挨拶のみで、今日の部活で何か詰問されるのか不安だ。

 行きたくなければ行かなくて良い部活ではあるが、休んでしまっても不自然ではないだろうかと悩む。

 吹奏楽部の演奏が聞こえ始め、グラウンドから声が響き始める。壁に掛かった時計を見ると、そろそろ道着に着替えている時間だ。

 重い腰を上げ、格技場へと向かう。


 予想に反して、人数が居らず半数近くは帰っていた。その様子でめぐにゃんが今日来ないのだと悟る。

 男子部室に入ると、気怠そうにスマホを見る間下と、竹刀のささくれを削る康太が居た。

 「帰らないのか。」

 間下はスマホから目を離さずに、

 「剣道する気で居たのに、急にしないで良くなったのは幸せだけど、体力と時間を持て余している。」

 「今日はめぐにゃんがこない。」

 康太が補足する。

 なるほど。やる気の当てどころがないのだろう。

 「さっさと帰れよ。」

 先輩達が居ないのを見ると、恐らく喜んで帰っていったのだろう。それに倣って早く帰れば良い。

 「そうだなぁ。今日はゲーム持ってきてないしなぁ。」

 ぶつぶつと帰る理由を並べている。

 康太は竹刀のささくれを削り切ると良しと小さな声を出す。

 「俺は帰る。」

 スポーツバックを肩に掛け、康太は部室を出ていった。

 俺も帰ろうかとスマホで時間を見ると、通知が一件入っていた。


“今日うち来れる?”


 色紙さんからだ。

 この画面だけ見られると、何か勘違いされそうだが、きっと未来に関する話だろう。間下に見られるわけではないが


“今から学校出る。”


 と急いで返信した。ポケットにスマホをしまう。

 「俺も帰るぞ。」

 そう宣言する。

 「俺も帰るかぁ。」

 間下は重い腰を上げ、大きく伸びをする。そして変な声を出す。

 女子部室には誰もないらしいので、格技場の明かりを消して鍵を閉める。

 近くで足音がする。

 間下と顔を見合わせ、辺りを見渡す。女子か先輩が格技場へ来たのだろうか。数秒立ち止まって待つが、誰も現れない。まあ、部員なら鍵の隠し場所は知っているから良いかと思い、鍵を表札のような木製の看板の裏に隠す。

 「行くか。」

 そう声をかけると、間下も頷いて歩き出した。


 


 色紙さんの家に着き、一年近くも通っていたのかと気付き、時が経つのは早いなと思う。初めて来た時は何も分からず、呆けた顔をしていた気がするが、今もそれほど知識が増えた訳ではない。

 色紙さんに部屋に通され、ソファーに腰掛ける。どうぞと出されたティーカップが机に置かれる。口元まで持っていき、熱くて飲めないと察する。匂いでカプチーノかなと想像する。

 色紙さんも自分の分のカップを持ち、向かいのソファーに座る。

 一口啜ると、色紙さんは喋り出した。

 「2人で解決しないといけない問題がある。」

 「どのような?」

 そう尋ねると、準備していたであろう説明が始める。

 「4月に入ってから、監視をされている。未来人である事は間違いない、姿も見てるけど逃げ足が早くて捕まえられない。」

 色紙さんでも出来ないことがあるのか。人の捕縛など容易いと思うが。

 「CTTなのかそうじゃないのか、定かじゃない。もしCTTだとしたら何か大きな改変の準備かもしれない。」

 「大きな改変の準備?」

 分からない事を鸚鵡返ししてしまう。

 「PPである私を監視して改変をすんなり進めようという算段とか、そもそも私を殺してこの街でのCTTの活動をし易くするとか。」

 色紙さんの危機であると同時にPPにとっても危機となりうるようだ。

 「そいつを協力して捕まえようって感じか。」

 「端的に言えばね。」

 カップに口を付けて、一口飲むとふうと息を吐いて話し出す。

 「見た目だけじゃCTTか判断出来ない。迂闊にそいつを追いかけて術中に嵌るのが怖い。」

 なるほど。人一人を捕縛するのは容易いが、氷山の一角に過ぎない場合はどうしようもない。

 「多分、私を見ている時は1人だと思う。複数人で見てたら意味ないからね。そこから私に気付かれて逃げる道中に仲間が待ち伏せている可能性がある。私と標的の間、標的が逃げる道中、パターンはいくつか考えられる。そのパターンにどれだけ敵がいるか断定出来ない。」

 「標的が逃げ続けると、標的と色紙さんの間全てに伏兵がいてもおかしくない。そもそも、色紙さんと標的の距離はどのくらい?」

 「500かな。」

 さらっと言うが、その距離の視線というか、気配を感じるのは普通じゃない。

 「ここからは相談、どうすれば良いと思う?」

 ソファーの背もたれに体重をかけ、大きく唸る。少し考えたが、喋りながらまとめることにする。

 「色紙さんのストーカー、仮にXとする。Xが逃げてから追おうとすると、ルートが特定出来なくて一回で捕まえることが出来ないかもしれない。」

 色紙さんがいる方向ではない全方位に逃げ出す可能性がある。

 そうだねと色紙さんが同意する。

 「鹿折さんじゃなくて俺に声を掛けたのは、俺が未来人じゃないからだ。俺ならXに近距離にいても逃げ出されない。」

 そう言ってから、更に思考を深める。大丈夫、このままの作戦で問題ない。

 「一定距離、色紙さんから離れて周囲を窺う。色紙さんとXの距離が500ならもう更に500くらいか。未来人が1人だけ居たらその人がXと判断して対敵、色紙さんが来るまで逃げないよう食い止めるか自分で捕縛する。もし、複数の未来人がいたら…。」

 そこまで話して、どうしようかと悩むが、直ぐに答えを思い付いた。

 「俺1人じゃ無理だから、色紙さんに詳しい状況を伝える。人数、場所、その他を伝えて色紙さんに判断してもらう。」

 色紙さんは掌を合わせて鼻と口に当てしばらく考え込む。

 やがて息を一つ吐き出す。

 「それがベターだと思う。」

 「ベストは?」

 少し気になったため質問する。

 「美夜にも協力を仰いでスリーマンセルで臨む事。三城君の実力を認めていないわけじゃなく、Xが複数人だった場合に、その場で全員捕縛出来るような体制が良いと思って。」

 確かに、色紙さんと鹿折さんが居れば複数相手でも何とかなるかもしれない。しかし、だ。

 「PPの数が増えるほど、Xにとっては都合が悪くなって、上手く捕まえることが出来ないかもしれない。」

 極力、Xには対敵するその瞬間まで警戒心を高めて欲しくない。

 「そう。だから、やっぱりこれは2人で解決するべきだと思う。」

 色紙さんは指をぱきりと鳴らす。

 「ちなみに、美夜に最近正体不明の未来人が近くに現れていないか確認したけど知らないって言ってた。」

 「それじゃあ色紙さんだけ張り付かれているわけか。」

 去年の初めにあったようなPP潰しでも企んでいるのだろうか。

 「学校の帰りに通話しつつ距離を置いて周囲を索敵。Xが居たら対敵。大丈夫、三城君は負けないよ。」

 色紙さんはチラリとスマホを見る。つられてスマホを見るが、返さなければならない通知はない。

 「明日やるから、放課後ちょっと作戦会議してから帰ろう。」

 「気分良く連休を迎えよう。」

 軽いジョークだったが、色紙さんは少し表情を曇らせる。

 「それはX次第だね。」

 どういう意味か理解しかねていると、色紙さんは言葉を続ける。

 「この作戦は三城君、過去人との互恵関係が知られることになる。CTTであれそうじゃないにしろ、知られて良い事じゃないから口を封じる必要がある。」

 色紙さんはXの口の封じ方を危惧しているらしい。それなら俺を使わなければ良いかと思うが、早急に確実にXの正体を暴く必要があるのだろう。色紙さんの判断に文句を言う筋合いはない。

 「まずは作戦は成功しないとな。」

 気休めだ。

 「私は失敗しないと思うから。」

 自信満々の顔で宣言する。何とも頼しい。


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