表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

ケンターキー襲撃

 今回は戦闘もあります。少し残酷な描写もあるのでお気をつけください。

「そろそろ出発されたほうが良いですぞ」


 俺は村長に起こされ目が覚めた。部屋の針時計は午前5時を指している。まだ外も暗い。


「まだ、早くないですかぁ……」


「半日ほどかかると言いましたじゃろ? 外に乗り合い馬車も用意して置きましたぞ」


 仕方なくベットから出ようとしたが……


「寒っ!!」


「この辺りは朝晩の気温の変化が激しいのでのお……コートも用意しておいたので出る時は着ていってくだされ」


 この辺りは、丈の短い草が生えており、乾燥した秋晴れのような印象をうけた為、ステップ気候に近いのかもしれない。ステップ気候では、昼と朝晩での気温差が激しいと聞く。


「朝食はもう出来ておりますぞ。アシュと名付けられたのですかな? あの子ももう朝食を食べてお主について行く気まんまんですぞ」


 部屋を出ると、もう朝食を食べ終わったのか、口もとをソースのようなもので汚したアシュがいた。


「くろん、おはぁよー!」


「おはようアシュ。一緒にベネヴァまで行くのか?」


「あしゅ、べねばぁいく!」


 アシュも、記憶喪失しているならば、なにか手がかりがあるかもしれない。一緒に行っておく事に間違いは無いだろう。


「そうか、じゃあちょっと待っててくれよ」


 そう言うと俺は朝食を食べ終わり身支度を整えた後、村長に貸してもらったコートを着て家を出た。

 アシュも村長に茶色のポンチョのようなものを着せてもらっていた。口もとのソースも村長が拭いてあげたのだろうか、綺麗になっていた。

 人間族でないやら、マナがあるから用心やら、そんな事を言っていた村長だが、アシュの事を気にかけてくれてるようだ。


「では、皆さん。出発される前に武器屋と酒屋に行きますぞ」


「なんで隣町に馬車で行くだけで武器がいるのですか?」


「馬車であってもケンターキーが襲ってくることもありますのでのぉ……用心に越したことはありませぬ」


(ケンターキー怖すぎだろ……)


----


 この村の普通の民家にも見える武器屋に着くと村長は銅色の硬貨と思われるものを10枚くれた。


「わしは、この娘を連れて外で待っておりますので、好きなものをお買い求めてくだされ」


 武器屋の中には、剣、ナイフ、棍棒、杖のようなもの、それから皮でできた簡易な防具が置いてあった。


「ベネヴァにでも行くのか?」


 店の置くから店主と思われる頭にバンダナを巻いた50代くらいの男が出てきた。


「はい、今からベネヴァまで行こうかと……」


「最近はケンターキーの襲撃も多いと聞くしなぁ……ここは、武器屋の俺セレクションの武器でも買ってきな! 安くしといてやるよ!」


「銅貨10枚で買えるなら…」


「銅貨10枚? 10パーン持ってるってことかあぁ? それならこれだ! 『今日から君も冒険者だ! ~初心者応援パック~』なんてどうだ? ぴったし10パーンだ!」


 冒険者になるかどうかは別として、防具も武器も一式そろっているようだ。ちょうど良いのでそれを買うことにしよう。


「まいど! また来てくれよ!!」


 俺は店主に防具を装備させてもらい店を出た。


「気に入られた武具はありましたかな?」


「はい、お陰様で冒険者になれそうなくらいですよ」


「それはよかったですな。では酒屋に寄ってから出発するとしましょう」


「そういや、なんで酒場に寄るのですか?」


「わしが若かったらよかったのですが……もうわしはモンスターと戦えませんのでのう……念のために用心棒をつけた方が安心じゃろう」


 確かに俺とアシュでは、モンスターに襲われたらどうなるかわからない。用心棒を付けてもらえると安心だ。


----


 酒屋の前に着くと昨日と同じ様に騒がしい声や音色が外にまで漏れていた。中に入るとケニーが俺に気付いたのかすぐにこちらに来た。


「おう、兄ちゃん! 1日ぶりだな!」


 今日も相変わらずの奇抜なファッションと大声だ。


「今日も元気そうじゃのう」


「なんだ、村長も来てたのか……ってこたぁ討伐系の依頼かぁ?」


「彼らをベネヴァの街まで護衛してやってはくれんか?」


「勿論いいさぁ! なんたって俺と兄ちゃんはもう兄弟みたいなもんだからな! ……でも、そこのちっこいも連れて行くのか?」


 俺はアシュの身に起きた事と、今までの経緯をケニーに話した。


----


「……なるほどなぁ……お前の前にこの村に来たって奴がまさかこんなにちっこかったとはなぁ……まあ、護衛するのに対象が一人増えようが関係無いぜ! その依頼引き受けたぜ!」


「よろしくおねがぁいします」


 アシュはケニーに対してぺこりと頭を下げている。幼いながらにも礼儀をしっかりと心得ているようだ。


「では、もう馬車も門の前に来ているはずですぞ。そろそろ行きますぞ」


----


 門の前にまで行くと、10人は乗れそうな大きな馬車が用意されていた。


「乗り合い馬車ですが、乗客はお主らだけじゃ。ベネヴァまで安全に行くことを願っておりますぞ」

 

 村長はそう言うと、俺たちに向かって『神の御加護を』とつぶやき、自分の両目を一つ一つ指差し、拳を額に当てた。この世界でいう、キリスト教のカトリックで十字を切る動作のようなものなのかもしれない。


「今まで親切にしていただき、ありがとうございました」


「いえいえ、旅人も少ないこの村じゃ。久しぶりの客人くらいもてなさなくてはいかんじゃろ」


 村長は、またしてもしわしわの笑顔をしている。だが、村長には本当にお世話になった。2日間の衣食住、銅貨の価値は分からないが、武器も1式装備を整えられる金額となれば、安いものではないだろう。俺は再び村長に深々と頭を下げ、馬車に乗り込んだ。馬車は俺たち3人が乗り込むとすぐに出発した。


「ベネヴァまででよろしいのですね?」


「はい、宜しくお願いします」


 御者の人は、慣れたように尋ねてきた。恐らくこの村から馬車を使う人はベネヴァに行く人しかいないのだろう。



 窓側では、アシュが『ばいばーい』と村長に手を振っていた。


 間もなくすると、村長は見えなくなり、村も霞むくらいの距離になってきた。


「そういえば嬢ちゃんの名前はなんて言うんだ?」


 ケニーはアシュが村長に手を振り終えたタイミングでアシュに話しかけた。


「あしゅだよー! くろんがつけてくれたんだよ!」


「そうか、いい名前だな! ところでクロンってこの兄ちゃんの事か? 名前思い出せたのか?」


「いや、村長がこの先思い出せなかったら困るだろうからってつけてくれたんだ」


「なんだ、そうかぁ……俺に頼めば『ザルド』とか『シーカー』とかもっと刺激的な名前をつけたのに残念だな!」


(村長に頼んで良かったかもなぁ……)


 危うく、ケニーに頼んでいたら世紀末的な名前になっている所だった。それにしてもなんでその名前のセレクトなんだ……


 その後は特に会話も無いまま、3時間ほど経った。アシュも外の景色を大人しく眺めている。ケニーは酒がまわったのか、気持ちよさそうに鼾をかいて寝ている。このまま安全にベネヴァまで着くと安心した矢先に事件は起きた。


「なんかとりさんがこっちにきてるよー」


 アシュが俺に向かって話しかけた直後、御者も大声を出した。


「ケンターキーの群れです!! こちらに向かってきてますっ!!」


 馬車の窓から後ろを覗くと額から剣の生えた鶏のような外見の生物が3匹、こちらに向かって走ってきている。体長は人間の大人と同じくらいあり、馬車よりも早い速度で追いかけてきている。


「なんだ、あの鶏!? やばくねーか!?」


「どうやらケンターキーの群れに遭遇しちまったらしいなぁ…」


 いつの間にか目を覚ましたケニーが、俺の横で剣を持ちながら呟いた。お調子者のケニーが、この様子だと、本当に危険な状態らしい。


「おい、運転手さん! あと30メートルくらい先で馬車を止めてくれ! 俺が外に出て闘う!」


「わかりました! 健闘を祈ります!」

 

「おい、ケニー! あいつらやばそうだけど大丈夫なのかよ!?」


「な〜に、なんのために俺がこの馬車に乗ってると思ってんだ! これでも俺は村で1番腕っ節が強いんだぜ!!」


 村長は、村でただ1人ケンターキーを狩れるものがいると言っていたがケニーのことだったのかもしれない。


 そうこうしてるうちに馬車は止まりケニーは勢い良く馬車を飛び降りた。


「クロン! すまねーが1匹相手してくれ! 倒せなくてもいい! 俺が2匹倒すまで時間を稼いでくれ!」


 ケニーとあっても3匹同時に相手をするのは難しいのだろう。俺もせっかく武器を買ったんだ何もしないわけには行かない。俺はケニーに続いて馬車を飛び下りた。


「だいじょーぶ?」


 馬車からアシュが、不安そうにこちらを見ている。


「すぐ戻るから馬車で大人しくしてるんだぞ!」


 そうは言ったものもまともに戦えるかはわからない。何故か戦闘の知識はあるしガタイも悪くは無いため、記憶喪失する前は格闘技をしていたのかもしれない。しかし、剣なんて物は使った覚えが無い。不安になりながらも俺はケニーの横に剣を構えて並んだ。


「ケンターキーは獰猛な奴だが、額に生えた剣のような角以外はただの鳥だ! 角に気を付けていれば大丈夫だ! だが無理はするなよ!」


 そう言うとケニーは器用に2匹のケンターキーをおびき寄せ馬車から距離をとった。当然1匹のケンターキーは、こちらに来るのだが……


 ケンターキーは俺から5メートルくらい離れたところから俺を睨みつけてくる。真っ黒でまん丸の瞳で遠くから見れば可愛らしいが、明らかに今は殺気を持っている。


(やっべー、この鶏本気じゃねーか……)


 『コォウケコッコォォォウッ!!』


 俺の前のケンターキーは空に向かって鳴いたかと思うと、角を向けてこちらに突進してきた。


「くっ……! 鳴き声はやっぱり鶏なのかよ……」


 間一髪のところでかわしたが、またもケンターキーは俺に向かって突進してくる。


「ふうんっ!!」


 今度は剣で角を受け止めるがかなり力が強い。近くで角を見ると、とても鋭利になっている事がわかり、攻撃を受けるとひとたまりもない事を示している。なんとか俺は横に角を流した。


(まともにやり合ったら力で負けるな……かわした後のタイミングで背中に攻撃するしか無いかぁ……)


 どんな格闘技でも最大の攻撃チャンスは相手の攻撃をかわした後である。必ず攻撃した後はスキが生まれる。そこにカウンターを入れるのが勝利への道だろう。


 俺の予測通り、ケンターキーは懲りずに角でこちらに突進をしてきている。


(……ここだっ!!)


 俺は1回目と同様に突進をかわし、ケンターキーの背中に向かって剣を振り下ろした。


『コォゥアッケッカァァァ!!』


 ケンターキーは悲鳴のように声をあげ2、3歩動いたが、バタリとその場に倒れ動かなくなった。


(やったのか……?)


 なんとか俺はケンターキーを倒すことが出来た。ケニーの方も丁度2匹目を倒したようだ。


「……ふう……なんとかやったか……お前も初めてなのによく倒せたなっ!」


「ああ、なんとかだけどな……っておい! お前その怪我大丈夫なのかよ!?」


 ケニーは右腕から血を流していた。


「ははっ……2体同時は流石にきつかったかもしれんな……少し痛むが気にすることは無いぞ!」


「それならいいんだが……」


 ケニーはなんともなさそうに振舞っているが、実際はかなり痛むのか、時々きつそうな表情が滲んでいる。


「ご無事で何よりです!」


 馬車に戻ると御者が声をかけてきた。


「……ってその傷大丈夫なんですかっ!?」


「ああ、問題ないぜ。それよりもとっとと出発しようぜ!」


 馬車に戻るとアシュが心配そうな顔をして待っていた。


「くろんたちだいじょーぶだった?」


「俺はなんともなかったがケニーが少し怪我してしまってな……」


「気にすんな嬢ちゃん! すぐに治るぜ!」


「いたいいたいとんでいけする?」


「おう、じゃあ頼むぜ」


 そう言うとアシュはケニーの前に行き、手を傷口の前に当てた。


「ははっは、全然痛くなくなったぜ! ……ってほんとに痛くなくなりやがったぜ!?」


 驚くことにケニーの右腕はさっきまでの傷が嘘のように消えている。


「嬢ちゃん! あんた魔法使えたのか!?」


 ケニーと俺も驚いているが、アシュも何が起きたのかわかってないようだ。


「いたいいたいとんでいけがきいたのかなぁ?」


 痛い痛い飛んで行けでは、気を紛らわす程度で、傷口が全回復するわけない。村長も言っていたがアシュは常人より多くのマナを持っているそうだ。そのため知らないうちに治癒系の魔法を発動したのかもしれない。どちらにせよ、アシュの記憶の手がかりにはなるだろう。


----


 その後も馬車移動を続けたが特に問題はなく、日が沈む頃には草原の奥にベネヴァの街が見えてきた。交通が盛んなのか、馬車道のような道がいくつも街に続いている。ベネット村に比べれば何倍にも大きいようで全長は見渡すことが出来なく、街の様子も外高さが4メートルくらいの外壁に囲まれているようで外からでは確認することが出来ない。


「馬車はここまでです。この先は検問などあるため、商業用の馬車以外は通れません。」


 御者によると、特別な理由がない限りは馬車では街に入れないらしい。門まで少し距離があるが歩いて行くしかない。俺とアシュは馬車から降りた。


「じゃあここでお別れだな……また、会える時を楽しみにしてるぜクロン! 嬢ちゃんも、元気でな!」


「ああ、ケニーのおかげでここまで来れたよ。村に帰ったら村長にもよろしく伝えといてくれ」


「おうよ! あと、これは餞別だ、受け取ってくれ!」


 ケニーは銅貨が10枚ほど入っている袋を馬車から投げてきた。


「ありがとう。大切に使わしてもらうよ」


 そう言うと、馬車は村まで帰っていった。俺とアシュは馬車が見えなくなるまで手を振っていた。


 門に着くとベネット村と同様に門番が立っていた。


「どこから何のようだ?」


「ベネット村からある人に用事があって来ました」


「そうか、ではベネヴァの街に、ようこそ」

 

 来る人全員にこういっているのであろう。門番は慣れた口調で街に入れてくれた。

 街はベネット村の時とは違い、とても活気に溢れていた。道には見渡す限りの人で溢れかえり、中世の町並みを彷彿させる露天、宿屋、酒屋のような建物が確認出来る。アシュも楽しそうに街を見渡している。


(とりあえずもう遅いから宿屋に、行こう)

 俺はアシュと離れないように手を繋ぎ、人混みをかき分けるように宿屋に行った。


 宿屋は、RPGゲームで出てくるような至って普通の造りだった。中に入ると主人が声を掛けてきた。


「1晩1パーンだがお休みになるかな?」


「お願いします」


 見た目との違和感を感じさせない接客だ。

 用意された部屋に入るとアシュはすぐさまベットの上に転がった。


「アシュ、眠たいのか?」


「なんかもうつかれたなぁ……」


 俺もケンターキーとの死闘によって体力を消耗したのかかなり疲れが溜まっているようだ。


「じゃあ、ちょっと休憩するか……」


 俺はアシュの隣に寝転がって目をつぶる。


(少し休憩するだけ……)


 そんなつもりで寝転がったが、俺たちは眠りについてしまった。










次回からベネヴァ編です。また、よろしいのですねお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ