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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生秋
42/125

本懐

コンピュータ室で4人、黙って映画を見ていた。自分が出るシーンや喋るシーンは赤面ものだ。

出番の多い統次は、更に恥ずかしいはずだ。

当然だが、色紙さんは出演せず裏方に徹していた。こういった小さなものでも、形に残るのはまずいのだろう。

「良い話だね、何かもやもやするけど。」

相楽さんはため息と同時に言う。

「クリストファー・ノーランが好きなんだって。」

色紙さんが補足する。

そういえば、作成中に実は私たちが1年生じゃなくて2年生だって設定で作りたかったけど、教室を使わせてもらえなかったと言っていた。

1階と3階では、明らかに窓からの風景が違うため、無理やりそういう演出には出来なかったとか。

今思えば叙述トリックのようなものでも取り入れるつもりだったのかもしれない。

「これを見てもらって分かったと思うけど。」

統次の言いたい事は分かった。

「私がもらった台本には、最後のシーンはなかった。」

「俺もなかった。」

色紙さんと統次の言葉に首肯する。

「このシーンは監督である平田さんと仲神さんだけで撮ってある。さっき見てもらった時にはエンドロール中に再生を止めたけど、エンドロールの終わりには仲神さんが未来を見てその張り紙が剥がされるシーンもある。」

俺らが渡された台本には、小清水さんと仲神さんたちが別れ終わりだったはずだ。

教室で小清水さんと別れる。それであの映画は終わるはずだった。

「ほぼ間違いなく、あの張り紙を貼ったのは平田さんだ。」

「映画の宣伝なのか。」

がらりと音がして、コンピュータ室に人が入ってくる。4人で入口を見ると、丁度平田さんが居た。

「皆どうしたの?」

きょとんとした顔で言う。

「映画を見てたんだ。」

「早いね〜。どう?」

平田さんは恥ずかしそうに言う。そりゃ自分の作品を人に見せるのだ。とんでもない羞恥だ。何だったかな、人に自分の尻の穴にボラギノールを何とかだったか。

「最後、知らないシーンがあった。」

「そう。あれはずっと秘密にしてた。」

「どうして?」

色紙さんがストレートに質問をする。

「どうせ誰も思えてないと思うけど、この学校にも最後のシーンと同じ張り紙をしたの。」

それでここ最近心労が絶えなかっと言ってやりたいが、我慢する。

「映画を見た後に、そういえばあの時のあれって気付いた人が現実と映画の境目が曖昧になればって思って。」

平田さんの言ってる事の意図がよく分からない。考えようとはするが、1日の終わりの延長、放課後に思考をまとめるだけの余力はない。それに、答えを知ってる平田さんが目の前にいるのだ。無駄な事はやめた方が良い。

「それはつまり…。」

そう言うが、相楽さんも全てを理解出来てはないようだ。

「俺が見て思ったのは、自主制作映画だから出来る演出だと思った。」

統次の言葉で何となく分かった気がする。

天井の蛍光灯が一瞬チカチカと明滅する。切れかけかと思うが直ぐに元の明るさを取り戻す。

「皆が在籍している学校の物語だからこそ、リアリティと生活感というか、親近感というか、そう言ったものを皆受け取る事ができる。」

言わんとする事は分かる。

学校の構造を知っているし、見た事がある顔がもいる。それでもう、舞台を知っていて、ストーリーにのみ集中できる。

「映画でストーリーに関係する、映画にのみ登場する物が現実の学校にもあったら面白いかなって。」

「つまり、あのメッセージは平田さんが貼ったもので、映画と現実をリンクさせるものってこと。」

パチリと指を鳴らして話し出す。

「そういう事。他にもいくつかあるけれど、あの張り紙がメインのリンクになる予定。てか覚えていたんだね。正直、誰も覚えてないだろうし、自己満足になるかと思ってた。」

たしかに、あの張り紙を気にしていたのは特別な事情のある色紙さんと俺以外、統次と相楽さんしかいないように思える。

「しかしまあ、よく考えたなぁ。」

思わず本音が漏れる。声にするつもりがなかったため、若干恥ずかしく思い誤魔化すためにブラインドの隙間を指でこじ開け、外を見る。逆にその姿が気取っているような気がして更に恥ずかしく思う。

「映画にするって決まってから、直ぐにあの張り紙はあったし、その時に既にその計画があったんでしょ?」

相楽さんも同じ事を思っていたようで、言葉を引き取ってくれる。助かったと思うが、統次は冷ややかな目をしている。

「うーん。ここだけの話にしてほしいけど、私元々そういうのやりたかったというか興味あったというか…。」

口籠るが、大体分かった。

「通りで。」

相楽さんの腑に落ちた一言に尽きる。


色紙さんの質問には首を縦に振って応える。

コンピュータ室から平田さんを含め、5人で教室に戻ってきたが、誰もおらず電気も消えていた。

映画製作も終わり、各々部活の方へ言ったか真っ直ぐ帰ったのだろう。

最近は日が暮れるのが早く、放課後から2時間もあればこの時間でも夕方よりも夜に近い雰囲気になっていた。

「そういえば。」

わざと間を開け、もったいぶるように統次が何かを告げようとする。

「私、荷物部室だった。」

相楽さんが統次の作った間を壊して言う。統次はばつが悪そうな顔をして、

「そういうことで。」

と言って2人で教室を出て行った。

平田さんは机の上に置いていたスポーツバックを背負う。スマホを取り出し、何度か操作をする。

つられてスマホを取り出すが、通知は一切きていない。

「それじゃあ、私も帰る。また明日。」

イヤホンを取り出し耳にはめ、軽く手を振る。手を挙げ応える。

「そういうことだったのね。」

物凄く大きな溜息と一緒に言う。

「今、時間良い?」

ちらりと壁の時計を見る。部活をしていればまだ帰る時間ではないが、色紙さんを慮る。

「構わないけど。」

そう言って教室の前と後ろの戸に目を向ける。

「今話さないといけないことなの?」

察する。そして考える。

場所は良くないが、人はいない。だが、来ないとも聞かれないとも限らない。

「場所は変えたいけど、早めに話したい。」

「今日?」

「できれば。」

色紙さんはスマホを取り出し、何か操作する。机の並びを整え、教室内の整理を徐にする。普段は気にしないのに、一度でも気になると、とことん気になってしまう。

「うちで話そう。」


久し振りに色紙さん家に来たが、相変わらず生活感のない部屋だ。

しかし、こういう部屋だからこそ増えたものがはっきり分かる。机の上に小さなケース増えてあり、財布をそこに入れた。財布を置く場所を定めたのだろう。

Tシャツが長押に掛けられている。前にはなかったが、これはインテリアなのか、ただ乾しているのか判然としない。突然の来客で、洗濯物を取り込めていない可能性もある。なんだか申し訳ない。

奥から色紙さんがカップを持ってくる。湯気が立つそれには珈琲が注がれている。

「珍しいな。」

湯気が甘そうな匂いをしている。

「最近あれ買ったの。」

あれと言うが、さっぱり品名が出てこない。俺も大体どういうものか分かったが、何という分からない。

「コーヒーメーカーというか、ドリンクバーみたいなやつっていうか。」

「珈琲とか珈琲系とか作れるやつでしょ?」

「そうそれ。衝動買いだった。」

一口啜るが、やはり珈琲に疎いため美味しいか分からない。

「完璧オシャレ目的だったけど、良い買い物したと思ってる。意外と美味しいし楽。」

値段を聞きたいが、話が逸れてしまう。

「閑話休題。」

実際に閑話休題と言う人を初めて見た。

「例の張り紙は平田さんがやったもので、正しい過去だった。それで未来が変わる事もないし、私としては一件落着なんだけど、何かあった?それとも他の話?」

「いや、その話なんだけど、何から話せば良いか。」

ここへ来る間に整理したつもりが、いざとなると難しい。話しながら説明するしかない。

「この張り紙事件を追っていたのは、俺と色紙さん、そして統次と相楽さん。それに、早坂さんもだったんだ。」

名前を聞いて眉を顰める。何か言いたげなので黙ってみるが、言葉は出ないので先を続ける。

「1ヶ月くらい前に早坂さんに突然話しかけられて、俺と色紙さんの関係がバレていた事が分かった。夏のあの日に分かったらしい。」

どの日か伝わったか怪しく思い、日にちで伝えようとするが思い出せない。カレンダーでもないかと部屋を見渡すが、殺風景な部屋にそれはない。埃のないテーブル台の脇に無線LANがある。

「たしかにあの日は禍根を残したと思った。」

前に聞いたが、色紙さんにとっても早坂さんとはその日が初対面だったらしい。

「禍根って言うのは?」

その日何があったかまでは聞いていなかった。

「私の後を付けられてたみたい。三城君との関係もバレていたなら、CTTの二重尾行をしている三城君を尾行してたことになる。」

「四重尾行か。芸人みたいな名前だな。」

思った事を言うが、色紙さんはピンとこなかったようだ。訝しげな顔をする。

「まあその、かなりややこしい事は確か。その時は三城君に気付いてなかったみたいだっためど…。」

珈琲を一口啜るも、眉は顰め難しい顔のままだ。

「早坂さんに初めて会った時に助言されたんだ。」

「どんな?」

ここまで言えば全部言わなければならないだろうが、何となく憚られる。しかし、言わねばなるまい。心を決める。

「色紙さんを疑え。」

真っ直ぐ色紙さんを見つめ言う。色紙さんも目を逸らさず、こちらを見る。それで?と言っているようだ。

「色紙さんが全てを教えてくれたかって言って、知らない事を色々教えてくれた。」

まだ目を逸らさない。

「PPについてや、未来について。」

色紙さんは目を逸らす。視線の先を見るが、特には何もない。

「俺に危害が加わらない事は分かってた。色紙さんだって分かるだろ?」

「過去の人を未来人は殺せないし、深く関われない。」

そう言う事だ。ただし、俺と色紙さんの関係は一先ず置くとする。

「だけど、色紙さんはどうなるか分からない。最初、脅しだと思ったんだ。」

「色紙はこちらで処分する。」

低い声で話す。大体を察して、演技をしている。

「君と色紙さんが出会わない過去に改変できれば良いが、それはCTTと同じ行為で出来ない。そしてそれは色紙さんの罪をも消す事になる。だから、忘れてくれ。」

ぐるぐると考えていた事を色紙さんが口にしてくれる。

「関係がバレた瞬間、それが思い当たった。色紙さんが重罪人になるなと。でも、早坂さんは黙ってると言った。」

「信用したの?」

「したわけじゃないけど。」

自分の気持ちをどのように伝えれば良いか、しっくりくる言葉が出てこない。口籠るが必死に捻り出す。

「様子見しようかなと。」

「私に早坂さんの事を伝えなかったのは、疑ってたから?」

自分に素直になればそうかもしれないが、あえて考えないようにしていた事だ。

「そういう気持ちも無かったわけじゃないけど、保留にしていた。」

色紙さんはソファから立ち上がり、窓の外を眺める。1秒もなく直ぐにカーテンを閉める。一気に部屋が暗くなる。

「色紙さんと組む前に、早坂さんと組んで貼り紙の事件を探る。早坂さんは、色紙さんと組むのを考え直せと言ってるようだった。」

部屋の電気をつけて、ソファに戻る。

「私よりも丁寧にPPの仕事を手伝わせて、PPについて学べということね。」

「そう。それを早坂さんは何だったかな、良心みたいな事言ってたかな。」

あまり会話を細部まで覚えていない。

「確かに、俺に未来について教えない事は当たり前だと思ってた。過去の人間にあれこれ教えるのは、特別な事情があっても良くはない。」

「だけど、早坂さんがあれこれ教えてくれるから私に対して疑いが増したのね。」

カップを両手で包んでいる。俺もそうしてみるが、想像以上に冷えていた。

「言い訳。」

目線はこちらにない。

「早坂さんの方がこの時代に長くいる。この時代の人間と、未来の人間に思考的差異があるのかもしれない。」

そうじゃなく、色紙さんの人間性だと言い返したいが、本人も言い訳と言っている事だ。黙っておこう。

ちらりとこちらを見る。

「それに、私の頭が硬かった。」

思わず小さく笑う。色紙さんからそう言われると思わなかった。

色紙さんはまた直ぐに目を外し、カップに口をつける。

「早坂さんに提供されて色紙さんに提供されなかった重要な情報は、文化最終日に部外者が騒ぎを起こすこと。それが、CTTと関わるがあるか否かを探ろうとしていた。」

「騒ぎって?」

冷えた珈琲を一気に飲む。

「あおいさんの事件について、部外者がスピーチするんだろ?更にその後、悪く言えば暴徒化するとか。」

和らいでいた顔が険しくなる。

「そんな事、私が調べた限り起きない。」

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