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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生秋
36/125

週の半ばに

学校の体育館にいる。クラスメイト数名で。

授業ではなく、放課後だ。 ハンディカメラを持ち撮影する人に、それを見守る人、演技する人。

我がクラスの自主制作映画の撮影中。少し前に台本が出来上がり、読んだがなかなかに良い出来だと思う。台本は良い、後はそれを映像としてどれほど再現出来るか。

意外とスケジュールがないという事で、急ピッチで撮影が進んでいる。学校が舞台のシーンは今週で撮り終え、週末に学校外のシーンを撮影する予定だ。その次の週で編集して、再来週に予備週とし撮りきれなかったシーンや追加のシーンを撮る予定だ。

週の真ん中の今日で、予定通りに進んでいる。

「良い感じに撮れてるから、一旦休憩しよう。」

監督兼脚本の平田さんがそう言う。各々、張り詰めた空気が弛緩したように、ため息やら伸びをする。別にしたいとは思わないが、俺だけ疲れていないように見られるのが嫌で伸びをする。

自分は大した役割を担っていない。必要になったらライトを照らしたりするくらいだ。撮り終えた映像を見て、何か間違いがないかとか、脚本通りかとか、そんな事を確認している。

部活の文化祭準備がある人も多く、自分のように手が空いている人は少ない。

色紙さんも居る。

そう言えば、色紙さんは何部だっただろうか。聞いた記憶がない。どこか名ばかり部なのだろうか。

「今どんな感じ?」

いきなり声をかけられてびっくりした。

いつのまにか後ろに小清水さんが立っていた。

「今は休憩中。平田さんのおかげで順調。」

大分早口で言ってしまった。

小清水さんは変な服を着ている。制服でもジャージでもない。なんだこの服は。

疑問に思うが、小清水さん本人は自分の異質さに気付いていない。

(けしき)、来るの早かったね。」

小清水さんの出るシーンは今日撮る予定だが、暗くなってから撮りたいと平田さんが言っていた。

「部活の方が切りが良い所まで行ったからね。」

「良い所に来た!」

そう言って菅原さんが小清水さんに駆け寄る。

「ケイちゃん、読み合わせしよう。」

暗くなってからのシーンでは、小清水さんと菅原さんの対話がある。その練習がしたいのだろう。

小清水さんの呼び方には、統一性がない。本名は小清水(こしみず) (けしき)で、男子のほとんどは小清水さんと呼ぶ。女子は(けしき)とか(けしき)ちゃんとか、ケイちゃんとか呼んでいる。

「それならついでに着替えて来て。」

平田さんの言葉を受け、自分の身なりを確認した小清水さんは明らかに赤面する。

「こ、これは部活でこういうのやるから。」

そう言ってそそくさと体育館から出て行った。

こういうのとは何だろうか。


取り敢えず、今いるクラスメイトで夕方に撮れる部分は全て撮った。平田さんから、日が暮れたら再集合と指示があり、時間を持て余している。おそらくあと2時間ないくらいか。

部室に行くために、荷物を取りに教室へ寄る。

戸を開けると、色紙さんが自分の席でスマホをいじっていた。それ以外に人はない。

「何か分かった?」

全ては言わないが、あのメッセージの事だと分かるはずだ。統次の推論は伝えている。

「なかなか情報を見つけられない。」

早坂さんから聞いた、日曜にちょっとした暴動がある件は色紙さんが伝えられない。あえて隠しているのか。その件も未来であり、過去の自分に伝える事を憚っているのか。

「今の所、問題のない過去である可能性とCTTが絡む可能、どのくらいの比率?」

その問いに、色紙さんは顎に指を当て唸る。

「半々。」

押し出した答えを聞き考える。

早坂さんの話があれば、もっと発展した可能性を考えられるのではないか。学校に来て演説し暴動を起こすような人物をCTTは仲間に引き入れる事も考えられる。

そうであれば、今現在未来で過去改変は起きていない。文化祭当日に改変が起きる。

「あのメッセージは過去改変の予告じゃないか?」

「可能性はある。突然、最未来じゃなく過去で予告し、文体も変える。PPに勝つための手段かもしれない。だけど」

そこで言葉を区切る。

「南君が言ったような可能性も十分ある。」

早坂さんの話を聞いてから、俺の中でCTTが絡む可能性がかなり高い。

戸が開く音がして、反射的に見る。統次と相楽さんが入ってくる。

「邪魔した?」

相楽さんが一歩下がりつつ言う。

「いや、雑談。」

色紙さんはちらりと見て薄っすら笑った。

「前に掲示板にあったメッセージについて話してた。」

どうせなら2人からも話を聞こうと言うわけか。

「私も南君とその相談しようと思ってた。」

相楽さんは統次の机と俺の机、更に隣に机を合わせて4人で話が出来るような形にする。

自分の机に腰をかける。小学校や中学の給食みたいだなと思う。隣は南で向かいは色紙さん、斜め前は相楽さんだ。

相楽さんはノートとペンを取り出し準備万端のようだ。

「前に南君から聞いた推論。 この学校に文化祭の案を盗まれて怒っている人がいると言う話。とある主体が生み出した案を、他の主体がパクった場合。怒るのはクラスの可能性もあるし、案を出した本人の場合もある。

次に個人の案を個人が盗んだ場合。

例えば、A部でBさんが出した意見をあたかも自分の意見のようにCさんが提案した場合。」

ノートに絵を描いて説明する。丁寧だ。

「どっちの可能性もあるけど、私達は前者の方があり得ると思って検討した。」

何故だかわかる?という顔で俺と色紙さんを見る。被りを振ると、色紙さんが声を出す。

「後者の場合、自身の意見は通っている事になる。正しい未来ではないとは言えない。」

「そう。それに個人の意見を正しい未来と言い切るのはなかなかないと思う。」

相楽さんはノートを数ページ遡り、書いていたメモを見ながら喋る。

「誰かに案を盗まれ、尚且つ他の主体に盗まれた可能性も否定できないけど、今回は前者だと想定している。」

その方が可能性としては大きいだろう。

「前にも三城君には話したけど、出し物でじゃんけんで負けて本命でなかったものになったのは2年1組とバレー部、そしてその後分かったのは3年2組と1年3組、軽音部も何かあるみたい。」

「何かって何?」

直ぐに答えは出るだろうが、聞いてみる。

「2年1組とバレー部は出し物が被ってじゃんけんで負けたらしい。2年1組は2年2組と被って代表者じゃんけんで負けた。バレー部は1年5組と被って代表者がじゃんけんで負けた。」

5組は間下のクラスだ。後で聞いてみれば何か分かるかもしれない。

「3年2組は、3年生全体でやるお化け屋敷に反旗を翻し模擬店をやろうとしたらしい。生徒会に嘆願したけれど、お化け屋敷は3年生フロアを全部使うから途中の2組だけ別の事には使えないし、教室の割り振りは終わってたから今更だと言われたそう。」

確かにクラスで使える場所は自分のクラスか時間制限のあるステージだと聞いていた。他の教室は部活で使ったりで空いていないようだ。

「1年3組はお化け屋敷をどうしてもやりたいと生徒会に嘆願したらしい。勿論却下された。」

独占市場みたいだ。

「軽音部は、ステージを使える時間が去年より少ないと生徒会に。」

そこまで言って黙る。ノートを捲り、一度唸り。

「文句を言ったらしい。」

嘆願ではないあたり、結構強めの主張だったのかもしれない。

「これが各クラスと部活でやる事をインタビューした時に聞いたこと。」

そういえば。

「生徒会に話を聞くって言ってたけど、どうなった?」

「正に今から聞きに行くアポを取っている。」


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