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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生秋
32/125

また明日

石垣君がひたすら黒板にアンケート結果を書き写す。やはり、カフェなどの所謂模擬店の意見が多い。文化祭と言えば模擬店ではある。たとえ食べ物の提供が許されなくても、やりたいものなのだろう。

次いで劇が多いようだ。具体的に演目まで定めた意見もあれば、ただ単に劇とだけの意見もある。それに派生してか新喜劇という意見もある。

賢いなと思ったのは、クラス全員でアートを作るというものだ。

「基本的に使える場所は自分たちの教室、それか時間制限付きでステージ。教室に文化祭前日までに何かしらのアート作成し展示、そうすれば当日はほとんど拘束はされないです。」

新井さんの説明でこれで良いのではと思う。どのみち当日まで準備で忙しいのだ。それであれば、当日まで準備で当時何もしなくても良い方が楽に決まってる。

それにしても、新井さんは拘束時間をやたらと推す。当日何かやるべきことでもあるのだろうか。

「自主制作映画作成。作成して教室で流す」

新井さんがアンケート結果を読み上げ、石垣君が書き写す。石垣君は字が綺麗な方ではないため、役割を変えた方が良いと思うが、新井さんは楽したいのかもしれない。新井さんの性格が良く分からなくなってきた。学級委員をやり手際の良い進行をするが、楽を求める。もしかしたら、自分の思い通り事を運びたいタイプなのかもしれない。

「カジノ。お金を掛けないで教室内限定通貨を作る。」

意外と面白い意見が出揃ってくる。

映画は面白いかもしれない。脚本を作る人への負担が大きいが、パロディにでもすれば案外難しくないはずだ。

「一通り出揃ったので、この中から決めます。まずは方向性で固めます。メイド喫茶とか細かく内容を書いた方もいますが、まずはカフェ、劇、アート、自主制作映画、カジノ、休憩室、ファッションショー、合唱の中から決めます。細かい内容はその後です。」

「まず休憩室が良い人。」

誰も手を上げない。発案者ですら流石にないと思ったのか。新井さんが黒板の休憩室の文字を消す。

「次にファッションショー。」

これもまた誰も手を上げず、文字が消される。

「次に…、じゃあカフェ。」

予想通りというか、結構な人数が手を上げている。新井さんが数えた結果、32人いるこのクラスで8人手を上げたらしい。決まるかと思ったが、まだ分からない。

「次にアートが良い人。」

5人、まずまずの人数だが、これはダメだ。

「次に劇。」

8人。

「自主制作映画。」

8人。

「カジノ。」

3人。

カフェと劇、自主制作映画で見事に票が割れてしまった。

「カフェ、劇、自主制作映画で再度多数決で決めます。カフェが良い人。」

11人。

「劇。」

10人。

「自主制作映画。」

11人。

「また割れてしまったので、再度多数決取ります。カフェか自主制作映画か決めます。カフェが良い思う人。」

15人。

決まりだ。

「それじゃあ、自主制作映画にします。来週に会議があって、そこでクラスごとの出し物を決めます。ざっくりとしたやることと使いたい場所を申請しますが、教室だけか体育館のステージも使うか決めましょう。」

教室で上映するなら、体育館ではしなくても良い気がするが。

「ステージで完成披露試写会みたいなの面白いかも。」

石垣君がポツリとこぼす。

テレビでよく見るあれか確かに面白いかもしれない。



朝からいつもと違う雰囲気を感じていたが、気のせいだと思うことにしていた。放課後、部室でネタバラシのように、何があったのかを間下に説明される。

「文化祭当日は正しい未来では無い。泥棒のせいだ。報いを受けるべきだ。」

「どこに書かれてたって?」

「昇降口入ってすぐの掲示板に、ルーズリーフが貼られてたってさ。」

「誰が何のために?」

「知らねぇ。」

絶妙に臭い言い回しではあるが、正しい未来という言葉に引っかかる。

「間下は何でそれを知った?」

「うちのクラスの佐藤さんが第一発見者だったから、変な話ではあるけど何か起きたわけじゃ無いし、変な話過ぎて噂話にもしにくいんじゃない?康太は知ってた? 」

「知らない。」

話を振られた康太が答える。俺のクラスでもその話題をしてる奴はいなかったはず。いたかもしれないが、それがメインになる事はなかった。

確かに、そんな紙一枚ではイタズラ程度の認識にしかならない。むしろ痛い奴がいたもんだとなるくらいだ。

「今日はもう帰るわ。」

間下が荷物をまとめて、外に出て行く。

「康太はどうする?」

そう聞くと腕時計を見て唸る。

「早めだけど帰ろうかな。」

「じゃあ俺も帰ろう。」

柔剣道場の鍵を閉めるように、残っていて道永さん佐々木さん駒井さんに告げて外へ出る。スニーカーに履き替えて歩き出す。

「文化祭、康太の所は何をするの?」

「俺らは劇。何の劇かは決まってないけど、ステージ使うやつ。」

「なるほど。」

「もう2ヶ月無いんだな。」

心で思っただけのつもりが声に出た。

「準備間に合わなかったらどうなるんだろう。」

やけに悲観的に心配する。

「じゃあまた明日。」

康太とは校門で別れる。家の方角が全く違うからだ。

別れるのを待っていたわけじゃ無いが、すぐにスマートフォンを取り出して、色紙さんにメッセージを送る。

“掲示板にあったメッセージの件知ってる?”

返答は電話であった。

「今どこにいる?」

もしもしがなく、唐突に通話が始まる。

「帰り道。学校の近く。」

「そっか。」

そう言ってこれまた唐突に通話を切られる。

人目を気にしての事だと思うが、あまりにも酷く無いか。

スマートフォンを眺め、メッセージがあるかと待つが一向に来ない。これはまた明日というやつか。


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