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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生冬
120/125

惑星軌道の結束点⑦

 「色紙さんが自分自身を殺す…?」

 「はい。」

 同時に自分が複数人存在する事は認められない。タイムスリップをした事の証左であり、きっと全員殺されることになる。それなら、最も多くの記憶を持つ自分を残して、他全員が死ぬ。合理的だが、その選択を出来るかと言われたら、ほとんどの人ができないだろう。

 「四季だから、出来たんだよ。」

 鹿折さんは悔しそうな声を出す。

 不意に一つ思い当たる。

 「そうか。久地道のあの言葉は…。」

 「どういう事ですか?」

 「京都で久地道が色紙さんに“何回自分を殺した”って聞いていたんです。その時は意味が分からなかったけど、今ならその意味がわかる。」

 皆の表情がより険しくなる。

 「過去改変によって分岐して未来を生きるために、自分を殺すこと。」

 めぐにゃんが呟く。

 「今回のテロの阻止は四季さんと大成さんが2人で実行しています。四季さんがこのタイミングでタイムスリップ上限に達していることを知っているのは、本人の他には大成さんしかいません。」

 「今回、2人をタイムスリップさせたのは久地道だ。本来は四季を飛ばす予定だったんだろうけどね。」

 一階へ辿り着いた。扉を開けてセンスカのロビーへ入る。一旦、口を閉ざして外を目指す。人混みを縫うように進み、大きな出入り口から外に出ると強いビル風が吹き、都会の排水のような生ゴミのような臭いに顔を顰める。

 鹿折さんについて小走りで移動する。

 「やる事はなんですか?」

 人通りが少なくなったところでめぐにゃんが尋ねる。

 「四季が自分を殺すのを防ぐ。」

 「それって、テロの阻止を阻止することになりませんか。」

 めぐにゃんはややこしい事を言う。

 「いや、そうはならないようにする。まず、改変される前に四季にはそれぞれ元の時代に戻ってもらう。分岐未来を作る前に、それぞれの時代に戻ってもらって、迷子を無くす。その上で、私たちがテロを阻止する。」

 「私達が行う事で、分岐未来で誰か迷子になりませんか。」

 「三城君とめぐにゃんは過去人だから問題ない。2人が死ぬまでこの事件に関わる事はないから、未来にこの分岐が訪れる事はない。幽もこの時代の人間でタイムスリップしていないから、迷子になり得ない。私と美々はそもそも四季が分岐させた先の未来から今ここにいる。同じような分岐をさせれば問題ない。」

 「概ね分かりました。とりあえず、色紙さんを探して、事情を説明しましょう。」

 人の少ない路地へ入る。日差しが遮られ寒さを思い出す。

 「幽とめぐにゃんにはこれを渡しておく。」

 そう言って鹿折さんと美々さんはスカートの下からホルスターごと銃を取り出して、一丁ずつ渡す。

 「私、使い方知りませんけど。」

 めぐにゃんが鹿折さんと同じようにスカートの下、腿にホルスターを取り付けながら言う。

 「大丈夫、引き金引くだけだから。」

 ホルスターから銃を引き抜き手に持ち眺めている。

 横目に見るとリボルバータイプの銃で、詳しくはないがかなり高威力のものに見える。

 「それ撃ったら肩外れない?」

 鹿折さんに確認する。

 「幽は大丈夫でしょ?」

 「うん。これくらいなら撃てる。」

 「めぐにゃんは撃てると思うけど…。」

 そこで言葉を切る。

 「ちょっと構えて。」

 「こうですか?」

 かなり辿々しく構える。それを美々さんが隣に達、腕の角度や姿勢、目線、握り方を指導する。

 「撃ったらここまで反動で腕が上がります。」

 そう言って腕を上に引っ張る。

 「めちゃくちゃ強いやつじゃないですか。」

 「ごめんね。大急ぎで持ってきたからリボルバーはそれしかなかったの。」

 「何でリボルバーなんですか?よく見る普通にやつじゃダメなんですか?」

 かなり情報量が少ないが言わんとする事は分かる。

 「オートマチックだとから薬莢が出るからね。都度拾っても良いけど、そんな暇ないだろうし。だから弾も渡さないから、必要な時声掛けて。」

 「本当にいざとなったら使うよ。」

 真白さんは納得したようだが、めぐにゃんはよく分かっていないようだ。こればっかりは銃の仕組みを知らないと理解出来ない話だろう。

 手を差し出してめぐにゃんから銃を借りる。

 スイングアウトし、装弾数を確かめる。6発だ。一つを取り出して。弾頭を見る。ホローポイントの357マグナム弾、普通の女子高生が撃つようなもんじゃない。いや、そもそも銃を撃つ女子高生が普通ではないか。

 元に戻して銃身を掴みめぐにゃんへ返す。

 「6発撃てるから、本当にヤバい時だけ撃て。撃ち切ったら、鹿折さんか美夜さんから弾を貰え。」

 「分かりました。」

 高価な物を扱うように、丁寧な所作で腿のホルスターに仕舞う。その所作を見るのが悪い気がして目を逸らす。

 「さあ、急ぐよ。」

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