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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生冬
104/125

未来へ

 「ちょっと、理解が追いついていないです。」

 「順を追って説明する。」

 「お願いします。」

 手短な丸椅子を引き寄せ、めぐにゃんを座らせる。他に椅子がないため、デスクに寄りかかり立つとも座るとも付かない姿勢で向かい合う。

 「俺がここに来たのは、めぐにゃんが来る10分くらい前だ。」

 黙って頷く。

 「ここはどこか分からないが、どこかのビルの一室、会社の事務所だったみたい。ただ、もう随分使われていないようで荒れている。」

 「そうみたいですね。」

 辺りを見渡してそう言う。

 「そして直ぐに人がやってきた。一旦、窓から出てこの部屋から脱出、壁に張り付いて隠れると同時にやって来た人達の会話を盗み聞いた。」

 「よく混乱しなかったですね。」

 「してたさ。で、話していた内容をまとめると、23時に色紙さんをここへ飛ばそうとしていたが、失敗したようなので退散した。」

 「23時?」

 少し冷静さを取り戻して来たようだ。

 「たぶんだけど、今は23時頃なんだ。」

 「どういう事ですか?」

 「さっきの発光する機械、あれがタイムマシンだったんじゃないか?それによって俺達は未来に飛ばされた。本当は色紙さんを狙ったはずだったけど、俺が間違えられた。」

 「私は巻き添えですか?」

 「たぶん。一般過去人、改変するような悪がない人はCTT、今回はそこから派生した見据の進会だけど、そいつらは一切手は加えないと思ってたけど、今回はタブーを犯したのかもしれない。」

 「なぜでしょう。」

 「その犠牲を払っても、色紙さんを仕留めたかったのかもしれない。」

 「それだけ、去年の夏の殲滅作戦に腹が立ってたんですかね。」

 腕を組み唸る。

 色紙さんを疎んでいるのは、見据の進会であるし、CTTでもある。死んで徳をするの進会を含め、その他全てのCTTだ。

 「背景までは分からない。ただ、焦っていたとは思う。今この瞬間で色紙さんを仕留めたい、隣に一般過去人がいてもやむを得ないと判断したんだと思う。」

 親指を唇にあて、思案する。

 「なるほど。流石に、なぜこの作戦に至ったかは分からないですね。壊滅作戦のリベンジか、後ろにCTTの本体が付いたのか、また別の行動派閥と合わさったか…。そこは考えても分からないので、一旦保留しましょう。じゃあ、何で私達は17時過ぎから23時に飛んだんでしょう?タイムマシンのせいですか?」

 「予想だけど、タイムスリップ先の時間は設定可能なんだと思う。タイムマシンとはそういうものだろ。」

 「言われてみれば…。じゃあ、未来の日付は分からないですけど、あの時のタイムマシンは未来のX年Y日23時にタイムスリップするよう設定されてて起動したんですね。あれ、でも私達がここに来たのはバラバラの時間ですよね。」

 「これも推測だけど、人によって設定を変えないといけないんじゃないか。簡単なところだと、身長と体重とかの違いで同じ設定でも着地時間が違うとか。だとすれば、色紙さんより身長と体重が若干大きな俺が23時の少し前、少し小さいめぐにゃんが少し後に到着した。」

 「そう言われると、それしかないくらい筋が通ってますね。」

 上目遣いにこちらを見る。

 「だから、俺達はタイムスリップしたと考えた。めぐにゃんが現れたことで、推論が裏付けられた。」

 目を伏せ、思案するやがて手を膝の上に重ねて話し出す。

 「タイムスリップについて、色紙さんから聞かされた情報を共有してください。」

 状況を把握し、打開策を一緒に考えるつもりなのだろう。

 「そんなに多くは教えられていないけど、思い出せる事を列挙する。」

 指を一本立てる。

 「一つ、タイムスリップした場所にしかタイムスリップ出来ない。琵琶湖の真ん中でタイムスリップしたなら琵琶湖の真ん中、富士山頂でタイムスリップしたなら富士山頂にしか行けない。」

 「ということは、ここはあの十字路の未来なんですね。」

 首肯する。指をもう一つ立てる。

 「二つ、タイムスリップには回数制限がある。同じ時間には同一人物が3人までしか居れない。」

 「もう少し詳しく教えて下さい。」

 「例えば、今ここにタイムマシンがあったとして、俺が過去の俺に会いに行く。ここで俺は2人になる。更に未来からタイムスリップして来た俺がやって来る。3人存在するがこれもセーフ。問題は次だ。更にもう1人がタイムスリップした来た瞬間、4人目は死ぬ。原因は解明されていないと言っていた。」

 「あまり深く考えたら沼にハマりそうですね。そういうルールとして頭に入れておきます。」

 「その方が良い。」

 指を立てず、2本のまま話す。

 「以上が色紙さんから聞いたタイムスリップに関連する話だ。」

 「少な。」

 冷静に突っ込まれてしまうが、動じない。それは俺も分かっている。

 「問題はこの検討材料で過去に戻る方法を探さなきゃいけないということだ。」

 「何か思い付いてますか?」

 「大きく分けて二つしか無いと思う。」

 「教えて下さい。」

 立てていた指の一本を折る。

 「最終的な目標はタイムマシンを使う事だ。そこまでの道のりが2つ。一つは、色紙さんに助けてもらう。」

 折った指を再び立てる。

 「色紙さんを介さずタイムマシンを使う。」

 「二つ目は現実的じゃないですね。」

 「俺もそう思うが、一つ目がどれだけ現実的だと思う?」

 「ずっとここで待っていればいいじゃないすか。色紙さん達も私達がここに飛んで来たことは、奴らを叩いて聞き出すなり、タイムマシンの履歴か何かで分かるはずです。それならずっとここにいればいつかは色紙さん達がやってきます。」

 「本当にそう思う?」

 質問されためぐにゃんはじっとこちらを見つめ、やがて目を大きくする。

 「二つ、ダメな理由が考えられます。」

 黙っていることで先を促す。

 「一つは、ここに既に二度タイムスリップしている場合です。ここにタイムスリップした瞬間に死にます。残党の作戦は、飛ばされて来た直後を待ち伏せて殺すではなく、タイムスリップそのもので殺すことかもしれません。」

 「それは考えられる。」

 「二つ目は、ここへ飛ぶ事が安全じゃ無い事です。待ち伏せされている事は間違いないです。どのくらいの敵がいて、どのような体制で待ち受けているのか分からない以上、迂闊にこの場所のこの時間の近くへは飛べません。」

 状況を理解できているようだ。もし、敵が想像以上の数待ち構えており、太刀打ちできない場合、即死するような罠を作られていた場合、絶対に脱出できない牢に飛ぶ事になっていた場合。いくつものパターンが想像できる。

 「更に俺たちが飛ばされたことで人質にされている恐れもある。」

 「確かにそうですね。こっちの状況は一切分からない。過去に残っている残党から構成や配置を吐かせても、確実に信頼できるものじゃないですから。」

 その通りだ。こちらか過去へアクションを起こせるわけでもない。

 「それじゃあ、どうしたら良いと思う。」

 めぐにゃんはパッと椅子から立ち上がる。

 「まずはここから離れます。」

 色紙さん達が、状況が読めないこの場は待っていても迎えが来る事はしばらくない。

 「それから付近を探索します。」

 俺もそう思うが、念のため理由を聞く。

 「目的は?」

 「一つに敵情視察です。付近に敵はいるのかどうか。もしかするとアジトというか、縄張りのど真ん中かもしれません。」

 首肯する。そうなった場合、色紙さん達は近くに来ることすら叶わない。

 「二つ、もし私が色紙さん側であれば、23時付近のこの場所を遠くから偵察すると思います。突入できるような状態なのかとか、2人はどこにいるのかとか。その時に合流できれば幸いです。」

 「俺も同じことを考えてた。」

 「本当ですか?」

 訝しんでくるが、本当なのだから仕方ない。

 「とりあえず、付近の様子を探ろう。」

 そう言って、ドアに手をかけ、立ち止まる。

 「めぐにゃん、俺の着替え持ってたよね?」

 そう言うと頬を膨らませる。

 「このままバレずに出歩けば良かったのに。」

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