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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年春
13/125

前途多難

朝から筋肉痛でしんどい。昨日の夜、多少身体の中が気持ち悪かったが、今朝には治っていた。

格技場に行くのに、昨日着たジャージを洗濯してしまい何を着て行くか迷ったが、学校指定のジャージを着ることにする。

学校指定のジャージは学校外で着るには死ぬほどダサいが、校内では何故か普通になる。私服で校内に入る勇気はないし、制服を汚さない自信もない。これが最善だ。

昨日は昇降口集合だったが、今日は直接格技場集合だ。鉄扉のノブを捻ると既に開いていた。

中には色紙さんがいて、何やら道具をいっぱい並べている。銃のような物が見える。休日の昼間に物騒だ。

「おはよう。調子はどう?」

そう聞かれて素直に答える。

「筋肉痛が酷い。」

「おっさんだね。」

大して心配はしてくれなかった。

昨日と同じウェアを投げられる。着ろという事らしい。

部室に入り着替える。昨日、一撃決め損ねてから1時間もないくらいCQCを学んだ。

あれ以上に良い一手がなく、ただ疲れるだけだった。

ウェアを洗濯して返すと言ったが断固拒否された。

「未来人はタイムマシンを使った事でオーラのような電磁波を帯びる。それは服や道具も変わらない。未来から持ってきたウェアにも当然未来オーラがあり、洗濯では落ちない。人間が帯びるオーラも風呂に入っても落ちる事はない。だから、それを持っている事は危ない。」

との事だった。それなら仕方あるまい。

俺から未来オーラが出る事で、色紙さんのようなPPに捕縛されてしまう。そして俺が純粋な過去人であるとバレれば大騒動で色紙さんも罰せられるだろう。

世の中の2人だけの秘密に中で最も重い気がする。

部室を出ると、待っていたようで何かを投げつけられた。何とか掴み、見ると格技場の鍵だ。

ちらりと見ると、あなたが持ってた方が良いでしょという顔をしている。確かにそうだ。適当に部室の棚の上に置いておく。

「さあ、今日やることを教えよう。」

意気揚々と言い放つ。筋肉痛で動くのがやっとなのに、何が出来るだろう。

色紙さんはおもむろに銃を取り出す、自分のこめかみに当てる。一瞬焦るが、何か考えがあるのだろう。

ばしん、という音がして続いてビーという電子音のような機械音のような音がする。笛の音のようだ。

「まるでペルソナ3でしょ。」

「ペルソナは出ないな。」

「この銃は殺傷能力はほとんどない。あるとすれば鈍器としての機能くらい。」

たしかに持って殴れば、最悪死ぬだろうが、大体の重さのあるものはそうだ。

「この銃は訓練用。射線が人の肌に当たると音が鳴る。イメージとしては、レーザーライトが出て、人肌に当たると音が鳴る。あんまり上手く説明できないな。」

少し戸惑っている。

「つまり、その銃を撃って人に当たると音が出る。ただし、実際に弾は出ないってこと?あんまりつまりじゃないけど。」

「分かってるならおっけい。」

そう言って色紙さんは銃を俺に渡す。素直に受け取り、眺める。本物は見た事ないが、リアルに作られてる。銃口を覗くが、どういう仕組みかさっぱり分からない。

「今、私達で肌が露出してるのは頭、首から上だけ。だから頭を狙って当たらないと音は出ない。」

今日の訓練を察する。

「頭に当てる練習か。」

「半分正解。それと頭に当たるのを避ける練習。」

色紙さんは手で銃の形を作り話し始める。

「未来の銃は少し特殊。未来の銃と言うか、未来人が過去に来て使う銃は特別。普通の銃じゃダメな理由わかる?」

銃を手にしたまま、念のため引き金からは指を外し答える。

「音?あまり銃声なんて馴染みがない国で銃声がしたらニュースになるし、そもそも目立つ。」

色紙さんがCCTと対峙していた時に使っていた銃は、ゲームや映画で知ってる銃声はしなかった。あの時を思い出して、更に思い当たる。

「あの時の銃は、音はしなかったし、そもそも撃たれた男は血を流していなかった。」

「大正解。」

そう言って手で作った銃を俺に向ける。

「あれは弾はでない。でも殺傷能力は十分。着弾地点、着弾というか真っ直ぐレーザーが出るイメージね。それが当たった場所からぐるりと横に走って円を作ってその中をレンジで加熱するみたいに焼く。」

いまいち良く分からない。そんな顔に気付いたようで付け足す。

「例えば、私が今銃を撃って、三城君の眉間直撃したら、そこから左右に電磁波がこめかみを通って耳を通って後頭部で合流する。すると、ちょうど眉間から後頭部まで円ができるでしょ?」

鉢巻のようなイメージをする。サッカー選手がやってるカッコいいのか良く分からないあれや、孫悟空の緊箍児みたいなイメージか。

「するとその円内に電子レンジの数倍のチンが出来る。」

「かなり掻い摘んで説明したな。」

「だってその方が分かりやすいでしょ?」

たしかに、細かい理系の話をされてこ理解はできない。

「それが頭に当たったら終わり、ヘルメットも意味がない。ヘルメットごと焼くからね。急所以外なら死にはしない。」

「音も出ないし、薬莢も残さないし、血も出ない。そして普通の銃よりも殺傷能力が高い。」

「そういう事、メリットばかりね。その必殺を喰らわないために避ける練習も必要。」

色紙さんはストレッチを始める。全身の筋を伸ばして、指の関節を鳴らす。そのまま、部室の真逆、東側へ歩く。向こうの壁に辿り着き、手を挙げる。

「撃ち方分かる?」

何かのCMみたいに声を張って質問する。

「引き金を引けば良い?」

声を張って答えるが、なんだか恥ずかしい。色紙さんは大きく丸を両腕で作る。

「さあ、私を殺して!」

一直線に走ってくる。銃を構えて、狙いが正しいか分からないが、頭を狙い引き金引く。

相手はぐるりと体を横に回す。銃から音は鳴らないため、当たらなかったようだ。

速度を変えずにこちらに来る。もう一度頭を狙う。しかし、また体を捻り、狙いが定まらない。真っ直ぐ走る訳ではなく、頭に位置を常に変えている。上下左右に動かされ、次の動きの予測が出来ない。

壁を蹴り上げ一回転や、一旦バク宙で距離を取り、スライディングで距離を詰め、横に跳び側転など様々なアクロバットを含めて向かって来る。

何かで見た気がするが、何となくパルクールに似ている。

何とか狙いを定めて引き金を引くが、当たりはしない。

一気に距離を詰められ、もう接近戦ではナイフの方が早い距離になった。無様に腹を蹴られて壁に激突、腹に痛みはないが頭をぶつけてそこが痛い。

「どうだった?」

自身の射撃の事か、それとも色紙さんのパルクールみたいな身のこなしか分からず、両方について答える事にする。

「色紙さんはぐるぐる動き回るし、ぴょんぴょん飛ぶしで狙いが定まらなかったです。」

「良い事言うねぇ君は。」

妙におっさん臭い口調になる。

「頭の位置を常に変えて、それを予測させない。それが出来れば良い。」

意外とそれが難しそうだ。色紙さんは容易くバク転だとかバク宙だとかをしていたが、そんなの昔ふざけてやって出来たか出来ないか微妙な段階しかいかなかった。昨日のはほぼまぐれだ。

色紙さんが片手を前に出す。一瞬何の事か理解できなかったが、直ぐに銃を返す。

「三城君には直ぐに銃を撃ってもらう事はない。そもそも撃つ機会なんて大罪人相手、CCTにしかないし、CCTと対峙するのもまずない。」

「そうなの?」

「向こうから殺しにかかってきた時か、こっちが殺しにかかる時。そしてこっちが殺しにかかるのは決まったタイミングだし、向こうが殺しにくるのもレア。この前みたいなのはレア。」

タイミング良いのか悪いのか、色紙さんはCCTに殺されそうになった。

「私が狙われたのは、ここに新入りが来たぞとどっからか情報が漏れて、新入りなら簡単に殺せると思ったんだろうね。腐れ野郎どもめ。」

「急に口が悪いな。」

「次は三城君が避けて。」

そう言ってさっき色紙さんがスタンバイした場所を顎で示す。

駆け足でそっちに向かい、アキレス腱を伸ばす。

軽く手を挙げ合図する。色紙さんは銃を構えて合図に変えた。

真っ直ぐ走り出し、何か頭の位置を変えねばと飛び込み前転をしてみるが、もたつきスマートさはない。それに頭が痛い。

次にどうしようかと思ったところでビーと音が鳴る。

色紙さんを見ると哀れみの目でこちらを見ていた。

「こりゃ次の連休も特訓か。」



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