奴を見つけろ!
飲み屋通りを抜け、ドトールの前に行こうとし立ち止まる。
どのポジションを取ろうか。ドトールの店内が
見える必要はない。店内から見えるという事はつまり、相手にも私が見えるということだ。それはいけない。
1番良いのは相手が店を出た瞬間を見える場所で、尚且つ相手に見られない場所。それが今の最善の選択肢だろう。その場所は、ドトールの上か。
二重尾行を知らない私がドトールにいる奴だけに焦点を当てた行動はそれだ。
良い選択肢を選べている。三城君に本音を話して冷静さを取り戻したのかもしれない。
アーケードの下に出てそうかと気付く。ドトールの上には行けない。ドトールの真上に行くにはアーケードの真上に行くしかなく、そこからでは何も見えない。
それなら第2案を考えろ。
相手に見られない場所。店を出て正面左右と見て見えない場所はないか。
待てよ。
違う。
これは違う選択だ。
振り返り、三城君を見る。
焦る私を見て驚いた顔をしている
三城君の考えは途中までは正解だった。ただ1つ見落としていた。
私がどうしてドトールにCTTがいると分かったのか。
三城君からの報告で分かったが、それは露呈しては行けない。つまり私はここまで真っ直ぐ探索を行っていて、途中で友達の三城君と会う。
その後の行動、今が重要だ。
ここで私がドトールの中を意識したら、明らかに情報を得ているとバレる。二重尾行をしている奴は、囮の奴を遠くから見ているはず。それなら囮を見つけたPPの存在にも気付くはずだ。私にCTTを見つけたと報告がない以上、誰もこの囮のCTTを見つけてはいないはずだ。
それなのに私がドトールを意識する立ち回りをすると、二重尾行の奴は何故私が囮がドトールにいると気付いたかを疑い、PP以外との交信は三城君のみとなる。
それじゃあだめだ。
私がするべき事は、ドトールを意識せずに適当に探索する事だ。
それなら二択だ。
ドトールの前を通るか、反対に行くか。
アーケードの下で左右どちらへ行くか立ち尽くすが、怪しまれない程度にしか悩めない。
すぐに選択しなければ。CTTを見つける選択しか、何事もなく左へ抜ける選択肢か。
気がつくと右を向き歩き、ドトールの店内を覗いていた。
オーラが奥の若い男から見える。
少し駆け足で、直ぐに視界からその男を消す。
右耳のデバイスをかちりと起動して、小声で言う。
「1人確認、A2地点。」
「1人で対処。」
本部から指示が出る。CTTの1人くらい1人で対処しろということか。しかし、逆に応援を呼ばれなくて良かったかもしれない。
今後の行動を考える。ドトールの奴を拘束する必要がある。最悪、拘束じゃなく殺害でも良い。
武器はある。肩にかけた竹刀ケースの中身と、スカートの中、腿に付けた拳銃の2つだ。
人前で大きな行動は取れない。相手を誘導する事も出来なくはないが、現実的ではない。相手が都合が良い場所へ行くのを待つしかない。
それに、当初の計画と違い私はドトールの前に姿を晒した。三城君も想定外のはずで、何が正しい行動か判断出来ないだろう。
それなら私1人で対処するしかない。
全力で頭を回せ。
二重尾行も考え、尚且つ考えないように。
向かいにあるコンビニ向かう。中に入り、ドトールの奴から私が見えないよう、棚で姿を遮る。状況を三城君に説明したいが、コンビニ内で声を出す事は出来ない。
落ち合って口頭で説明したら、もし二重尾行がいたらいよいよ怪しまれる。
三城君の判断力次第だが、1人で2人を対処する覚悟を決めなければならない。
奴らの思考を読む。
まず、奴が1人だった場合。
店から出て、PPに気をつけ歩く。必ず人目のある所を歩く。私たちがこの時代の人の前で大きな行動ができないと知っているから。
そいつの不意を狙い、頭に銃を打ち込む。その後、拘束班に回収してもらう。
私達が持っている銃にはいくつか機能がある。前にCTTを殺した時のように、一気に脳味噌を焼き潰す事も可能だし、出力を抑え半分殺す事も出来る。半分脳味噌を殺されると、ただ適当に歩くだけになる。思考を停止し、PPから避けるとか過去を改変するとか忘れ、ただその時していた行動を続ける。歩いていたなら歩き続け、座っていたなら座り続ける。
その半殺しの状態を本部に報告し、拘束班を向かわせ回収してもらう。それが最善。
次に二重尾行がいた場合。
途中までやる事は変わらない。囮の隙を伺う。その隙が罠になる。私が狙う囮は、二重尾行をしている奴と何らかの手段で連絡を取り合っている。わざと隙を作り、私がそこを狙うその瞬間が二重尾行の奴にとっては私を殺すチャンスだ。
その私を殺す瞬間に二重尾行にターゲットを変え一気に距離を詰め殺す。その後に囮を殺す。
二重尾行がいた場合は、かなり無理がある。まず私が一切隙がない前提だ。囮に気を取られていれば、私を殺すチャンスなどいくらでもある。最大のチャンスが私が囮を殺す瞬間というだけだ。更に、二重尾行の奴の場所を把握できる術がない。私が場所を把握する所作がまず、二重尾行前提で怪しまれる。
私の死を他のPPの糧にするしかないのかもしれない。
私に限らず、PPが作戦中に死ねば未来からその死を防ぐためPPが来てくれる可能性もある。だが、それはあまりない。PPを殺せるほどの実力者がいるところや、状況に行くことが自殺行為だ。勝てる見込みがある時か死なれちゃ困る時に限られる。
そう考えると私が生き続ける可能性はあまりない。新人だし、助けるメリットはない。
私はまだ死にたくない。
「色紙さん。何も言えない状況だろうけど、俺なりに考えた。」
三城君の声がイヤホンから聞こえる。正直、今三城君に構ってる暇はないが、状況を伝えて協力を得れるなら嬉しい。
「もし俺の言ってることが正しければ咳払いを、間違っていれば服を払ったりしてわざと咳払い以外の音を出してほしい。もし俺の言っている意味が分からなければどっちでも無く黙ってほしい。」
意外と考えてくれている。
「イエスは咳払い、ノーはそれ以外の音。黙っていれば分からない、保留、それか返事が出来ない切羽詰まった状況だと言うこと。」
1つ咳払いをしてみせる。
「ありがとう。反応があると嬉しいな。」
顔は見えないがにやけているようだ。
「まず、俺の予想外の行動を色紙さんがとった。それは言わなくても分かると思う。その理由を考えたが、いくつか思い付いたけど説明出来ない。ただ確認するとすれば、俺の役割は続行で良いのかということ。」
三城君の二重尾行を監視して、私に報告する役割。あれば嬉しい。咳払いをする。
「わかった。周囲を探す。」
これからどうしようか。コンビニを出て通りを歩いても良い。
ドトールの奴が通りに出たら、そいつを尾行するのが良いはずだ。
三城君がどの辺りを見回ってくれているか分からないが、少なくともドトール前の通りを見渡せる所に居るとは分かっているはずだ。未来オーラのない三城君ならそいつを怪しまずに探せるはずだ。
もし奴が通りに出る前に三城君が見つけてくれたら嬉しい。
「あれ?三城君。」
右耳から聞こえる。確かこの声は。
まさか色紙さんがドトールの前に姿を晒すとは思わなかった。
興味本位で相手の姿を確認した可能性もあるが、高くはない。
通りに出た瞬間、二重尾行の姿を捉えた可能性や、二重尾行がないと確信したのかもしれない。
色紙さんの行動の真意が、俺の考えの範疇であれ、全く違ったとしても長々と話をして確かめる事は出来ない。
俺が出来ることは、今は二重尾行の存在を確かめ伝えることだ。
そいつがいるとしたら、この通りが見えるところだ。周囲を見渡すが、人波の中には居ない。どこか建物の中か。
「あれ?三城君。」
後ろを振り返ると、仲神姉妹が立って居た。
「どうしたの?キョロキョロして。」
そう言われると、確かに不思議な光景だったかもしれない。
「いやぁ。暇潰しに街へ繰り出して面白そうな店を探してるけど、意外と興味を惹かれないなぁと。」
適当にでまかせを言う。少し不自然だったかもしれない。質問をされないように、こちらから質問をする。
「2人はお出かけ?」
「そう。お姉ちゃんの付き添い。」
きっとまた、あおいさんはスイーツを食べに行くのだろう。それにひかるさんが付き合うという、贅沢だ。
「三城君も一緒にどう?」
あおいさんに誘われ、断る理由なくふたつ返事でと思うが、直ぐにダメだと気付く。
「姉妹の間に入る勇気はないです。」
本当は行きたいが仕方ない。それに、この会話は色紙さんにも聞かれている。あまりニヤついたりできない。
「今日は美味しい桃のコンポート。」
あおいさんは本当に楽しそうだ。コンポートが何かよく知らないが、一緒に行けないのが本当に悔しい。
「それじゃあ、良い夏休みを。」
ひかるさんがそう言って、2人は南へ歩いていく。2人の背中を眺めて、視界の隅のオーラに気付く。
そこに居たか。
商業ビルの2階から覗くように奴がいた。




