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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生冬
107/125

惑星軌道の結束点②

 真白さんに連れて来られた場所は住家だった。住宅街の一角にある、周りの他住居と比較しても別に変なところはない本当に普通の家。

 ただし、全て現代とは違う。

 どれも、現代にあったらかなり目立つデザインだ。機能性よりもデザインを優先したようだが、その実この時代の機器やライフラインの都合や、居住用式の変化が要因かもしれない。

 「ここ、ですか?」

 めぐにゃんが真白さんに尋ねる。

 「はい。私の家です。」

 「えっ?」

 めぐにゃんが驚くのも無理ない。俺も今日限りの宿という事で、かなり最低限の場所を予想していた。それに寮生活をしているとか。

 「良いのか?」

 「はい。今日は家族いないので。」

 真白さんがドアのロックを解除して、中に進んだため後ろに続く。

 内装も、現代とはかなり異なっている。気になる物が多いが、勝手に触って壊しても怖いと思い止まる。機械音痴と同じ思考になってしまっているなと小さく笑う。

 リビングと思われる場所に通される。なんとなく無機質な壁に、大きなテーブル、椅子が数脚と、カウンターキッチン。埋め込まれた照明が、見慣れない家具を明るく照らしている。

 「座っていて下さい。」

 勧められるまま適当な椅子に腰掛ける。

 コートを脱ぎ、膝の上に置く。暖房はまだ付いていないが、室内は外と比べて暖かい。

 「これからどうするんですか?」

 めぐにゃんが小声で聞いてくる。

 「真白さんのご好意で今夜は何とかなりそうだけど、明日どうするかは要検討。」

 「そうですよね。私達の行動全てが過去改変になりかねないですから。」

 「俺達の素性を話せば、きっと真白さんは理解してくれる。だけど、それを伝えて良いのか俺は分からない。」

 めぐにゃんは眉に皺を寄せ、口を尖らせて唸る。

 「そもそも、私達がタイムスリップした事を過去改変するつもりなら、何やっちゃっても良い気がするけど。」

 そこは分からない。色紙さんがどうするつもりなのか、そこがはっきりしない以上、余計な事はしない方が良い。

 「俺達がこの時代に来なかったように改変するかもしれないが、そうしない可能性もある。極力、静かに待ってよう。」

 そう言うと、めぐにゃんは小さく頷いた。

 「お待たせしました。」

 真白さんはトレイに湯気が立つカップを載せてやってきた。それらを俺達の前に置く。カフェオレ…、いやココアだろうか。

 「少し時間掛かるので、もう少しお待ち下さい。」

 そう言うと、また部屋を出ていく。

 「なんか…、どうなっちゃうんでしょうね。」

 カップを手で包みふうふうと息を吹きかける。

 「正直、俺もどうしたら良いか分からん。」

 素直にそう言う。

 「…今日、ずっと外にいた方が良かったんですかね。」

 「分からないけど、深夜に不特定多数の目に留まるのは良くないと思う。俺らの時代でも、夜中に若者が外に出たら怪しいし補導対象だ。」

 「そこは色紙さんも理解してますよね。」

 「そう思う。だから勝負は明日じゃないか。」

 「そうですね。」

 カップを手に取り、一口啜る。

 ココアだ。冷えた体に沁みる。

 「真白さんには感謝しかないな。」

 「本当ですよ。」

 「普通、こんな見ず知らずの人助けてくれるか?」

 「私が居たからですよ。感謝してください。」

 いたずらに笑う。確かに俺一人だったら、家にはあげてもらえなかっただろう。

 「まずは真白さんに感謝する。」

 奥にドアが開き、真白さんが現れる。

 「お待たせしました。こちらです。」

 戻ってきたら真白さんに促され、リビングを出て廊下を進む。

 廊下を進みながら、真白さんが独り言のように話す。

 「私は今、この家には住んでいません…。両親が住んで居ますが、今日は帰って来ないようなので。」

 「本当に悪いな。」

 改めて、運が良かったと思う。

 「この部屋を使って下さい。」

 通された部屋は、おそらく真白さんの部屋なのだろう。置かれた本や、可愛らしいぬいぐるみ、全体の色味から女性であることは間違いない。妹や姉という線もあるが、尋ねるのも調べるのも気持ち悪いだろう。

 「ベッドは一つしかないですが、布団持って来てますので。本当はもう一室お貸ししたいんですけど…。」

 「十分です。ありがとうございます。」

 めぐにゃんが頭を下げる。

 「明日は何時までに起きて何時までに出れば良い?」

 「家族が帰って来るのは昼過ぎだと思いますので、それまでゆっくりして頂いて大丈夫ですよ。」

 「助かるけど、朝には行動開始しよう。」

 「分かりました。それじゃあ、私は一回寮に戻りますけど、朝に来ます。トイレはこの部屋出て右です。」

 「何から何までありがとう。」


 「…本当どうなっちゃうんでしょうね。」

 明かりを消した部屋、ベッドで横になっているめぐにゃんが口を開いた。半ば独り言のようなそれに返事をする。

 さっきも話をしたが、やはり整理が付かないのだろう。

 「今日、色紙さんが現れなかったのは何か事情があるはずだ。」

 「何か、ってなんですか。」

 きっとめぐにゃんも大体考えてはいるだろうが、話を振られたので答える事にする。

 「タイムスリップ直後に話した通り、23時に来なかった時点で色紙さんはここに来れないと考えて良い。そのあと、この街に来ても会えないと言う事は、既に色紙さんはここに2回タイムスリップしてるんじゃないか?」

 沈黙がある。寝てるんじゃないかと思い始めてところで話し出した。

 「それじゃあ、しばらくここに居る必要があるってことですか?」

 「推測だから絶対とは言い切れないけど、今はそう思ってる。」

 おそらく、色紙さんがタイムスリップできる時間までは滞在する必要があると想定する。

 「考えても仕方ないですね。」

 呆れたような声を出す。

 「…ベッド、使わせてもらっちゃってすみません。」

 「いいよ。」

 もぞもぞと音がする。

 「…先輩と色紙先輩って…。」

 そこまで言って、めぐにゃんは黙る。

 「先輩は、今、色紙先輩が来れなくて、私と一緒で不安ですか?」

 「不安ではあるけど、別にそれはめぐにゃんと一緒だからじゃない。」

 そう答えるが、めぐにゃんからは返事はない。

 更にもう少し答える。

 「未来には誰と来たって不安だよ。ただ、色紙さんが助けてくれると思えば安心できるし、一緒に来たのはめぐにゃんだからより安心できるよ。」

 ガバっとめぐにゃんが起き上がる音が聞こえる。

 「先輩は私と一緒で…、その…。」

 上体を起こしめぐにゃんを見る。暗い部屋で俯いており、顔は見えない。

 「私が聞きたいのは…。」

 珍しく声が小さい。

 「私と一緒に未来に来て、一緒の部屋にいて…、その…。」

 そこで言葉が切れる。

 少しの沈黙の後、声が続く。

 「私は不安なんです。不安なんですけど、先輩が居るから何とかなると思ってます。」

 「ありがとう。」

 「でも、今よりもっと不安になったら…。その時は…。少し助けて下さい。」

 何を言おうか悩み、口を開いた瞬間、先にめぐにゃんが声を出す。

 「すみません、忘れて下さい。」

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