夏のホラーゲーム大会
夜の街、よくある住宅街。大きなビルや大型商業施設は無いが、コンビニや薬局、カフェ等小さな飲食店はある。そんな街。
辺りに人の姿は見えないが、家々から漏れる光から生活を感じる。
だが、音は一切しない。なんだか不安になる。元々車通りが多くない通りなのだろうが、その姿も見ない。200mも奥には大きな道路があるが、そこを行き交う車も見えない。
そんなに遅い時間なのかとスマートフォンを見るが、21時でそうでもない。
適当に歩いたり、走ったりするが、一向に人の気配を感じない。
「家とか入れないの?」
間下に聞かれて、確かめてみる。
2階に電気の着いた家の玄関を開けようとするが、鍵がかかっているようだ。しかし、インターフォンが押せるらしい。
「押してみるか。」
「怖。」
道永さんが小さく呟くが、気にせず押す。
2階の灯りから、階段が明るくなり、一階も電気が付く。2階にいた人が降りて来たようだ。
玄関の灯りが点き、ドアが開く。
誰もいない。
「入って良いのかな。」
「開くなら入って良いでしょ。」
強気に間下が言う。
「よし、キリが良いし誰か変わろう。」
コントローラを机に置き、問い掛ける。
「まだゲームを始めて1時間経ってないよ。」
「1時間交換、それかキリが良いとこ交換でしょ?」
「まだでしょ。」
康太と佐々木さん、駒井さんに全力で拒否されてしまった。
仕方ないのでまたコントローラを握る。
「適当に家を漁るか。」
夏休みも終わりに近付いた今日、剣道部の一年生でホラーゲーム大会をやっている。
たまたま部活動と称した集いで、1年生全員が集まった。男子はゲームをしようと部室へ集まり、女子は遊ぶ計画を立てに来たと言っていた。その時に、駒井さんが肝試しをしたいと言っていた。せっかく夏だしという理由と、最近見たホラー映像特番に触発されたらしい。
理由はどうあれ、難しい事に変わりはない。
「俺怖いの苦手。」
と間下が言う。
「近場で良い場所ないよね。歩きかチャリじゃ厳しいかも。」
と道永さんが言う。
「近場過ぎると慣れ親しんでて怖さとかないかも。」
と康太が言う。
「あんま歩き過ぎると怖さより疲労だよね。」
と佐々木さんが言う。
「学校も勝手に入ったら警備会社来るだろうし。」
俺がそう言う。
全員から否定されて駒井さんは泣きそうになる。
「そういえば。」
そう言って間下と康太を見る。2人もあっとした顔をする。
「そう言えば、俺たちは夏のホラーゲーム大会する気でいたよ。」
「夏のホラーゲーム大会?」
女子全員が聞き返す。
「そうそう。康太の家に泊りがけでホラーゲームやろうと思って、やるゲームも買った。」
「もし参加するなら、昼からにして夜解散でも良いんじゃないか?」
女子を慮ると、その方が良いだろう。
「それはそれで楽しいかも、つかれないし。」
佐々木さんが言ったつかれないはどっちの意味か、気になったが考え過ぎだろう。
その後の日程調整で、今日ホラーゲーム大会が開催された。結局夜スタートで俺らはそのまま康太の家に泊まり、女子は比較的家の近い佐々木さんの家に泊まる事になった。
今は18時少し過ぎ、まだまだゲームは続く。
屋内は至って普通の家で、電気の付いている部屋と付いていない部屋がある。リビングは付いているが、キッチンは付いていない。
「これどういう設定なの?」
「誰も知らない。」
道永さんの質問に間下が答える。女子一同が何言ってるんだという顔をする。
それに間下が気付かないため、俺が補足する。
「パッケージだけでゲームを買ったんだ。誰も何も知らない方が良いかなと思って。」
一瞬間が空く。
「 それじゃあ、滅茶苦茶怖いか全然怖くないか分かんないの?」
男子3人で顔を合わせる。
「分かんないけど、今のところ怖いでしょ?」
否定も肯定もされない。
画面を見つめる。
今のところ、この人気があるが人がいない世界の謎を解明するか、抜け出す事が最終目的のようだ。
一般的な住宅であるようで、家具の配置や雑貨などがやたらリアルである。
カレンダーに書かれた予定なども、やたら細かい。しかし。
「別に怪しい家ではないよなぁ。」
「そうだね。しばらく人が住んでいない廃屋でもないし、何かを隠してる様子もないし。」
駒井さんはホラーが好きなのか、やたら詳しい。
「宗教的な怖さもないね。」
怪しげな祭壇もない。
「でも、ここは最初に入れたエリアだから、絶対第一ゾンビか何かがいるはずだ。」
康太はゲーム的に考えるが、たしかにその通りだ。
一通り家を探索したが、やはり何もない。オープンワールドゲームで、何もない家に入ったのかもしれない。
「何もないな。」
「探索漏れあるよ。多分2階の奥の部屋行ってない。」
素で気付かなかった。2階へ向かい、その部屋に入る。子供部屋のようで、適当に探索をする。
「イベントだ。」
イベントシーンが始まった。主人公が、机の引き出しから鍵を見つけ手に取り、取るか取らないか無意味な選択肢で取るを選んだ途端だった。
鍵をポケットに入れると、階段から足音がした。主人公がクローゼットの中に入る。
子供部屋のドアが開き、中年男性が入ってくる。ベットに向かい、覗き込んで部屋を出る。また階段を降りる音が響く。
「普通の人っぽいけど、あれが敵かな?」
「そうっぽい。」
「見つかったらゲームオーバーなのかもね。試しに見つかってみれば?」
駒井さんは肝が据わっている。あの鍵が原因で、あのおっさんが出現した。この家の主人で、寝ている子供の様子を見に来た感じだった。
さっきまでいなかったおっさんが出現したのは、鍵を取ったからだ。理由があるのか、ないのか。
「徐々に敵が増えてくパターンかもね。」
今やるべき事はこの鍵の使い道を考える事だ。ぐるりと家を探索したため、鍵のかかっていたら場所も把握している。
「一階のリビングに子供用のおもちゃみたいな箱があったな。あれの鍵だと思う。」
一階に向かうと、さっきのおっさんがリビングでテレビを見ていた。おっさんとテレビの間のテーブルに目的の箱がある。
「あのおっさん、どうにかしないといけないわけだ。」
音で釣るか、動くのを待つか。どうすれば良いか分からず、適当に歩く。
キッチンに向かい、冷蔵庫の前で佐々木さんが言う。
「冷蔵庫開けっぱにすれば、音鳴って誘えるんじゃない?」
「たしかに。」
少し時間が足りない気がするが、やってみる価値はある。
冷蔵庫を開け、移動し、リビングのドアの前に立つ。リビングへのドアは2つあり、キッチンへ繋がる方と、廊下へと繋がる方がある。
冷蔵庫に音がなり、歩く音が聞こえる。リビングへ入るとおっさんはいなくなっている。
目的の箱の鍵を開け、中を漁る。中身は一枚のメモだった。
「そろそろ1時間だし、キリが良いだろ。」
夜も更け、そろそろ解散となる。
ゲームはおそらく中盤で、クリアには至らなかったが、概要は理解できた。
実世界とリンクする別世界が舞台で、その世界で罪を犯すとその被害を受ける人が敵として現れる。
こちらの世界は人が見えず触れられないが、実世界の人間の行動はリンクする。ドアを開けば開くし、電気を点ければ点く。
しかし、罪を犯すと、例えば人の家の物を取ったりすると、持ち主が実体を伴って現れる。そして見つかると殺される。そんなゲームだった。さっき、冒頭で家に入って誰も居なかったのは、入り方が無理矢理ではなく向こうに開けてもらったかららしい。
思いの外、面白くてもう少しやりたかったが、女子を遅くまで残すにはいかない。
ちょうど一周みんなでプレイしたところで切り上げた。夏休み中でなくとも、都合を合わせてまたやりたいと笑いあった。
俺と間下は康太の家にお世話になる。
クーラーの効いた部屋で、布団を敷いてもらい、ゲームの感想や学校の事を話す。修学旅行みたいだな。
「しかし、夏休み明けの学校、大丈夫かな。」
康太の心配は直ぐに分かった。あおいさん関係だろう。マスコミが学校に集まっていないか、学校の雰囲気はどうなるのか、それを言っているのだろう。
「分からないなぁ。」
深い溜息と共に言う、間下と同意見だ。今後どうなるのか分からない。
「仲神さんも、立ち直ればいいけど難しいだろうな。」
不意に、あおいさんのスフレの味を思い出した。暖かいスフレと、冷たくチーズケーキになってしまったスフレ。
「慣れるしかないだろう。俺らに出来ることなんてない。」
突き放すようだが、真実だ。特にもひかるさんに対しては。いつも通りでも、避けても、慮っても、どれに対しても疑念が生まれ嫌に思うだろう。
「夏休みが終われば、文化祭の準備で忙しくなるらしいし。」
そこまで言った康太の次の言葉を、なんとなく理解した。
きっと、忘れてしまう、気にならなくなると言いたかったのだろう。
実際、時間が経つと色々どうでも良くなる。今もそうだ。




