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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年生夏
26/125

子供みたいな全能感

未来オーラを放っているためPPかCTTであり、私を助けてくれたということはPPであるはずだ。

同期のPPには友達や顔見知りはいても、先輩までは分からない。目の前にいる男の名前は分からないし、見たことはない。

「ありがとうございます。」

まずは助けてくれたお礼を言う。しかし、あからさまに警戒が出てしまう。私のCTTに対する対応の不手際を咎められたり、もしかしたら三城君との互恵関係もばれてしまったかもしれない。

それらの不安を誤魔化すように、刀を竹刀ケースに仕舞い、銃を腿のホルスターに収める。

「どういたしまして。」

そう言って耳のデバイスで本部に連絡する。

「1人完殺。A4地点、回収班頼む。」

銃をジャケットの内側に仕舞い、こちらを見る。

「はじめまして、ルーキーの色紙さん。」

名前を呼ばれ、一瞬何故と思うが当たり前だ。本作戦実施にあたり、参加するPPで会議をした。その際に、この時代この地区担当として、私も挨拶したのだ。名前は知られて当たり前だ。

「初任年から、担当地区が過去改変の対象になるとは不幸だったね。」

そう言われると確かに不幸なのかもしれない。

「いえ、出来る限り頑張ります。」

模範のような返答だったが、それ以外思い付かなかったから仕方ない。

「流石単独の色紙さんだ。今の二重尾行のCTTも、気付いていたようだったし。」

「いえ、直前で気配を感じて…。ずっと気付いてわけじゃないです。どこから見てました?」

「コンビニの表で煙草吸ってる奴を見かけて、周囲を見て色紙さんと別のCTTを見つけて、色紙さんを殺しに掛かってると気付いた。」

ならば三城君との関係はバレていないはずだ。

「タイミングを見て後ろのCTTを殺してしまおうと思ったけど、色紙さんの行動の方が早かった。余計な事だと思ったけど、こっちに気付いてないようだから頭に撃ち込んだ。」

そう言って笑う。

正直、この人の手助けなければ私は確実に脚を壊していた。脚を壊しても、それから殺せたとも限らない。

一度この人が頭に撃ち込み、私がもう一度撃ち込んだからこのCTTは死んだようだ。

「いえ、私も油断と慢心と焦燥で2人同時では殺せなかったです。助かりました。」

「嘘でも嬉しいね。僕は早坂。時代は同じだけど、都市が違う。パートナーは本作戦中、担当都市の仕事を継続してもらってる。」

この人は早坂さんというらしい。あとで名簿を見れば担当地区が分かるし、更に調べればパートナーも分かるはずだ。

車が一台、この狭い路地に入ってくる。中から小柄な女性が現れ、こちらを一瞥する。

「お疲れ様です。引き続き、作戦の続行お願いします。」

あんまり心がこもっていないように聞こえる。回収班を初めて見たが、淡々と仕事をこなしているように見える。歳は私と近く、むしろ幼いのではとさえ思える。

早坂さんが大通りと車の間に身体を入れる。死体を車につぎ込むところを見られない様にしているらしい。それに習い、私も反対側に身体を置き、他者からの視界を遮る。

回収班の女性がCTTの死体を担ぎ、車に押し込む。車の窓から内側は見えない。回収班は小さく頭を下げ、不釣り合いに大きな車に乗りエンジンをかける。

車はゆっくりと走り出し、通りを左折していった。

「僕はもう少しCTTを探すよ。もうすぐ時間だ。気を付けてね。」

「私も時間まで警戒続けます。本当にありがとうございました。」

早坂さんはにこやかに手を振って大きな通りに歩いていく。

三城君にお礼くらい言わなければと思い、そういえば通話中だったとスマートフォンを取り出そうとする。

しかし、ポケットにない。辺りを見ると、少し離れた所に画面の割れたスマートフォンが落ちていた。場所的に、CTT相手に跳んだ時に落としたようで電源は付かない。

「参ったなぁ。」

これでは三城君に連絡できず、足で探すしかない。面倒だ。


大きな通りに面したコンビニ、CTTが煙草を吸っていたという所に行く。中を見るが、三城君はいない。

アーケードの通りを見るが、人が多く探すのが面倒になる。

向こうから声をかけて欲しいと思うけど、三城君が私の話を理解していたらそれは出来ないだろう。私と会話すべきでないタイミングで接触することが禍根になることは十分分かっているはずだ。

結局私が探す必要がある。

信号を渡り、見渡す。カレーの匂いがして一気に空腹を感じる。横にはCoCo壱番屋があり、早く作戦を終わらせカレーでも食べたいと思う。

視線を前に戻すと、ベンチに腰掛けた三城君がいた。近付き声をかける。

「付いてきて。」

そう言って人気のない所を探す。

最初に三城君と会話をした飲み屋通りでも良いが、他にもっと良い所があれば良いが、生憎思い付かない。

飲み屋通りに入り、更に奥へ向かう。更に小さな路地があり、そこに折れて振り返る。

「無事2人倒しました。ありがとう。」

早坂さんの話をしようかどうか悩むが、余計な事だと思い避ける。

「流石色紙さんだ。」

賞賛してくれる。

「通話が途中で切れたから結構不安だったんだ。」

「スマホは壊れた。」

スマートフォンで時刻を確認しようとポケットに手を入れるが、言ったばかりのスマートフォンが壊れた事実を忘れていた。

腕時計を見る。14時だ。いつの間にこんな時間が経っていたんだ。ドトールのCTTの動きを待っていたせいか。

「もうすぐ事件発生時間だ。ラストスパートだよ。」

三城君に言ったようで、自分に言ったのかもしれない。

「申し訳ないけど、あおいさんには死んでもらおう。」

ハッとした顔で三城君が見る。そうだ、三城君には今回の殺傷事件の被害者が仲神 あおいさんだとは言ってなかった。

「どういう事?」

思考が追い付いていないようだ。あと14分もない。その間に出来るだけCTTを殺さなければならないため、手短に説明する。


「仲神 あおいさんが通りで刺されて死ぬ。さっき三城君が会った時はひかるちゃんと一緒だったみたいだけど、刺された時は別行動中だったみたい。犯人は小林 丈。ストーカーみたいな奴って聞いてたけど、この前のクラスマッチで大体の関係は分かった。事前調査では勝手にあおいさんを好いて行動的な人なのかと思ってたけど、南君と合ちゃんと三城君に恥かかされたのもあるのかもね。」

淡々と説明する色紙さんが怖い。

あおいさんが小林先輩に刺されて死ぬ?しかも、クラスマッチの件が起因の可能性もある?それなら、悪いのは俺じゃないか。

あおいさんが死んでしまうまで、後10分ほど。あおいさんを見つけて逃げるよう気をつけるよう言うのが早いか、小林先輩を見つけて殴り飛ばすのが早いか。いっそ2人が接触する瞬間に小林先輩を殴るのが確実か。

此処にはいられない。

急いでどうにかしないと。

「どこ行くの。」

強い口調の色紙さんに腕を掴まれ、止められる。

「あおいさんが死ぬのを食い止める。」

「なんで?」

純粋に疑問をぶつけられる。

「なんでって…。あおいさんに死んでほしくないから。」

「ふーん。好きなの?」

このタイミングで茶化され、かなり頭にくる。

「そういうことじゃない。身近な人には死んでほしくない。」

「私がさっき殺したCTTや、出会った時に殺したCTTは死んでも良いの?」

「そうは言ってない。」

言っていないけれど、言ったようなものだ。ただ、色紙さんに対してムキになってる。

「とにかく、なんとしても食い止める。」

「今から三城君がしようとしている事はCTTと同じ。最初に説明したでしょ?私がすることは未来を変えないこと。そのためには死ぬ人には死んでもらうのはすぐ想像できたでしょ?」

それは出来たが、まさかこんな身近な人だとは思わなかった。それに、あおいさんは夢がある。俺みたいに夢もなく怠惰な人間よりもずっと生きていくべきだ。

「やっぱり。間接的とはいえ人を殺すことはできない。こんな事、俺は出来ない。」

「私と君との契約はこういうことでしょ?今までやってきた事も同じ。今更怖気付いた?覚悟を決めて。」

発破をかけられるが、気持ちは揺るがない。

「なんとしても食い止める。」

「CTTと同じことをするなら、PPに止められるよ。」

「PPはこの時代の人間に無関心だ。この時代の人間が過去を改変するとは思っていない。」

色紙さんが大きな溜息を吐く。

「もし一回は成功しても、PPは何度も過去へやってきて三城君を止める。何人ものPPを相手に勝てる?」

「やってみなきゃ分からない。」

「そう。じゃあ、私は三城君をCTTと同じ思想を持つ排除すべき対象と見て相手をする。」

そう言って竹刀ケースを振り上げる。

後ろに飛び退る。竹刀ケースが空を切る。完璧に俺を潰そうとしている。

色紙さん相手に真っ向勝負で勝てた試しはない。策を練ろ。

足元に落ちているアスファルト片を蹴り飛ばす。

本気で相手をしろ。色紙さんに勝っても、色紙さんと同等かそれ以上の相手が居る。ここで負けている場合じゃない。

色紙さんがアスファルト片を避けた隙に、間合いを詰めて一気にみぞおちを殴れば、ダメージは絶対にある。そこまで辿り着けば…。竹刀ケースを武器にしているなら、間合いを詰めれれば勝機はある。


ぼんやりとした意識で、負けた事に気付く。色紙さんの一撃は早く全く対応出来なかったが、的確に顎に入れられた事だけは認識出来た。地べたにうつ伏せになり、立ち上がる事が出来ないのか億劫なのか分からない。

遠くで悲鳴が聞こえて、やがてサイレンが聞こえた。この展開が据えられた、変えられない未来。色紙さんにとっては既に過ぎた過去。

隣に色紙さんが立っていて、こちらを見ずに言う。

「子供みたいな全能感はやめて。」


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