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冒険者になりました

 ……不思議な感覚だ……


 ……ここは夢か現実か……


 体には力が入らず、意識だけが微かに残っている。


 微かな意識の中で俺は俺を見ていた気がする。


「……ろん、……お…て……」


 誰かが呼んでいる気がする。


「……ん、おきてー」


 アシュが俺の体を揺すっているようだ。どうやら俺は眠ってしまっていたらしい。


「アシュおはよう……あれから寝ちまったのかぁ……」


 窓から外を見ると、もうあたりは明るくなっていた。


(なんか不思議な夢を見てた気がするんだが……)


 夢を見ていた気がするが、内容はおもいだせない。ただ、懐かしい感じだった気がするが……


『ぎゅるるるぅぅ』


 隣のアシュのお腹が小さい音を鳴らしている。少し恥ずかしかったのか、アシュは顔を赤く下を向た。


「なんか食べに行こっか?」


 実際、自分も空腹である事に気が付いた。昨日は宿屋に着くとすぐ寝てしまったため、朝から何も食べてないことになる。流石に1日中食事を取らなかったら朝からでもお腹が空くものだ。


 今晩も恐らくこの宿屋を使うことになると思われるので、荷物はまとめず、受け付けにいた宿屋の主人に延長をお願いする。


「プラス1パーンになるけどいいかな?」


「はい、お願いします」


「では、今日と同じ部屋を使ってくれ」


----


 宿屋を出ると、目の前の通りは早くも賑わいを見せていた。


「アシュ、なんか欲しい物があったら言っていいからな」


「うん、わかったぁー!」


 そう言うと、アシュは目をキラキラさせながら露天を見ようとするが、アシュの背からでは何が売っているのかわからないのだろう。背伸びをしたりジャンプしたりしている。


「かたぐるましようか?」


 アシュはしばらく自力で頑張ろうとしていたが、諦めたのか、首をこくこくと縦に振った。俺はアシュをかたぐるまして通りを歩くことにした。


「あれがいいなぁー」


 アシュが指さした先には棒のようなものに丸い玉のようなものが刺さっているものだった。恐らく、お菓子のようなものなのだろう。元気の良さそうなおばちゃんが売っているため少し話しを聞こう。


「あのーこれってなんですか?」


「これは、ベネヴァの名物スイーツ、ガラガラ棒だよ! 今なら一つ1パーンマ二だよ!」


 どうやらお菓子であることに違いはないようだが、パーンマニとは?村長やケニーから貰った銅貨は1枚1パーンらしいのだが……


「これで買えますかね?」


「あんたそれは1パーンじゃないかね。10本欲しいのかい?」


「いえ、買えるならいいんです。2本でお願いします」


「まいど! またのお越しをっ!」


 危うくよくわからない名物スイーツを10本も買うところだった。お釣りとして1パーンの半分くらいの大きさの銅貨を8枚渡された。お金の価値としてはパーンマニ10枚で1パーンという計算なのだろう。俺はアシュを肩から下ろし、露天の隣にあったベンチに腰をかける。


「アシュ美味しいか?」


「うん! とってもおいしーよ!」


 どれどれ、俺も一口味見するか……


(うまっ!! 甘っ!! なんだこれ!?)


 この名物スイーツは俺の予想よりも遥かにうまかった。

 球体の物はスポンジのような感覚であり、周りはホワイトチョコレートのようなものでコーティングされているが、このソースが最高にうまい。ホワイトチョコレートのようなとろける甘さを残しつつも、ミルクの濃厚さがより伝わってくる。


(10本買ってもよかったな……)


 少し後悔しつつも、俺はこの街に来た理由を確認し直す事にした。


(俺たちがこの街に、来た理由はクラッドって奴に情報収集する為だ。だが、そのクラッドって奴が何処にいるのかどうか……まあ、だいたいこういう時は酒屋のような場所に行けば分かるんだよなっ!)


 俺は棒だけになったガラガラ棒を露天の横にあったゴミ箱に捨ておばちゃんに酒屋の場所を訪ねた。


「ガラガラ棒美味しかったです。今から酒屋のようなところに行こうと思うのですが、近くに無いですかね?」


「なんたって名物スイーツだからねぇ! 酒屋はこの辺りには無いけど、ここの一つ先の通路を右に曲がると冒険者ギルドっていうとこがあるよ。酒が飲みたいならそこに行けばいいよ」


(酒を飲みたい訳では無いのだが……冒険者ギルド……村長もこの街には冒険者を目指して行く若者も多いと言っていたな。酒屋でなくても何か情報がわかるかもしれないな)


 俺はアシュを再びかたぐるまして露天のおばちゃんの案内通りに冒険者ギルドを目指すことにした。


----


 おばちゃんの案内通り通路を右に曲がると一目で何処が冒険者ギルドかわかった。かなり大きなレンガと木で作られた建物があり、その前はガタイの大きい男達で溢れかえっていた。建物から20メートルくらい距離はあるが、ベネット村と同様に騒ぎ声と楽器が繰り出す独特な音色が俺達のいる所まで届いていた。


 俺はアシュを肩から下ろし、離れないように手を繋いで冒険者ギルドの中に入った。

 入ってすぐ受け付けのようなカウンターがある。奥には受け付け嬢と思われる人が1人、2人、3に……。左から2人までは可愛らしいお姉さんだが、3人目の席には何故か神が集う某温泉旅館を、経営してそうな髪型をした眼鏡の老婆が座っていた。


(もし仮に冒険者になるとしても絶対にあのカウンターには行かないでおこう……)


 カウンターの右奥は食堂になっているようで人も沢山いた。俺はそんな事を心に誓いながら食堂にむかうが……


「あんた、見慣れない顔だねぇ〜、冒険者になりたいならここで受け付けしてから行きな」


 そろーっと行けば声をかけられないと思っていたが、少々考えが甘かったようだ。


「あしゅたちぼうけんしゃさんになるの?」


 アシュが、老婆に話しかけてしまった。無視していく訳にもいかない。仕方ないが、少し話すことにするか。


「お嬢ちゃん、アシュって名前なんかねぇ〜? かわいいねぇ〜でも、アシュちゃんには冒険者はちょっと早いかもしれんねぇ〜」


(優しそうな人でよかった……)


そんな安心も束の間であった。


「ところであんただよ。小さい女の子を連れてこんな野蛮な所に来てから! 飛んだ野郎だねぇ〜っ!」

 

 アシュに対してはまるで孫と話してるようににこにこしてたかと思った矢先、俺の方を向いて一括してきた。


「いえいえ、誤解です! ただ情報収集をしようと思っただけで……」


「問答無用っ!! どちらにせよこの奥の食堂は冒険者のものじゃよ。このギルドに登録せずにはこの先に進むことは出来んよ」


 老婆は俺が話終える前に口を挟んできた。仕方ないが、冒険者ギルドに登録せずには進めないようだ。


「なら、登録させていただきたいのですが……」


「ふぅん! 本来ならこんな小さい女の子を連れてきた時点で追い返すとこじゃが、どうやら訳ありのようじゃからのぉ! 今回は特別じゃ!」


 そう言うと老婆は1枚の紙を取り出した。


「では、お前さんにいくつか質問するから正直に答えるんじゃよ。……お前さんは何族かね?」


「たぶん人間族だと思います……」


「たぶんじゃと?」


「いえ、人間族です……」


「よろしい、……モンスターとの戦闘経験は?」


「ケンターキーなら倒したことなあります!」


「何をケンターキーごときで調子に乗っ取るかっ……使える魔法は無いのかい?」


「たぶ……いえ、有りません」


「よろしい、では、質問は以上じゃ。この欄に自分の名前を書いてインクで指紋をつければ登録完了じゃ」


 ふぅ……なんとか登録できそうだ。


「はい、書き終えました」


「ふむふむ……クロン? お主苗字は無いのかね?」


「はい……」


 記憶喪失なんて言ったらまた何をされるかわかったもんじゃない。ここはだまっておこう。


「変わった奴じゃの……まあ良い。これからはあまりその子を連れてこないようにするんじゃぞ!」


 そう言うと、老婆は俺に布袋を渡した。


「冒険者ギルドに登録した以上はもうお前さんは冒険者の一員じゃ。この袋は刈り取ったモンスターの部位を持ち帰って報告するためのもんじゃ」


 老婆によると大形モンスターとかになると死骸をまるまる持って帰ることはできないため、各モンスターの特徴となる部位だけをギルドに持ち帰って報告する制度らしい。その後食用に適したモンスターなどは、おおよその討伐した位置を伝えた後、係の人が回収するらしい。


 なんとか尋問のような会員登録を終えた俺はアシュを連れて空いているテーブルについた。


(なんかどっと疲れたな……誰か物知りそうなやつに話を聞かなくては……)


「おい、どうしたんだよお前。そんな疲れた顔ししてから……なんか悩みでもあるなら俺に話してみろよ」


 振り返ると、オレンジ色の髪のくせ毛をした、俺と同じくらいの歳に見える男が話しかけてきた。冒険者にしては体が細い気もするが……ちょうどいい、クラッドって奴の事を知ってるか聞こう。


「じゃあちょっと話を聞いてくれよ……今探している人がいてな……」


 俺は今までの簡単な経緯を男に話した。


「……それであの湯婆婆に一括されて、へこんでた訳かぁ……まあ、あの婆ちゃん怒るとこえーけど、色々知ってるし、このギルドではベテランなんだぜ。悪く思わないでやってくれよ」


「誰だい! 私の事に湯婆婆とか言ったやつは!! 出てきなっ!!」


 今まで騒がしかったギルドが、一瞬にして静まり返った。あたりからは、『誰だよ言った奴……』やら『命知らずにも程があるだろ』とか呟く声が聞こえてくる。アシュも少し怖がっているが、それよりも、向かいの机に座ってるムキムキの男が『俺じゃねぇ……助けてくれ神様……』なんて頭を抱えて命乞いをしているのに目がいって仕方ない。


「誰かはわからんが、次言ったらただじゃ置かないからねっ!」


 その後も1、2秒程静寂に包まれたが、周りからは安堵の息が漏れ始めた。


「やっべ……あの婆ちゃん、地獄耳だったの忘れてたぜぇ……」


「いや、地獄耳とかいうレベルじゃないだろっ!」


 俺はこの男に初対面だが盛大にツッコミを入れた。


「まあ、何はともあれ、お前達はクラッドさんを探してるみたいだな。」


「クラッドさん? その人を知ってるのか?」


「ああ、知ってるも何も、クラッドさんはこの街のパーン教の司教だからな。知らない奴はいないと思うぜ」


 なるほど。スコットが知っていたのも、教会繋がりだったのかもしれない。


「じゃあこの街の教会に行けばクラッドって人はいるんだな……ありがとう、助かったよ」


 そう言って俺は立ち去ろうとすると男は止めてきた。


「自己紹介がまだだろ! せっかくだしお前たちの名前を教えてくれよ」


「そういやまだ、自己紹介してなかったな。俺はクロン。そして、この娘はアシュだ」


「あしゅだよー」


「そうか! よろしくなクロンとアシュ! 俺はペイルってんだ。こんなところにいるけど冒険者じゃなく、モンスター回収やってんだ。もしクロン達がモンスターを倒したら俺に言ってくれよな」


 通りで体が細いわけだ。回収ならモンスターと戦うことは少ないだろう。

 俺とアシュはペイルとの握手を終えると教会に向かうため、再び人混みの中に入って行った。




 読んでいただきありがとうございました!今まで大体1日に1回投稿してましたが、冬休みも終わり、1日1回はできなくなるかもしれません。次回もよろしくお願いします!

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