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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年春
17/125

フレームイン

体育館の北側にはネットが張られ、バドミントンが行われていた。一番西側のコートを俺と同じポロシャツを着た人達が囲んでいる。近付きコートの中を見ると、小清水さんと見知らぬ人が試合をしていた。2年生が3年生だろう。

スコアを見るがまだ始まったばかりで、良い勝負をしている。

長い髪を結わき、ポニーテールにしている。初めて見る髪型だが、これも良い。妙にダサいポロシャツもなんだかありに思えてくる。緩く考えればペアルックでもあるのかと気付き、少し高揚する。

2人とも決して上手くはない。休日の公園レベルで白熱はしない。だた、試合の内容だけが面白いとは限らない。

運動など似合わない白い肌が綺麗。

心なしか男子が多い。同じクラスの生徒以外の生徒も多く、上級生もいる。

声援が響く体育館は正直うるさいくらいだ。それを気にしないほど、みんな熱中している。

その熱量に染まり切れず、なんとなく居心地が悪い。コート周りの人達から一歩下がり、小清水さんを見ることにする。


小清水さんにお疲れ様と声をかけたいが、女子たちに囲まれていて、なかなかタイミングが掴めない。女子に囲まれているタイミングで声をかけても、下心があると思われそうでなんとも難しい。

そう思いちらちらとタイミングを窺っていると、小清水さんと目が合ってしまう。小さく手を振る仕草を見て、俺も手を挙げて応える。2人だけの秘密の何かがあるような気がして、少しニヤつく。

これで、今日やるべき事は残り1つだ。色紙さんに過去に行ってもらい、仲神さんのお姉さんのタオルを盗んだ犯人を見つけてもらう。

まず色紙さんを探し出さなければならない。スマホで連絡しても良いが、なんとなく憚られる。

足で探そう。午前は確か校庭か体育館のギャラリーに居ると言っていた。上を見上げギャラリーを確認する。人が多くて色紙さんがいるか判断できない。実際に上に登って確認したいが、通路が狭くて人を探すのには向かない。

かと言って校庭へ出るのも億劫だ。靴を履き替えて外に出る所作が面倒だ。

「都合よくその辺にいないかなぁ。」

言葉が漏れる。スマホを取り出して、連絡をするかどうか悩む。こういうイベント時は連絡に気付かない人が多い。俺もそうだ。スマホを見る時間が圧倒的に減るし、そもそも教室に置いているかもしれない。

クラスメイトに聞いて回れば良いかとも思うが…。そうか。今ならクラスメイトは大抵此処にいるはずだ。小清水さんの応援に来ているに違いない。人が多くて気付かなかった。

ざっと辺りを見る。午前中に色紙さんと一緒にいた菅原さんはいるが、本人は見えない。別行動に移ったようだ。菅原さんに色紙さんの行方を聞きたいが、「何故?」が付きまとう。それはいけない。

結局自力で探すしかない。今此処にいないとなると、試合を見てから何処かに行ったか、そもそも試合を見にきていないか。後者はあまり考えられない。色紙さんと知り合って1ヶ月ばかりだが、人の応援をしない程薄情ではないと知っている。それに、人に嫌われるような行動は避けるだろう。

とりあえず教室へ行こう。そこに居なければその時考えよう。

走るほどではない。ゆったりと歩きながら、上級生の集団の和気藹々とした空気にあてられる。数年後に俺も無意識に下級生を萎縮させるのか、疑義がある。

教室棟の階段を横切り、水道の前を通る。だらだらと水の音が聞こえ、蛇口が締め切っていない事に気付く。締め直し、ありったけきつくする。次に使うどこかの誰かへ小さな暴力だ。

教室棟に人気はない。お昼時間も過ぎ、皆競技と応援に出ているのだろう。

教室の戸を開ける。机の上に各々荷物をぶちまけている。校則では禁止されているかどうだったか興味がなく忘れたが、化粧品も堂々と出されている。これだけ堂々としているのを見ると、禁止はされていないのかもしれない。

そもそも女子の何人かは張り切って化粧をしている。今更だろう。

誰もいない教室で自席には着かず、窓を開けて化粧品と制汗剤、そして何か食べ物の匂いで満ちた部屋を換気する。

背後から戸の開く音が聞こえ、反射的に振り返る。色紙さんが溜息と一緒に入ってくる。

「こんなイベント本当意味ない。」

色紙さんも無駄の多いイベントに嫌気がさしてるようだ。

「特に一年生の間はな。」

「私が本気出したら三年生だってぶっ殺せるよ。」

唐突に物騒な話になってしまった。話を逸らすと同時に本題を切り出す。

「色紙さん、そろそろ報酬がほしい。」

ぐるりと辺りを見渡し、後ろ手で戸を閉め、指で窓を閉めとジェスチャーする。

言う通りに窓を閉める。

無言でこちらを見つめる仕草を先を促していると判断し、話し出す。

「今日の昼、仲神さんのお姉さんのタオルが盗まれた。」

知っているかどうかの確認で黙って見る。暫しの沈黙。

「で?」

こちらの意図には気付いたのか分からない。

「その犯人を見てきてほしい。」

髪を耳にかけ、人差し指の関節をぱきりと鳴らす。

「なかなか面倒な頼みだね。仲神あおいさんに気があるの?それともひかるちゃんの方?」

否定は出来ないが、肯定も出来ない。相楽さんの頼みではあるが、別に借りがあるわけではないし作らせたいわけでもない。

漠然とやってもらおうと思っていたが、その理由を考えてみる。そうすると結局一番近い気持ちはこれかもしれない。

「色紙さんの実力というか、本当に過去に行けるのか知りたい。」

あからさまに呆れた顔をされる。

「この前は信じたとか言ってたけど、まだ信じてなかったの?」

「そういうわけじゃないが、証左がない。」

腕を組み、唸る。鞄に手を伸ばし中を漁る。チョーカーのような物を取り出し首につける。

カチリと音がなると色紙さんの顔が変わった。比喩的な表現ではなく、本当に別人の顔になった。

「トータル・リコールだ。」

「あれを再現したからその通り。」

もう一度カチリとなると顔が戻った。

「これで印象に残らない顔になって見てくる。」

「有難い。お昼の時間に体育館のステージに置いてたタオルが盗まれたらしい。」

「どんな物?」

そう言われて返事ができない。割と高いと聞いたが、見た目は聞いてなかった。

「ダメじゃん。」

スマホを取り出し、相楽さんの連絡先を開く。緊張しながらコールするとすぐに出た。

「犯人分かった!?」

開口一番、そうじゃないというのが申し訳ない。

「ごめん違う。どんなタオルか聞くの忘れてた。」

「そっかごめんね。クリーム色でYSLってロゴのやつ。何かあってもなくても夕方会議ね。」

通話を切り、特徴を伝える。

「誰?あおいさん?ひかるちゃん?」

「いや、相楽さん。」

「相楽さん?」

予想していなかった名前が出たようでキョトンとしている。しかし色紙さんが校内の生徒を大抵把握しているようだ。

「まあいいや。今までの訓練分の対価ね。すぐ戻るから此処にいて。」

バックから黒の薄手のパーカーを取り出し羽織る。戸を色紙さんが開け出ると同時に人が入ってくる。

顔を見ても誰か分からないが、ポロシャツはこのクラスのものだ。まだ知らないクラスメイトがいたようだ。酷く気まずい。

何を話そうか悩むと同時にカチリと音がする。

顔が色紙さんになる。

「ただいま。」

どういうことか考えてみる。過去へ行くために色紙さんはタイムスリップポイントへ行った。そして今日の昼へタイムスリップ、犯人特定後またタイムスリップポイントへ戻る。そして今の時間この教室へ入るようにする。

教室を出てからの間とお昼の時間は色紙さん二人になるが、三人ではないから大丈夫。そう言うことか。

「やっぱり犯人は二年生の小林 丈って人。あおいさんのファンだね。よくよく観察すると禍根を残してる。タオルを常に持ってるの。」

「それじゃバレバレでしょ。」

「自分のタオルであおいさんのタオルを包んで持っている。どっかに置いているより安心なのかもね。」

よく見ればそれが不自然極まり無いだろう。

「ありがとう。」

お礼を言うと色紙さんは肩を回して言う。

「簡単じゃ無いから感謝されて当然。」

訓練の対価にしては高かったかもしれない。



特別棟4階の第3準備室の戸をノックするが、あまり良い音がしない。学校の戸はノックするために作られてはないように思える。

「どうぞ。」

相楽さんの声が聞こえ、中に入る。既に統次がいて手の指を合わせ退屈そうだ。

「遅れた。」

窓から夕日が見えて眩しいがカーテン閉めていない。

「どうだった?」

「俺は2年生の小林 丈って人だと思う。」

「どうして?」

相楽さんが身を乗り出して聞く。

「奴が持ってるタオルだ。何故かずっと持ってるし、不自然に大きい。自分のタオルで仲神姉のタオルを包んでるんだと思う。」

今まで何とも思わなかったが、統次は洞察力と観察眼に優れているのかもしれない。

「統次に賛成。俺はその説の補強で小林さんが熱狂的にあおいさんが好きと聞いたことがある。」

そんな情報知らないが、犯人はやつで間違いない。

「理屈はその通りだけど、私はもう1人容疑者を見つけた。これ見て。」

困惑と真剣の間の顔で、デジカメの画面を見せる。そこには体育館での競技中を写していて違和感はない。相楽さんはその中の1人を指差して言う。

「このパーカーの子、誰か分かる?」

凝視して気付く。まずい、これは色紙さんの変装した姿だ。

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