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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生夏
28/125

あの時の言葉と行動

色紙さんは左手にペットボトルのライフガードを持って、右手にお茶の入ったコップを持って来てソファーに腰掛ける。

「どうぞ。」

そう言ってコップを俺の目の前に置く。一口啜り、やはり美味しいなと思う。

「考えはまとまった?」

「それにはまず情報交換だ。」

俺にはやはり知識が足りない。それを補い、結論を出したい。このまま色紙さんと協力して、過去の改変を止めるのか。それとも、変えられる過去を変えるのか。何も知らないまま、ずっと生活するのか。

2つ目は現実的ではない。過去の改変を知るためには、色紙さんの協力が必要だ。PPの色紙さんがCTTみたいな真似をしたいという俺を許すはずがない。CTTに協力するという手もあるが、どの道PPの色紙さんより弱ければ話にならない。CTTに加わったとしても、色紙さんと俺はある程度の接触が続いたため、色紙さんに見破られ直ぐに対策を打たれる。

「情報交換といっても、三城君は何か情報をくれるの?」

そう言われると何もない。

「交換は嘘かもしれない。ただ、契約に対して情報不足だった。」

「私的に結構脅したくらいだったけど。」

脅された気もするが、情報量はなかった気がする。

「まあ、答えられる範囲で答えるよ。でも、やっぱり三城君の覚悟不足だったと思うよ。」

「色紙さんの目的は、この時代で起きるべきことを起こさせて、起きなかった事は起こさせないこと。」

口に出して、自分でも考えをまとめる。

「その通り。」

「前回の事件ではあおいさんが死ぬ、そういう事件だった。それは知ってた?」

「知ってた。」

顔色を変えずに言う。

「あおいさんが事件では死ぬ事はこの時代に来た時から知っていた。ただ、CTTが改変しようとするとは思わなかった。」

嘘は言ってないだろう。CTTが改変する過去を選ぶのは、予告が届き分かると言う。

「そもそも、予告を出さなければ安全に改変できるんじゃないのか。」

「真面目に考えて。」

怒られてしまった。

「過去を改変されたことに、最未来の人間は普通であれば気付く術がない。私達であれば、過去のデータとの比較で気付くことも出来るし、現場のPPが気付く事もできる。」

「最未来の人間に過去を改変すると認識させる必要がある?」

「そう。CTTだって成員が欲しい。一種の広報活動ね。」

「宗教みたいだな。」

思わず口に出すが、それが正しい例え何か分からない。色紙さんも、宗教という言葉が引っかかったようで黙る。

結局、否定も肯定もせず話し出す。

「三城君に必要以上に未来を教える訳にはいかなかった。分かるでしょ?」

それは分かる。過去の人間である俺に、未来を教えることで余計な事をしないようにしたかったはずだ。俺が未来を変えるつもりがなくても、知っているだけで何か禍根となる可能性がある。うっかり口が滑るということも、否定できない。そういう不安の種をできる限り残したくないのだろう。

「そんな私でも、一回だけ口が滑って事がある。あまりに三城君が…。」

そこで言葉を切った。きっとあまり良くない事を言おうとしたのだろう。思い留まってくれたのは嬉しいが、言ってしまったようなものだ。少し腹が立つ。

「あんまり仲良くしないでほしいってやつか。」

「そう。」

「素直に聞いてれば良かったな。」

そんな事、出来たはずもないのに後悔は残る。あおいさんの事も、色紙さんと他のPPを倒す事など出来なかったのに、他に手があったのではとずっと考えている。

「聞きたいのはそれだけ?」

他にもまだあったはずなのに、一向に浮かばない。1つだけ思い出す。

「あおいさんに会えるっていう話。」

「知りたい?」

そう聞かれて、どっちだろうと考える。もし、死ぬ前のあおいさんに会って何を伝える?告白でもするのか?いや、その気はない。尊敬していると伝えて、それでどうなる?

そういえば、ひかるさんがあおいさんにありがとうと言いたいと言っていた。

それを伝えるのも良いかもしれない。

「知りたい。」

「そう。私が未来からタイムマシンでこの時代に来た。それによって未来オーラを纏う事になる。」

そこで言葉を切り、俺を見る。分かっているよねという確認なのだろう。

首肯する。

「それは300年という時を遡ったから。短い時間であれば未来オーラは少ししか纏わない。」

「纏う事にはなるのか。」

「身体までは纏わない。数日であれば肌を出さずに普通の服でも着てれば、生身まではオーラは届かない。服には纏うけど、それは処分すれば良い。」

「数日前のあおいさんに会う事は出来るのか。」

「そうです。」

「会わせてほしい。」

会って話をして、今後の行動を考えよう。よくある、結論の先延ばしだ。何か分かるはずでもないのに、何かが変わると期待をしている。

「じゃあ、ちょっと待ってて。」

そう言って、部屋を出る。

出されたお茶を飲みながら、時間を潰す。相変わらず殺風景な部屋だ。物が増えた様子はないし、汚くなったとも思えない。掃除が行き届いているが、それがマイナスなっているような気がする。

「おまたせ。」

色紙さんは両腕に衣服を抱えてやってきた。

「雨でも降ってたか?」

「急いで洗濯物を取り込んだわけじゃないの。」

心底うざそうな顔で言われる。

「まあ、戯言言うくらい元気になったなら良いけど。」

正直、冗談ではなく真面目に聞いたのだが…。

「これは着るために持ってきたの。」

「さっきの話か。」

「そう。こんだけ着込めは生身には影響ない。」

薄い下着のようなTシャツにパーカー、大分緩さのあるワイドパンツだ。それにタオルが数枚。

「今から行くよ。」

「そんな、コンビニ行くくらいの感覚で行けるものなのか。」

「準備は良い?」

「良い。」

「それじゃあ着替えて。」

色紙さんは部屋を出る。

用意された服は、男の俺が着ていても違和感ないが、色紙さんが持って来たという事は色紙さんの服で女性用ということだろう。なんだか悪い気がするが、着替える事にする。

普段着ない服は何とも着心地が良くない。ワイドパンツは若干の丈が短いが、そういうおしゃれにも見える。だが、パーカーは明らかに袖丈が短い。

「着替えた。」

少し大きな声でそう言う。

直ぐに色紙さんが入ってくる。そして無言でタオルを手に取り俺の手に巻き付ける。肌を露出させない為だろう。

「それで、どの日に戻る?」

「タイムスリップした時間にも、私達は居る。2人になるから、人に確実に2人同時に見られないであおいさんに会えるタイミングを狙う。」

事件の日かと思うが、それではPPの目があまりに多い。

「私的には、皆で仲神さんに家にお邪魔した日が良いと思う。」

「その時の俺らが帰った後に、忘れ物かなんだか理由を付けて引き返した設定か。」

「それでどう?」

まともに思考できないため、色紙さんに委ねる。色紙さんの方が慣れているだろうし、その方が良いはず。

「構わない。」

そう言うと直ぐに顔をタオルで巻かれる。驚くが、これも肌を隠すためなのだろう。

「息がしにくいだろうけど、我慢して。1分で着くから。」

全く前が見えないが、色紙さんに手を引かれる。1分で着くという事は、色紙さんの家の中にタイムスリップポイントがあるということだろう。

ドアを何回か開く音は聞こえる。なんだかヤクザ映画で見たような気がする。

「着いたよ。」


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