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不敵な笑み

 クラッドさん額に汗を滲ませながら真剣な顔でアシュがボニタスの種族だと言った。しかし、ボニタスの種族とは?


「ボニタスの種族って……どういった種族なんですか?」


 クラッドさんは少しの間目をつむり、眉間にシワを寄せ考え込んでいたが、なにか決心したのか重い口を開いた。


「実際に謎の多い種族の為、世間一般に知られていることはほとんどないのです」


「世間一般? と言うと、一部では何か知られているのですか?」


 またもクラッドさんは苦悶の表情を見せ、『言うべきか……』と小さく呟いている。何か言えない事情でもあるのだろうか? だが、俺たちに言ってもらえないことには何も始まらない。


「俺たちにとって記憶を取り戻す重要な事かもしれないんです。何か知っているなら教えてください!」


「では、今からあなた方にお話する事は命に関することかもしれません。それを承知した上でお聞きしてください……」


 そう言うとクラッドさんは再び重い口を開いた。


「私も、ボニタスの種族がどのような者かは存じてあげていないのは事実です。しかし、10年くらい前の事、私の元にあなた方と同じ様に記憶をなくした若い女性が来ました。私はマナによる鑑定を行ないましたが、ボニタスの種族など知る由もなかった為、王国の科学院にマナの鑑定書だけ送りました。その後日、女性の泊まっている宿屋に私は行ったのですが、その女性は……」


 クラッドさんはそこまで話すと一呼吸あけ、言葉を発した。


「死んでいました」


 俺は言葉を失った。アシュはよく理解出来ていないのか、少し首を傾けたが、クラッドさんの声のトーンから何か察した様で、恐怖によって今にも泣き出しそうな顔をしている。


 クラッドさんの言っている事が真実であるなら、その女性の様に、同じ軌跡ををたどっている俺たちも数日後には死ぬ可能性がある事を指している。俺はこれ以上聞くことは不安に繋がるとわかりつつも質問しようとクラッドさんの顔を見たが……


 --不敵な笑みを浮かべていた……


 直ぐにクラッドさんは真剣な表情をしたが、俺はこれ以上無いくらい楽しそうな表情をした、この男の顔を見た。見間違えなどはないだろう。

 俺はここに居ては行けない気がして直ぐに出ることにした。


「アシュ、帰ろう!!」


「どうしたのですか、そんなに焦らなくともまだ聞きたいことは山ほどありますでしょうに……」


 そう言ってクラッドさんは俺たちを引き止めてくるが俺の第六感が直ぐにここを離れろと言っている。


「いえ、聞きたいことは聞けました。お世話になりましたがもう俺たちは帰らせてもらいます」


 そう言うと俺は急いでアシュの手を取り、教会を出た。

 勢いで出たが行く宛もなく、いつの間に俺が何往復も迷っていた噴水の前まで帰ってきた様だ。俺は少し休憩しようと、噴水の淵に腰をかけた。アシュも隣に座った。


「くろんなんであんなにいそいででたの?」


 アシュは困惑した様な表情で質問してくる。


「なんでだろうなぁ……なんとなく、あそこにいたら行けない気がしたんだ……」


 アシュはそれを聞くとこれ以上は質問してくることはなかった。

 しかし、クラッドさんのあの不敵な笑みは何を意味しているのだろうか? そもそもクラッドとはどういう人物なのか? 分からないことが多すぎる。俺とアシュの記憶についても情報収集したい所だが、今は命の危険があるかもしれない、クラッドという人物についての情報収集が先だろう。とはいえ、気付けばもうとっくに日が沈みかけている。俺たちは宿屋に戻ることにした。


 宿屋についた頃にはもうすっかり日は沈みきっていた。この世界には電気は無いのだろうか? ろうそくの光だけで照らされた廊下を通り、今朝と同じ部屋に俺とアシュは入る。沢山歩いた為か、アシュは眠そうに目をこすっている。


「今日はお疲れだったな。もう寝ようか」


「いっしょにねてもいい?」


「狭くなるけどいいか?」


「うん……」


 俺がベットに横になると、今にも寝そうになったアシュがふらふらと俺の横に転がった。

 クラッドさんの言っていた意味はわからなくとも、俺の焦った様子とかを見ていたらアシュも不安になるのかもしれない。


(アシュの前ではあまり怖がったりした様子を見せないようにしないと……)


 俺はそう思いながらアシュにも掛布団を掛ける。小さなベットに2人も入ると窮屈かと思ったが、ちいさなアシュの体はほとんど面積をとらなかった様だ。

 少しすると『ひゅー、ひゅー』と小さな寝息聞こえてきた。俺がアシュの頭を撫でようとすると、ふと手に冷たい感覚がした。


(もしかしてアシュ、泣いてるのか?)


 無理もないだろう。気がつくと記憶も無ければ自分が誰かもわからない。この歳で家族が身近にいるかも分からないってことはかなり心に来るものがあるだろう。


 俺はそっとアシュの体を引き寄せ心に誓った。


『アシュの記憶を取り戻せるまで俺が必ず守り通そう』 と。












 






毎日更新予定でしたが、筆者は昨日から風邪を引いてしまい、更新が遅れてしまいました。ですので、今回は少し短くなっております。

次回もよろしくお願いします!

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