技倆解放
賑やかな文化祭の空気。これを良いと思えるか思えないかで、性格が二分される。あまり好かなければ、底辺に近い。そして、それ以上考えない方が身のためだ。
開始から時間が経っているが、まだまだかなり賑わっている。比較的人の往来が少ない管理棟と特別棟を繋ぐ渡り廊下から、昇降口を眺めている。
チャンスは30分ほどだ。
スマートフォンの時間を何度も睨む。
「何か予定あるの?」
いつのまにか横に立っていた小清水さんに質問される。
「ちょっと人に会う約束があって。」
「ふーん。」
聞いておいてあまり返事に興味はないようだ。目線は肩に担いだ竹刀ケースにある。何に使うのだろうという目をしている。
「新しい竹刀が部屋にあって邪魔だから、部室に置こうとおもったけど。」
そこまで言うと察したようで言葉を引き継ぐ。
「そこは女子の更衣室になってるもんね。」
頷く。
「っていうか、真面目に部活してるんだね。」
「いや、竹刀の大きさが中学と高校で違うんだけど、このサイズは初めて買った。」
そう言うと小清水さんは小さく笑う。文化祭に竹刀を持ってくる不思議よりも、名ばかり部が部活動をする方が珍しいようだ。
「教室に置いてても邪魔じゃないと思うよ。」
「ありがとう。部室前にでも置いとくから大丈夫。」
そろそろ時間だろうとスマートフォンを見る。すると早坂さんから電話が来ている。
小清水さんに小さくじゃあと伝えて、歩き出す。
「もしもし、どうかしました?」
「怪しい人が居た。CTTかもしれない。手を貸してくれないかな?」
なるほど、これはプランBだ。
「分かりました。どこですか?」
「第2体育館、入り口で待ってる。」
「分かりました。」
電話を切り、大きなため息をする。色紙さんの予想通りだ。
早歩きで第2体育館へ向かう。
管理棟と一般棟を結ぶ渡り廊下を抜け、一階へ降りる。1年生の教室前を歩く。4組を覗くが、色紙さんの姿はない。
目線を正面に向けると、早坂さんが立っている。俺を見つけると、小さく手をあげる。
「幸い人は居ない。」
そう言って鉄扉を開ける。
体育館には色紙さんと鹿折さんが並んで立っている。2人とも制服だ。
数歩踏み込むと、後ろで鉄扉を閉じ鍵をかける音が響く。それと同時に振り返ると、早坂さんがこちらに歩み寄り、俺を掴もうと手を伸ばしている。
素早く後ろに飛び退る、そして早坂さんに背を向け、振り返る。そして色紙さんはデッキブラシを掴む鹿折さんから離れ、俺とすれ違う。
「スイッチ。」
色紙さんが小さく呟く。
鹿折さんと対峙し、背負った竹刀ケースから木刀を取り出す。
ゆったりと両手で掴む。
「なるほど。舐められてたって事で良いのかな。」
鹿折さんは心底うんざりした調子で呟く。
実際、舐めているのは色紙さんだ。
鹿折さんはゆっくりと振りかぶり、デッキブラシを振り下ろす。それを木刀で受ける。びりびりと手が痺れる。やはり、鹿折さんのパワーは凄い。
器用にデッキブラシを操り、何度もこちらに振り下ろしてくる。
それを目で追い、避けれるものは避け、少しでもぶつかりそうであれば、木刀で受ける。たまに柄の方で突くように、身体の中心を狙ってくる。攻め手のバリエーションがあり、なんとも受けにくい。受け続けると手が痛くなるため、基本的には受けたくないが、鹿折さんも強い。確実に当てるように、攻撃を繰り出してくる。
防戦一方でも良いかと思うが、それで鹿折さんが隙を見せるとも体力が尽きるとも思えない。こちらも攻め、隙を作るしかない。
鹿折さんが、デッキブラシの柄の部分でみぞおちを突こうとした瞬間に、木刀で中心を押しずらし、一気に間合いを詰める。鹿折さんは後ろに飛び退るが、そこ叩こうと右手に木刀を持ち振りかぶる。
しかし、バランスを崩した鹿折さんは近付くなと言わんばかりにデッキブラシを横に大きく振り回す。顔面目掛けてきたそれを仰け反り躱す。
追撃でデッキブラシをハンマーのように大きく振りかぶって振り下ろしてくる。自重を思い切り後ろにかけて、転ぶ一歩手前の姿勢で後ろに素早く下がる。
がん、とデッキブラシが体育館の床を叩く音が響く。確実に殺しにきている。
デッキブラシを下から振り上げ、また振り回す。
一見闇雲に振り回してるように見えるが、隙がない。攻撃に転じても、取り回しの速さで制され、逆に隙を生んでしまう。刺突をしようにも、リーチでは負けている。挙動でバレてしまえは、これもまた隙となる。
そして、考えさせないように、次から次へと殴打が来る。避ける、受けるを考えるだけで精一杯になる。
ならば、一撃もらう覚悟で手首を潰した方が良い。鹿折さんがデッキブラシを振り上げる一瞬を狙い、一気に踏み込み右の手首を小手の要領で最小限の動きで時計周りで小さく円を描き勢いをつけ叩く。あまり良くない感触がするが、折れてはいないだろう。そのまま体当たりをする。
多少は効果があったのか、大きく後ろに退く。
大きく足を開き、デッキブラシの真ん中あたりを右手に掴み盤石に構える。
「PPが過去の人間を傷付けるのはダメなんじゃないのか。」
木刀を左手で持ち、右手を腰に当てて質問する。
「まさか過去の人に傷付けるられるとは思わなかったよ。それに揺さぶっても聞かないよ。私は君を確実に仕留める。」
デッキブラシをぶんぶんと振って、ストレッチのように手首を回している。赤くはなっているが、大したダメージにはならなかったようだ。
「色紙さんから、今回の件について鹿折さんがどう動くか聞いた。結果、たぶん鹿折さんは勘違いをしている。」
素直に言葉を投げかける。
「それは君でしょう?」
呆れた顔をして、デッキブラシのブラシを下にして地面につける。柄を両手の手のひらで包み、余裕そうだ。
「それに、四季から聞いたなら隠さず本気で相手した方が良いね。君は強いし。」
そう言って、デッキブラシを右手で真ん中を持ち持ち上げ、縦にして前に構える。
「技倆解放。」




