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ハルイチバン  作者: 柳瀬
序章
2/125

日常


駅前のロータリー周辺を、大勢の人が歩く。学生服の集団や、忙しそうなスーツ姿の男性。コツコツと音を立てて、歩きにくそうなハイヒールを履いた女性とすれ違う。

腰を曲げたおばあさん、バスを待つ列に駅に吸い込まれる人々。

後ろに背負ったスポーツバックから、教科書やノートをかき分けメガネケースを取り出す。中の黒縁のメガネをつまみ、かける。辺りをぐるりと見渡すと、期待していなかったが1人見つける。およそ200m先の歩道を歩くスーツ姿の男。

「テンプレートだな。」

そう呟いてスマートフォンを取り出す。電話をタップし、連絡先をすらすらと見る。掛ける相手は色紙四季。

そいつはコール2回目で出た。

「いた?」

俺から電話が来た時点で、状況をある程度理解していたようだ。

「眼鏡で見たら、駅前にいた。」

「そう、A駅ね。今から行くから15分付けて。バレないでね。」

「分かった。」

「スマートフォン、音出すようにしといてね。」

そう言うと直ぐに通話が切れた。

眼鏡通して遠くを見る。男が向こうの十字路を西へ抜けた。見失うと後で怖いなと、少し駆け足で後を追う。

夕暮れの中、建物が影を落とす。コンビニの灯りが妙に明るく感じる。行き交う人は何やら話をしていて、それが聞こえる度申し訳ない気持ちになる。

制服のポケットに手を入れ、早足で駅から遠ざかる。見た事ない制服姿が多くなってきて、何処かの学校が今授業が終わったのかと思う。

何か気持ち悪い感覚が足元にあり、下を見る。煙草の吸殻が落ちていて、それを踏んだようだ。

別に副流煙が嫌いだとか、嫌煙ではないが、こういうマナーの悪さを見るとどうしても嫌だなぁと思う。

それもおそらく全ての愛煙家が悪いわけではないと気付いている。

ゆとり世代が常識がないというレッテルも、一部の常識がない人間のせいで貼られている。ゆとり世代ではない世代にも、ゆとり世代と同じくらい常識がない人いると思う。

ただ、レッテルや先入観のような、潜在的イメージはなかなか払拭できない。ステレオタイプとも言えるかもしれない。

筆を入れていないのに筆箱とか、下駄を入れてないのに下駄箱とか、今では意味のないような言葉も生きている。なんとなくそれと似てると思う。

未来では、今生まれた言葉がまだ生きている可能性もある。

男との距離は大体100m。何処に向かおうとしているのか、検討がつかない。

辺りをキョロキョロするでもなく、だた真っ直ぐ何処かへ向かっているように見える。

もしかしたら、少しまずいかもな。

スマートフォンを取り出し時刻を見るとまだ5分しか経っていない。色紙さん、早く来てくれ。

男は人の流れに乗り、大体周りと一緒のペースで歩いている。

よく見ると周りはチラチラと広告看板を見たり、スマートフォンを見たりと忙しないのに対し、男だけ何も見ずに歩いている。これは逆に怪しい。考え過ぎかもしれないが、さっきの不安は取り消しかもしれない。

そろそろ準備した方が良いなと、歩きながら伸びをする。腰を捻ったり、腿をあげたり、手首足首を捻ったりと。立ち止まってアキレス腱を伸ばす。指の関節をバキバキと鳴らすと同時にスマートフォンが鳴った。

「上から見えてる。100m先の男ね。」

予定より早く色紙さんが来たようだ。

「眼鏡で見てる?」

「そう。ねえ、どっちに見える。数ヶ月の成果を見せて。」

突然、先生に指名されたような気分だ。しかも日付と出席番号に因果関係がない時の。

「最初はやばいと思ったけど、多分旅行者。」

「へー。ちゃんと見てるね。」

自信はなかったが、どうやら色紙さんも同じ見立てらしい。

「そのまま後をバレても良いから付けて。」

「それからどうする?」

「上から挟む。」

また通話は向こうから切られた。

作戦はイマイチ伝わらなかったが、強引に行っても良いという判断だろう。

小走りで男の後を追う。

男はさすがに怪しいと思ったのか、人通りの少ない路地へと入った。店内の狭そうな路地は臭いがきつく、壁に触るのも避けたい。

人は他にも数人いるが、どれも普通の人には見えない。眼鏡で見る分には普通だが。

男はチラチラと俺に事を見てくる。バレてしまっただろうが、そこから先を色紙さんから聞いてない。

男は一気に走り出した。更に奥まった路地へと入る。後を追い、その路地へと走り込む。

男は数メートル先を走っている。この先何処かに通じているのか分からないが、追い詰められるなら、そう思った途端上から色紙さんが少し先に降って来た。

べしんと音を立てて着地する。このビルの上から降りて来たようだ。

男は走っていた勢いを殺しきれず、色紙さんとあわや突撃しそうになるが、色紙さんは足をかけ転ばせた。

アスファルトに派手に転んだ男は更に逃げようと試みるも、色紙さんから腹に追撃の蹴りをもらってしまった。普通は総合格闘技でしか見られないような蹴りだ。

男は噎せながら、何とか呼吸をしている。

色紙さんは銃を取り出し突き付け言い放つ。

「今死ぬか、未来で死ぬのを待つか選んで。」

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