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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生夏
30/125

夏のホラーゲーム大会

夜の街、よくある住宅街。大きなビルや大型商業施設は無いが、コンビニや薬局、カフェ等小さな飲食店はある。そんな街。

辺りに人の姿は見えないが、家々から漏れる光から生活を感じる。

だが、音は一切しない。なんだか不安になる。元々車通りが多くない通りなのだろうが、その姿も見ない。200mも奥には大きな道路があるが、そこを行き交う車も見えない。

そんなに遅い時間なのかとスマートフォンを見るが、21時でそうでもない。

適当に歩いたり、走ったりするが、一向に人の気配を感じない。

「家とか入れないの?」

間下に聞かれて、確かめてみる。

2階に電気の着いた家の玄関を開けようとするが、鍵がかかっているようだ。しかし、インターフォンが押せるらしい。

「押してみるか。」

「怖。」

道永さんが小さく呟くが、気にせず押す。

2階の灯りから、階段が明るくなり、一階も電気が付く。2階にいた人が降りて来たようだ。

玄関の灯りが点き、ドアが開く。

誰もいない。

「入って良いのかな。」

「開くなら入って良いでしょ。」

強気に間下が言う。

「よし、キリが良いし誰か変わろう。」

コントローラを机に置き、問い掛ける。

「まだゲームを始めて1時間経ってないよ。」

「1時間交換、それかキリが良いとこ交換でしょ?」

「まだでしょ。」

康太と佐々木さん、駒井さんに全力で拒否されてしまった。

仕方ないのでまたコントローラを握る。

「適当に家を漁るか。」


夏休みも終わりに近付いた今日、剣道部の一年生でホラーゲーム大会をやっている。

たまたま部活動と称した集いで、1年生全員が集まった。男子はゲームをしようと部室へ集まり、女子は遊ぶ計画を立てに来たと言っていた。その時に、駒井さんが肝試しをしたいと言っていた。せっかく夏だしという理由と、最近見たホラー映像特番に触発されたらしい。

理由はどうあれ、難しい事に変わりはない。

「俺怖いの苦手。」

と間下が言う。

「近場で良い場所ないよね。歩きかチャリじゃ厳しいかも。」

と道永さんが言う。

「近場過ぎると慣れ親しんでて怖さとかないかも。」

と康太が言う。

「あんま歩き過ぎると怖さより疲労だよね。」

と佐々木さんが言う。

「学校も勝手に入ったら警備会社来るだろうし。」

俺がそう言う。

全員から否定されて駒井さんは泣きそうになる。

「そういえば。」

そう言って間下と康太を見る。2人もあっとした顔をする。

「そう言えば、俺たちは夏のホラーゲーム大会する気でいたよ。」

「夏のホラーゲーム大会?」

女子全員が聞き返す。

「そうそう。康太の家に泊りがけでホラーゲームやろうと思って、やるゲームも買った。」

「もし参加するなら、昼からにして夜解散でも良いんじゃないか?」

女子を慮ると、その方が良いだろう。

「それはそれで楽しいかも、つかれないし。」

佐々木さんが言ったつかれないはどっちの意味か、気になったが考え過ぎだろう。


その後の日程調整で、今日ホラーゲーム大会が開催された。結局夜スタートで俺らはそのまま康太の家に泊まり、女子は比較的家の近い佐々木さんの家に泊まる事になった。

今は18時少し過ぎ、まだまだゲームは続く。

屋内は至って普通の家で、電気の付いている部屋と付いていない部屋がある。リビングは付いているが、キッチンは付いていない。

「これどういう設定なの?」

「誰も知らない。」

道永さんの質問に間下が答える。女子一同が何言ってるんだという顔をする。

それに間下が気付かないため、俺が補足する。

「パッケージだけでゲームを買ったんだ。誰も何も知らない方が良いかなと思って。」

一瞬間が空く。

「 それじゃあ、滅茶苦茶怖いか全然怖くないか分かんないの?」

男子3人で顔を合わせる。

「分かんないけど、今のところ怖いでしょ?」

否定も肯定もされない。

画面を見つめる。

今のところ、この人気があるが人がいない世界の謎を解明するか、抜け出す事が最終目的のようだ。

一般的な住宅であるようで、家具の配置や雑貨などがやたらリアルである。

カレンダーに書かれた予定なども、やたら細かい。しかし。

「別に怪しい家ではないよなぁ。」

「そうだね。しばらく人が住んでいない廃屋でもないし、何かを隠してる様子もないし。」

駒井さんはホラーが好きなのか、やたら詳しい。

「宗教的な怖さもないね。」

怪しげな祭壇もない。

「でも、ここは最初に入れたエリアだから、絶対第一ゾンビか何かがいるはずだ。」

康太はゲーム的に考えるが、たしかにその通りだ。

一通り家を探索したが、やはり何もない。オープンワールドゲームで、何もない家に入ったのかもしれない。

「何もないな。」

「探索漏れあるよ。多分2階の奥の部屋行ってない。」

素で気付かなかった。2階へ向かい、その部屋に入る。子供部屋のようで、適当に探索をする。

「イベントだ。」

イベントシーンが始まった。主人公が、机の引き出しから鍵を見つけ手に取り、取るか取らないか無意味な選択肢で取るを選んだ途端だった。

鍵をポケットに入れると、階段から足音がした。主人公がクローゼットの中に入る。

子供部屋のドアが開き、中年男性が入ってくる。ベットに向かい、覗き込んで部屋を出る。また階段を降りる音が響く。

「普通の人っぽいけど、あれが敵かな?」

「そうっぽい。」

「見つかったらゲームオーバーなのかもね。試しに見つかってみれば?」

駒井さんは肝が据わっている。あの鍵が原因で、あのおっさんが出現した。この家の主人で、寝ている子供の様子を見に来た感じだった。

さっきまでいなかったおっさんが出現したのは、鍵を取ったからだ。理由があるのか、ないのか。

「徐々に敵が増えてくパターンかもね。」

今やるべき事はこの鍵の使い道を考える事だ。ぐるりと家を探索したため、鍵のかかっていたら場所も把握している。

「一階のリビングに子供用のおもちゃみたいな箱があったな。あれの鍵だと思う。」

一階に向かうと、さっきのおっさんがリビングでテレビを見ていた。おっさんとテレビの間のテーブルに目的の箱がある。

「あのおっさん、どうにかしないといけないわけだ。」

音で釣るか、動くのを待つか。どうすれば良いか分からず、適当に歩く。

キッチンに向かい、冷蔵庫の前で佐々木さんが言う。

「冷蔵庫開けっぱにすれば、音鳴って誘えるんじゃない?」

「たしかに。」

少し時間が足りない気がするが、やってみる価値はある。

冷蔵庫を開け、移動し、リビングのドアの前に立つ。リビングへのドアは2つあり、キッチンへ繋がる方と、廊下へと繋がる方がある。

冷蔵庫に音がなり、歩く音が聞こえる。リビングへ入るとおっさんはいなくなっている。

目的の箱の鍵を開け、中を漁る。中身は一枚のメモだった。

「そろそろ1時間だし、キリが良いだろ。」



夜も更け、そろそろ解散となる。

ゲームはおそらく中盤で、クリアには至らなかったが、概要は理解できた。

実世界とリンクする別世界が舞台で、その世界で罪を犯すとその被害を受ける人が敵として現れる。

こちらの世界は人が見えず触れられないが、実世界の人間の行動はリンクする。ドアを開けば開くし、電気を点ければ点く。

しかし、罪を犯すと、例えば人の家の物を取ったりすると、持ち主が実体を伴って現れる。そして見つかると殺される。そんなゲームだった。さっき、冒頭で家に入って誰も居なかったのは、入り方が無理矢理ではなく向こうに開けてもらったかららしい。

思いの外、面白くてもう少しやりたかったが、女子を遅くまで残すにはいかない。

ちょうど一周みんなでプレイしたところで切り上げた。夏休み中でなくとも、都合を合わせてまたやりたいと笑いあった。

俺と間下は康太の家にお世話になる。

クーラーの効いた部屋で、布団を敷いてもらい、ゲームの感想や学校の事を話す。修学旅行みたいだな。

「しかし、夏休み明けの学校、大丈夫かな。」

康太の心配は直ぐに分かった。あおいさん関係だろう。マスコミが学校に集まっていないか、学校の雰囲気はどうなるのか、それを言っているのだろう。

「分からないなぁ。」

深い溜息と共に言う、間下と同意見だ。今後どうなるのか分からない。

「仲神さんも、立ち直ればいいけど難しいだろうな。」

不意に、あおいさんのスフレの味を思い出した。暖かいスフレと、冷たくチーズケーキになってしまったスフレ。

「慣れるしかないだろう。俺らに出来ることなんてない。」

突き放すようだが、真実だ。特にもひかるさんに対しては。いつも通りでも、避けても、慮っても、どれに対しても疑念が生まれ嫌に思うだろう。

「夏休みが終われば、文化祭の準備で忙しくなるらしいし。」

そこまで言った康太の次の言葉を、なんとなく理解した。

きっと、忘れてしまう、気にならなくなると言いたかったのだろう。

実際、時間が経つと色々どうでも良くなる。今もそうだ。

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