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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生夏
27/125

呆然と2日

夏休み中に、登校日でもない日に突然学校へ登校させられる。皆、その理由は分かっていて、ずっとその話をしている。ひそひそ話す人もいれば、大きな声でずっと誰かと話したかったという人もいる。

身体は痛いが、思ったほどではない。首を回すと痛いし、全身がだるいが日常に問題はない。ちらりと色紙さんを見ると、クラスメイト数人と何やら話をしている。笑顔はない。

色紙さんが、色紙さん達が、俺がしたことを誰も知らない。色紙さんは、自分があおいさんの死を知っていて止めなかった。

それをずっと考えていた。俺に何か出来たんじゃないかとか、色紙さんと契約する時にこういう自体も想定できたのではないかとか、ぐるぐる考えていた。

過ぎてしまったことを考えても仕方ないのは十二分に分かった。それでも考えられずにいられない。

やらない後悔よりやる後悔。そんな言葉があるが、後悔自体がクソだ。余計な事をした絶望感がひたすらある。

担任が入ってきて、教室がしんと静まり返る。すぐに体育館に移動しろとのことだ。各クラス、各学年がぞろぞろと体育館に向かうが、どこも静かだ。

体育館の整列も、いつもより速やかに済んだように思える。夏休みに突然召集されたとは思えないほど、皆従順だ。

「皆さんご存知だと思いますが。」

その一言から、皆知っている、繰り返しニュースで騒がれている話が校長からされる。

同じ学校の仲神 あおいさんが刺殺された事。

その犯人が、名前こそ伏せられるが同じ学校の生徒であること。

その刺殺事件が、今繰り返しテレビで放送されている。

あおいさんの学校での立場や、人気。小林さんの学校での立場などが赤裸々に語られていた。あおいさんは学校では有名で、知らない人はいないだとか、ファンクラブがあるだとか、知らないこともあったが大体事実だった。小林さんに関しては、本当のことは知らないが暗い人であるだとか、あまり良いイメージではないような報道だった。同じ学校の生徒だという人や、知り合いだという人が何人もインタビューに応えていた。報道に出ないだけで、答えた人も多いはずだ。

校長が言うのは、まともであるが、今後を解決するような事は何もなかった。

皆悲しいだとか、このような自体が起きてしまい学校の体制を見直すとか。

最後に、極力テレビ等の取材には受けるなと注意された。

既に遅いとも思うが、言わなければならないのだろう。



学校の外にはカメラを抱えた人やリポーターが大勢いる。事件は2日前で、まだまだ盛り上がる時事ネタなのだろう。他の事件をテレビのニュースで見る時は何とも思わなかったが、今になって人の気も知らないでと思うようになった。

もう帰って良いとは言われたが、何となく校門の報道陣の壁を越える気が湧かず、ぼんやりと校舎を歩いていた。

部室に先輩や間下か康太が居るかと見に行ったが鍵はかかったままで誰も来ていないようだった。

渡り廊下で校門の方を見ると、生徒が声をかけられているのが見える。やっぱり、まだまだ安全に帰れそうにない。

階段を上って、教室に向かう。色紙さんに対して一言言ってやりたい。

この状況を見て、体験し何を思うのか。

本当に色紙さん達のやっている事は正しいのか。

あおいさんが死んでしまって悲しくないのか。

いくつか聞きたいことがあるが、答えは大体分かる。ただ、色紙さんに八つ当たりをしたいだけなのかもしれない。

会うのは気まずい。

だから校舎をぐるぐるしていたのかもしれない。むしろ会わない方が良いと、踵を返し昇降口へ向かう。いい加減帰ろうと決心すると、昇降口でローファーを履く色紙さんに会う。

目が合い避けられない。

口を開いては見たものの、何も出てこない。

「まだ、悩んでるみたいね。」

ため息を吐き、それを肯定ということにする。

「三城君は、この前のことで考えが変わって私の仕事を手伝いたくなかったと思うかもしれないけど、私としてその時は助けられた。ありがとう。」

お礼を言われても、あまり嬉しくない。

「今日、この後暇なら私の家に来て。報酬をあげる。これっきりだとしても、今回のお礼はしないと私の気が済まない。」

報酬など、すっかり忘れていた。出来るのなら、あおいさんを殺させたくないが、そんな報酬は無理だろう。

「結果は変えられないけど、会いには行けるから。」

「それは色紙さんだけだろう。」

「三城君も行ける。詳しく聞きたいならおいで。」

俺が過去に行ったら、未来オーラが出て、PPに目を付けられるだろう。そのくらい色紙さんも知っているだろう。なら、何か別の手段があるのか、それともそのくらいの覚悟で過去に行けというのか。

「最後に。」

そう言って指を一本立てる。

「出来るだけ、本当に最悪を想定していれば悲しまずに済む。」

そう言って踵を返す。

今の言葉を冷静に考えたい。静謐な図書室で座って考えようかと歩き出す。

がらりと職員室の戸が開く。

中から仲神 ひかるさんが出てきた。一礼し、戸を閉め、こちらに気付いた。

「三城君。」

明らかに疲労している。俺なんかよりもずっと、大変なのだろう。お姉さんが亡くなったんだ。身内が亡くなるショックも相当、それに取材と称して色々な人に付きまとわれているのだろう。

いつかひかるさんと会うとは思っていたのに、気の利いた一言を用意していなかった。

ひかるさんの目を見ることが出来ない。

「ちょっと良い?」

そう言われて首肯する。並んで歩く。方向的に教室へ向かっているのだろう。

さっき上った階段を降りて、渡り廊下を歩く。無駄に天気が良く、普段であれば散歩でもと呑気な事を思うかもしれない。

教室には既に誰もおらず、ひかるさんと2人になる。

窓を開け、風を入れる。カーテンが鬱陶しいほど靡く。

「本当に暑いね。」

すっかり忘れていたが、確かに暑い。湿度の高い、嫌な暑さだ。

「ここ最近ずっとだな。」

思い返して、しばらく雨がなかったと気付く。

「お姉ちゃんが何か悪いことしたかな?」

その問いにはすぐに違うと答えられる。だけど、そう言うことができない。

してないよと言われても、それだけで満足出来るはずがない。ひかるさんが欲しているのは、現状を打破できるような前向きな一言か、現状を辛く感じない一言なのだろう。

受け売り極まりなく、その言葉の意味を良く咀嚼できいないうちに飲み込み吐き出す。

「最悪を想定していれば、悲しまないで済んだだろうな。」

薄っすらと笑う。

「そうだね。でもやっぱり、そんな覚悟普通に生きてたら出来ないよ。」

声が震えている。

「お姉ちゃんは普通に生きていて、むしろいい人なくらい、お人好しって言葉がぴったりで。将来の夢だってあって、それを叶えるために一生懸命で。」

もうほとんど泣いている。今日一日ずっと我慢していたのだろう。

「過去が変えられたらって、やっぱり思っちゃうよ。」

その言葉が本当に突き刺さる。

「もし、今からでもあおいさんに会えるなら、夢を持って生きているのが本当に凄い、尊敬していると本心を伝えたい。」

そう言って、ひかるさんの返事を待つ。

「私は、月並みだけど一度も言えなかった、お姉ちゃんにありがとうって言いたいかな。」

遠くを見つめてそう言う。涙が頬を伝っている。

不意にチャイムが鳴る。夏休み中でも鳴っているのだろうか。そのチャイムが丁度切りが良く、ひかるさんは窓を閉めて歩き出す。

「ごめんね。お姉ちゃんの夢を知っている人と話がしたかった。本音で話せる気がした。」

無理矢理に笑っている。

「気分転換にでも付き合うよ。」

そう言って下心があった気がして恥ずかしくなる。

「ありがとう。」

手を振り、バイバイと言う。

椅子に腰を下ろし、呆ける。




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