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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年春
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2301より

目的地は色紙さんの家のようだった。なかなか立派なマンションの一室。

外見は大きいなとしか思わなかったが、建物の中に入って相当お高い場所だと気付く。

部屋に通され、またさらに驚く。立派で広い。

「色紙さん家、かなりお金持ち?お父さん社長とか?」

色紙さんはスポーツバックを床に置き、ソファーに腰を下ろして答える。

「両親はここにはいない。ここは私の部屋。」

まさかこの部屋が色紙さんの家なのか。女子の部屋に入ったというのに感動が別の方へ向いてしまうのが少し残念に思う。

「何でここで1人で住んでるの?両親が海外とか?」

「まあ遠いところにいると言えばそう。今から説明してあげるから、黙って聞いてて。質問する時間は設けるから。そこ座りな」

「…分かった。」

そこと言われた場所は座布団が敷いてある。真新しく見える座布団に何となく正座する。

色紙さんはため息を1つ吐いて、どうしようかなと呟き黙った。

やがて口を開き、また息を吸い、ため息を吐いた。やがて身を乗り出し話し始める。

「説明の前に、まずお礼。さっきはありがとう。君が来なかったら殺されてた。」

「殺される?」

「黙って聞いてて。」

釘を刺されてしまった。閉口し、先を促す。

「私はね、未来から来た。所謂、タイムマシンを使って300年先から来た未来人ってところ。」

色紙さんは少し顎を斜めに引き、俺の事を睨むように見る。

「目的は滞在人を見つけて未来へ送り返すこと。そして、大罪人を殺すこと。」

色紙さんはソファーに背を預ける。

「ここまでで質問は?」

「そんなこと、普通じゃ信じられない。疑問しかない。」

素直に答える。

「じゃあ1つにまとめて。」

無理を言う。今まで聞いた話を反芻する。たかが30秒でとんでもない程の情報を得たような気がする。色紙さんはタイムマシンで300年後の未来から来た。目的はたいざいにんとたいざいにんをなんとかかんとか。

「たいざいにんってなに?」

「滞在人と大罪人。滞在する人と大きな罪を犯す人の2種類。滞在する方の滞在人は、過去へ観光に来ている。君だって思うでしょ?昔の暮らしを見てみたいとか。そういうのが目的の人達。大きな罪を犯す方の大罪人は未来を変えるために過去に来てる人達。」

分かるようで分からない。

「私からも質問良い?」

「…どうぞ。」

「君、三城君だよね。」

さっきの話から突然しょうもない話になった。

「同じクラスの三城(みしろ) 元春(はる)。」

そうと呟き、またしばらく考え込んだ。おそらくどこから話そうか悩んでいるのだろう。

「滞在人の方は、旅行者って呼ばれてる。未来では、過去に来ること自体が犯罪だから見つけ次第確保、未来へ送り返して罰金か懲役か罰を受ける事になる。その旅行者を見つけて確保、未来へ送り返すのが私の仕事。丁度先週、三城くんが見てたのはそれね。」

「気付いてたのか?」

自信があったわけじゃないが、バレていたとは思っていなかった。それじゃあ今日もバレていたかもしれない。

「その時は気付いてなかった。その仕事を終えた後、念のため、周りに私の仕事を見てた人がいないかタイムスリップして確認してみたの。理解出来てる。」

あまり出来ていないため、実際に口に出して確認してみる。

「色紙さんは滞在人…、旅行者を見つけて確保、送り返した。その現場を俺が見ていた。そして色紙さんは旅行者を送り返した後、タイムスリップをして"旅行者を確保する色紙さん自身を見に行った。"色紙さんの仕事が誰かに見られていないか確認するために。そうしたら俺が見てたって事か。」

「その通り、何か質問は?」

「1つ。タイムスリップするのは犯罪なのに、何で色紙さんはこの時代にいる?そしてまたさっきの話みたいにタイムスリップを繰り返してること。それは良いの?」

「例を上げると、スピード違反を取り締まるにはスピード違反しなきゃいけないでしょ?銃を持つ犯人には銃で対抗する。そういう事よ。」

成る程、分かりやすい。タイムスリップして犯罪を犯す者を、ただ指を咥えて見ているわけにはいかないわけか。

「先週見られたのは別に問題はなかった。実際、私が未来から来たとか思わなかったでしょ?」

「いかがわしい事をしてるのかと思った。」

「だろうね。そう思われてるだけならまだマシ。だから、三城君に見られてても問題ないと判断した。あ、当たり前だけど、未来から来たってバレる事はかなりマズい事だからね。」

「それなら今はかなりやばいんじゃ。」

「黙って聞いててって言ったでしょ。」

また怒られてしまった。

「確かに、今説明しているのはかなりマズいこと。でも、真実を説明しないと納得できないでしょ?目の前で人が死んだんだから。」

思わず声が出そうになるが、押し殺す。素直に黙れという言いつけを守るため。やはり、あの男は死んだようだ。ばしんという音と色紙さんが構えた銃が原因だと考えるのが自然だ。

「今日のことは、かなり珍しいパターンだった。さっき言ったように、私は未来から来た人を見つけて送り消すのが仕事。ただの旅行者なら非力で大した問題はないんだけど、連中が厄介なの。」

そう言うと色紙さんは立ち上がり奥へと消えていった。奥からかちゃかちゃと音が聞こえる。

居心地を悪く思い、スマートフォンを見る。時刻は19:00前。部室でグダグダしていても、そろそろ帰ろうかと考える時間だ。母親に今日は遅くなると連絡を入れる。

扉を足で開け、両手にコップを持った色紙さんがやって来た。俺の目の前にコップを置く。緑茶のようだ。

「お茶の1つでも出さないとね。」

そう言って色紙さんは立ったまま一口お茶を飲み、そのまままた何処かへ行ってしまった。

スマートフォンに母親からの返事が来る。スタンプだけのokという簡単なものだ。

さっきよりも長い時間が立ち、色紙さんは現れた。ショートパンツに何やらキャラクターの書かれたTシャツを着ている。足や手、顔には傷が多々ある。

手には消毒液のようなものと絆創膏を持っている。

ティッシュを取り、そこに消毒液をかける。見た事ないものだ。あまり見過ぎても悪い。そっと目を逸らす。

「これは未来の消毒液みたいなやつ。効くよ。」

どこか冗談のような笑みで言うから、嘘か本当か分からない。

「絆創膏はこっちの、向こうの高いんだ。それに液だけで十分だし。」

そう言って傷口に消毒液を塗り、絆創膏を貼っていく。

「何の話ししてたっけ?」

「連中がやっかいだとか。」

「そうだった。」

色紙さんは傷に手当と話を器用にこなす。

「連中っていうのはね、昔に戻って悪い出来事をなかった事にしようとする人達。無差別殺人とかそういう事件を、過去に遡って未然に防ぐの。」

話を聞く限り、良い事のように感じる。健全な未来のためだ。

「たぶん、それのどこが悪い事だと不思議に思うでしょ?」

質問された時は発言して良いのだろうかと、若干戸惑いながら返事をする。

「俺には良いことに思える。」

「過去の人はそう思うでしょう。これは未来の人の保身と傲慢の問題。わかる?」

「過去が変わると、未来も変わるから?」

少し驚いた顔をして色紙さんは俺に指を指して答える。

「その通り。自体を良い方向に持っていこうと過去でAさんを救ったり、Bさんを殺したりしたら未来が変わるでしょ?皆それが怖いの。自分が生まれないかもしれない、大切な人が生まれないかもしれない、世界が変わるかもしれない。そしてそれに気付くことさえなく別の人生を歩む事が怖いの。」

そう聞いていて、自分の考えがよりまとまった気がする。そして、新たに疑問が生まれる。尋ねたいが、待つ事にする。

「未来では、タイムマシンがもう直ぐ出来ると分かった時に、過去の出来事を全てを記憶する装置を作った。タイムマシン完成が2222年で、ギリギリの2221年にそれが出来た。2221年までに起きた出来事、教科書に載ってるような歴史から犯罪歴とか戸籍や企業の数々、研究とか料理のレシピまで何でもかんでもね。因みに私は2301年生まれ。」

色紙さんはコップに手を伸ばし、お茶を一口飲む。その方が喋りやすいのだろう。

「2221年に出来上がったそのデータベースを基準にして、過去に何か間違いがあったかどうか比べる。それで"今"と2221年で違いがあるなら、何か過去が変えられた事になる。変わった事がなければ更新する。」

ティッシュを取り、コップの結露を拭き取る。その所作をぼんやり眺めて今の話を頭で整理する。

「質問は?」

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