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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生冬
62/125

明確

昼休みには一体どんな生活を送っていただろうか。

基本的には寝ている気がする。それか本を読む。たまに色紙さんと格技場で修行をしたりもする。そういえばゲームもしている。友達とだったり、一人で黙々とやっていたり。

自分はそうだった。

周りはどうだったかと思い出そうとするが、うまく思い出せない。今日は教室に残り雑談してる人が多い。

そして、どうしてか小清水さんはいない。

普段から小清水さんが昼休み教室にいたかと考えるが、どうしても思い出せない。本を読んでいたイメージがあるが、それだけだったとも言い切れない。どこに居るのか思考を巡らせるが、確実にここだと断言出来る場所を確定出来ない。

校内を闊歩して、探したとしてもただお花を摘みに行っているだけで、昼休み全てを無駄にするのは勿体ない。しかし、探せば見つかる場所に居るなら教室に居るのは勿体無い。ジレンマだ。

そうだと思い付き、宗介の元に歩み寄る。

「宗介が探して来い。」

要件を手短に伝える。ぐるりと周囲を見渡すして、合点したようで口を開く。

「元春の方が良い。」

「何で?」

強めに言う。これは宗介のためにやっているのだ。であれは、無駄な体力を使うのは宗介の役目だ。

「俺が外に出て見つけたら元春を呼び出す必要がある。ワンクッションが手間だしロスだ、その間にどっか行くかもしれない。最初から元春が言った方が良い。ここに戻ってきたら直ぐにどっか行くとは考えにくい。直ぐに元春を呼び戻せば良い。」

なるほど、それなりに考えているようだ。反論出来ないため、無言で立ち上がり廊下に出る。

廊下の窓から雪が見える。この量だと、帰りには積もっていそうだ。そして廊下がめちゃくちゃ寒い。何度も廊下に出るたび後悔する。もう廊下の気温はマイナスなんじゃないかと思うが、窓の結露が凍っていないため、ぎりぎり世界は越えていないと察する。

さてどこに行こうかと悩むが、そうかと思い当たる。

今時期、わざわざ暖房のない場所へは行かないだろう。そうすると、可能性として1番大きいのは他の教室だ。第2体育館の方、7組の方へ向かって歩く。5組を戸の小窓から覗くが居ない。6組、7組を続けて覗くが姿は見えない。

踵を返して、1組の方へ向かう。

3組、2組、1組と教室を覗くが何処にもいない。一瞬、山崎まさよしの曲が脳内で再生される。

「こんなところにはいるべきだろう。」

小さく愚痴をこぼす。

あと暖房が効いている部屋など限られている。流石に、他学年の教室にまで行く勇気はない。

階段を登り、渡り廊下を歩く。本当に寒い。

左に折れ特別棟に向かう。更に特別棟の階段を登り、3階へ登る。

この特別棟で常時暖房が付いているには、ここしかない。

図書室の戸を開ける。ここに来るのは入学してから数えるくらいしかない。いや、むしろ2回目だったかもしれない。

今までの学生生活で小学校と中学校の図書室を見てきたが、我が高校の図書室はその中でも1番小さい。蔵書も少なく、授業で使うこともない為、必然的に来ることがなくなる。

人が少ないためか分からないが、常駐する図書委員も放課後しかいない。しかもそれは体裁で、放課後にいない事も多々ある。司書の先生もおらず、全部勝手にやってくれというスタンスだ。まあ、図書館に篭って勉強するような真面目なが少なく、非行を起こすような不良はもっと少ない。至って平和な我が校だからこそのスタイルだとも言える。

そんな閑古鳥の鳴いている図書室に女生徒が一人座り、文庫本を読んでいる。一瞬知らない人に見えたが、それは才原さんだ。読んでいる文庫本の表紙を何処かで見たことがある気がする。遠目で確証は無いが『殺戮にいたる病』に思える。

バッチリと目があってしまう。表紙を盗み見た事を申し訳なく思う。こんな場所でクラスメイトと遭遇して会釈で済ますのも悪いと思い、側に寄り近くの席に座る。

「珍しい。」

一言そう言うと、文庫本に栞を挟んで閉じ裏向きで机に伏せる。

「ここ使ってる人初めて見た気がする。」

「人少ないからね。私以外あんまり来ないし、自分の城みたい。」

随分とでかい事を言う。

「それは良いな。」

「それで、何か御用?」

口を開いて直ぐに閉じる。

小清水さんを探していると言えば、バレンタインだしなと変な気遣いをされそうだ。しかし、素直に宗介の事を言ってもそれはそれで悪い。名前を明かさずに誰かを探してると言っても、それはそれで勘違いされそうだ。

言い淀む俺を訝しげな目で見る。

「とある人に頼まれて、とある人を探してる。」

嘘っぽくなってしまったなと思う。

「なるほど。バレンタインだし。」

才原さんは感慨深げに窓の外を見る。そして目線をこちらに戻して呟く。

「パシリか。」

まさにその通りだ。

才原さんは机の上に置いたトートバックを漁り、中から何かを探している。

「ターゲットは居ないから、俺は別を探そうと思う。参考までに教室にも他教室にもここにも居ない場合って何処に居ると思う?」

「意中の相手を呼び出して校舎裏とか。」

この天気じゃ無理だろうと思うが、言葉通りの意味じゃ無いだろう。

「これあげる。」

そう言ってチロルチョコが数個入った包みを渡される。

「ありがとう。」

「コスパが良い。」

端的に意味を伝えてくれる。

「明らかに義理と分かるのも良い。」

「男子的にはもう少し可愛げあった方が良いんじゃない?」

「そうだけど、気を遣わせるのも悪い。」

「なるほど。前にドラマでヨックモックって自分で買った事ないっていってたけど、個人的にチロルチョコも同じ括りな気がする。」

「時効警察だ。」

「そう。」

チロルチョコに関する記憶を掘り起こすが、自分で買ったことはあまり無い気がする。

「たしかにそんな気がする。」

「足止めした。頑張って。」

才原さんは本を手に取り、ページを捲る。読んでいるページからして、大分終盤だ。目線はもう本へ向けている。

「ありがとう。」

聞いているか分からないが、そう言葉を残して図書室を後にする。



特別棟の階段を3階から1階へ一気に降りる。

管理棟へ向かおうと一階の吹き抜けの渡り廊下を通ろうとし、道を間違えたと気づく。ここは外からの雪が直撃する。馬鹿しか通らない。

踵を返そうとし、人影に気付く。間下だ。気付かない振りをして立ち去ろうか。自販機で何かを買っている。目が合うと、にやりと笑いこちらに向かってくる。

「体育館に居たっけか?」

間下は学ランとカーディガンを片手に持ち、ワイシャツでズボンの裾を捲り上げている。体育館でバスケか何かをしていたんだろう。

「してない。」

「じゃあなにし…。」

そこまで言って、間下は俺の手元を凝視する。

「え、何それ?」

やけに、にやにやしている。見るからに義理なのがそこまで面白いのか。

「いや、言うな。放課後に部室で康太も含め話するからな!」

そう言い残し、雪の吹き込み渡り廊下を走って行く。

間下が体育館から帰っていたと言うことはと思い、スマートフォンを見る。やはり、昼休みの終わりが迫っている。

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