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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生秋
35/125

未だ此処は中津国

文化祭に向けて着々と準備が進んでいる。自主製作映画にすると決まった時点で残り2ヶ月だったが、2週間ほどで脚本はあらかた出来上がったらしい。

担当したのは平田(へいた)さんで、他何人か協力したらしい。内容は詳しく聞いていない。今人数分台本を印刷中で、明日にも配られるらしい。

クラス全員が出演するが、半分くらいは名前も付かない脇役で、その人たちは撮影や編集など裏方メインになるようだ。

主人公は仲神ひかるさん。撮影もいよいよ本格始動する。俺は裏方メインに充てがわれた。希望通りだ。

クラス展示の自主製作映画は順調に進んでいるが、怪文章の謎は一向に進まない。

早坂さんの件を色紙さんに伝えようかと思ったが、伝えるメリットがない気がする。

早坂さんは親切で僕を色紙さんとの関係を見直す手伝うと言っている。それが嘘か本当か見当が付かない。

もし嘘であればどういう状況があるか、ずっと考えていた。

思いついたのは3つ。

1つ。早坂さんは俺を見定めるために、俺と接触した。俺は最未来について知って良い人間ではない。それが悪か善か見定めるつもりかもしれない。

2つ。色紙さんの弱みを握るため。過去の人間に協力してもらっているという弱みを握り、色紙さんを揺するつもりかもしれない。

そして早坂さんに会った日に気付かなかったが、どうして高校(うち)の話を知っていのか。 これが気になる。この疑問を考慮して3つ目。色紙さんと早坂さんがグル。何か理由があって俺を試している。

しかし、どの案も結論が分からない。やはり本心である方が筋は通っている。他の理由であれば、ゴールが見えなさ過ぎる。

結局、生活に変化がない以上早坂さんとは協力する事が悪いことではないのかもしれない。

色紙さんに、早坂さんのことを伝えるべきかも悩んだが、今は黙っておいた方が良い気がする。関係がバレたこと自体良いことじゃない。それを色紙さんに伝えても、色紙さんがこの時代から去る理由になるかもしれない。

色紙さんはこの時代を選んで来たと、前に言っていた。それを崩すのはあんまりだと思う。

「結局、なんだったんだろうな。」

そう呟いたのは南 統次(とうじ)

「何が?」

放課後の教室に、生徒は結構いる。それに他のクラスの奴も大勢いる。クラスの出し物を準備する傍ら部の出し物がある場合はそっちも必要だ。

幸い、俺の所属する部活は何もすることがない。統次は確か写真部、何かするのだろうか。

「前に掲示板にメッセージが貼ってあっただろ?」

俺しか覚えてないと思ったら、こいつも気にしていたのか。

「訳の分からないやつだろ?文化は正しい未来じゃない。泥棒のせいだ。報いを受けるべき。だっけか?」

あえて所々間違えた。

「文化祭当日は正しい未来では無い。泥棒のせいだ。報いを受けるべきだ。」

統次が一言一句違わず言う。

「謎だよな。」

「別に俺は興味ないけど、相楽さんが新聞部で扱うと息巻いてる。けれど、推論を立てるにも材料が少な過ぎる。」

まさにそれだ。そして相楽さんがもし犯人を追っているのであれば、俺も一緒の探すと効率が良いかもしれない。

「興味ないってのは嘘じゃないかな。色々考えてくれたじゃない。」

気付かなかったが、相楽さんもこのクラスに来ていた。斜め後ろ、統次の隣に居座っている。

「推論だし、答えとは遠いと思う。」

「あれじゃあ、まともな答えは出ないだろう。」

そう本心を述べる。俺もしばらく頭を捻ったが、何も出てはこなかった。

「南君が言ってたのは、純粋に怒ってるだけの人じゃないかってこと。」

それは1つにパターンとしてあり得る。未来人ではなく、文化祭乃至学校の誰かに怒りを抱いた人間。それが一番良い結果だ。

「もし、本当に怒っているなら誰に対して怒っているのか。」

相楽がいつの間にかポッキーを取り出し、それを使い俺を指す。反対の手で袋を持ち、こちらに差し出す。一本いただく事にする。

「文化祭当日に、用意していた何か泥棒に奪われた。」

「まだ文化祭当日じゃない。盗まれるかもしれないってことか。」

そう言うが、またもポッキーで刺される。

「今からでも盗めるものはあるよ。私が思い付いたわけじゃないけど。」

今度は統次を指す。

「案は盗める。」

指された統次はそう答えた。

成る程。文化祭の出し物の案を盗まれた。それに対して怒っているわけだ。泥棒めと。

「よほどやりたい事があったのか。」

「そうすると、怒っているのはクラス、部活動、個人、どれも考えられる。逆に怒られてるのも同じ主体が考えられる。」

「そう。さすが南君って思ったけど犯人を絞り込む材料がない。」

統次の推論は良いと思う。それが真実である可能性も高い。だが、相楽さんの言うように犯人を割り当てるまでには至らない。

「だからインタビューして回ってる。」

ポッキーを食べならそう言う。

「新聞部として各クラス、各部の出し物を聞いて回ってる。そのついでに、どうやってその案になったのかを聞いている。」

本当の事を言うかどうかが分からないが、ある程度を考える材料は得れるかもしれない。

「大体聞いて回ったけど、ほとんど同じような形だったよ。クラスと部活動毎に話し合いかアンケートを取って、その後多数決。それで決定した案を生徒会に報告、被りがあれば代表者でじゃんけん。」

それは普通の流れだろう。その流れから案を盗むとなると。

「案を盗まれ、被ってじゃんけんで負けたとか。」

「それが妥当な考え方だよね。」

それであれば内輪揉めというだけで、問題はない。

「今度、生徒会に話を聞く事になってる。その時にじゃんけんで負けて一番悔しそうだった団体を聞いてみる。因みにインタビューの時に悔しそうだったのは、2ー1と女子バレー部。」

もし盗まれたと思っているのが個人であれば、代表者じゃんけんやインタビューの時には悔しさという証左が得られない。メッセージを残した本人が、じゃんけんをしたともインタビューを受けたとも限らない。ただ、あんなメッセージを残すくらいだ。目立ちたがり屋で、あらゆる場面に一枚噛んでいるだろう。確証はないが。

「私は当日含め、このメッセージの謎を解きたいと思っている。何か分かったら教えてほしい。」

真っ直ぐ目を見て言う。

「俺も気にはなる。お互い情報共有しよう。」

一方的では悪いかなと思い、そう言う。あくまでそういう体で。

時間を壁掛時計で確認する。皆部活で忙しそうだが、俺の部活は当日何もしないため時間は余っている。

色紙さんに統次と相楽さんの推論を伝えてみようか。

そう思いスマートフォンを取り出すと、早坂さんからメッセージがあった。

“都合が良い時に電話してほしい”

との事だ。

「私部室行くね。」

そう言って相楽さんは立ち上がり、カバンを背負い教室を出ていった。

統次は机の中から教科書やノートを取り出し、帰り仕度をしている。

「じゃあ、俺は帰るよ。」

そう言うと手だけ振り、統次は怠そうにスマートフォンを取り出した。


帰り道。早坂さんから電話がかかってくる。

「もしもし。」

「三城です。」

「今大丈夫?」

その大丈夫に時間的都合と、周囲の目があるかということも含まれていると気付く。

辺りを窺うが、人混みで誰も俺の言葉など気にしないだろう。

「外ですが、大丈夫です。」

「そう?まあ、隠せれる範囲で言葉が隠して。」

立ち止まらずに、常に近くにいる人を変えながら話す。

「何か用でしたか。」

「進捗どうかなと思って。文字打つのもしんどいだろうし。」

一瞬、統次と相楽さんの推論を話すか躊躇う。しかし、話さない理由はない。


一通り話を黙って聞き、早坂さんは大きな溜息をした。

「なるほどねぇ。」

「ついでに。」

そう前置きをして話す。

「早坂さんはどうやって高校(うち)の話を知ったんですか?」

「あれ?言わなかったっけ?」

驚いた声を出す。

「SNSで見たんだ。君の高校の生徒の1人があのメッセージを公開していた。」

今の時代、そういう事は珍しくはない。

「誰か分かります?」

「プロフィールが真実であれば2-3のricacoさん。」

名前だけ聞いても、2年生であれば知ってはずもない。

「そのSNSの投稿が、最未来の正しい過去の記録と照合してあったか無いか、それが分かれば正しいか正しく無いか分かるんじゃないですか?」

早坂さんは唸る。

「それは多分できない。300年も前もインターネット上の情報を記録しているとは思えない。残さなくて良い情報に含まれてる可能性が高い。」

今インターネットが発達して間もない。昔の投稿を見れるかどうかと言われると、あまり想像が付かないが難しいのだろう。

「なるほど。こっちとしては、このくらいしか進捗がないです。早坂さんは何か分かりました?」

「1つ分かった事がある。」

そう言ってからしばらく間があった。かさかさと音がする。何かメモか書類を漁っているのだろう。

「君の高校の文化祭について調べてみた。毎年、金土日の三日間開催され、金曜は生徒間のみのイベント、土日は一般開放される。間違いないね?」

毎年参加してるわけでもないし、むしろ今年初参加だがそう聞いている。

「はい、そうです。」

「日曜日にちょっとした問題が起きる。一般参加の人が突然演説を始めたらしい。しかも複数人で。何についてだと思う?」

完璧に聞く体制だったため、考えてもいなかった。何について、勝手なイメージだと政治体制だとか宗教だろうか。それとも学校施設であるため教育についてか。

「検討つかないです。」

あえて逃げる。時間を有効に使う。

「そう。仲神 あおいさんについてだそうだよ。内容は、彼女は可哀想だとか加害者は極刑だとかそういう内容。今までもニュースやネットでよく聞いた話だけど、そこから更に一悶着。演説自体は学校関係者に止められて5分もなかったそうだけど、そのうちの1人がナイフを持って暴れ出した。」

文化祭当日、とんでもない事が起きるようだ。

「幸い怪我人無し。暴れた本人も、演説内容との矛盾を感じてたのかもしれない。」

たしかに、人を殺す事自体に怒りを持っているならその行為はおかしい。ただ、行き場のない怒りを発散したかったのかもしれない。

「ここであのメッセージ。文化祭当日は正しい未来ではない。これは仲神あおいさんが殺されなかった未来が正しいという事かもしれない。殺された今は正しい未来ではないと。

メッセージの泥棒についてだけど、CTTは昔過去改変の予告上にPPの事を泥棒と揶揄した事がある。2107年の事件を改変しようとした時のことだ。」

なるほど、であればあのメッセージは過去改変を阻止したPPへ向けたもの。

「もしそうであれば、文化祭当日にCTTが何か仕掛ける可能性は…。」

「まだ分からない。」

あのメッセージがCTTのものか生徒のものか、どちらの確証がない。

「色紙さんは泥棒という言葉にピンとこなかったんですかね。」

不意に辺りを見渡してみる。変わらず周囲の人は俺のことなど気にも止めていない。

「過去改変予告を覚える事は必須じゃない。知らなくても無理はない。君が友達から聞いた説もあり得るし、僕の説も有効だと思う。残りの期間、もう少し探ってみよう。」

通話を切り、思いのほか話していた事に気付く。

コンビニの灯りに釣られて店内に入ってしまう。まるで虫だ。

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