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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年春
16/125

つまらないミステリー

「残念だったね。」

興味がなさそうに統次は言う。気の毒だとは思うが、知り合いでもない人が困っているからといって心配できるほど心出来ていない。

「本人には悪いけど、美人には変人が付き纏うものだよ。」

統次と俺の明らかに興味のない態度に、むすっとした顔で相楽さんは答える。

「もう少し親身になってよ。」

そうは言われてもと思い、統次を見ると目があった。仕方ないという調子で統次は尋ねる。

「まあ詳しく教えてよ。」

「詳しくも何もさっき言った通りだよ。」

後ろでに戸を閉め、歩み寄って机に手を付き話し出す。

「昼休みに体育館にタオルを置きっ放しにしてたんだって。まあ皆そうしてたし。そうしたらあおいさんのだけ盗まれてたんだって。」

「盗まれたのは確かなのか?勘違いとか、落し物だと思われたとか。」

「それはない。」

手を統次の目の前に突き出し、ぴしゃりと言う。

「友達のタオルと一緒に置いてたんだって。そしたら友達のは無事だったのに、あおいさんのだけ無くなってたって。」

数人で一箇所にまとめて置いていたのに、1つだけ無くなったのか。何とも悲しい。それに盗まれなかった人も複雑な心境だろう。

「しかも、盗まれたタオル、なかなか良い値段するらしい。」

「なんで高いもの持ってきて無防備に晒すんだよ。」

「南君は女子心が分かってない。モテない。」

結構な侮辱だが、あまり気にしていない様子だ。やはり相楽さんは普段から思ったことを言うタイプなのだろう。

「三城君は分かるよね?」

この流れでそう聞かれて本音を言うわけにはいかない。

「分かる。」

「おい。」

眉を寄せ、相楽さんはため息を吐く。

「犯人を探そうなんて思うなよ。」

統次は強い口調で言う。そして俺もそう思う。

「ダメ。」

更に強い言い方だ。

「これでご機嫌斜めになって、写真撮らせてくれなくてなったら最悪。」

何とも自己中心的だ。それくらい写真を撮りたいのだろう。

「犯人の目星でもあるのか?」

統次の言葉に付け足す。

「生徒だけを対象にしても500人くらいいるし、教職員を足すと更に増える。それに外部の人間でも不可能じゃない。」

「だから特定は難しい。」

「外部の人間は不可能じゃない?いつもなら可能でも、今日なら。」

少し呆れたように相楽さんは言う。すると統次が答える。

「たしかにそうだ。今日はクラスマッチで各クラスが別々のポロシャツやユニフォームを着ている。」

そこまで聞いてああそうかと思う。外部の人間はほぼ不可能だ。統次は続ける。

「普段なら歳の近い人間が制服やジャージでも着てれば違和感は少ない。特にまだ6月で、1年生に知らない顔があっても生徒は気付かない。教師は気付くどうか微妙なところだが、会わなければ良い。」

「そう。今日は服装でクラスが区別されている。どれかの服を着ても、あのクラスにあんなやつ居たかとなる。教職員になりすますにはリスクが高過ぎる。」

二人に否定されて、全くその通りだと思う。外部の人間は、今日に限っては無理だ。扮装せずに強引に来る手も無くはないが、それなら誰かが気付き直ぐに捕まる。

「考え直した。犯人がいるなら学校の人間でほぼ間違いない。」

2人は首肯する。

時計を見ると午後になって1時間以上経っていた。

「どう?南君に三城君。犯人探ししない?」

暫しの沈黙。どうせ暇なクラスマッチだが、出来もしない事はしたくない。

「まあ、無理にとは言わない。ただ何か分かったら教えてほしい。」

期待をされずに、考えを働かせるくらいならまあいいか。

「三城君、連絡先教えて。」

少しどきりとしながらスマートフォンを出す。ついでに俺のも教えると統次もスマートフォンを出して俺と連絡先を交換する。相楽さんと統次が交換しないあたりを見ると、既に交換していたらしい。やっぱり、ちゃっかりしている。

「何かあったら連絡する。何か無くても夕方一回集合しよう。場所は私の部室で。」

「部室知らない。」

「この棟の4階第3準備室。」

一体なんの準備室なのだろうか。

「まずい、競技始まる!よろしくね!」

慌ただしく戸を開け出て行く。

「やれやれ。」

やれやれと言う人を初めて見たかもしれない。

「変な事になったな。」

「いつもこんな感じだ。」

「借りが多そうだな」

薄く笑い、背もたれに体重をかけスマートフォンを見つめる。

「ほとんど返されてない。」

そんな気はしていた。

「これからどうする?」

「キリが良いところまで本を読む。」

真面目に探偵をする気はないのかもしれない。

「俺は一回バドミントン見に行ってくる。」

「俺も直ぐに出歩くけど、鍵は開けておく。盗まれるものはないし。暇になったら来て大丈夫。何かあれば連絡。」

「分かった。」

戸を開け、正面の窓から見える体育の熱狂を耳にする。まだ小清水さんの試合が始まってなければ良いが。

スマートフォンを取り出し、色紙さんへ連絡しようと思うがやめた。会って話せば良い。

借りで思い出したが、訓練の報酬がない。色紙さんに過去へ行ってもらい、タオルを盗んだ犯人を見つけてもらおう。


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