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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生冬
122/125

惑星軌道の結束点⑨

 「ちょ、ちょっと…!」

 狼狽した声を鹿折さんが上げる。

 俺自身も、状況を理解できていなかった。目の前に現れた人物とここに居る理由、冷静に考えたら直ぐに分かるのに、判断が一瞬遅れた。

 その隙を見逃さず、こちらに距離を詰めて鳩尾へ拳が入る。

 耐えかね嘔吐する。酸っぱい味が喉と口に広がる。

 防御の意識が間に合わなかったが、完全に遅れた訳ではない。致命傷ではないが、直ぐにはパフォーマンスが戻らない。

 殴られてようやく状況を理解した。

 未来の真白さんが現れた。

 俺達と歳は離れていないように見える。今居る時代から3年後くらいだろうか。その間にかなり成長している。

 今、この場に現れたということは…。

 「私が…、CTTに…?」

 後ろから消え入りそうな声が聞こえる。

 「幽…、下がってて…。」

 鹿折さんも状況は分かっているが、どうするのが最適か悩んでいる様子だ。

 「三城さんも少し下がって、回復したら助けて下さい。幽さんと恵さんはもっと下がってください。一切手は出さないで下さい。」

 指示に従い、2人に任せ今は回復を優先させる。

 初撃で分かった。この時代の真白さんとめぐにゃんじゃ歯が立たない。

 「どういうこと…?」

 鹿折さんは構えを崩さず、未来の真白さんを睨み警戒したまま尋ねる。

 未来の真白さんは沈黙したまま、目線は奥の真白さんを見つめている。

 「私は…、なんて言ったんだっけ…?」

 虚な目で独り言のように呟く。

 「ああ。そうか。そうだね。」

 ブツブツと何かを言う。

 「もうあんまり思い出せないんだけど、声に出す度、体を動かす度にそういえばそうだったなって思うの。」

 「…CTTって事で良いの?」

 「うん。だから、やるべき事をやって。」

 そう言うと、鹿折さんへ向かって飛び込む。やはりかなり速い。体感では、保呂羽さんと互角か、それ以上か。

 その攻撃を紙一重で躱し、追撃もいなしていくが、重い一撃は防御しても身体の奥まで揺らす。長期戦に持ち込まれたら、どこかで身体が意識と反して動かなくなる。

 それを察して、美々さんがカバーに入る。しかし、火力不足だ。真白さんの攻撃を躱し、攻撃は入るが効いてる様子はない。

 以前、美々さんが言っていた事を思い出す。セミナー壊滅作戦の時に、色紙さんと鹿折さんには勝てない、狂態化は向いていないと。

 確かに色紙さんや鹿折さんと比べてしまうと、戦闘力は並んでいない。

 「幽もリリドラ使ってんのね!」

 鹿折さんが攻防の最中声を出す。しかし、それには答えない。

 鳩尾へのダメージもだいぶ回復した。2人に加勢する。

 力を込めた右フックを左腕で防がれるが、そのまま吹っ飛ばす。

 壁に当たるが、大したダメージにはなっていないようだ。

 殴った感じ、やはり強くなっている。しかし、勝てない相手じゃない。

 鹿折さんと美々さんが三人掛かりなら…。

 そう思いチラリと二人の表情を見て、やっと理解する。

 苦楽を共にした学生時代の同級生がCTTとなって、敵として再会する。そして、学生時代の本人もその場に居る。

 友達を殺すことに、それを見せることもできないのだ。意識してるにせよ、していないにせよ二人が心を殺して行動できる人間ではない。

 それなら、俺がやるしかない。

 真白さんが構える

 とにかく、皆から距離を離す事を目的に攻める。

 真白さんを受けに回させる。

 力を込め、一撃一撃を殺す気で放つ。真白さんも生半可な受けには回れず、少しずつ後退する。それでも、隙だと判断されれば攻めに転じられる。

 真白さんの一撃は決して軽くない。

 来ると分かって防御すれば、大きなダメージにはならないが、食らい続けるのはまずい。防御の意識がない時に攻撃を喰らえば、さっきのようにしばらく行動不能になる。

 油断はできない。全力で相手をする。

 顎を狙った右フックを仰け反り躱す。続け様に左フックを防いで、左足で脇腹を狙う。

 大きく後ろへステップする。十分距離は取れたが、真白さんに勝てるだろう。

 真白さんと目を合わせるながら、何かを感じる。

 焦燥?緊張?恐怖?

 そういった類の負の感情が、段々と瞳の奥に現れているように感じる。

 不意に、真白さんが距離を詰め拳を振るう。

 さっきまでのやり取りと比べ雑な攻撃だ。威力はあるが、隙を狙ったような、確実に仕留めるような一撃じゃない。焦った結果、雑になったような印象だ。

 その拳を受け止め、投げに転じようと襟元を掴もうとすうが、その手を逆に掴まれ膠着する。

 「…じゃない。こんなはずじゃない…。このままじゃ…。」

 俯き何かを呟いている。

 「何を言って…。」

 キッと鋭い目付きでこちらを睨み、掴んだ手を払いのけ腹部へ拳を向ける。しかし、あまりに大きな動作だ。来ると分かれば全力で腹に力を込める。真白さんの拳は腹へ押し込まれるが、その隙に顎を狙いフックを放つ。

 ダメージは初手程ではない。半分以下にはできた感覚だが、流石に少しの時間動きが鈍ってしまうだろう。しかし、その代償を払う価値のある一撃を入れる事ができた。

 脳が揺れて、立っているのがやっとの真白さんが居る。

 「違う!このままじゃ…!」

 「何を言って…。」

 真白さんに近付き、何を言いたいのか尋ねようとした時。

 「三城さん!」

 後ろから叫ばれ、振り返る。

 そこには、リボルバーを構えた真白さんが居る。

 未来の自分を殺す気だ。

 「やめ…!」

 「待って…!!」

 射線上に割り込もうと腕を伸ばす。

 背後で未来の真白さんが悲鳴に近い声を出す。

 それらよりも早く、真白さんが射撃する。

 すぐ近くを銃弾が飛んでいき、真白さんの頭に直撃する。

 銃弾が頭を破り、頭蓋から中身が溢れ飛び散る。

 その全てがスローに見える。

 「幽…!」

 鹿折さんが銃を取り上げ、真白さんの手を握る。

 触れなくとも、震えているのが分かる。きっと、銃の反動だけじゃない。

 真白さんは抱き寄せようとする鹿折さんを押し除け、ビルの壁に向かって走り、そのまま嘔吐する。

 鹿折さんはまた駆け寄り、背中を摩る。

 その姿をただ呆然と、現実感がないまま見つめていた。

 


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