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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生秋
52/125

好奇の鬼

昇降口前に猛者が集まっている。やる気だけ有り余っている人達が大勢、何をするのか分からないまま。

事前に参加意思表明として申込書をを生徒会に提出すると、172と書かれた紙を渡され、18時に昇降口に集合とだけ言われた。それに18時以降は校内には居ないようにと参加者以外にも連絡があった。

ざっと見るが、200人くらいはいる。

「多いな。」

間下が呟く。

たしかに、ざわざわしてうるさいくらいだ。

「一年生もいるけど、上級生の方が多い気がするな。」

宗介の所見には同意する。どことなく、居心地が悪い。

色紙さんにも声をかけてきたが、私は良いとのことだった。あまり関わりたくないのだろう。


「皆さん!お集まり頂きありがとうございます!」

背伸びをして前を見ると、昇降口から金田生徒会長が現れ声を張り上げている。

「ルール説明をします!」

皆がしんと静まる。待ち望んだ内容を知りたいのだろう。

「皆さんにはペアを組んでもらい、この学校から脱出してもらいます!ただし、先着1組しか脱出出来ません、早い者勝ちです!」

校舎から臼田副会長が現れ、模造紙を昇降口のドアの貼り付ける。そこには数字が書かれており、直ぐに察する。

「この紙に書かれてるのが、ペアです!受付の際に渡した紙の数字が貴方の数字です!」

「ハンター試験みたいだな。」

宗介の言葉に同意する。色紙さんが好きそうだなとふと思う。

「皆さんの最初のペアが校舎に入ってから3分後に、我々生徒会が鬼役として校内を徘徊します!タッチされたら負けです!ペアの人がタッチされても一緒に負けとなります!この場所に戻ってください!」

周囲がざわざわし出す。そのせいで会長の声が聞こえ難くなる。

「ヒントやルールは校内にあります!それでは楽しんでください!」

各々が歓声をあげ、ペアの書かれた紙に向かい、何番の人は何処だと声を上げる。

「知らない人とペアになるのは気まずいな。」

そう言うが、2人から直ぐに同意は得られなかった。そういえば、こいつらはあまり人見知りしないタイプだったと思い出す。

「お、俺だ。」

そう言って、間下は遠くから呼ばれた声をついて行く。

徐々にペアが作られ、校内に入って行く。鬼が解放される時間が迫っている。少し焦りつつ、紙を見ようと人集りに近付き、背伸びをする。172のペアは…。

「103か。」

「えっ!?」

近くから声が聞こえ、反射的にそちらを見る。見覚えのある女生徒が居て、一瞬誰だったか悩むが直ぐに思い出す。陸上部のアスレチックSASUKE後に声をかけてきた人だ。がっつり目が合う。

「172番ですか?」

「そうだけど…。」

「私、103です!よろしくお願い致します!」

「こちらこそよろしくおねがいします。」

丁寧な言葉で動揺してしまう。知らない人だったら気まずいと思うが、微妙に顔見知りなのもまた気まずい。

「私の事覚えてますか?」

「陸上部の人でしょ?何組か分からないの本当に申し訳ないけど、見た事はある。」

微妙に嘘を吐く。

「一年生何ですか!?」

「そう、4組。」

俺がこの人の事を知らなかったのを、とても申し訳なく思っていたが、この人も俺の事を知らなかったようだ。おあいこだ。

「私、1組の増田 有華(ゆか)です。」

「三城元春です。同い年だし、タメ口でいこう。」

「分かりま…、わかった。」

ぎこちないまま、人混みを抜け昇降口に入る。靴を履き変えると、靴箱に紙が置かれてる事に気付く。取り敢えず手に取り、靴を履き変える。

「これ。」

増田さんが手に持っているのは、俺の靴箱にあったそれと同じだ。


学校からの脱出

ルールは全て学校内にある。

“鬼”に捕まったペアは直ぐに昇降口へ戻ること。

入れない部屋には張り紙がある。従うこと。

窓は開けないこと。


「これじゃあ、全然伝わらない…。」

「たしかに。」

遠くで高い声と叫び声が聞える。

周囲の人たちがざわざわする。

「始まったみたいだな。取り敢えず教室にでも行ってみようか。」

「そうしようか。」

増田さんと揃って歩き出す。この何とも言えない緊張感、缶蹴りや鬼ごっこともまた違う雰囲気、校内でやるから楽しいのかもしれない。

すれ違う人たちは知らない上級生ばかりだ。

取り敢えず、4組の教室に入る。椅子ばかりの部屋で、窓のから管理棟が見える。

「元春君、これ。」

増田さんがとある椅子の上から見つけたのは一枚の紙だ。

受け取り、一緒に読む。


あの鬼達が近付く足音が聞こえる。逃げ回って分かったことは、奴らが触れるのもは部屋を仕切る戸だけだということ。物を触ることは出来ないようだ。そして、同じ部屋にあまり長居はしない。誰かこれを見て役に立ててほしい。


「どう言う意味だろう。」

増田さんをちらりと見ると小首を傾げている。それを見ているのを悪く思い、目線を窓の外、管理棟に向ける。するとそこに不思議な格好の人影があった。

「あれって。」

そう言うと増田さんも気付いたようで、2人で困惑する。

その人影は近くにいた人達を片っ端からタッチしている。タッチされたら人達も突然現れたそいつに短い悲鳴を上げている。

どうやらあれが鬼のようだ。女子のようで制服の上にロングコートを着て兎のお面を付けている。何かの映画で殺人鬼の付けていたお面のようだ。素顔は見えないが、生徒会メンバーであることや背丈からして江川さんだろうか。

そいつがこちらに顔向ける。

目が合ったのを感じる。

早歩きで渡り廊下を歩いてこちらに向かってくる。

「えっ、こっち来てない?」

増田さんが困惑した声を出す。

「間違いなく俺らを見てたな。」

あいつがここまで来るのに1分もかからないはずだ。

「廊下に出ても鉢合わせして終わりだし。」

廊下に出ても、1組側、右から鬼が向かっている。左側には7組まで教室があり、突き当たりからは第2体育館へ通じるが、第2体育館で行き止まりだ。体育館という広いスペースで撒くという手段もあるが。

「さっきのメモを試そう。」

教室をざっと見渡して掃除用具入れに向かい、開く。箒がいくつかあり、とても人が入れそうにない。もう一度、辺りを見渡し教卓に向かう。

「ちょっと狭いけど、仕方ない。増田さん中に。」

そういうと多少訝しむが、危機感が優ったのか直ぐに教卓の下でしゃがむ。やっぱり狭いと思うが仕方ない。スクリーンを教卓の前に持ってきて、俺も増田さんの隣にしゃがみ込み教卓の下に入る。

「ごめん狭いけど我慢して。」

そう言いながらやっぱり申し訳ない事をしたと思う。ほぼ初対面の人間とこんな密着するのは地獄だろう。

ただ、今を逃れるためには仕方のないことだ。目の前にあるスクリーンを引っ張り下まで下ろす。そうすることで、この教卓の下の空間へ侵入する隙間はなくなる。

「これどういう状態なんですか?」

焦っているのか、余程嫌なのか声は震えて敬語になっている。

「本当に申し訳ない。」

本当に何しているんだろうと思えてきたので、考えを整理するためにも説明する。

「さっきのメモを真実だとするなら、あの鬼は俺たちに触れることが出来ない。」

「なんでですか?」

この狭さで顔を見るとかなりの至近距離になる。顔色を伺いたいが、流石に無理なのでただ話を続ける。

「鬼が触れるのは部屋を仕切る戸だけ、らしい。であれば、このスクリーンと教卓には触れない。」

戸を開き、そして閉める音が聞こえた。増田さんがびくりと身体と震わせるのが伝わる。

「なるほど、私達を触るならどっちかを動かす必要がある…。あ!それに最後の同じ部屋にあまり居ないってことは!」

教室内に鬼の足音が響く。

「そう。たぶん、我慢勝負にはならない。」

それを証明するように戸を開ける音がする。足音が遠ざかり、鬼が出て行ったようだ。

「出てった…。」

声色から安堵が窺える。

「念のため、ちょっと待とう。」

周囲の音に集中するが、誰かが居る気配はない。

「大丈夫そうだな。」

そう言った瞬間、戸を開ける音が響く。

「長居はしないけど、何度も来るのかな。」

「あり得る。」

それなら、もう一度鬼が外に出た瞬間ダッシュでここから移動する必要がある。

すると突然目の前のスクリーンが上げられる。予想が外れたかと思うが、目の前に立っているのは見知った人達だった。

「何してんの?」

素朴な質問を統次が投げ掛ける。

「鬼から逃げてる。」

「見てはいけないものを見た気がするね。」

相楽さんは目を合わせずに言う。

流石に恥ずかしくなり、教卓の下から出る。

「悪いな増田さん。」

立ち上がるのに苦労している増田さんに手を差し伸べる。引っ張り立たせるが、増田さんは目を合わせてくれない。

「それで、何してたんだ?」

統次は何故そこにいたのか知りたいのだろう。

「こういうのがあった。」

持っていたメモを渡す。それを2人はそれを受け取り読む。

統次と相楽さんでペアになっているようだ。まあ何ともこいつらは一緒にいるな。

「なるほど。」

そう言って統次はメモを返す。

「俺らはこれを見つけた。」

受け取り、増田さんと並んでみる。


もう走り回る体力がない。しばらくここで休む事にする。

外に出るための出口をいくつか探し回ったが、あまり成果はなかった。第2体育館へ向かう鉄扉は固く閉ざされていて、教室等の非常口も同様だった。管理棟と特別棟までは調べられなかったが、教室等と同じで出れる場所はないのかもしれない。ただ可能性はある。少し休んだら特別棟を調べよう。


「5組にあった。」

「各教室にあるのかも。」

増田さんはハッとしたように言う。

「可能性はあるね。」

相楽さんは増田さんを指差す。

「これはほぼ情報戦だな。」

「そうだな。」

「たしかに。」

統次の言葉に俺と相楽さんは同意するが、増田さんは理解し切っていないようだ。

「こういうメモは、昇降口にみんな見れるようにしてあったわけじゃない。それに、こうやって持ち運べば他のペアに見られる事はない。」

「そっか。でもそれって不公平じゃない?」

増田さんは統次の説明に少し不服そうだ。

「いや、このゲームの絶対的ルールは全員に分かるように示されてる。それを踏まえて補足的説明を集める事もゲームの一部なんだ。」

「なるほどねぇ。」

「さっきのメモによると、この一般棟から脱出は出来ないみたいだね。」

「そもそも、このゲームの最終目標ってなに?」

増田さんの質問に2人とも答えられない。

「学校からの脱出だと思うけど、情報が少ないね。」

「それも含めて情報戦だ。」

すると教室内にチャイムが響く。

「ただ今、脱落者が半数を切りました。頑張ってください。」

運動会のようなアナウンスだ。

「かなりハイペースなんじゃない?」

相楽さんの言葉に首肯する。

「これからどうするか。」

「気になるのは昇降口かな。」

増田さんの方を見て、それはどうしてかと続きを待つ。

「外に出るならまずそこだから、出られないとは思うけど、何で出れないのかを見たほうが良いかなと思う。」

「なるほど。」

相楽さんは腕組みをして話し出す。

「私は一般棟かな。メモからして出口がないのは確かだけど、メモはありそうだし。」

「俺はメモに従って特別か管理棟が気になる。」

「ここで別れようか。」

統次の提案に同意する。

「私達は一般棟を探索してみる。」

「じゃあ、俺らは昇降口の様子を見つつ、その場の状況次第で管理棟か特別棟に行こう。」

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