仕事の依頼
「くろん、あさだよー」
気がつくともう辺りは明るかった。
クラッドさんの言っていたことが気がかりだった為、昨日の夜は起きていようと頑張っていたのたのだが……
(寝ちゃったのかぁ……昨日の夜はかっこつけて『アシュは俺が守る!』みたいのことを言ったのに……こんな俺で大丈夫か?)
自分自身に不安になりながらも、無事に何事も起きて無かったようだ。クラッドさんの件も俺の勘違いの可能性もある。だが、念には念を。俺たちはクラッドさんの事を深く調べる事にした。
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今日は道に迷うこともなく、目的地である冒険者ギルドについていた。
「もう、情報収集では定番となったな」
俺はアシュの手を繋ぎ、朝からでも騒がしい活気を見せる店内に入った。すると直ぐに聞き覚えのある声に足を止められた。
「また、あんたかね。もうその娘を連れてきたらいけないと忠告したはずだがねぇ……」
声の先にはゆば……高齢の受付嬢がいた。
「それが……また集めないといけない情報がありまして……」
「それなら私に聞きな」
余りこの人とは話したくないのだが……仕方ない、聞いて損することも無いだろう。
「そうですか……では、聞きますけど、クラッドさんってご存じですか?」
「当たり前じゃないかい……あんた、私をからかってんのかい?」
「いえ、そんなつもりではなく……では、クラッドさんがどういう人物なのか教えてくださってもよろしいですか?」
「別にいいけど、なんでそんな事知る必要があるのかい?」
もし、クラッドさんの言っていることが本当なら、あまり人には話さない方がいいのだろう。しかし、この人には何故か話しても大丈夫な気がする。俺はこの老婆に昨日の事を話す事にした。
「……ほう……そんなことがねぇ……しかし、あの人が悪い事に加担するイメージは、この街の人の頭の中には無いねぇ」
「では、やっぱりただの俺の勘違いだったの……」
「そんな事はないじゃないかねぇ……」
老婆は俺が話終える前に口を挟んできた。
「この街の人達は皆口を揃えてあの人のことをよく言うが、それには理由があるのさぁ」
「理由とは?」
「あの人がこの街に来たのは今から30年前くらいなんだけどね、人気が出たのは10年くらい前から急になんだよ。人気の理由ってのは、学校や病院を建てる資金を多額援助したからなんだけどね」
「それはいいことじゃないですか?」
俺がそう言うと、老婆は『いいやぁ……』と首を横に振った。
「あんたみたいに何も考えず、結果だけみりゃぁもちろん素晴らしい善行さぁ。だけどね、ただの1聖職者がそんな大金をポンって出せると思うかい?」
確かに、いくら人が良くとも、金が無いことには寄付もしようがない。それに、10年前って……何か関係あるのかもしれない。
「まあ、ただ本当に金持ちだったのかもしれないからなんとも言えないが、わたしゃあの人のことは好きになれないからねぇ……金で買える信用なんて、信用できたもんじゃないよぉ……まあ、あんたはいいけど、アシュちゃんになんかあったら大変だから、また気になることがあったら来なさいよ。受付にいなくても隣の子達にユバさんって言ってくれたらいいからねぇ」
この人は気難しいが、悪い人ではないようだ。でも、名前はユバなのか……それはあんなあだ名がつくのも納得だが……
「お! クロン達じゃねーか!」
俺がユバさんと話を終えて冒険者ギルドを出ようとすると、ケンターキーの乗った荷車を押したペイルがいた。
「もし、暇なら少し俺と話しないか?」
俺は特にこの後行く宛もなかったため、ペイルと話をする事にした。
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5分くらい食道の机に座っていたら、ペイルがケンターキーの納品を終え帰ってきた。
「待たせちまってすまねぇーな! 前も言った通り、運送の仕事が忙しくてなぁ。まあ、今日のノルマは達成したからゆっくり話しようぜ!」
そう言うと、ペイルは厨房に向かって何か注文している。
「俺達も特に予定無いからいいんだが、なんか話したいことでもあんのか?」
「お、話が早いじゃないか。実はお前さんにビジネスの話を使用と思ってな」
ペイルはにやにやしながらそう言ってくる。
「ビジネス? なんかするのか?」
「そうさ。前にも言った通り俺は運送で生計を立てている。だが、最近食用のモンスターを狩る奴が少なくてな、少し困ってんだ。そこで! クロンにモンスターを狩って欲しいんだよ」
なるほど。運送屋ってのは運送するものがなければ収入も無い。ペイルにとっては死活問題だろう。しかし、いくら冒険者になったとしても、命かけてまで危険を犯したくはない。
「まあ、急に決めれるものでも無いだろうし、俺にとっても遊び感覚でやってもらっても困る。今日はゆっくり考えて、明日どうするか聞かせてくれ」
「お待たせしました。クラムビール2杯とクイの果ジュースです」
メイドの服を来た若い女性が飲み物を運んできた。どうやらペイルは俺とアシュの分まで注文してくれたようだ。
「俺の奢りだ。金欠なんだから味わって飲んでくれよ」
金欠とか言われたら少し飲みにくいじゃないか。まあ、お言葉に甘えて頂戴しよう。
「じゃ、いただきます……ん? ぶふぉっ!」
「なんだこの苦い飲み物は!?」
「お前酒飲めないのか?」
そうか……これはアルコールか。俺の常識ではアルコールは20歳からだぞ!? 記憶喪失してるが多分おれはまだ未成年だぞ!? ペイルも同じ年のように見えるがこいつ大丈夫なのか?
「飲める飲めないじゃなくて違法だろ!」
「は? この街じゃ酒飲んだらいけないとかいう変な法律はねぇーぞ?」
ペイルは何言ってんだこいつって顔で俺を見てくる。そうか、ここの世界は俺の常識が通用する世界じゃなかったんだ。
「そうか……お前は何歳からこれ飲んでんだ?」
「俺だって最近だぜ? お前の出身地じゃ酒に規則でもあんのか? 確かに、ガキは飲まねぇーな。まだ酒の旨さに気づいてねぇーんだろうなぁー」
なんて、肝臓が悪くなりそうな街だ……まあ、アシュにはお馴染みのクイの果ジュースでよかったが……
俺はその後もペイルの武勇伝を聞かされたり、仕事の内容を教えられたりした。話が終わる頃には日が沈みかけていた。
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「今日はクロンもアシュも俺の話に付き合ってくれてありがな。また、明日も待ってるぜ」
俺はペイルとの話を終え、宿屋に帰り、昨日と同じ様にアシュとベットに入った。
(そういや、俺たちいっとき風呂入ってないな……アシュに臭がられても嫌だし、明日は入るか……)
俺はそんな事を考えながら眠りについてしまった。ペイルとの会話のせいか、その頃にはもう、クラッドさんの事など忘れてしまっていた……
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