及第点
「判断は良かった。壁に追い詰める作戦と思い込ませてもう一手先があった。私も、もう一手があると思ってたけど、意外な方向からの攻撃だった。結構運動神経良いね。今の時代の男子って皆あんな感じなの?」
そう聞かれて考えてみる。友人知人を思い出すが、こんな芸当が出来そうな奴は少ない。
「俺も周りも普通じゃ出来ない。このウェアと、首折って死んでも色紙さんが過去に戻ってなんとかしてくれるっていう余裕があったから出来た。」
色紙さんは顎を撫でていた手を離し腰に当て、成る程と呟いた。
「死にも怪我もしないし、痛くも無いからやってみたら出来たってことね。」
「そういう事だ。」
「未来人にとっては、結構な時間体作らないと出来ない技だと思う。壁を蹴ってバク宙、しかも蹴りを入れるなんて。実際、私もCQC訓練初日でそんな事は出来なかった。今の時代の人間の身体能力プラス三城君の潜在的身体能力が予想以上だったみたいね。」
色紙さんの見立て以上に、未来人と比べて現代の人間は身体能力が高いようだ。俺自身の身体能力は平均以上ではあると思うが、ずば抜けてるわけではない。平均を50点、最高を100点だとすれば、70点くらいだろうか。
それでも色紙さんの予想は上回る事ができたようだ。
「今日やりたかった事、もう終わっちゃったよ。」
「何をしたかったの?」
「三城君の身体能力の把握と、足りないようなら特訓しよう思ってた。」
最初にそう言ってくれれば緊張もしなかったのに。色紙さんは言葉が足りない気がする。
「予想以上に身体能力は高いし、補強する事は何もないかな。」
「それでも色紙さんには敵わない。色紙さんの本気を出させるくらいになるために、もっと練習した方が良いんじゃない?」
「もっと殴りたいなら良いけど、そのウェアも万能じゃない。」
そう言われて1つ疑問だった事を思い出す。
「これは痛くはないけど、衝撃はある。それって身体的疲労や内臓とかは大丈夫なの?」
色紙さんは指を鳴らして指を指す。未来人のわりには古臭いジェスチャーだ。
「その通り!やっぱり察しが良いのか頭が良いのか順応性があるのか、凄いね!」
褒められて嬉しいが、クールに決めようとする。それが上手くいかず微妙に笑ってしまう。
「痛くはないけど、衝撃はある。内臓にダメージはあるし、痛みがないから平気だと思っても 疲れはある。痛くはないけど、それだけ。痛くないだけで、他は普通と変わらない。」
「ウェアを着ているからといって何もかも出来るわけじゃない。やってる事実は変わらないのか。」
「そういう事。だから今日はもう少しやって終わりにした方が良いと思う。そんで今日帰って寝て、どんだけ体調が変わるか確認した方が良いと思う。」
「なら先生に従うよ。」
CQCの先生だというつもりでそう言ってみたが、色紙さんはやれやれという顔をあからさまにする。
「私は先生じゃない。相棒、パートナー、ライバル、そんな感じ。」
ライバルだけはしっくりこなかったが、あえて聞きはしない。それよりも気になる事がある。
「色紙さんは未来の人間なのに、俺らと普通に会話出来てるな。2301年生まれでしょ?俺は2001年生まれだから300年の差がある。やっぱり言語とか変わってるんじゃないの?」
色紙さんはふっと笑う。
「あんまり変わらない。主軸は変わらないけど、流行り廃りの言葉が多くあって、真面目に喋ろうと思えば現代と大差ないね。75%は一致してる感じかな。でもやっぱり友達と話すと気が置けないから流行り言葉使っちゃって変に感じるかもね。私はこの時代の小説や漫画読んで学んだし。」
「色紙さんって今何歳?」
「15、今年度で16だから皆と同い年。」
「それでもう働いてるのか。未来だと働き出す時期が早いのか。」
流石にこの歳で働くのは凄いと思う。俺なら無理だ。
「まあそうなる。小学校の内でこの時代の高3までの知識は覚えられる。色々技術があるからね。今みたいに楽しくないだろうけど。
中学からはもう自分のやりたい専門知識を学ぶ。私はそこでPPを選んで学んだ。法令に戦闘技術ね。楽しかったなぁ、同じ志を持つ仲間と一緒に頑張ったし。意外と年齢幅もあって楽しいし。」
どうやら中学時代が正に青春だったようだ。
「私はこの時代を選んで、年齢的に不自然じゃない高校生になってる。今時代は未成年が昼間に歩き回るのは不自然らしいからね。制服や学生証があると便利だし。」
「未来人は学生になるの大変なんじゃないの?」
そう質問すると色紙さんはニヤリと笑って口の前に人差し指を出す。
「その話は明日。私の仕事を手伝う報酬、今回は未来の情報ね。今日の報酬はここまで、続きは明日の報酬。」
なるほど、俺の未来を教えるとはこういう手段もあるのか。俺の知りたい未来ではある。上手くやられた。




