vs PP
「CTTは訓練してるからね。ちなみに、私達みたいな仕事を、“警察”と“時間を元に戻す”を合わせて警時って言うの。英語ではpast police って言うからPPって言われる事も多い。」
過去を変えようとするのがCTTで、色紙さんのようにそれを防ぐのがPPと言うらしい。日本語では、時正教と警時か。
「未来の人間なんて皆貧弱。どんどん機械とかに身を任せるから筋力とか要らないのね。」
聞いたことがあるような気がする。食生活が変わると顎が退化するように、筋力も衰えるらしい。
「私達PPは人を捕縛、殺害するから身体能力を鍛えてる。今の時代じゃ出来ないトレーニングや機械もあるから未来は勿論、この時代の格闘家にも負けないと思う。そんなPPに対抗するために、CTTも鍛えてるの。しかも、私達よりも強いかも。」
「トレーニングしかしてないからとか?色紙さん達は学ぶ必要があるけど、CTTは頭を使わずに鍛えるだけとか?」
「今の時代の発想だね。」
正解ではなかったようだ。色紙さんはストレッチを始める。アキレス腱を伸ばし、腕のストレッチ。準備運動は未来と現在は変わらないようだ。
「脳に知識を入れる技術がある。薬物で身体能力を向上させる事ができる。ただし、それらは倫理的にやって良いか問題になる。」
現代で言う、ドーピングや危険薬物みたいなものだろうか。
「人間をどこまで改造して良いのか。それが問題、ピアスのために耳に穴を開けたり刺青とか、今でもあるでしょ?それより酷い、脳に直接干渉する危険性は分からない。」
「安全性が確認できるまでは至ってないのか?」
「いや、ほぼ人体に影響はない。今は。世代が変わった時にどうなるか分からない。そればかりは検証できない。」
成る程。最未来であるため、未来について知る術はない。脳に干渉して、その後、子が生まれて影響があるのか分からないのだろう。
「それでも、CTTはリスクを気にせず、それらを使う。だから強い。」
普通ならリスクを気にする。後先考えない強さは今も未来も変わらないらしい。
指の関節を鳴らす。それを見て色紙さんは右足を一歩下げる。
力をつける理由は分かった。色紙さんでも勝てないような相手に渡り合うためには、せめて色紙さんくらいの力にならなければならない。
全てを聞いたわけではないが、ある程度察する事が出来た。色紙さんは未来の術で身体を鍛えて、現代の格闘家より強い。しかし、元々未来人は貧弱で、色紙さんも例外ではない。
未来の力で強くなった色紙さんに、何も持たない俺が追いつけるか。きっと、スタートラインが違うんだ。元々持つ身体能力は俺の方が上で、色紙さんは下。色紙さんは、そこから向上するスピードが早い。今訓練をしている意味は、それで追い付くからだろう。おそらく。
「いつもでいいよ。」
そう言われて、今CQCの訓練をしている事を思い出した。
さて、どうやって一撃入れようか。漫画でよく見る、空中じゃ避けられない作戦も効果がなかった。真っ向で蹴りや殴りを入れても意味がない。
求められるのは、速さか意表だ。
速さを今上げる事は難しい。さっき全力を出しても避けられた。スタミナ的にも、これからの全力は、さっきの全力には及ばないだろう。
ならば意表しかない。
どう意表を突こうか。死角を攻めるか、それも速さが要る。ならば、反撃しかない。
色紙さんは自分の方が強いと信じている。俺があえて悪手を打とうと、それが実力であると思うはずだ。俺の実力を知らないし、それを低く見ている。それが突破口だ。
1つの作戦を思い付く。
構えすら取らない色紙さんに右足で蹴りを真っ直ぐに入れる。腹を狙ったが、バックステップで躱される。それは想定済みだ。右足の蹴りの勢いを殺さず、回し蹴りに移行する。身体が硬く、色紙さんの頭までは届かず胸辺りに踵が向かう。
色紙さんは、もう一度バックステップをする。
すると、色紙さんの背後は壁になる。狙い通りだ。
右手を拳ではなく、掌底でみぞおちへ真っ直ぐ突くように全力を出す。しかも、全体重を乗せて。
流石に、この策で殴れる弱さではない。
またバックステップで後ろに大きく飛び、壁を蹴り俺の頭上を飛び越える。この避け方は予想外だ。
しかし、まだ作戦が潰れたわけではない。
色紙さんの狙いはきっと、壁に追い詰める事が俺の作戦だと思い、それを避け壁に俺をぶつける事だ。
そこからさらに次の一手がある。このウェアは痛みを感じないから、多少無茶が出来る。
姿は見えないが、色紙さんは背後にいる。さっき、俺が手加減をした時、倒れ込んだ俺の蹴りを入れた。悪手に対する制裁のように。
今回もきっと悪手に対して蹴りを入れる、駄目押しで尻か背中を蹴って壁にぶち当てるだろう。
案の定、背中から押される。足の裏でどすっと壁に向かって。その勢いを利用し、壁に足を掛け、バク宙をする。こんなことした事は無かったが、意外と出来るものだ。痛くない、もし死んでも色紙さんがタイムスリップして防いでくれるだろう。そういう余裕は勇気になるらしい。身体能力は大して悪くないし、足りなかったのは勇気だったらしい。
視界色紙さんを捉える。右足を上げたままだ。サマーソルトのように蹴りを入れる。プロレスや総合格闘技を見ていて良かったと初めて思う。
ど頭に絶対に入ったと確信する。
しかし、色紙さんは首を曲げて頭の直撃を避ける。肩には当たると思ったが、左手で俺に足を右に押す。攻撃線がズレる。
無様に床に落ちる。
身体に痛みは無いが、心が痛い。これでダメなら次の一手が思い浮かばない。意表を突いてもダメ、更には俺の身体能力についても想定が出来ただろう。
「今のは危なかった。想像以上。一撃入れるってのはやる気出させるための嘘だから。一般人に一撃もらったらPPなんて務まらないからね。」




