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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生秋
45/125

開祭

大きな門設置されていた。赤愁祭(せきしゅうさい)と書かれており、そういえば文化祭はそういう名前だったなと思う。生徒も教師も、誰も赤愁祭とは呼ばず、文化祭か学祭と呼んでいる。当時頭を使って考えた人には申し訳ないが、別に名称などどうでも良い。

「氷菓のように意味があるかもしれないよ。」

俺の心を見透かしたように、いつの間にか横に立っていた色紙さんが言う。

「あったとしても、それを解く頭脳はない。」

「まあ、多分無いよ。」

そりゃそうだろう。

並んでその門を潜る。学生服や、訳の分からない服を着ている人も大勢いる。普段大して早く学校に来ないような奴も、今日という日は早く学校に来ているかもしれない。

気のせいか、自分もそうなのか浮ついた雰囲気が充満している気がする。

幸い晴れた空。雲はまばらにあるが、今の時期としては暖かいくらいだ。

「珍しい組み合わせ。」

後ろからそう声を掛けられ振り返ると、才原さんが立っていた。スポーツバックを背負い、学生服の上に薄手のパーカーをファスナーを閉めずに羽織っている。

普段色紙さんとはそこそこに話をする。珍しいと言う程では無いが、一緒に登下校することない。その事を指しているのだろう。

「そこで一緒になった。」

「“バカ、誰がコイツなんかと!”くらい言わないと面白くないよ。」

真面目な顔をして言う。

「私そういうの疎いから、真偽が分からなくなる。」

才原さんも真面目な顔で言う。

「本当にそこで一緒になっただけなんだ。」

そう言ってから、なんだか誤魔化しているようだったと気付く。

「そういうことにしておく。」

笑いながら言うあたり、本当にそうは思っていないのだろう。まあ、才原さんなら変な噂など流さないだろう。

「今日は何時から何時まで当番なの?」

色紙さんが話を切り替える。

「俺は今日は午後から。」

「私と同じだったね。」

クラスの展示である自主制作映画の上映にあたり、スタッフを設ける事にした。別に大した作業はない。時間になったら部屋の暗幕を引き、戸を閉め、スクリーンに映像を映す。ただそれだけだ。

やる事も少ないからと、当番は自主的にやりたい人に任せることになった。

「私は午前中、才原さん、部活の方は良いの?」

「13時から15時だけクラスの当番やって、そのあと部活の方に行く。」

確か才原さんは陸上部で、SASUKEみたいな事をやるとか言ってたか。それならわざわざクラスの方まで手伝わなくて良いのに、なぜとも思うが律儀な人なのだろう。

「挑戦してみようかな。」

そう言う色紙さんの目線は校庭にあり、想像の何倍も手の込んだ設備が鎮座している。

壁がそり立っている。

「陸部でもクリアは困難。」

それでも色紙さんならクリア出来てしまいそうだ。

「様子見てから行こうかな。」

きっと色紙さんは行く気などないのだろう。ただの世間話だ。それと同時に、俺に今日の段取りを再確認させようとしている。

早坂さんは俺に今日来ると言っていた。パートナーを連れて。

それと同時に、色紙さんへ鹿折さんからも連絡があった。文化祭に遊びに行くと。

もちろん、俺が色紙さんに早坂さんのことを伝えた事を悟られるわけにはいかない。それと同時に、映画を見られるわけにはいかない。あのメッセージの理由に気付いてしまうからだ。

今はまだ、早坂さんの真意を理解出来ていない。それを確かめる必要がある。本当に善意である可能性もあり、メッセージ意味に気付いていない場合もある。

あらゆる可能性を考慮し、一つの作戦を実行する事とした。そのためには映画を見られると都合が悪い。

「2日間もある。暇になったらで良いと思う。」

SASUKEの前にまずは他のイベント楽しめと言う事だろう。

昇降口で靴を履き替える。正面に据えられた掲示板には、今日体育館で実施されるイベントが時系列にまとめられている。それによると、今日の朝一番に開祭宣言があるらしい。

「今日と明日は朝と夕に点呼取って、後は自由なんだっけ?」

「たしかそう。サボってもバレない。」

「俺を見ながら言わないでくれ。」

普段から真面目ではないと思っていたが、そこまで不真面目で通っていると思わなかった。かと言って、イベントを網羅する気もやる気もない。


開祭宣言を舐めていた。

どうせ挨拶程度かと思ったが、前に出た金田生徒会はマイクを無視して大きな声で

「これより文化祭を開祭します!」

と宣言した。すると、体育館の電気が全て消え、ざわめきが広がった。

スポットライトが体育館後方を刺すと、そこにはステージに居たはずの金田生徒会長がいた。

各々ジャンプして遠くの会長を視界に収めようとしている。

はて、生徒会長は短距離走の世界記録保持者だったかなと馬鹿な事を考えたのも束の間。

歓声が上がると同時に、ステージにスポットライトが集中し、生徒会の面々が奇抜な格好をして立っていた。

開会と同時にマジック大会が始まったようだ。思わず見入るほどのマジックが繰り広げられる。何もないところからカードが現れ、箱に入った人が消える。数が多過ぎて驚くタイミングを見失う。

なるほど。これが金田生徒会長の言っていた“もっと派手な文化祭”の一部なのかもしれない。

開始から生徒の心を鷲掴みだ。これでは来年度の後任へのプレッシャーが凄いだろうな。

マジックを感心と種を見破ろうという気概を併せて見ているが、生徒は少しずつ体育館から出て行っている。クラスや部活の出し物の準備があるのだろう。

特に急いでやるべき事もないので、このまま最後までマジックを見ようかと居座りを直すと、肩を叩かれる。

振り返ると統次が立っており、周囲の歓声に埋もれないように耳元で大きめの声を出す。

「ちょっと外で話そう。」

断る理由はなく、統次の後ろを付いて体育館の鉄扉から出る。鉄扉のすぐ側では体育館の喧騒が聞こえ、話がしにくい。そこから離れ、特別棟の一階で、対面する。

「何かしたか?」

体育館程ではないが、文化祭の準備でそこらじゅうガヤガヤしている。

「暇だと思って頼むけど、女子テニス部とバレー部のとこに行きたい。」

事前にもらった文化祭の手引きみたいなのによればたしか。

「どっちもカフェみたいなのでやるんだったな。」

カフェをはしごする意味がよく分からない。

「相楽さんの頼みなんだ。」

その一言で、大体を察する。新聞部の手伝いをさせられるのだろう。

「1人では行きにくいな。」

「断ろうとも思ったけど、クラスの方もまともに手伝わないからな。流石に罪悪感が勝った。」

統次も善人であったようだ。

「早い時間なら人も少ないと思う。9時から始まるらしいから、そこを攻める。」

覚悟を決めているようだ。

「よし行こう。」

午前中は色紙さんがクラスの当番をやっていたはずだ。それならまあ、ある程度文化祭を楽しんでも良いだろう。早坂さん達がメッセージの意味に気付かないように泳がせる事さえ出来れば良い。


特別棟2階の何のためか分からない部屋をテニス部が利用しているらしい。まだ中では慌しい音が聞こえる。

「まだ準備中じゃないか?」

スマートフォンを見ると時刻は9時15分。本来であればもう始まっても良いはずだが。

戸には紙が貼られ、カラフルな文字で”グローバルカフェ“という文字がある。

「聞けば分かる。」

そう言うと、統次は戸をノックする。すると、中から勢いの良い声が聞こえ、勢い良く開かれる。

おそらく一年生ではない人が、どこかの民族衣装を着て立っている。これはどこの衣装だろうか。

「そういうグローバルか。」

統次が呟く。

「いらっしゃいませ!」

溌剌とした声で言われ、おずおずと中に入る。

机を四脚揃えた席と、2脚揃えた席がある。客は他におらず、期せず一番乗りだったようだ。

2脚の席に着くと、すぐさまメニューをさっきの先輩が持ってくる。

「決まりましたら、そちらの…。」

そちらを見るが、何もない。

「失礼しました。お呼びください。」

メニューを開くと、想像以上に豊富なドリンクがある。よく分からないものも多い。

「さっきの先輩、飲食店のバイトの癖が出てたな。」

なるほど、そういうことか。

それにしても訳の分からん飲み物ばかりだ。

「コピルアックなんか良いんじゃないか。」

統次の言葉を無視して名前を睨むが、結局冒険はせず緑茶にしようと思う。

「俺は緑茶にする。」

「すみません。」

統次は直ぐに先輩を呼んだ。既に決めていたのだろう。

「緑茶とディアボロお願いします。」

「かしこまりました。」

そう行って先輩が奥へ消える。どうやら、教室の一画を衝立で区切り、ホールとキッチン分けているようだ。

「ディアボロってモンスターの名前か?」

「レモネードにシロップ入れたやつだ。」

「コピルアックってのはなんだ?」

「ジャコウネコの…。」

「いや、もう大丈夫。思い出した。」

友人にそんなものを飲ませようとするなんてとんでもない奴だ。美味しいらしいが、気が進まないのは確かだ。

「お待たせしました。」

1人はヨーロッパ風の服を着た人がお盆に緑色の飲み物が入ったグラスを乗せ、もう1人は和装の小清水さんで緑茶を乗せている。

小清水さんは長い髪を結い、かんざしかよく分からないが赤い何かがあるが、パッとみポニーテールだ。

「飲み物に合わせた衣装なのか。」

そう尋ねる統次の前に目の前にグラスが置かれる。

「そうなんだよね。私の帯はイミテーションだし。」

丁寧に目の前に緑茶の注がれたコップが置かれる。

小清水さんの服装をまじまじと見るが、それがイミテーションであるかどうかはよく分からない。水色の、浴衣なのか着物か俺には違いが分からない。

戸が開く音が聞こえ、反射的に振り返ると男子生徒3人が入ってきて、その後ろには女子4人が入ってくる。

「それじゃあゆっくりしていってね。」

そうは言われるが、男2人が長居する理由もない。

小清水さんが新しく着た人達を席に案内するのを尻目に、統次は呟く。

「2つとも緑じゃ映えないな。」

スマホで写真をパシャりと撮る。


特別等の3階、これまた何のためか分からない教室をバレー部が使っているらしい。

戸にあるガラスで中を見るが、既に満席だ。心なしか男子が多い。

それどころか、廊下にも列が出来ている。

「どうする。」

統次は腕を組み、うーんと唸る。

「相楽さん次第かなぁ。」

主体性がないかと思うが、そもそも依頼主が相楽さんなのだ。彼女に従うのが正しい。

「相楽さんは何処にいるんだ?」

統次はスマートフォンを取り出し、画面を見せてくる。そこにはタイムスケジュールが記載されていた。

開祭宣言から始まり、1年1組、2年3組、3年生のお化け屋敷…。隙がないスケジュールだ。

「スケジュール通りであれば会えるだろうけど、忙しいだろうな。今はは1年1組か。」

「スマホにメッセージ 入れておく。」

それから自然と列の最後尾に並ぶ。

特別棟の窓の外は体育館しか見えず、退屈だ。

統次はスマートフォンを操作しており、話しかけるわけにもいかない。

「ファストパスでもあればな。」

「お化け屋敷にはあるらしい。」

冗談のつもりだったが、意外と頑張っているようだ。

「そんなに人気なのか?」

「毎年大人気らしい。」

一向に進まない列の先頭、戸が開き中から仲神さんと小松寧々さんが現れる。

並んでいる人達に紙を配っていく。

「ハル君に南君。」

ここに来るのが意外という顔をしている。

何か言い訳でもと思うが、それはそれでみっともない。

「大人気だな。」

「そうなの。だから整理券配ってる。また後で来ても大丈夫。」

そういうことなら、どっかで時間を潰した方が良いだろう。

「私は12時までいるから。」

忙しそうに教室の中へ戻っていった。

「どっかで時間を潰そうか。」

そういうと統次は階段に向かって歩き出した。

後ろに付いて行き、様々な服装の人を避けてを渡り廊下を歩く。

ふと窓の外を見ると、外の様子が見え、校庭のSASUKE装置に人集りと完成、反り立つ壁の前で絶望する人が見える。

そして、私服の人達、恐らく保護者やご近所さん達が続々と校舎に吸い込まれていく。

「あれは…。」

そういう統次の目線を追うと、ここではない制服を着た人達が3人いる。制服に興味がなく、どこの学校か分からなかったが、装備を見て直ぐに分かった。

肩にかからないくらいのボブカットの女生徒は竹刀ケースを肩に提げている。背の高い、肩にかからないくらいの髪の女生徒は雨でもないのに長めの傘を持っている。最後の1人、2人の間の慎重で高い位置のポニーテールの女生徒が肩に背負っているのは。

「デッキブラシ?」


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