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エルフ召喚士のNPC交流記  作者: 藍玉
初めてのVRMMORPG
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第1話 意図せぬ当選

 高校入学後の一通りの行事も終えた4月のある日、帰宅すると【それ】が届いていた。


「ただいまぁ」

「おかえりー。鈴音(すずね)ちゃんに何か荷物届いてるわよ?」

「荷物?」


確かに、玄関にはかなり自己主張をしている大きな箱が。……F出版社から?


「見覚えのある会社名だけど、何の本出している所か覚えてないなぁ」

「何が届いたの?」


母がリビングから玄関に出てきた。手にはカッターを持っている。


「お昼過ぎに届いたんだけどねぇ。重かったから動かせなかったのよ」

「んじゃここで開けちゃおう。お母さんカッター貸して」


母からカッターを受け取り、箱を開封する。中には封筒と緩衝材で固定された家電?の箱が入っていた。


「あ、F社って中学の時に使ってた受験問題集の出版社だ」


封筒の中には一枚の手紙と何枚かの登録用書類が入っていた。


「……ええと?

 『この度は当出版社が発行する受験問題集のご利用アンケートにご回答いただき、誠にありがとうございます。厳正な抽選の結果、水城鈴音様を含め10名が【お楽しみプレゼント】に当選しましたので、最新型VRギアおよび〔Third World Online〕をお送りいたします』…だって」

「えっ!?〔TWO〕もらったの?鈴姉(すずねえ)!!」


封筒に入っていた手紙を読んでいた声が聞こえたのか、弟の優琉(すぐる)が廊下に飛び出てきた。


「2番じゃなくて3番でしょ。優琉ただいまー」

「おかえりー、じゃなくて。〔Third World Online〕の頭文字取って〔TWO〕なの。てか鈴姉これ頂戴!」


優琉は箱に飛び付いて中を覗き込んでいる。うぉっ、本当に最新型の最高機種じゃんって言われても、私には何がどういう風に良いのかがさっぱりわからない。


「残念ながら、ダメなのよ。『ご利用はご本人様に限ります。またご利用後、数回の感想アンケートにご回答いただくことが当選の条件となります』って書いてる」


あ、優琉が目に見えて凹んだ。


「って、あれ?優琉君もこのゲームのβテスターに当選したからってVRギア送られてきてたじゃない?あれどうしたの?」


母が指を頬に当てながら首を傾げている。


「あれよりこの最新型の方が連続使用可能時間が長いんだよ。俺のは4時間ログインしたら最低でも1時間は経過しないとまたログインできないし。でも鈴姉が貰ったやつは6時間まで遊べるんだ」



 VRギア。

 軍の戦闘シミュレーションや医療機関でのリハビリを目的として開発された機器。半睡眠下で仮想空間に接続することが可能となる。どういった原理かわからないけど触覚や痛み、匂いや味といった感覚までリアルに再現されるらしい。


 だが連続使用可能時間を始め、体調不良時にも使用できないなどの使用制限が厳しく設定されている。


 一般に販売が開始されたのと同時に各種VRソフトが提供され、供給が需要に追い付いていない状況だったと思う。



「〔TWO〕の世界に6時間インできるVRギアが目の前に!!」


そんなに力説されても私はあまり興味がない。邪魔になるから送り返すしかないのかな?


「……優琉君?ゲームはいいけど、今年高校受験って忘れているんじゃないのかな?」


背後にいる母の方から何か冷たい空気が流れてきているような気がする。うちの母は滅多に怒らないけど、一度怒らせるととても怖い。


「βテストの抽選に当たったとき、程々にしか遊ばないから保護者許可のサインくださいって言わなかったかしら?連続6時間が程々?」

「あ…いやその、別に毎回6時間遊ぶって訳じゃなくて…」


母の迫力に押されたのか、優琉が立ち上がり後退っている。って、巻き込まれるからこっちに来ないで欲しい。

ちらっと盗み見た母の顔は、一見笑っているようだけど目元が笑っていない。地雷踏んじゃったよね、多分。


「鈴音ちゃん」

「はいっ!」


条件反射で返事し、直立不動の体制で固まる。怖いので後ろは見ない。


「せっかく当選したんだし、やってみたら?コレ玄関に置きっぱなしだと邪魔になるし優琉君に運ばせるからお部屋に持って上がって。で、とっととその機械に個人登録してちょうだい」

「はいっ」


弟よ、恨めし気な目線を私に向けられてもこれ(VRギア)は譲れない。何よりも笑顔で怒っている母が怖い。




――こうして、私は意図せずに〔TWO〕の世界を体験することになった――


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