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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年春
19/125

開封

手に持っているのは見たことがあるチョーカー。一瞬いつだったかと思い出そうとするが、直ぐに気付く。昼間のチョーカーだ。首に巻くと顔を変えられる。

「またトータル・リコールか。」

しかし、それをどう使うのか見当がつかない。パーカー女生徒の顔になり、もう一度その姿で現れて相楽さんと初めましてをする。その場では、相楽さんが知らなかった稀有な一年生で済むかもしれないが、今後の学校生活で直ぐに嘘がバレてしまう。意味がない。

それ以外だと、どう使う。相楽さんが知っている誰かになって、話をしてもいつかはバレる。例えば仲神さんになって、その人知ってる◯◯さんだよと言っても、数日後かそれ以上後に仲神さん本人が私そんな事言ったことないよと言われて終わりだ。

パーカー女生徒になって、興味本位で他校に来てしまいましたすみませんと言う。今日は平日だから生徒とは言えないから、18歳以上。見た目で若く見える18歳以上はいるため、その点は大丈夫だろうが、身分証明を求められたら厄介だ。それとも色紙さんは身分証明書の偽造もできるのだろうか。

「どうすんの?」

考えた末、よく分からなくなったため素直に聞く。

「ちゃんと考えた?」

「考えたけど分からんから聞いてる。」

「三城君なら分かりそうだからもう少し頑張って。」

応援されても分からないものは分からない。それでも考えてみる。

その人の顔になっても困らない人間、やはりそこが重要だろう。第一にパーカー女生徒。第二に相楽さんも知らない人で学校外、つまり存在しない人間。第三が…、色紙さんに協力できる人間、いるとすれば色紙さんの同僚のような人間、それと俺か。

第一のパーカー女生徒になったとして、さっき検討した通り言える事はない。学校外の人間ですごめんなさいと言って、許されるか突き出されるかの二択で賭けだ。出来なくはないが、リスクが大きい。

第二の全く関係がない架空の人物。それこそ、言える事はない。突然知らない人が来て何かを言うとしても、まず誰となってしまう。納得出来る人物が思いつかない。

第三の同僚か俺。俺になるとしても、俺に指示して俺が行動すれば済む。つまり。

「色紙さんの同僚になるが答えだ。」

「ブッブー。阿保。期待した私がバカでした。」

随分な煽りだ。そして残念ながら答えではないようだ。確かに色紙さんの同僚は、相楽さんにとっては第二の架空の人物と大差ない。お手上げだと顔で表現する。

「何不細工になってんの?」

未だに色紙さんに通じる冗談がよく分からない。

「分からないなら教えるよ。」

そう言ってチョーカーを付ける。かちりと音がして顔が変わる。

変わったはずだが、よく分からない。色紙さんの顔はそのままだが、そのままではない。何となく違う気がする。

首を傾げる。色紙さんがニヤリと笑う。それが何だか挑戦されているような気がする。

微妙に違う色紙さんを何となく、どこかで見たような。いや、色紙さんはいつも見ているし。

「あっ!」

思ったよりも大きい声が出て恥ずかしい。それを誤魔化すように答えを言う。

「写真に写った時の色紙さんに似てる。」

「ふうん。」

この反応は、先を促しているように感じる。それならと話し出す。

「そのトータル・リコールをよく知らないけど、元の色紙さんの顔と過去に戻って写真に写った時の色紙さんの顔を足して2で割ったとか。」

「まあいいや。」

どうやら100%の答えではなかったようだ。

「過去に顔を変えて戻って写真撮られた時の私を過去色紙さんと呼ぶことにするよ。」

人差し指を立てて言う。

「色紙さんと過去色紙さんをちょうど良い比率にしてる。色紙さんには見えるし、過去色紙さんにも見える。つまり…。」

そこで言葉を区切られる。

「つまり?」

すると着信音が鳴る。俺のスマートフォンの画面が南統次の名前を映す。

スライドし出る。

「もしもし。」

「今、小林先輩を見つけた。教室棟にいてさっき相楽さんにも連絡したから来てくれると助かる。」

「今から行く。」

電話を切り、ポケットに入れる。

「今から小林先輩を恫喝しに行くけど来る?」

「一回教室寄って良い?」

「いいよ。」


小林先輩は呆気なく自白した。

4人の後輩に囲まれて、手に持っていたタオルの真実を言い当てられ、直ぐさまそれをこちらに渡した。

そのまま走り去ろうとするのを、相楽さんが強引に腕を掴み引き止める。

「別にこれは要らないんだけど。」

そう言って、あおおさんのタオルを包んでいた小林先輩のタオルを突き返す。

それを手に取り、項垂れて歩く。

「あおいさんに返しに行くか?」

「でも知らん奴のタオルに巻かれたタオルなんかいらねぇだろ。」

「そうだけど、一回返すべきだと思うな。」

「私もそう思う。」

そういう色紙さんを統次と相楽さんが見る。何だこいつはという目をしている。

「あれ?四季ちゃんどうしたの?」

「三城君から事情を聞いてね。」

嘘をついてはいない。色紙さんは途中教室に寄ってパーカーを着た。それに気付いたようで、相楽さんがはっとする。

「あれ?もしかしてあの写真の人四季ちゃん?」

「それ見せて?」

ポケットからデジカメを取り出し、写真を見せる。

「やっぱり私だ。」

少し顔の違う色紙さんが言う。色紙さんにも見えて、過去色紙さんにも見える事は分かったがここからどうするのか。

「それなんか写り悪いから消してくれない?」

なんと、見事に現代の女子高生が言いそうな事を言ってのけた。

「分かった。ごめんね。」

「ごめん、ありがとう。」

たった数秒で解決し、尚且つ証拠も消した。

「話は戻るけど、あおいさんにタオルの報告しに行こうか。」

相楽さんが切り替えて言う。

「どこにいるんだ?」

そう統次が言うと同時に、相楽さんがスマートフォンをタップし耳に当てる。

「もしもし、相楽 合です。はい、見つかりました。」

簡潔に内容を伝える。統次はやれやれという顔をして、廊下の窓から外を見る。

ふと色紙さんに目線をやると、目が合う。ウインクをして、どうだという顔をしている。

目を細めて、冷たい反応をする。

「今から部室戻るよ。」

そう言って相楽さんは小走りで廊下を走る。どうやらあおいさんとは新聞部室で落ち合うらしい。部員が先に着いた方が良いのだろう。

「私どうしたら良いかなぁ。」

相楽さんと統次が廊下の角を曲がり、見えなくなった時に色紙さんが小声で呟く。

「色紙さん自身の問題は解決したし、好きにすれば良いんじゃない?」

色紙さんは眉を寄せ、顎に指を当て悩む。

「じゃあ、噂のあおいさんを眺めてみようかな。」

そうだ。これから噂のあおいさんに会えるんだ。

「なににやけてんの?」

怪訝な顔で色紙さんが言う。

知らないうちににやけてしまっていたらしい。気を引き締めなければならない。本人の前でダラけた顔をしてはいけない。

カチリと音がして色紙さんを見る。顔が元の色紙さんに戻っている。

「いきなり戻して良いの?」

「普通は徐々に戻すけど、今回は写真のデータは消えたからね。比較がないから大丈夫。」

「記憶と比べるんじゃないの?」

「人間の記憶なんて頼りないよ。一回私だと分かったら、もうそうしか認識されないから。」

証拠がないなら大丈夫らしい。

「ならまず行こうか。」


部室に着き、戸を開ける。開けてからノックすれば良かったと思う。

「え〜。どうしようかな。」

相楽さんではない女子の声がする。

声の主が振り返る、一瞬仲神さんかと思ったが違う。いや、仲神あおいさんなのだから、仲神さんなのは間違いない。

姉妹だと言われなくても、姉妹だと気付けるほど似ている。

妹はアイドル寄りで、姉はモデル寄りだ。綺麗な顔立ちで、隣に立つのも恥ずかしくなるほどだ。

「あれ?新入部員?」

「そうだと嬉しいですけど、今回の盗難の手助けしてもらいました。」

「俺は何も。色紙さんに手伝ってもらいました。」

そう言ってから気付く。色紙さんは今回の盗難には絡んだ事にはできない。実際は過去に戻って犯人小林を教えてくれた。探偵ではあるが、それを露呈させると、タイムスリップの事も晒される。

統次と相楽さんが訝しげな目で見る。

「私は何もしていないです。1人だけ何もしてないからって気を使わなくて良いよ。」

そう言ってから俺を見る。口実としては完璧だ。ホッとしてアイコンタクトを図るが、その目は笑っていない。

「皆私のタオルのためにありがとうね。」

「戻ってきたけど、あんま使いたくないですよね。」

統次はストレートに物を言う。

「そうなんだよねぇ。」

椅子から立ち上がり、タオルを摘む。

「私小林君って人知らないけど。」

そこで一旦言葉を区切る。

相楽さんは指で小さなバツを作る。

「じゃあいいや。南君?だっけ。あと合ちゃんと…。」

視線がこちらに向けられる。

「三城元春と。」

色紙さんを見る。

「色紙四季です。」

「ハル君と四季ちゃん、欲しかったらあげる。」

そう言われて、各々顔を見合わせる。

「いつかお礼はする。」

色紙さんは小さな声で精神的にと付け足す。

「じゃあ、明日の写真は…。」

「その流れはずるいよ。」

そう言って、あおいさんははにかむ。

校内放送が流れ、全生徒体育館に一度集まるようにと告げられる。

「じゃあ、また明日ね。」

そう言って部室から出て行く。

自然とタオルに注目が集まる。

「小林さんにあげようか?」

統次がそう、おどけて言う。

何ともなしに皆が笑い、事の終わりを寂しく思う。

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