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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生秋
33/125

検討と決闘と邂逅

まだ頭が冴え切っていない午前8時過ぎ。朝からわいわいと教室は賑やかだ。聞き耳を立てると、やっと決まった各クラスの出し物ついてのようだ。

席に着き、スマートフォンを取り出す。適当にニュースをチェックしていると、画面の上に新着メッセージが届く。差出人は色紙さんだ。

“放課後時間ある?”

咄嗟に色紙さんの方を見る。こちらを一切見ずに、ずっとスマートフォンを見ている。早く返信しろということかもしれない。

“空いてる。場所は任せる”

先を読んで返事をする。

しかし、更なる返答は無い。こんなやりとりにも慣れてきた。チャイムがなり、各々席に戻り1日が始まる。


放課後になってもメッセージは来ない。帰って良いのか分からずに、とりあえず部室へ向かおうと歩いていると、渡り廊下で康太とすれ違った。

「今日歯医者行くから。」

そう言って歩き出す。

「分かった。」

我が部活は適当を体現したようなもので、来たければ来るし、面倒であれば来ない。それに休むことを一言断る必要もない。入部して1ヶ月は毎日来たし、休む日は連絡もした。しかし、いつのまにか先輩に習って何もしなくなった。昇降口から外に出て、格技場へ向かう。校庭では運動部の声が響き、体育館からはバスケットボールを床につく音や卓球の球を弾く音が聞こえる。

最初こそ、盛んな部活動の中サボっている気持ちになったが、今はそう思わない。頑張っているなぁと思うくらいだ。

格技場の鉄扉のノブを回すが鍵がかかっている。誰もいないのだ。

3年生の先輩達は既に文化祭準備で忙しいらしく、しばらくここへは来ない。2年生の先輩もこの時間にいないのであれば、帰ったか文化祭準備だろう。

この前、部長に剣道部は文化祭で何かしないか尋ねた。大抵、他の部は、部活ごとに何かするらしい。模擬店もあるし、部活の個性を生かした出し物をする。しかし、“この柔剣道場が体育館のステージ発表者の女子更衣室になるから、何もできないよ。”とやけに笑顔で喋っていた。しかもどうやら毎年恒例のことらしい。わざわざ部活動場所以外の場所を借りてまで、俺らは何かをしたいわけではない。

ここで色紙さんと会話しても良いかもしれない。メッセージを送ってみる。

“格技場が空いてる”

音が何もなく、空気がこもっている。隣の弓道場からの音や声が聞こえる以外、何もない。

一人で此処に居るのも暇だとようやっと気付く。メッセージを待つ覚悟が甘かった。一体、どのくらい此処で色紙さんの返信を待てば良いのか。少し待って来なければもう帰るとメッセージを送ってしまおうか。

暇潰しに竹刀を手に取り、素振りをしてみる。色紙さんとの特訓の成果で大分素振りが上手くなった気がする。明らかに腕の筋肉は付いたし、振り下ろした際の中心もブレない。

背後から鉄扉の開く音がして、反射的に振り返る。

「誰もいないの?」

色紙さんがやってきた。意外と早かった。

「今はいないし、多分今日は誰も来ない。」

「分かった。」

肩にかけたスクールバッグを床に置く。ポケットからスマートフォンを取り出し一瞬だけ見る。

「昨日の件、あれは何かを私は知らない。」

色紙さんが把握していないこと、つまりは未来の変更に直接関わる事ではないのだろう。

「あれは現代の人間の、ただの痛い作文って事か?」

余計な心配だったかもしれない。

「現状はそうとしか言えない。ただ、私も気にはなる。」

正しい未来ではない。

やはり、この言葉が引っかかるのだろう。その後の“泥棒のせい”、“報いを受けるべき”に関してはどうも分からない。

「文章からして、文化祭の当日に何かアクションがあるかもしれない。それを待つにはリスクあるから、なんとか準備期間に解決したい。」

今はただ紙切れのメッセージのみで、何も起きてはいないが、過去改変に繋がる何かがあるかもしれない。

「今回のメッセージが一体何なのか、可能性は3つある。

1つ。何でもない、この時代にちゃんとあった出来事。むしろ止めるべきでは無いこと。例えば、生徒の誰かが“泥棒“に怒って復讐ための予告の場合。これは、むしろそのままなるようになってもらう。私の時代から見ればちゃんと起きた事で、妨げる理由はない。

2つ。最未来人がやってきて、このメッセージを残した。そうすると、このメッセージの謎を解く必要があるし、止める必要がある。このメッセージを残されたこと自体、厳密に言えば問題。未来で改変が起きていない事が幸いというべきね。

3つ。予想できない何か。」

3つ目の考え方次第では、3つという前提が崩れるのではないかと突っ込みたかったが、怖いので止める。代わりに質問をする。

「この時代の人間が色紙さん達、PPとCTTの事に気付いて何かした可能性は?」

色紙は唇を指でなぞって悩む。

「普通はあり得ない。この時代の人間が私達に気付いて何かをしようとするなら、最未来に影響があって、既に私達PPが全容を知ることが出来る。ただ。」

そこで言葉を切って、髪を耳にかける。

「最未来の人が感知できないような手段を、わざとかそれとも偶然か用いて、知らない内に改変される場合もあるし、もしかしたら最未来では取るに足らない事で、察知出来ない事象であるかもしれない。」

「それらの判断を、残り2ヶ月、文化祭準備期間でしなきゃいけないのか。」

準備もあるのに、なかなか厳しいスケジュールかもしれない。それにもっと早い解決策がある。まさか色紙さんが気付いていないわけではないだろうが、聞いてみる。

「色紙さんがタイムスリップして掲示板にメッセージを貼った人を見てくればいいじゃないか。」

色紙さんはバツが悪そうに頬を指でなぞる。

「クラスマッチの時に痛感したけど、学校でタイムスリップはリスクが大きい。学校外の不特定多数がいる事が当たり前の空間なら、誰も知らない人がいておかしくないけど、学校も中で誰も知らない人がいるのはまずい。」

前に相楽さんに写真で撮られたように決定的な証拠が残るとまずい。顔を変えて戻る事はまず避けた方が良いし、普通に色紙さんのまま戻っても、その時間に色紙さんが2人いる事になる。メッセージを貼る瞬間が具体的にいつか分からない以上、過去に長居するとその分色紙さんが2人いる事に気付かれてしまうリスクが高まる。

「タイムスリップは最後の手段。極力、この実時間で探そう。」

「リスクは避けた方が良いな。」

色紙さんが薄っすらと笑う。申し訳ないと顔を見ただけで分かった。

「私は資料調査をしてみる。過去にあった出来事なのか最未来で残ってるデータで判断つくか、難しいと思うけど。」

最未来にある膨大なデータから、今回の事件に関連しそうなものをピックアップする作業は、想像しただけで嫌になる。

俺はどうやって調べよう。これについては、ただメッセージを貼った人が気になる一生徒を装えば、たとえタイムスリップが関わっていても問題はないはずだ。立ち振る舞いさえ気を使えば。

「三城君は友達に聞いたりすると良いかもしれない。そういえばあれ変な話だったけど、何か知ってる?って違和感ない範囲で。」

一瞬、俺の真似をしたみたいだが、純粋に腹が立つ喋り方だった。

「気を付ければ問題ないと思うけど、どれほど皆が気に留めているかが分からない。」

「たしにそれは大きな問題。」

他の皆が気に留めていない話をいきなりされたら、こいつどうしたんだと怪しまれる。最悪、犯人だと思われるかもしれない。

「とにかくさり気なくを意識して情報収集お願い。」

色紙さんは格技場の隅にある竹刀の束から一本取り出す。握りしめて、ブンブンと振り回す。

「分かった。」

「それじゃあ、進展あり次第報告会にしよう。そして。」

竹刀を構える。

「ちょっと練習しようか。」

これまで素手の組手、CQCは何度も練習してきたが、武器を持っては初めてだ。

「そういえば、色紙さんあの日武器使ってたみたいだった。」

竹刀ケースを持ってはきていたが、中身までは聞いていなかった。

「あれは、未来の武器。形は日本刀だけど、性能が全然違う。刀身が熱くなる。高熱だから、切った瞬間切り傷が火傷で血が出なくなる。」

切り傷が火傷で塞がり、血が止まる。何かの映画で、身体に埋まった銃弾を取り除く時に、熱したナイフを使っていた事を思い出した。

「過去に存在しないはずの血痕を残さないためか。」

「エサクタ!ただ裂傷による出血がないから、確実に殺せる所にダメージを与える必要がある。」

出血多量や、血が足りず動けなくなると言った効果は期待できないということか。

「ざっと見たけど、この竹刀にささくれはないから大丈夫。そっちはある?」

竹刀を眺めるが、ささくれはない。竹刀を両手で持ち、真っ直ぐ構えて返事に代える。

色紙さんは右手で柄の真ん中あたりを持つ。構えは右手を後ろに下げ、左手を前に出している。剣道はもちろん、武術でもこういう構えは見た事がない。適当なのだろう。

こちらからは仕掛けない。出方を伺う。

色紙さんは駆け寄り、大きく振り抜く。受け手も良いが、その後に蹴りを入れられる恐れがある。後ろに飛び退る。

頭が空いているため、踏み込み叩きに行く。上半身を反らし躱される。

一旦2人とも距離を取る。中心をずらさずに構える。色紙さんの表情がいつもの組手と違う。余裕がない。経験年数は少ないが、多少はあった武術の心得が生きているのかもしれない。

一気に叩くか。

真っ直ぐ突っ込み突きをする。色紙さんは、竹刀で払いのけようとするが、色紙さんの構えでは俺の竹刀が喉元に突き刺さる前に俺の竹刀を叩けない。

あと少しでというところで、上半身を捻り躱される。掠りもしなかったか。

色紙さんは竹刀の柄の上を持ち、左脇腹を真横に狙ってくる。逆胴だ。左手が上で腕を十字に竹刀を左半身に持ってくる。左脚を上げて、竹刀の先端をその腿に当てる。

うるさいほどの打撃音と衝撃が走る。やはり防具無しでは痛い。防がれた後に隙が生まれればと思うが、間合いから直ぐに離脱していた。

直ぐに距離を詰め、竹刀を若干上に上げ攻撃に見せるため右脚で踏み込みをする。

色紙さんは竹刀を頭の上に持ってきて防御の姿勢に持ってくる。フェイトで空いた脇腹を狙う。右の腹を胴要領で狙う。

出来る限り、最速を放つが、さっき自分がしたように防がれてしまう。

そして弾かれ、よろめいた隙に肩を軽く叩かれる。

得意分野でも敵わないどころか。

「防御姿勢を、さっきの中で真似したのか。」

「普段使う刀は、刀身が熱くなるから、ああいった防御は出来ない。刀身も直ぐに冷却されるシステムで1秒もかからず元の温度になるけど、攻防の中でスイッチ切り替えてを戦うのは、それを得意武器にしないと難しい。」

普段やらない理由を長々と説明される。それでも出来たじゃないか。

「だからさっきの防御は、正直予想外で焦った。防御だけじゃなく、全体的に素手より強いね。剣道やってるだけある。」

珍しく褒められるが、やはり色紙さんは恐ろしく強い。そればかりだ。

「三城君は刀を使う戦闘メインが良いかも。未来の刀だけじゃなく、竹刀でも十分戦えるかもしれない。」

そう言った瞬間チャイムがなり、一気に真実味がなくなってしまった。



学校を出る時はまだ明るかったが、今は夕方で橙が大半を占める。

街が学校帰りの学生が多い。大抵が複数人で歩き、1人は少ない。眼鏡でもかけてパトロールしようかと思うが、それよりもメッセージの謎を解いた方が有意義だと考える。

明日から誰に聞いて回るか悩む。いっそ俺が謎を解いてやると大々的に言ってしまえは早いかとも思うが、もし改変であれば変につっこむのは怖いし、何より普通の起るべき過去で俺が無関心であった場合が怖い。本当の過去で俺は無関心なのに、今から興味津々になればおかしいし改変に繋がるかもしれない。

一生懸命、普段の俺なら気になっていたか、気になるならどこまで首を突っ込むか考えるが、意識すればするほど分からない。

「すみません。」

そう声をかけられ、気づかないうちに悩み過ぎて唸っていたかと焦るが、そうではないようだ。

立っているいたのは若い長身の男性、若いとは言え俺よりは年上だろう。

「なんでしょう。」

訝しみつつ悩む。道を聞かれるかと思うが、若い人に道を聞かれるのはあまりない気がする。

「早坂って言います。君の学校の正しい未来を知ってるかなと思って。」




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