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ハルイチバン  作者: 柳瀬
一年春
10/125

C the time

布団に潜り、ぐるぐると今日の事を考えていた。契約をしてしまった。

おそらく、これから俺が想像していなかった日常があるはずだ。誰しも欲すると非日常が。これからずっと、昨日の花見のような浮かれた空気が流れるのだろう。実際にそこに身を投じて、嫌気が刺さないとは限らない。それでもそれが契約だ。

今はうだうだ考えても仕方ない。テスト前日の夜のように何も考えずに寝てしまおう。


3連休の真ん中の日曜日に学校へきた。校門は空いていたが人の気配はない。活動している部も見つからず、教職員もどうやらいないらしい。

昇降口の前を見るが誰もいない。校舎の上に取り付けられた無駄に大きい時計を見ると、時刻は10:00。スマートフォンを見ると9:55。メッセージはない。

昨日、契約後に色紙さんにここに来るように指示された。

契約という口約束をした後に、色紙さんは俺が明日も暇だという事を再確認した。そして、「あまり人目に付かず、活動が出来る、最低限バレーコートくらいの広さがある場所を知らないか。」

と聞かれた。

俺はうってつけの場所が思い当たった。剣道部の練習場所、格技場だ。

その事を伝えると、明日の10:00に昇降口集合、動き易い格好でと言い解散となった。

動き易い格好と言われ、ウインドブレーカーでも良いかと思ったが、無難にジャージを着て来た。学校指定のものではなく。ただ何となく部屋着にでもしようと思っていた安物だ。

「遅刻せずにきたね。」

ぼんやりしているうちに色紙が大きめのバックを下げてやって来た。服装は制服だ。疑問には思うが突っ込まない。

「こっちにある。」

そう言って格技場へ案内する。昇降口は鍵がかかっており、ぐるりと回りこまなけえなならない。校門に近い、自転車置場集合にすれば良かったと後悔する。

体育館の周囲を歩き、北にある格技場へたどり着く。ドアノブを回すと案の定鍵がかかっている。ドアのすぐ脇に、釘に掛けてる格技場と文字の書かれた木の表札の様な物を取り外す。その裏に小さな釘が打ち付けられ鍵が引っ掛けられている。

「防犯意識低いなぁ。」

そう言われるが、これが1番効率的だ。何しろ誰が来て誰が帰るか分からない部活なのだから。

中に入るとしんと静まり返っていて、なんだか悪い事をしている気分になる。

「まあこのくらいあれば十分かな。この部屋は更衣室的な?」

「そこが女子部室で真ん中は男子部室、奥が物置。」

そう教えると色紙さんは物置のドアを開け、中を見る。そのあと鞄から取り出した物を俺に投げつける。何とかキャッチすると、それは黒い服の様だ。タイツの様にぴったり、上下のもののようだ。

「それ着て。私も着替える。」

そのまま物置に入りドアを閉めた。

黙って言う事を聞くことにする。

男子部室に入り、ジャージを脱ぐ。渡された服はアンダーアーマーのトレーニングウェアの様に見えるが、ロゴはどこにもない。とりあえず着てみて、上からジャージを着る。隣からドアが開く音は聞こえ、俺も出る。

色紙さんも同じものを着た様で、腕や足がそれで黒くなってる。

「上下着たね。上下とも手足ギリギリまでちゃんと着てね。あと、お腹もちゃんと出ないように着てね。全身タイツ状態に。それとこれも。」

そう言ってまた黒い物を投げ渡す。どうやら手袋のようだ。テレビの手術シーンで見るようなぴっちりとしたもので、材質はさっきのトレーニングウェアと同じに思える。

色紙さんも同じ手袋をつける。

「さあ、これから体術を学んでもらうよ。私教えるの上手じゃないけど。」

「組手でもするのか?」

「いいや。ガチで殺す気で殴ったり蹴ったりしてきて。私もそうする。」

「絶対痛いでしょ。」

顔を顰めてそう言う。

「それが痛くないのよ!」

そう言って、色紙さんは思い切り俺のみぞおちを殴る。あまりの早さに何も抵抗出来ずに後ろにふっ飛ばされる。

やばい。

そう思って蹲り、口元を抑えるが、痛みがない。あまりのダメージで脳がおかしくなってしまったのか?

「平気でしょ?」

深呼吸をしてみる。痛みはない。腹をさするが異変はない。

「何ともない。」

「そのウェアのおかげ。衝撃はあるけど痛みは感じない。」

「どうなってんの?」

「知らない。生まれた時に既にあったものだから、そういうもんだと思ってる。三城君だって何でテレビが映るか気にした事ないし気にしてもそういうもんでしょ?」

確かにテレビの原理は知らない。インターネットとかそういうのは、そういうもんだと認識している。

未来の人は、今の時代から見たら何でだと思うことも、疑問に思わず使っているのだ。江戸時代の人間がテレビを見て、なぜ人が映ると聞かれても、そういうもんだとしか言えない。

「痛くないから普通に実戦練習ね。CQCね。顔は無防備だから手は出さない。三城君はどこに打ってきても良いよ。本気で殺しに来て、絶対殺せないから。」

余程自信があるらしい。構えは別に取っていない。ただ真っ直ぐ俺を見つめている。

左足を一歩出し、右足に力を込める。

「行くよ。」

何も言わず殴りかかる訳にはいかない。

「さすが三城君。飲み込みが良いというか、理解力があるというか、よく信じてくれるね。」

そう言われてふと考える。しかし、答えはすぐに出た。

「証左があるから。色紙さんが殺されかけてたところを見た、眼鏡で色紙さんを見て見えたオーラみたいなもの見た、今着てるウェア。これで信じないのは認めたくないだけだ。」

「それでも普通信じないよ。」

「いつも漫画や映画で、非日常を受け入れられない主人公に苛立ってたからかもな。」

「確かにあれは仕方ないけど、うざったいね。それじゃあ、好きなとこに打ってきて。」

短く息を吐く。いくら本人が絶対に喰らわないと言っていても、相手は女子だ。ウェアを着ていても衝撃はある。少し手加減して殴ってみようか。

一気に駆け寄り、右手を脇腹狙いで軽く放つ。

四季さんは軽く後ろに飛び、躱す。そのまま左足で俺の方を蹴りつける。

痛みはないが、バランスを崩し、倒れ込む。すかさずその隙に腹へ蹴りを決めてくる。

総合格闘技のようだ。

痛みはないが、普通なら立ち上がれないレベルだ。

「手加減しないで。今日の目標は本気でやって私に一撃入れる事だからね。」

立ち上がるのも苦労しそうな連撃だったが、容易く立ち上がることができる。

考えを改める必要がある。今の一連の攻撃で、色紙さんが容赦ない事とかなり強いという事が分かった。蹴りを目で捉えたが、躱すには蹴りの振り抜きが速すぎた。

様子を見て色紙さんの攻撃に合わせて返し技でも思うが、さっきの蹴りを見るに真っ向勝負の速さで勝てる見込みはない。

どうやって一撃入れるか。

様子見で一撃本気を出す。一気に踏み込み、出来る限り最速で薙ぐように蹴りをする。しかし、それを飛び越える様に躱す、走高跳をその場でやってのけるようだ。

追撃はしてこない。余裕の現れだ。

ならば。

足払いを掛ける。当然上に跳ぶ。そこを狙う。身体を一回捻り、右足を振り切る。これなら入っただろと思う。

しかし、その蹴りを左足で受け、その勢いを利用し身体を宙で回転させる。これじゃあまるでダメージはない。身体には当てたが一撃の内には入らない。

一度退く。

「以外と動けるし、目も良いみたいね。センスあるよ。」

「色紙さんは凄く強い。なんで? 」

「訓練したからね。私の時代は義務教育なんてすぐ終わる。こっちで言う中学校の時代に、もうこの仕事専門の中学校に入ってひたすら法令学んだり体術とか戦う術を学んでたし。」

「連中ってそんなに強いの?」

「連中?ああ、CTTね。名称言ってなかったか。Correct the time とか、choice the time change the timeを略してCTT。若しくは時正、時正教とか言われてる。」

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