また明日
石垣君がひたすら黒板にアンケート結果を書き写す。やはり、カフェなどの所謂模擬店の意見が多い。文化祭と言えば模擬店ではある。たとえ食べ物の提供が許されなくても、やりたいものなのだろう。
次いで劇が多いようだ。具体的に演目まで定めた意見もあれば、ただ単に劇とだけの意見もある。それに派生してか新喜劇という意見もある。
賢いなと思ったのは、クラス全員でアートを作るというものだ。
「基本的に使える場所は自分たちの教室、それか時間制限付きでステージ。教室に文化祭前日までに何かしらのアート作成し展示、そうすれば当日はほとんど拘束はされないです。」
新井さんの説明でこれで良いのではと思う。どのみち当日まで準備で忙しいのだ。それであれば、当日まで準備で当時何もしなくても良い方が楽に決まってる。
それにしても、新井さんは拘束時間をやたらと推す。当日何かやるべきことでもあるのだろうか。
「自主制作映画作成。作成して教室で流す」
新井さんがアンケート結果を読み上げ、石垣君が書き写す。石垣君は字が綺麗な方ではないため、役割を変えた方が良いと思うが、新井さんは楽したいのかもしれない。新井さんの性格が良く分からなくなってきた。学級委員をやり手際の良い進行をするが、楽を求める。もしかしたら、自分の思い通り事を運びたいタイプなのかもしれない。
「カジノ。お金を掛けないで教室内限定通貨を作る。」
意外と面白い意見が出揃ってくる。
映画は面白いかもしれない。脚本を作る人への負担が大きいが、パロディにでもすれば案外難しくないはずだ。
「一通り出揃ったので、この中から決めます。まずは方向性で固めます。メイド喫茶とか細かく内容を書いた方もいますが、まずはカフェ、劇、アート、自主制作映画、カジノ、休憩室、ファッションショー、合唱の中から決めます。細かい内容はその後です。」
「まず休憩室が良い人。」
誰も手を上げない。発案者ですら流石にないと思ったのか。新井さんが黒板の休憩室の文字を消す。
「次にファッションショー。」
これもまた誰も手を上げず、文字が消される。
「次に…、じゃあカフェ。」
予想通りというか、結構な人数が手を上げている。新井さんが数えた結果、32人いるこのクラスで8人手を上げたらしい。決まるかと思ったが、まだ分からない。
「次にアートが良い人。」
5人、まずまずの人数だが、これはダメだ。
「次に劇。」
8人。
「自主制作映画。」
8人。
「カジノ。」
3人。
カフェと劇、自主制作映画で見事に票が割れてしまった。
「カフェ、劇、自主制作映画で再度多数決で決めます。カフェが良い人。」
11人。
「劇。」
10人。
「自主制作映画。」
11人。
「また割れてしまったので、再度多数決取ります。カフェか自主制作映画か決めます。カフェが良い思う人。」
15人。
決まりだ。
「それじゃあ、自主制作映画にします。来週に会議があって、そこでクラスごとの出し物を決めます。ざっくりとしたやることと使いたい場所を申請しますが、教室だけか体育館のステージも使うか決めましょう。」
教室で上映するなら、体育館ではしなくても良い気がするが。
「ステージで完成披露試写会みたいなの面白いかも。」
石垣君がポツリとこぼす。
テレビでよく見るあれか確かに面白いかもしれない。
朝からいつもと違う雰囲気を感じていたが、気のせいだと思うことにしていた。放課後、部室でネタバラシのように、何があったのかを間下に説明される。
「文化祭当日は正しい未来では無い。泥棒のせいだ。報いを受けるべきだ。」
「どこに書かれてたって?」
「昇降口入ってすぐの掲示板に、ルーズリーフが貼られてたってさ。」
「誰が何のために?」
「知らねぇ。」
絶妙に臭い言い回しではあるが、正しい未来という言葉に引っかかる。
「間下は何でそれを知った?」
「うちのクラスの佐藤さんが第一発見者だったから、変な話ではあるけど何か起きたわけじゃ無いし、変な話過ぎて噂話にもしにくいんじゃない?康太は知ってた? 」
「知らない。」
話を振られた康太が答える。俺のクラスでもその話題をしてる奴はいなかったはず。いたかもしれないが、それがメインになる事はなかった。
確かに、そんな紙一枚ではイタズラ程度の認識にしかならない。むしろ痛い奴がいたもんだとなるくらいだ。
「今日はもう帰るわ。」
間下が荷物をまとめて、外に出て行く。
「康太はどうする?」
そう聞くと腕時計を見て唸る。
「早めだけど帰ろうかな。」
「じゃあ俺も帰ろう。」
柔剣道場の鍵を閉めるように、残っていて道永さん佐々木さん駒井さんに告げて外へ出る。スニーカーに履き替えて歩き出す。
「文化祭、康太の所は何をするの?」
「俺らは劇。何の劇かは決まってないけど、ステージ使うやつ。」
「なるほど。」
「もう2ヶ月無いんだな。」
心で思っただけのつもりが声に出た。
「準備間に合わなかったらどうなるんだろう。」
やけに悲観的に心配する。
「じゃあまた明日。」
康太とは校門で別れる。家の方角が全く違うからだ。
別れるのを待っていたわけじゃ無いが、すぐにスマートフォンを取り出して、色紙さんにメッセージを送る。
“掲示板にあったメッセージの件知ってる?”
返答は電話であった。
「今どこにいる?」
もしもしがなく、唐突に通話が始まる。
「帰り道。学校の近く。」
「そっか。」
そう言ってこれまた唐突に通話を切られる。
人目を気にしての事だと思うが、あまりにも酷く無いか。
スマートフォンを眺め、メッセージがあるかと待つが一向に来ない。これはまた明日というやつか。




