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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生秋
48/125

上映前の雑談のつもり

 教室には俺と才原さんしかいない。普段、才原さんと話をすることはほとんどない、席も離れているため、天気の話のしたことがないかもしれない。記憶にあるのは、文化祭の時以外では、誰か才原さんの友達を見かけなかったかとということくらいだ。

 そんな、大して親しくない人と二人きりというのは酷く気疲れするだろうなと気負っていたが、才原さんは黙っていても平気なタイプなようで、スマホを見たり本を読んだりしている。

 文化祭のクラス展示として映画を上映するが、準備は事前に終わっている。後は定刻に、人を教室に入れ、カーテンを閉め。プロジェクターで流すだけだ。

 それも後1時間後の作業であり、今はただただ暇な時間だ。

 午後に一回上映するだけで、1時間後以降は本当に暇になる。

 机は全部撤去し、椅子が映画を見るように並べられており、それらの1番後ろに関係者席のように椅子が2脚置かれており、そこに才原さんと並んで座ってる。

 文化祭だというのに、この教室だけ一切の音が無い。隣の教室や、遠くから喧騒が聞こえてきて、今俺はここで何をしているんだろうと疑問に思う。パタンと本が閉じる音がやけに響く。音の方へ目を向ける。才原さんが本を閉じ、窓の外に目を向けている。その視線が俺に切り替わる。

 「非常に悪いことをしている気持ちになる。」

 どうやら俺と同じことを思っていたらしい。午前中にこれでもかと文化祭の活気に当てられれば、楽しむ気が無くても何もしていないのが悪く思える。

 「今も立派に文化祭に一枚噛んでいる。」

 事実を述べるが、自分でもこれは良くはないと気付いている。

 「後1時間を短く感じられる方法を知らない?」

 随分と難しい質問をされた。生憎、最適な答えは持っていない。

 「そのために本を持ってきたんじゃないのか?」

 文庫本サイズのそれには、駅ナカの本屋のブックカバーがかけられている。

 「そのつもりだったけど、何故か集中できない時があるでしょ?」

 首肯する。

 「どうやらそれに陥っている。」

 「なるほど、それは一大事だ。」

 「全くそう思っていないでしょ。」

 図星で言い返せない。それに、その問題は才原さん一人の問題では無く、二人で共有するべき問題であるのだ。

 「哲学の話でもするか?」

 「あおい静かな夜に一人ですれば良いと思う。」

 才原さんの冗談を初めて聞いた気がする。

 「若干俺らと年代が違う気がするな。」

 「兄が居て、一緒に見ていた気がする。」

 「俺もそうだ。」

 歳が上の兄姉がいると、見ていたテレビや趣味嗜好が少し同年代と変わってくる。もし弟妹がいると、それでも変わるのかもしれない。

 「今何歳?」

 「今は大学2生。」

 「私の兄も同じ。」

 スカートを気にしながら、才原さんは足を組む。その所作を見ているのが悪い気がして、目線を意味もなく壁の時計に向ける。そしてやはりそうは思っていたが、時間はあまり進んでいない。

 「三城君って、不思議な感じがする。」

 「抽象的で伝わらない。」

 「なんと言うか。」

 眉に皺を寄せて考えている。自分で言いだしたことだから、深く考え込まないでほしいと思う。

 「端的に言えば良く分からない人だなと思う。」

 少なくとも褒められている気はしない。その何とも言えない気持ちが顔に出ていたのか、直ぐに補足してくる。

 「悪い意味ではない。掴み所がないと言うか、ミステリアス?」

 「俺に疑問系で尋ねないでほしい。」

 「ミステリアスともちょっと違う。」

 そう言って、また黙って考え込む。その時間に何もできずに、ぼんやりと窓の外の管理棟の廊下を見つめる。職員室から先生が出て行き、放送室へ不思議な格好をした人が入っていく。

 「まず、交友関係が不思議。」

 才原さんは自分で立てた人差し指を見つめて言う。体もこちらに向けず、独り言のように、自分で考え事をまとているようだ。

 「クラスでも、オールラウンダーみたい。ひかるとも、景とも仲良いみたいだし。」

 「話はするけど、仲が良いかと言われると疑義がある。」

 「じゃあ、よく話をしている。」

 側から見れば仲が良く見えるのかもしれないが、俺はそこまでひかるさんも小清水さんのことを知っている自信がない。

 「合ともよく話をしているし、そして四季ともよく話をしている。」

 「何だか俺が女ったらしみたいだな。」

 「そして、三城君がよく分からない。」

 俺の発言は無視して、立てた2本目の指を見ている。

 「これだけ色んな人と話をしているのに、それを見ていても三城君がどういう人か理解できない。」

 なるほどと思い、床を見つめる。

 「大抵、人と人が話をしているのを見ればどういう人かわかる。別に私の特殊な能力だとは思わない、誰でも分かると思う。」

 「言い換えると第一印象に近いやつか。」

 「それ。」

 そう言って俺の目を見るが、直ぐに目線は自分の指に向く。

 「うるさい人だなとか、面白い人だなとか、そういう簡単な印象を三城君からはあまり感じない。」

 「それは良いことなのか?」

 立てた2本の指で俺を指して、

 「一長一短。」

 と言う。

 「口が軽そうとか、信頼できないとか言うマイナスな印象はないから、気兼ねなく話ができる。だけど…、決して悪い意味じゃなく深い話はできない気がする。」

 「それは初対面の人であればそうなんじゃないか?」

 そう聞くとまた才原さんは考え込む。

 思わず欠伸が出て、それを隠すことなくする。不意に廊下を走る音が聞こえて、隣の教室のドアが勢いよく開かれる。さて5組は何をしていたかと思い出そうとする。

 「多分、三城君が無意識に自分を隠そうとしているから、自然に相手も自分を隠していると思う。」

 随分と研究されてる。しかし、そう言われるとそんな気がしてくる。確かに俺はあまり進んで自分のことを話したくはないタイプだ。

 「もう少し自分を出せってことか。」

 「いきなり自分全開の人はそれでそれで嫌だと思う。じっくりと自分を出すタイプの人がいても、それは良いことだともいえる。つまり。」

 そう言ってこちらを見る。

 「人によりけりだけど、三城君はあまり似ているタイプの人がないと思う。」

 「観察眼が凄まじいな。」

 「気を悪くしたらごめん。」

 「いや、その通りだから何とも思っていない。むしろ本当に凄いと思う。」

 「なるほど。」

 才原さんが何に納得したか分からない。

 「それと、その雰囲気は四季も持ってる。」

 少しどきりとする。もしかすると、隠し事がある人はそういう雰囲気を出しているのかもしれない。

 「二人とも自分を晒すまでの道のりが長そう。」

 俺は兎も角、色紙さんは合っている。

 「めんどくさいタイプだな。」

 「それは四季を面倒だと言っている?」

 言い淀むが、もはやそれが答えだ。

 「しかし、意外と有意義に時間を使えたな。」

 そう言って、逃げるしかない。それを聞いて才原さんは口許を少し上げた。



 

午後1回目の上映が終わり、教室には才原さんと俺と引き継ぎの石垣君と俺がいる。

 部屋を明るくして、暗幕を開け、PCを操作してプロジェクターに映し出された像を消し去るだけの作業に、こんな人では要らない気がする。

 さっきは思いの外、人が来たがそこに早坂さんも鹿折さんもいなかった。

 俺と色紙さんで、もし二人が映画を見に来た際の対策を講じていたが、それを披露せずに済んだ。

 PCの映画データは最後のワンシーン有り版と無し版が保存されており、それを流すだけだが、それで十分目的は果たせる。

 午前は色紙さん一人だが、俺の時は才原さんも居た。再生する動画を間違えたで済めば良いか微妙ではあるし、正しいラストを見れなかった人の未来が改変される可能性もある。あまりやりたくない手段であったため、来なくてよかった。

 今日は後一回上映があるが、それを見に来た場合、別の手段で拘束する必要がある。 


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