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ハルイチバン  作者: 柳瀬
二年生冬
103/125

ここは

 しばらく瞼の裏で光が続いたが、やがて眩しさも無くなりゆっくりと目を開ける。

 外に居たはずなのに室内に居る。

 教室程度の大きさで、事務机や椅子、棚、何かの紙や冊子が床に広がっている。明かりはなく、廃墟となった事務所の一室という雰囲気だ。しばらく掃除もされていないようで埃っぽさとカビ臭さがある。

 来たことはない場所で、さっきまでいた場所との位置関係も分からない。

 もしかすると、死後の世界かとも思うが、少し状況を整理した方が良さそうだ。

 スマートフォンを取り出す。新しい通知はない。そもそも電波もない。Wi-Fiも付近にないらしい。これでの連絡は出来ないらしい。

 改めて辺りを眺める。かつては事務所だったようだが、使われなくなった事務器があるばかりで、電化製品は見当たらない。

 めぐにゃんも辺りにいない。

 さっきの機械は、殺すための機械ではないのかもしれない。

 現状を、死後の世界や臨死体験という可能性を除外して検討する。

 間違いなく、あの発光する機械により、ここに居る。強制的に気絶させる機械、記憶を改竄する機械の場合、意識を失い拉致、この部屋に監禁となる。

 しかし、この部屋には窓がある。

 近付いて窓を開ける。思ったよりも緩い風が吹き抜ける。

 窓の外は知らない風景だった。背の高い建物が乱立しているが、そのどれもが古びて明かりはほとんど灯っていない。さっきまでいた場所とはまるで違うし、どこかも分からない。

 ただ、監禁目的ではないと分かった。ここは一階で、出ようと思えばこの建物から直ぐに出ることができる。

 外に出て、誰かの助けでも呼ぶか、色紙さんと連絡を取れれば良いか。

 考え事をしていると、遠くから音が聞こえてきた。

 この部屋の反対側、この建物に誰か数人が入って来たような音が聞こえる。

 咄嗟に、窓の外に出て外側から窓を閉める。

 走り去っても足音がすると思い、壁に張り付き聞き耳を立てることにする。

 意識を集中させ、入ってきた人の気配を探る。足音が多く、少なくとも5人以上ではあるようだ。何か話しながら歩いているようで、だんだんこちらに近付いてくる。

 がちゃりと音がして、さっきまでいた部屋に人が数人入って来た。

 「まだ少し時間がある。」

 1人がそう言う。

 「後5分だ。」

 何かの待ち合わせのようだ。もう少し様子をみて、大丈夫そうなら話でもしてみようか。

 「23時ちょうどに飛ばされて来るはずだ。」

 さっきまでめぐにゃんと歩いていた時間は17時過ぎだったはず。後5分が23時なら、6時間くらい時間が経過していることになる。飛ばされて来るという言葉の意味がよく分からないが、おそらく色紙さんと間違われて俺が飛ばされたということになるのかもしれない。

 「念のため飛ばされなくても23時5分まで待つ。」

 中の人達が各々が適当に返事をしている。

 じっと、みじろぎせずに時間が過ぎるのを待つ。その間に、思考を巡らせる。

 ここはどこか。

 辺りを見渡すが、この建物も周りも同じように寂れた雰囲気がある。耐用年数が経過し、補修されずそのまま見捨てられた建物。建物が密集しており、都会の一画ではあるだろうがゴーストタウンのようなスラム街のようで、ゴミが道の隅に転がっている。

 見たことがない場所だし、検討する材料も少ない。

 中の人達は何者か。

 飛ばされて来るという言葉の意味を正確に理解していないが、俺の置かれている状況に関係があると考えて良いだろう。すると、色紙さんを狙って飛ばそうとしていた人達となる。つまりは、見据の進会の残党だ。姿を見せない方が良いだろう。奴らは23時5分には立ち去るだろうから、それまではここに隠れる。

 俺は何をされたのか。

 あの機械で、色紙さんと間違われて飛ばされた。飛んだ先には中に奴らがいて、来た瞬間に殺されるのだろう。

 飛ばされるとは何か。

 動けず、考えるだけの時間を得た事によって、冷静に思考を巡らせる事が出来た。きっと、確証は無いが、飛ばすとは。

 「5分過ぎたな。」

 中の1人が声を出す。

 「失敗したか。」

 「いくら色紙でも、あの待ち伏せは抵抗出来ないと思ったが…。何か知らない能力があるのかも。」

 「ちっ。奥の手は隠してるのか。」

 「作戦は失敗したと考えて一旦移動しよう。」

 その言葉を皮切りに、部屋から出て行く事が続く。

 静まり返っても、念のため少し待ち、そっと窓を覗く。誰も居なくなった室内は、先程と変わったところはない。

 窓枠を跨り、室内に戻る。

 予想が正しければ、そろそろ。

 不意に目の前に、めぐにゃんが現れる。文字通り目の前、後少しでも触れてしまう距離。

 「わっ!!」

 大きな声を出して、めぐにゃんは後ろに飛び退る。

 口元に人差し指を当てて、静かにのジェスチャーをする。

 めぐにゃんは胸に手を当て深呼吸をする。

 耳を澄ます。

 幸い、誰かが来るような音や気配はない。

 「なんっ、どうっ、え?」

 露骨に混乱していて、笑いそうになるのを堪える。

 再度、深呼吸して小さな声で喋る。

 「どういう状況ですか?」

 「確証はないけど。」

 そう前置きをするとめぐにゃんは頷いた。

 「ここは未来だ。」

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