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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生秋
46/125

スターターピストル

「掃除でもしに来たのか?」

そう思う気持ちも分かるが、そうではない。

「あれは北高の奴らだろう。」

「それは他の2人を見れば分かるけど。」

他校の生徒が他校の文化祭に来るのに、竹刀を持ってくる理由はない。そして、雨が降っていないのに傘を持つ理由は、あるにはあるが彼女は雨のために持っているわけではないだろう。

彼女らは防衛の術としてそれらを持っているのだ。

どこの地域も、何故か分からないが荒れる学校がある。同じ町の中でもある学校だけ治安が悪いとか、そう言うことが多々ある。

俺の出身中学もそう言う部類で、所謂ヤンキー、不良が多かった。その中学校の多くは北高に行った。

北高生が犯罪を犯したとまで話は聞かないが、問題児が多いとか、何かと反抗するとか、そういう話はよく聞く。中学校が荒れていたため、多少気持ちが分かる。先輩達、学校が代々荒れていると、そうしないと不自然であるように感じるのだ。制服やジャージを着崩さないと、それだけで浮いてしまう。だるい様な装いがカッコいい、そう錯覚する。

この高校にも、最初そのスタイルで生活していたが、あまりに平和で、むしろ俺の方がヤンキー要素が浮いてしまっていた。

恐らく、北高生も浮かないようにそういう雰囲気の中に溶け込んでいるのだろう。

その北高に在籍する生徒の中で、特に拳に自信のない人や、ヤンキーに絡まれたくない人は武器を携行している。一応は法律に触れないように考慮しており、窓の外を歩く3人で言うと、1人は剥き出しの竹刀や木刀ではなく、ケースに収め、1人は傘という天候を気にしなければ一見普通の装いである。問題は最後の1人で、装備しているのがデッキブラシとは、武器になるにはなるだろうが剥き出しであり異様だ。

「あれはセーフなのか?」

統次の問いに思考を巡らせる。

聞きたいのは、あれは法的にという意味とビジュアル的にということだろう。

「まあ、存在しているならセーフなんじゃないか。」

考えても結局、曖昧な回答しか出来なかった。

「たまに見るけど、北高は物騒だな。」

しみじみと腕を組み言う。

確かに登下校でたまに北高の生徒を見かけると、大抵何か凶器を提げている。ケースに入れられるため何か分からないが、たまに馬鹿でかいケースを持っている人もいる。

聞く話によるとスノーボードを入れるケースらしい。そんな大層なケースに何を入れるのか気になるが、知らない人の話しかける勇気はない。

窓から目を外し、渡り廊下を進み管理棟へ入る。

「軽く教室覗くか。」

教室というのは俺のクラスである1年4組の事を指しているのだろう。頷き階段を下り、また別の渡り廊下を渡り廊下教室棟へ向かう。

窓から教室棟が見え、やはり3年生の階が悍ましい雰囲気を出している。我らが4組の教室は暗幕が引かれておらず、フリーになっているように見える。

廊下にもそれなりに人は居て、気を遣い避けて歩き、教室の前で威圧される。

さっきの北高生が2人いる。竹刀ケースと傘の2人だ。

何もしないのも悪いと思い、会釈して教室に入る。すると直ぐに、案の定デッキブラシを背負った女生徒の背中が見える。入ってきた俺たちを大きな瞳で振り返る。心なしか睨まれたような気がする。直ぐに向き直り、目の前にいる生徒に声をかける。

「久し振り。元気だった。半年振りくらいかな?」

「美夜、元気だった?」

美夜という名前を聞き、悪いと思って避けていた視線をデッキブラシの方へ向ける。

再会を果たしていたのは、デッキブラシを背負った目の大きな北高生と、文化祭でも普段の制服姿と一切変わらず浮かれを見せない色紙さんだ。

そして美夜という名前。恐らくこの北高生が鹿折 美夜、早坂さんのパートナーだ。

「四季こそ。1人でどう?寂しくて泣きそうなんじゃない?」

「慣れてきたよ。」

色紙さんが気の置けない会話をしているのが、なんだか新鮮だ。

統次は鹿折さんと色紙さんの会話を邪魔しちゃ悪いと思ったのだろう、顎でここから出ようとジェスチャーする。

それに従い、特に用もなかったため教室を出て1つ息を吐く。

「色紙さんに北高生の知り合いがいたのか。」

どこか感慨深げに言う。

「選りに選ってデッキブラシか。」

近くにいる北高生2人に聞こえないように言う。1番絡みたくない人だったのが、何とも悲しい。

「色紙さんって何中?」

色紙さんの出身中学か。答え難いが、

「知らない。」

そう答えれば問題ない。それに、本当に知らないのだ。嘘発見器でも見破れない。

「てっきりハルと同じ中学校かと思ってた。」

心底という程ではないが、驚いた顔をする。

「何でだよ。」

「北高生と話してたから、てっきりハルの中学校出身かと。」

ヤンキーの多い北高は、俺の中学校出身者が多い。そういう理屈だろう。

「あまり人を覚えるのが得意じゃないけど、色紙さんもデッキブラシも見た記憶がない。」

統次は呆れたような目をする。事実だから仕方ないだろう。

ただ行く当てもなく、適当に渡り廊下を通り、管理棟に向かう。北高生2人の前でデッキブラシの事を話すのも気が引ける。

管理棟の壁に背を預け、正面にある貼られたチラシたちを見る。色々な模擬店やイベントが開催されているようだ。

「どうしようか。」

そう言って統次の方を見る。すると奥から長身の男が現れ、目が合う。

黒のスキニーと白の大きめのパーカー姿の早坂さんだ。目を大きくしてこちらに歩み寄る。

「やあ三城君。文化祭楽しんでないのかい?そんな陰キャみたいなことしてると数年後に後悔するよ。」

知り合いか?と統次が目で訴えてくる。

「まだまだこれからですよ。」

そうは言ってみるが、楽しむ気があまりないなと気付く。

「意外と盛大だね。」

「俺も驚いてます。」

「それはそうと、背中にデッキブラシを背負った女子高生見なかった?」

統次と顔を見合わせる。

「俺らの教室、1年4組にさっき居ました。」

「分かった。ありがとう。」

そう言って早坂さんは俺らが指差した方へ歩いていった。その背中を見届ける。

「どういう知り合い?」

何と答えれば良いか悩ましい。

「まあ、友達的な。」

「成る程。」

納得したのか分からないが、それ以上は聞いてこない。ありがたい事だ。

「する事がない。」

ぴしゃりと統次が言い放つ。何のことかと思うが、この現状に対してだろう。

「確かに無いな。」

バレー部の模擬店まで暇ではある。

「会えるか分からないけど、相楽さんを探す。尚且つ友達の出し物に顔を出そうかと思う。」

一緒に来るか、別れるか提案しているのだろう。友達というのも、俺の知らない奴という前提があるはずだ。少し悩んでから、

「その辺見てみる。相楽さんに会ったら連絡する。」

「分かった。大体30分後にここで落ち合おう。」

統次は手を振り、階段を登っていった。

さて、どうしようかなと息を吐く。

別に行きたいところもないし、統次について行けば良いかとも思ったが、知らない人と会いたくないというのが大きい。

壁に貼られたチラシを見るが、あまり興味をそそられない。

不意に背中を叩かれ、驚きながら振り返る。そしてもう一度驚き、首を傾げる。知らない顔だ。

「あんたが噂の彼ね。」

北高の制服、そして背中に背負ったデッキブラシを見て気付く。鹿折 美夜だ。

「早坂さんの…。」

「その通り。噂は聞いてるよ。四季の彼氏でしょ?」

ぎょっとして、周囲を見渡す。何人か取り過ぎていく人はいるが、上級生か外部の人間だ。

「そんな慌てなくて良いよ。冗談冗談。」

しかし、色紙さんとの繋がりを知っているようだ。

「初めましてだよね。私は鹿折 美夜。四季とはクラスメイトだった。好きな食べ物はじゃがりこ。あれ最高に美味しいよね。」

マシンガンのように話しかけられ、どれに答えようか悩む。

「今日は学校に友達とここに来た。さっき四季に会った。元気そうだったけど、一人で店番とか嫌われてるの?」

「いや、大人数でもする事ないですし。」

「ならいいけど。四季はやっぱり取っつきにくいところがあるからね。話せば面白いだけど、そのゾーンまでがちょっと長いよね。てか、タメ口で良いよ。」

次から次へと話されてよく分からなくなって来た。色紙さんの言ってたお調子者という意味が分かったかもしれない。

「色紙さんのことは、鹿折さんの方がよく知ってると思う。」

鹿折さんははははと笑い、目を細める。

「そりゃ3年も一緒に居たからね。」

中学校の同級生みたいなものだろう。

しかし、喧しさは鹿折さんと色紙さんを足して2で割ればちょうど良いかもしれないなと思う。


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