ちぃくわぁはやめてくれ
いざ名前を決めようと考えると案外難しい。
その場しのぎの名前だとしても、やはり迷ってしまう。どんな名前をつけるべきか?
しかし、そんな俺とは裏腹に女の子はなにかひらめいたようだ。
「ちぃくわぁ!」
おいおいそれはないだろう……
彼女なりの親愛の情を表してくれてるのかもしれないが竹輪はちょっと勘弁してほしいな……
「竹輪じゃないのはあるかなぁ?」
「……ちぃくわぁ……」
ネーミングセンスに自信があったのか、かなりがっかりした顔をしている。しかし、こればかりは認めるわけには行かない。だってちぃくわぁはないだろう……今度は俺から提案した。
「アシュってどう?」
理由を聞かれるとはっきり言ってこれという理由は無い。
でもなんか、アシュって可愛くない?
「あしゅーー!!」
「じゃアシュってよんでもいいかな?」
女の子は『うふふっ』と笑って首を振ってくれた。
どうやら気に入ってくれたみたいだ。
後は俺の名前だけだが……
「ちぃくわぁ……?」
どうしても竹輪から離れることができないようだ。竹輪は嫌なので竹輪系の名前で勘弁してもらおう……
「ちくりんはどう?」
『…………』
「チックは?」
『…………』
「たけわさん」
『…………』
「ちくわぶ」
「ちぃくわぁぶぅーー!!」
俺としたことが更に悪い方向に持っていくとは……このままでは、竹輪かちくわぶになってしまいそうなので話をそらすことにしよう……
俺の目的はあくまで情報収集だ。楽しくお話ばかりしてるわけにはいかない。
「お兄ちゃんのなまえはまた後で考えるとして、ちょっと質問してもいいかな?」
アシュは首を縦に振ってくれた。
最初にあった時とは違って、今ではもう、すっかり元気になっている。俺と話をして、気が紛れたのかもしれない。
また、恐怖心を与えないように気をつけながら俺はアシュの身に何があったのか聞き出す事にした。
「どうやってこの村まで来たの?」
「あしゅくさがいっぱいのところにいたんだよ。ひとりぼっちはこわかったから、おうちがいっぱいあるところにいったの」
(自分のことアシュって言ってる! なんか嬉しい!
まあ、それはそうとして、草がいっぱいのところとは俺が目覚めた荒野と同じ可能性がある。となると、アシュが俺と同じ軌跡をたどっている可能性はほぼ確実だろう。もう少し話を聞き出してみるか……)
「そこで村長に会ってここに来たの?」
「ううん、おっきなもんみたいなところであしゅつかれてねちゃったんだよ」
そう言えば、門番の男も『立て続けに来るもんだな』とか言っていたような気がする。
あの門番が寝てしまったアシュを村長の家まで連れて来たのかもしれない。
(アシュが俺と同じ様に記憶喪失しているのは確実だろう。しかし、お互いに同じ様に記憶喪失しているのならこれ以上聞いてもわかることはないかもしれないなぁ……まぁ、もう少し話してみるかぁ……)
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その後もアシュへの質問をして分かったことをまとめると、俺と同じように記憶喪失をしている可能性が高い、人間族では無いということには自覚がないらしい、まあ、そのくらいだろうか……
少し気になることとしては国語力だろうか?
見た目だけなら、アシュはもう小学生でもおかしくはない年齢にも見えるが、そのわりには言葉がかたことというか……まぁ気にしすぎといえばそうかもしれない。
「お話は済みましたかな?」
村長がタイミングを見計らっていたかのように部屋に入ってきた。
「はい、一通り話せました」
「そのようですのぉー楽しそうな声が外まで聞こえてきましたぞ」
村長は、しわしわな顔を更にしわしわにして笑ってきた。
「そう言えば、貴殿のお名前はお決まりになりましかな?」
「それが、決まっていなくて……」
この村長はどこまで話を聞いていたのだろう?それか、本当にエスパーかなにかなのだろうか?
「わしでよろしければ、明日までに貴殿の仮名をかんがえておきましょうかな? この先、名前を思い出さなかったら困ることも多いでしょう」
「それは助かります」
竹輪系になるよりは村長に決めてもらったら方が間違いはないだろう。
「今晩宛もないのでしょう? もしよろしければうちに泊まって行ってくださいな」
「助かります」
窓から外を見るともう夕方だった。記憶喪失から食事もしてないためお腹も空いている。今晩は村長にお世話になるとしよう。
「部屋はそこの空き部屋をお使い下さい」
アシュの部屋に壁伝いで繋がっている客室と思われる部屋を貸してくれるようだ。
「すぐに夕飯の準備をしますので、しばしお部屋でお待ちくだされ。」
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部屋に鏡が会ったのだがそこで俺は始めて自分の顔を見ていることに気がついた。
「俺ってこんな顔してたのか……」
髪は黒色で、長さは特に短いわけでもなく長くもない長さ。顔の特徴はこれといったところがなく、ブスでもなく、イケメンでも無い。強いて言うなら若干面長だろうか。
「俺の顔特徴ねぇー」
自分の顔に悲しんでいると、村長から夕飯の準備ができたと知らされたのでリビングにでて机についた
アシュもお子様用の椅子に座って村長が運んでくる夕飯をそわそわしながら待っている。
「出来ましたぞ。どうぞお召し上がりくださいな」
村長は食欲をそそるいい香りと共に、食事を運んできてくれた。
「いたぁだきましゅ!」
「いただきます」
お腹がすいていたのか、アシュは勢いよくご飯を食べ始めた。
「お腹空いてたんだなぁー」
『はぁっ!』
アシュは箸の手を止めみるみる顔を赤くした。
「全然食べてくれていいんだよ! 俺はいっぱい食べる子の方が好きだぞ!」
急いで弁明するがアシュの顔はますます赤くなり顔をうずめてしまった。
(あちゃー、女の子の扱いって難しいなぁ……)
「仲も良くなったようで何よりですなぁー」
またしてもしわしわな顔をしてくるが、もう俺は動じることは無い……が、少し恥ずかしい。
俺は恥ずかしいさを紛らわすため、村長の持ってきた唐揚げのようなものを口に運んだ。
「うまいっ! 鳥の唐揚げですか?」
「鳥……ケンターキーのことですかな? これはビックフロッピーの唐揚げですぞ」
ケンターキー? ビックフロッピー? 俺のボキャブラリーには存在しない生物が続々と登場するが、これも記憶喪失のせいなのだろうか?
「本当はケンターキーをご馳走したいのですが、なんせ奴は獰猛で、この村で奴を狩ることができるのは1人くらいしかおらんのじゃよ」
「狩るってそれどんな獰猛な鳥ですか!」
「ケンターキーを知らんのですか? この村の塀をご覧になったでしょう? あれは全てケンターキーによる襲撃を防ぐための塀ですぞ」
鳥が村を襲撃するのか……もしかしすると記憶喪失した時に変な世界に来てしまったのではないかと思うほど、俺の常識が悲鳴を上げているのだが……
その後は特に会話もなく食事を終えた。アシュも最初は我慢していたようだが、空腹に負けたのか、最後の方はよく食べていたので安心だ。
その後、部屋に戻りベットにはいった。疲れていたのか、俺はすぐに深い眠りについた。
やっと幼女の名前が決まりましたね。青年の名は次回で登場予定です。
*次回からは1話4000文字程度で執筆していこうと思っています。