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ビックフロッピー戦

 俺が今からやらなければならない事は単純明白。数メートル先に生えているキノコの様なものを引っこ抜くだけ……


「……なぁ、ペイル。あれを引っこ抜くって事は理解した。だが、本当に引っこ抜いていいんだよな?」


「さっきからそう言ってんだろ。何も難しい事なんてないだろ?」


 確かに、頭を悩ますような難しい事ではない。しかし、あれはキノコではない。モンスターの舌なのだ。ビックフロッピーがどんなモンスターかは知らないが、わざわざ引っこ抜かれたいがために、舌を地面から出してる様なドM体質という訳では無いだろう。

 この生物は、自分の舌をキノコと思ってきた生物を捕食する。俺が、あのキノコを掴むとどうなるか……そんな事、言うまでもないだろう。

 ということは、ペイルは俺にこのモンスターの餌になれとでも言ってるのだろうか?


「……お前、俺に食われろって言ってんのか?」


 俺はなるべく苛立ちを隠しながらもペイルに質問した。


「安心しろよ、ビックフロッピーに食われたやつなんていないぞ? それに、地元ではツッカミ漁と言われてみんなやっんだぞ」


 それなら良いのだが……だが、そんな事言われても俺の中の不安は消えない。俺は数分間、まるでバンジージャンプを飛べない人のように考え込んでいたが、だんだんペイルも早くしてくれと言わんばかりの表情になってきた。


(そんな顔されても、怖いもんは怖いだろ!)


 そんな顔するならお前がやれよという話だが、俺がモンスターを狩ると決めた以上、その大役を擦り付けるのもかっこ悪い話だ。ここは意を決してやるしかないだろう。


(誰も食われてないんだ……俺なら大丈夫だ……ソフトタッチなら気づかれない……)


 俺は自己暗示を掛けながらキノコ舌に近づく。3メートル……2メートル……1メートル……もう手を伸ばせば届く距離だ。俺はゆっくりと、慎重にキノコなら柄に値する部分を掴んだ。


(……ふぅ……反応は無いな、このまま引っこ抜くぞっ!)


 握っても反応ない事に油断した俺は、引っこ抜こうと力を入れた次の瞬間、突如【キノコ】に異変が起きた。


 ビクッッ! ビクビクビクッッ!!


 まるで魚釣りで、獲物が仕掛けに食いついた様な感覚がキノコから伝わってきた。


(なんだっ……! かなり力強いぞっ!) 


 全体重を入れて引っこ抜こうとするが、【キノコ】も同じくらいの力で引っ張り返してくる。


「いいぞクロン! そのまま耐えるんだ! もう少ししたらスタミナ切れでビックフロッピーの力が弱まるからそこを狙って一気に引き抜くんだ!」


(そんな事言われても、一向に緩まないぞ!?)


 俺は、若干右や左に動く【キノコ】に器用に合わせながら格闘していたが、1分後くらいにはだんだん引っ張り返される力が弱くなってきた。


(よし、今だっ……!!)


 俺は全身全霊の力をかけ【キノコ】を引っこ抜こうと力を入れた。


 ずっぼぉぉっん


 豪快な音ともに、地中からビックフロッピーが姿を表した。それは、夏場に無駄に強く地中に根を張っている雑草を抜いた様な感触とも似ていた。


(なんだ……こいつ……)


 ビックフロッピーの姿は一言で言うと、カエルだった。ウシガエルの様な見た目、体長はノートパソコンくらいある。パッと見はどうみてもカエルだが、致命的なほどに足が短い。地中にいたせいで、退化したのだろうか? そのせいでカエルと自信を持って断言できないのだが……


「やったなクロン! 初のモンスター捕獲だぜ!」


「……そうだな、やったな!」


 少し想像とは違ったが、これは紛れもない初のクエスト成功だ。ケンターキーの時の達成感には欠けるものも、ペイルの喜んでいる顔を見ると、ケンターキーの時とは少し違った達成感が湧いてくる。ビックフロッピーも抜いた瞬間はジタバタと動いていたが、今ではもう大人しくなっている。


「案外すんなり成功したな! ビックフロッピーが新鮮なうちにとっとと持って帰ろうぜ!」


 体感時間にしてはかなり経った気がするが、実際はあまり時間はたってないのかもしれない。


「ああ、そうだな」


 いつまでも勝利の余韻に浸っていても仕方ない。早く帰ってアシュにも会いたい。

 俺はペイルにビックフロッピーを渡し、行きと同じ様にペイルの後をついて帰る事にした。


「俺、長い間回収の仕事してたが、初めてモンスターが捕獲される瞬間見たぜ」


「そうなのかぁー、でも、ペイルがいなくても良かったんじゃないか?」


「っ!? なんてこと言いやがるんだよ! 俺がいなかったらお前なんかビックフロッピーを見つけることなんてできなかっただろっ!」


 少しからかうとペイルは顔を真っ赤にして早口で言い返してきた。案外、いじると面白いやつなのかもしれない。


「冗談だよ、じょーだん」


「……ったく、からかわないでくれよなっ!」


 俺とペイルはその後も楽しく会話を続けながら帰路を辿った。

 ビックフロッピーを捕獲した満足感で何処にモンスターがいるかもわからない森の中で警戒心を怠りながら。





 ビックフロッピーはまるで巨大な魚のようなはんのうをするため、地元ではビックフロッピーアングラーがいるそうな……

 次回も宜しくお願いします!

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