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エルフ召喚士のNPC交流記  作者: 藍玉
初めてのVRMMORPG
6/9

第5話 ログイン初日(3)

「適当に座ってくれ」


 私はこの部屋に拉致ら……断る間もなく奥の小部屋に案内された。どうやら応接室らしい。


 応接セットの一人掛けのソファに座る。案内した男性は、三人掛けのソファの真ん中にどっかりと腰を下ろした。


「まず俺は〔TWO〕の運営チームの一人。中身は人だ」


 何と男性は運営の人間だった。運営といえばゲームの世界では何でもありの神様のような存在だよね?


 目の前の男性を改めて見る。その頭上に表示されているのは緑のマーカー、即ちNPCだ。メラン君が「ギルドマスター」と呼んでいたから、この冒険者ギルドのトップの人物なのだろう。


「運営の人間がNPCを?AIじゃなかったんですか?」


 〔TWO〕のキャラクターにはAIが搭載されてるはずだ。そう宣伝もされていたと思う。


「運営の人間は、制限上プレイヤーキャラは作れない。だからサードリア内での操作を行うときはNPCの枠を『借りて』この世界に下りている」


 運営の人間が『借りて』いない状態でなければ、ゲームの管理に関する記憶も権限もないらしい。普段はここのギルドマスターを務める、普通のNPCだそうだ。


「で、だ。メランのとばっちりを食らった結果になってしまって悪いが、少し口止めをしておきたくてな」


 男性曰く、メラン君の本業?はキャラクター作成の方だそうだ。今日はサービス開始日だったため、男性の補佐でここ(ギルド)にいたらしい。

 管理AIを含め、各々のAIには個性や性格があって、メラン君は「お調子者の楽天家」のようだ。そのせいで私が巻き込まれてしまった…と。


メラン(アイツ)には後できっちりお仕置きしておくとして、運営の人間や管理権限を持つAIがこっち(サードリア)に紛れ込んでいるのは口外しないでくれないか?」


「それは構いませんけど…そのうち誰かが気付くかもしれませんよ?」


「そん時はそん時だ。ただ、お前さんが言わなければしばらくの間は話は広がらないだろうから、その間に対策を検討するさ」


 男性は、面倒事が増えたー俺等の寝る時間がまた減るーと、髪をかきむしっている。そのせいでセットされていた髪がぼさぼさだ。


「解りました。この件については誰にも言いません」


 男性の張りつめていた気が少し緩んだのか、ほっとした空気が応接室を覆う。


「それにしてもお前さん、初日でここ(ギルド)を見つけるとはなあ。ってことはNPCメニューを解除したんだろ?しばらく持つと思っていたが早々にここも忙しくなるのか…」

 休暇を出していたヤツ(NPC)らを呼び戻さないとなー、と男性がため息をつく。


「…一つ聞いていいですか?」

「おう、俺に応えられる事ならな」


「NPCメニューって何の為にあるんですか?私は冒険者ギルドを認識しました。でも同じ広場にいた他のプレイヤーはここを認識している様には見えませんでした。この差はNPCメニューを解除したかしないかですか?」


 男性は腕組みをし、ううむと唸っている。


「ついでだから話すが、これも口外無用だぞ?」


 という前置きで聞いた説明によると、まずNPCメニューはNPCと自発的に何度か会話をすることで解除が可能となるそうだ。


 この仕組みは〔Second World Online〕ユーザが主となる、βテスター組に対するハンデらしい。


 〔SWO〕のNPCは街中やフィールド上に立ち、近付いてクリックするとメニューが表示される。そこでクエストの発行や売買を行うプログラムを持っていただけで、〔TWO〕のような自立動作は行わなかったらしい。


 その操作に慣れているβテスター達だから、近付くとメニューが出るNPC相手に自ら話し掛ける事はなく、メニュー操作で用事を済ませてしまう。そのためNPCメニューの解除ができずに、ここ(ギルド)が見つけられず、攻略を進めるのが遅れてしまう…と。


「その間に後発組もゲーム操作に慣れるだろうし、βテスターとの差が縮まるだろうと思ってた訳だ。…今のところ、解除できたのはお前さん以外にはいないようだな」


 男性は仮想ウィンドウを操作しているのか、中空を見据えている。


「何故NPCメニューを解除できないと冒険者ギルドに入れないのですか?」

「そりゃ、ギルドに依頼を出すのはNPCだ。NPCと話ができないことには依頼が達成できないだろ」


 理由を聞いて、そうかと納得する。これで疑問が解けてスッキリした。


「NPCメニューについても納得できました。これで話が終わりなら私はもう帰っていいで…」

「リィンの冒険者登録の準備ができたニャッ!」


 バタンッ!とドアが勢いよく開いてメラン君が飛び込んできた。


「ギルドマスター、リィンを連れて行ってもいいかニャ?」

「おう。こっちの用は終わったぞ」

「んじゃ、こっちのカウンターに来るニャ」


 またもやメラン君にグイグイと引っ張られて、今度はギルド内のカウンター前の椅子に座らされた。メラン君はカウンターをひょいっと飛び越えて向かいの席に座る。


「では、今から冒険者の登録をするニャ。この球を掌の上に載せるニャ」


 メラン君から受け取ったのは、直径2cm位の透明な球。言われたとおりに掌を上に向けてその上に球を乗せた。


「うん、そのまま動かないニャ」


 メラン君の指先が球に触れる。すると球が淡く光り、ぱかりと二つに割れた。


「これで登録が終わりニャ。割れた球の片方はリィンが持つニャ。それがギルド証だニャ。残りの片方はギルドで保管するニャ」


 メラン君は回収した球の片方を部屋の奥に持って行った。どうやら保管庫が奥にあるようだ。戻ってきたときには、その手に革製の何かを持っていた。


「ギルド証はこれに嵌めて身に着けるニャ。ちょっと貸してニャ」


 革製の物はバングルのようで、幅は3cm弱で直径は10cm位。厚みは5mm位で中央に窪みがある。その窪みに残りの球をセットする。


「これを腕に通すニャ。左手出すニャ」


 バングルを腕に通してみたが、ぶかぶかだ。これではすぐに落としてしまうかも。メラン君がバングルにセットされた球の片割れに再度触れる。するとバングルがするすると縮んで手首にぴったりと嵌った。


「これで無くさないニャ。んじゃギルドについて色々と説明するニャ」


 メラン君の説明によるとこうだ。


・冒険者はランク付けされて、最初はGランクで最高Sランクまでの8段階に分かれる。


・自分のランク以上の依頼は受けられない。下のランクの依頼は受けられる。


・一度に受けられる依頼は一つのみ。


・依頼をこなすことでポイントが貯まり、ポイントが一定以上になるとランクアップ。まずFランクに上げるには20ポイントが必要となる。


・依頼に失敗すると違約金が発生する。またペナルティにより一定期間次の依頼が受けられなくなる。


・ギルド内の施設は申請すれば自由に使用できる。


・不要な素材等は、ギルドで売却が可能。価格はその都度確認すること。


「こんなところニャ。何か質問あるかニャ?」


「ギルド証の色が気が付くと赤くなっているんだけど、これは何?」

「それはギルドランクによって変わるニャ。リィンはGランクだから赤になるニャ」


「あと、これは装備に干渉しないの?結構出っ張ってるけど」

「その革と球は不思議素材でできているから、干渉はしないニャ。上に手袋やガントレットを付けても大丈夫だニャ」


「…うん、オッケー。他には無いよ。他にまた分からないことがあったらその都度質問するね」


 そのとき、脳裏にインフォメーションが流れた。


――メインクエスト「サードリアの冒険者」が開始されました――


「メインクエスト?」


「そうだニャ。メインクエストはこのゲームの攻略を進めるために必要だニャ。このクエストを進めないと次のエリアに進めないニャ」


 私が呟いたのを聞いたのか、メラン君が説明をしてくれた。


「冒険者登録をすることでメインクエストが始まるニャ」

「ふぅむ。まぁ今のところ攻略には興味が無いし、これはしばらくは放置でいいかな…」


 今最も興味があり、行きたい所は図書館だし。これでギルドの用事も終わりだろうからこのまま図書館で、ログイン制限時間まで本を読むことができるだろう。


「今日は冒険者が来ると思ってなかったから準備していなかったが、明日から依頼をきっちり消化してもらうぞ。何せ、今登録されている冒険者はお前さんしかいないからな」


 いつの間にか応接室から出てきていたギルドマスターが後ろから声をかけてきた。中身は運営の人間の様だが、本来の役としての仕事もやっているのだろう、街の人達(NPC)も人手が足りなくて依頼が出せるのを心待ちにしてたしなー、と宣っている。


「あの、その依頼って次に登録した人に回すわけには…」

「冒険者が増えるのがいつになるか分からんし、それじゃ依頼は溜まる一方だ。全部こなせとは言わんが、できるやつは消化してくれ」

「…わかりました」


 仕方ない。依頼は必要最小限でこなし残りは図書館に籠ろう。


「じゃあ、依頼は明日から請けるとして、今日は…」

「おう、今日はこの後色々教えてやる。見たところお前さん、ゲーム初心者だろ?何も装備してないし、設定も初期のままだろ?運営の俺が教えるんだ、まあチュートリアルのようなものだな」


 帰っていいですか、という言葉は続けられなかった。断っても、この押しの強さでは駄目だろう。


 今日は一日ゲーム内で待機してないとだし、俺暇だったんだよなーというギルドマスターにズルズルと引きずられながら、私はギルドの奥に再度戻っていくのだった。


リィン「どうしてこうなった。ああ図書館が遠い…。」

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