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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生秋
43/125

見つめ直す

「でも早坂さんは、そういう事件は起きるって。それがCTTと関わる可能性もあるって。そうだ、過去にCTTがPPの事を過去改変の予告の際に泥棒と揶揄したことあるって。」

自分の考えを整理するように話したが、早口になってしまった。

色紙さんはカップを持ち立ち上がり、奥の扉を開けた。そして俺を見て、空いている右手を差し出す。もう一杯どうかということだろう。手を前に出して遠慮する。話はまだ続いており、あまり間を空けたくないのだ。

色紙さんは踵を返し、奥へと消える。

扉の奥からジーという音が響き、すぐに戻ってきた。意外と早く淹れれるようだ。それなら頼めば良かったかと後悔する。

「私が調べた限り、さっき言ったような演説と暴徒化は起きない。至って普通の文化祭が開催される。もし本当に起きれば過去改変という事になる。そして、PPを泥棒と揶揄された予告もない。過去改変予告を一言一句覚えてるわけじゃないけど、それは確か。」

早坂さんが嘘を吐いた?それと色紙さんが?いや、もう一つの可能性も考慮していた。

「俺としては、色紙さんと早坂さんがグルの可能性も否定できない。」

色紙さんは小首を傾げて、

「私が早坂さんにお願いして、三城君の仕事ぶりを監視、私との関係を漏らさないか確認してるとか?」

と言う。

それに対して頷いてみせる。

「前にも言ったけど、過去の人間と、ここまで関わる事はタブーなの。人に言いふらすなんて事できない。」

それに対しては異議がある。

「それは色紙さんの視点だろ。俺からすれば、タブーではない。別に俺には言いふらした際のデメリットがない。この関係は、色紙さんと俺とでバレた際の重さが違う。色紙さんは絶対に言わない、むしろ言えないかもしれないが俺はどうだか分からない。だから、ヤバい人達に知られる前に1人に知ってもらい、俺が口を割る恐れがないか確認する可能性は大いにある。」

珈琲が熱かったのか、口を付けるが直ぐに机に置く。

「可能性があるのはその通り。だけどそれはない。信じてほしい。」

小さな声でそう言う。別に信じても信じなくても大きな問題ではない。俺だってこの関係を話すつもりはない。

「三城君は選択するべきだと思う。」

指を一本立てる。

「一つは今まで通り、私と一緒に仕事をする。」

更に指を立てる。

「もう一つは、早坂さんとの調査を経て私に何かを感じたのであれば、関係を終了する。」

もう一度カップに口をつけ、目を閉じる。俺の言葉を待っているように見える。

ここ最近で、大体の腹は決まっていたが、考えるふりくらいはしておこう。

「私から言える事は言えるけど、それを信じるかどうかは三城君次第。だから、好きな方を選んで。」

「春の契約はどうなる。」

「説明が足りなかったってことでしょ?私はそんな、ユーザー登録で同意したでしょと詐欺紛いの事はしないよ。」

咄嗟にサウスパークを思い出した。それはどうでも良い。つまりは、

「再確認ってことか。」

「そうなる。」

腕組みをしてみる。あくまで形だけだ。実際、頭はあまり使っていない。勿体ぶる意味もないかと直ぐに気持ちを伝える。

「俺は色紙さんと続ける。」

一瞬、目を見開き、直ぐに目を伏せて珈琲を啜る。そして一言。

「そう。」

と呟いた。

淡白な反応だが、こちらを一切見ないところと頬の色を見るに照れ隠しなのかもしれない。

「俺的には、早坂さんの方が疑わしい。色紙さんが俺に言葉が足りないのは、いつものことだし。」

「悪かったね。」

そう言って睨まれる。

「学校の貼り紙が、CTTや未来について関係のないものだった以上、早坂さんと手を組んで調べる意味はない。」

理屈付けのように話すが、返事はない。

「それに、早坂さんの言う通りに事件が起きるなら、それを色紙さんが俺に伝えない理由がない。貼り紙を見つけてすぐに、一緒に検討しようと言ったのに、黙っている理由がない。色紙さんのリスクとも言える俺を、おざなりにする理由はない。」

そうなると、怪しいのは早坂さんだ。なぜ、起きもしない事件を起きると言ったのか。そして、なぜ俺に接触したのか。

「とりあえず、信じてくれてありがとう。」

「たまには素直になれるんだな。」

一言余計だったようで、また睨まれてしまう。

「言わなきゃ良かった。」

そう言って色紙さんはオーバーなジェスチャーをする。

「それで、これからが問題なんじゃないか。」

あまり酷い仕打ちを受ける前に話題を変える。

「そう。貼り紙の謎が解けても、分からない事がある。何故早坂さんが三城君に接触し、協働したのか。」

それについてはずっと考えてきたが、答えは分からなかった。

「俺の頭じゃ見当がつかない。色紙さんに考えてもらいたいってのが本音だ。」

自分に素直になる。

「私も分からない。早坂さんを知ったのは夏の事件の時で、それから彼の経歴とかを本部で調べたけど、特にこれといって変なところはないし。」

顎に指を当ててそう言う。そして直ぐに奥の部屋へと消えていく。

しんと静まった部屋で、スマホを取り出す。時間は夕方過ぎ、流石に空腹だが、それは色紙さんも同じだろう。それでも、これからの方針を固める必要がある。

適当にスマホをいじっていると色紙さんが片手に何かを持って来る。具体的に何かは分からない。

形は350mlの缶ジュースくらいで、何かの機械のようだ。

明らかに疑問が目に浮かんでいたようだ。

「まあ見てて。」

そう言われてしまった。

その機械をテーブルに置き、触れる。するとホログラムが浮かび上がる。部屋一面のそれを、何度か触れるとリビングのテレビサイズになる。そして何やら訳の分からない言葉がたくさん出てくる。

「これは…、簡単に言えばPCね。」

そう言いながら操作する。浮かび上がったホログラムをタッチすることができるようだ。

「今までこういう機器を見せなかったのはわざとじゃない、機会がなかっただけで、その…。」

言い篭るのは操作に集中しているのか、それとも後ろめたいのか。

「機械を見せる機会が無い。」

言ってから後悔する。

色紙さんの顔を見るが、非常に困った顔をしている。

「これ。」

ホログラムには早坂さんの顔が浮かび上がる。身分証明のような画面だ。

「今は21歳。15歳からずっとこの時代に配属されている。担当都市が、15歳からの18歳までは福岡県福岡市で、19歳になると同時にこの町の隣接に配属されてる。」

それは大体早坂さんから聞いていた。

「そういえば、早坂さんはPPはツーマンセルだと聞いた。」

「…、言ってなかったっけ?」

妙ににっこりとした顔で言う。あまり色紙さんの笑顔を見た事がなかったので、驚いてまじまじと見てしまう。

それが色紙さんのボケだと気付くのは遅く、色紙さんは顔を赤くして、直ぐにホログラムを操作する。

「早坂さんのパートナーは、この人……。」

また、身分証明のホログラムだ。パッと見ると名前や生年月日などが見て取れる。

「鹿に折れるで、しかおり…。」

鹿折(ししおり)って読むの。鹿折(ししおり) 美夜(みや)、今年一年目のPP。」

「今年一年目ってことは。」

「そう、私の同期。美夜…。何か知ってるのか、一緒に何か企んでるのか。」

色紙さんの同期が、早坂さんのパートナー。その人から何か聞き出せたら良いが、その人の善悪が分からない。

「その、鹿折さんってどんな人なの?」

「簡単に言えば、お調子者かな。面白い人。」

さっきとは違う自然な笑顔を見せる。

「美夜を信じないわけじゃないけど、早坂さんを信じることは出来ない。それに、早坂さんの目的が分からない以上、文化祭まで今は黙ってた方が良い。」

首肯する。

「それまでは、現状維持をしているふりを続けて、当日に何をするか考えた方が良い。」

それをするに、今日は疲れ過ぎた。

「一緒に考えよう。ただ今日は一旦解散しようか。」

色紙さんの提案に同意して立ち上がり、スポーツバックを背負う。玄関へ向かうと、色紙さんが後ろに付いてくる。

ドアに手を掛けると同時に色紙さんが別れの言葉を掛けてくれる。

「じゃあね。ありがとう。」

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