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かくれんぼ

作者: ふあ

 じりじりと、日差しが背中を焼いていく。シャツの中で、汗が皮膚をなぞっていく。

「もういいかーい」

 やっと百まで数え終わって、ぼくは大きな声を上げた。

 もういいよー。

 声が聞こえたような気がして、腕を押し当てていた木の幹から手を離して、ぼくはみんなを探しに行く。

 みんみんみん、とセミが大合唱する神社の裏山の奥へ入り込み、空が木の腕で覆われるようになると、日差しは少し弱まった。

 いねちゃんと、ゆうくんと、みきちゃんと、あと、ともくん。

 足元に積もった落ち葉が、ざくざくざく。頭の上から、みんみんみん。賑やかな森の中、少し涼しい風が吹いてきた。ぼくは額の汗をぬぐって、木の影に身体を隠した。

 林の向こうに、川が見える。きらきらと水しぶきが上がってる。

「いねちゃんみーつけた!」

 ぼくは、川のへりにしゃがんで、冷たい水に足を入れているいねちゃんに、呼びかけた。いねちゃんは、赤い着物の裾を濡らしながら、ゆっくりと振り向いて、ぼくを見ると少し残念そうな顔をする。

「いねちゃん、かくれんぼなんだから。川遊びしてちゃだめだよ」

 おまけに、ちゃっかり涼んでるんだから。

 そこまでは言わなかったけど、いねちゃんは、背中まで垂れた真っ黒な髪を少し揺らして、むくれてみせる。

「じゃあ、みんな探しに行こう」

「私がさいしょ?」

「うん」

「ふうん」

 そっけない言い方だけど、いねちゃんは少し、がっかりしていた。

 ぼくらは、森を更に進んでいく。木の陰が濃くなっていって、お昼なのに少し暗くて、誰も通らない、手入れされていない足元が、がさがさ鳴る。ぼくの後ろを、いねちゃんの裸足の足音が、がさがさがさ。ちょっと立ち止まって、耳を澄ますと、かさかさ、と小さな音。

 きょろきょろしながら、足音を立てないように、ぼくらは木陰を移動する。向こうの方に、青々とした草とは違う、白いシャツの色が見えた。

「ゆうくんみーつけた!」

 ぼくの声にびっくりして、ゆうくんはぺたんと尻餅をついた。その手に、かぶとむしを握って、目をぱちぱちさせてぼくといねちゃんを見た。

「ゆうくんも、かくれんぼやめて、虫取りしてたの」

 ぼくの声が、怒ったように聞こえたみたいで、ゆうくんは口を尖らせながらも、しょんぼりして言った。

「だって、おそいんだもん……」

 まだ小さなゆうくんは、俯いちゃって、ぼくは元気づけるために、汗ばんだ片手を握ってあげた。

「ごめんごめん。あと、みきちゃんと、ともくん、探しに行こう」

「……うん!」

 こっくり頷いたゆうくんの手から、かぶとむしが飛んで逃げた。


 みきちゃんは、中々見つからなくって、いつの間にか、降ってくるセミの声が、違う言葉になっていた。

「このせみ、ひぐらしって、いうんだよ」

 ぼくといねちゃんの間、真ん中を歩いてるゆうくんが、自慢げに言う。

「よく知ってるね」

「おかーちゃんが、おしえてくれたんだよ。ゆうがたになったら、ひぐらしがなくんだって」

 胸を張って言うゆうくんを、優しそうな目で、いねちゃんが見ている。

 森の木々はどんどんと数を増やして、ぼくたちから太陽の光を奪っていく。ゆっくりと陽が沈みだしたことが、分かってきた頃、向こうの少し開けた場所に、崩れかけたお家が見えた。

 中心の柱を残して、あとは真っ黒な木だけになっているそのお家に、ぼくたちは駆け寄って、周りを一周した。

 その中で、焼けた木が奇妙に間を作っている所を見つけて、ぼくはその中に声をかけた。

「みきちゃんみーつけた!」

 すると、中からにゅっと、すすで汚れた手が出てきて、器用にみきちゃんが這い出してきた。水色のワンピースにも、黒い模様が出来ちゃってる。

「あーあ。見つかっちゃった」

 でも、みきちゃんは嬉しそうに笑って、手をパンパン叩いてすすを払ってる。

「長かった。見つけてくれないかと思った」

「みきちゃん、見つけるの難しすぎるよ」

「上手でしょ、えへへ」

 木の葉をすり抜けた日差しが、そう言って嬉しそうに笑うみきちゃんの横顔を、薄暗い森の中で照らした。

 ぼくたちは、少しだけ休憩する。

 でも、あとともくんが残ってる。疲れたけど、早く見つけないと。

 いねちゃんが、着物の裾から出したお手玉を、歌と一緒に、上手に回した。

「かーごめ、かごめ」

 透き通ったいねちゃんの声が、暗い森の中に響く。

 いついつでやる。

 ぼくたちも、一緒に歌ってた。

 夜明けの晩に。

 傾いた陽が、夜が来ることを教えてくる。

「うしろのしょうめん」

 だあれ。

 もう、ひぐらしも鳴いていない。

 陽の殆ど照らない不気味な森が、ぼくたちを包んでいる。あれほどうるさいと思っていたセミが黙ってしまうと、あたりは、しんとしてしまった。

 ぼくたちは、急いで、ともくんを見つけに行く。

「ともくーん!」

 口々に、ともくんの名前を呼ぶ。

 もうすぐ、夜が来る。だけど、かくれんぼは、鬼が全員見つけないと、終わらない。

「もうかえろーよ」

 一番小さなゆうくんが、頑張って泣くのを我慢しながら、ぼくの服を引っ張った。

「おかーちゃん、先にいっちゃったよ」

「だめだよ、ともくんは、一人で待ってるんだよ」

 みきちゃんが言ったら、ゆうくんは、ひっくひっくとしゃくり上げながら、溢れてきた涙を拭いてた。可哀相だけど、見つけてくれないともくんの方が、きっと、もっと寂しい。

 ゆうくんの手を、いねちゃんが繋いで、ぼくらはすっかり陽の落ちた森を歩き回った。

 真っ暗は怖い。だから多分、光のあるところに、ともくんもいる。

 そう思ってぼくは、薄い光が見える方へ、早足で進んだ。

「……あれ」

 きっとこっちに、ともくんがいる。そう思ったとき、ともくんが喜ぶ顔を思い出そうとして、思い出せないのに気がついた。

 ともくんて、誰だっけ。

 みんな、誰だっけ。

「あぶない!」

 後ろから聞こえた声が、誰の声か、分からなかった。

 月明かりが差し込む崖の上から、ぼくは、足を踏み外してしまった。

「なおとくん!」

 ぼくの、名前。

 誰かが呼ぶ、ぼくの名前。




 1884年 6月 8日

 桜庭 イネ(10)と、妹の桜庭 アキ(5)が川へ水を汲みに行ったところ、鉄砲水が発生。逃げ遅れ、濁流に飲まれた妹を助けるため、イネも川へ飛び込んだことが、後の妹の証言より明らかとなった。。

 奇跡的に妹は岸へ流れ着いたが、姉は行方不明。後の搜索により、およそ五キロ下流で死体となって発見された。妹は病院へ運ばれたが、命に別状はなし。




「もういいかーい」

 やっと百まで数え終わって、ぼくは大きな声を上げた。

 もういいよー。

 声が聞こえたような気がして、腕を押し当てていた木の幹から手を離して、ぼくはみんなを探しに行く。

 セミが大合唱する神社の裏山の奥へ入り込み、空が木の腕で覆われるようになると、日差しは少し弱まった。

 いねちゃんと、ゆうくんと、みきちゃんと、あと、ともくん。

 しばらく誰も歩いていない、落ち葉の積もった地面が、ざくざくざく。頭の上から、みんみんみん。セミの声。賑やかな森の中、少し涼しい風が吹いてきた。ぼくは額の汗をぬぐって、木の影に身体を隠した。

 林の向こうに、川が見える。きらきらと水しぶきが上がってる。赤い着物が見えて、ぼくは声を上げた。

「いねちゃんみーつけた!」




 1926年 11月 28日

 午前三時半頃、森の中から火の手があがっているのを、近隣住民が発見し、消防に通報。火は既に、その場にあった小屋を包んでおり、放水が始まった頃には、小屋は全焼していた。

 中からは、重症の大人二人と、子ども一人の焼死体が発見された。また、同時刻に 宮橋 次郎(46)宮橋 香苗(41)夫婦と、娘の 宮橋 美希子(12)が行方不明となっている。加え、宮橋 次郎の勤めていた工場の机から、遺書とみられる手紙が発見された。宮橋夫妻は、町の病院での治療が施されたが、妻の香苗は二日後に心肺停止、死亡が確認された。一酸化炭素中毒より回復した夫の証言から、生活苦による無理心中を図ったことが明らかとなった。




 1948年 4月 14日

 午後二時頃、土砂崩れが発生。山菜採りに来ていた母子二人が犠牲となった。最後に二人を見た村人の証言によると、田中 邦恵(29)が山菜を採っている傍らで、息子の田中 裕介(5)は虫取りをしていた。その僅か二十分後、多量の土砂が二人を襲った。現地では一週間ほど以前に、大雨が続いており、その影響による天災であると考えられる。およそ三日に渡る搜索から、邦恵は麓に近い場所で、首の骨を折り、幼い息子も、土砂に生き埋めとなった状態で、死体が発見された。





 じりじりと、日差しが背中を焼いていく。シャツの中で、汗が皮膚をなぞっていく。

「もういいかーい」

 やっと百まで数え終わって、ぼくは大きな声を上げた。

 もういいよー。

 声が聞こえたような気がして、腕を押し当てていた木の幹から手を離して、ぼくはみんなを探しに行く。

 みんみんみん、とセミの合唱に耳を潰されそうな気分になりながら、神社の裏山の奥へ入り込んだ。空が木の腕で覆われるようになると、日差しは少し弱まった。

 いねちゃんと、ゆうくんと、みきちゃんと、あと、ともくん。

 足元に積もった落ち葉が、ざくざくざく。頭の上から、みんみんみん。賑やかな森の中、少し涼しい風が吹いてきた。ぼくは額の汗をぬぐって、木の影に身体を隠した。

 林の向こうに川が見えて、側に赤い着物姿がある。

「いねちゃんみーつけた!」

 ぼくは、川のへりにしゃがんで、冷たい水に足を入れているいねちゃんに、呼びかけた。いねちゃんは、赤い着物の裾を濡らしながら、振り向いて、ぼくを見ると少し残念そうな顔をする。

「じゃあ、みんな探しに行こう」

「私がさいしょ?」

「うん」

「ふうん」

 そっけない言い方だけど、いねちゃんは少し、がっかりしていた。

 ぼくらは、森を更に進んでいく。木の陰が濃くなっていって、お昼なのに少し暗くて、誰も通らないで、手入れされてない足元が、がさがさ鳴る。ぼくの後ろを、いねちゃんの裸足の足音が、がさがさがさ。ちょっと立ち止まって、耳を澄ますと、小さな音。

 足音を立てないように、ぼくらは木陰を移動する。向こうの方に、青々とした草とは違う、白いシャツの色が見えた。

「ゆうくんみーつけた!」

 ぼくの声にびっくりして、手にかぶとむしを握ったゆうくんはぺたんと尻餅をついた。

「ゆうくんも、かくれんぼやめて、虫取りしてたの」

 ぼくの声が、怒ったみたいに聞こえたみたいで、ゆうくんは口を尖らせながらも、しょんぼりして言った。

「だって、おそいんだもん……」

 まだ小さなゆうくんは、俯いちゃって、ぼくは元気づけるために、汗ばんだ片手を握ってあげた。

「ごめんごめん。あと、みきちゃんと、ともくん、探しに行こう」

「……うん!」

 こっくり頷いたゆうくんの手から、かぶとむしが飛んで逃げた。


 みきちゃんは、中々見つからなくって、いつの間にか、降ってくるセミの声が、違う言葉になっていた。

「このせみ、ひぐらしって、いうんだよ」

 ぼくといねちゃんの間、真ん中を歩いてるゆうくんが、自慢げに言う。

「よく知ってるね」

「おかーちゃんが、おしえてくれたんだよ。ゆうがたになったら、ひぐらしがなくんだって」

 胸を張って言うゆうくんを、優しそうな目で、いねちゃんが見ている。

 森の木々はどんどん数を増やして、ぼくたちから光を奪っていく。それでも、太陽が沈みだしたことが、分かってきた頃、向こうの少し開けた場所に、崩れかけたお家が見えた。

 中心の柱を残して、あとは真っ黒な木だけになっているそのお家に、ぼくたちは駆け寄って、周りを一周した。

 その中で、焼けた木が奇妙に間を作っている所を見つけて、ぼくはその中に声をかけた。

「みきちゃんみーつけた!」




 1978年 2月 19日

 午後八時二十分、遊びに出た息子が帰らないと、交番へ通報があった。被害者は 遠野 智也(9)。一緒に森へ遊びに出かけた友人たちは既に帰宅し、マフラーを忘れたと、一人戻った姿が目撃されたのが最後となる。

 四日後、麓の街で誘拐未遂事件発生。犯人の男は、通り魔的犯行として、遠野くんを殺害したことを仄めかした。しかし、連行の際に逃亡、横断歩道へ飛び出し、軽トラックに轢かれ、犯人の男は死亡。未だに遠野くんの遺体は見つかっていない。




 じりじりと、日差しが背中を焼いていく。シャツの中で、汗が皮膚をなぞっていく。

「もういいかーい」

 やっと百まで数え終わって、ぼくは大きな声を上げた。

 もういいよー。

 声が聞こえたような気がして、腕を押し当てていた木の幹から手を離して、ぼくはみんなを探しに行く。

 みんみんみん、とセミの合唱に耳を潰されそうな気分になりながら、神社の裏山の奥へ入り込んだ。

 いねちゃんと、ゆうくんと、みきちゃんと、あと、ともくん。

 足元に積もった落ち葉が、ざくざくざく。頭の上から、みんみんみん。ぼくは額の汗をぬぐって、木の影に身体を隠した。

 林の向こうに、川が見えて、側に、赤い着物姿がある。

「いねちゃんみーつけた!」

 川のへりにしゃがんでいたいねちゃんは、振り向いてぼくを見ると、少し残念そうな顔をした。

「じゃあ、みんな探しに行こう」

「私がさいしょ?」

「うん」

「ふうん」

 いねちゃんは少し、がっかりしてた。

 そして、足音を立てないように、ぼくらは木陰を移動する。やがて向こうの方に、青々とした草とは違う、白いシャツの色が見えた。

「ゆうくんみーつけた!」

 ぼくの声にびっくりして、手にかぶとむしを握ったゆうくんはぺたんと尻餅をついた。

「ゆうくんも、かくれんぼやめて、虫取りしてたの」

 すると、ゆうくんは口を尖らせながらも、しょんぼりして言った。

「だって、おそいんだもん……」

 まだ小さなゆうくんは、俯いちゃって、ぼくは元気づけるために、汗ばんだ片手を握ってあげた。

「ごめんごめん。あと、みきちゃんと、ともくん、探しに行こう」

「……うん!」

 こっくり頷いたゆうくんの手から、かぶとむしが飛んで逃げた。


 みきちゃんは、中々見つからなくって、いつの間にか、降ってくるセミの声が、違う言葉になっていた。

「このせみ、ひぐらしって、いうんだよ」

 ぼくといねちゃんの間、真ん中を歩いてるゆうくんが、自慢げに言う。

「よく知ってるね」

「おかーちゃんが、おしえてくれたんだよ。ゆうがたになったら、ひぐらしがなくんだって」

 胸を張って言うゆうくんを、優しそうな目で、いねちゃんが見ている。

 森の木々はどんどんと数を増やして、太陽が傾いてきた頃、崩れかけたお家が見えた。

 中心の柱を残して、あとは真っ黒な木だけになっているそのお家の周りを一周して、ぼくはその中にある、ほかとは違う色を見つけた。

「みきちゃんみーつけた!」

  すると、中からすすで汚れた手が出てきて、水色のワンピースを着た、みきちゃんが這い出してきた。そのワンピースにも、黒い模様が出来ちゃってる。

「あーあ。見つかっちゃった」

 残念そうでも、みきちゃんは笑って、手をパンパン叩いてすすを払ってる。

「長かった。見つけてくれないかと思った」

「みきちゃん、見つけるの難しすぎるよ」

「上手でしょ、えへへ」

 木の葉をすり抜けた日差しが、そう言って嬉しそうに笑うみきちゃんの横顔を、薄暗い森の中で照らした。

 ぼくたちは、少しだけ休憩する。だけど、ともくんが残ってる。早く見つけないと。

 いねちゃんが、着物の裾から出したお手玉を、歌と一緒に、上手に回す。

「かーごめ、かごめ」

 透き通ったいねちゃんの声が、暗い森の中に響く。

 いついつでやる。

 ぼくたちも、一緒に歌う。

 夜明けの晩に。

 傾いた陽が、夜が来ることを教えてくる。

「うしろのしょうめん」

 だあれ。

 もう、ひぐらしも鳴いていない。

 陽の殆ど照らない不気味な森が、ぼくたちを包んでいる。うるさかったセミが黙ってしまうと、あたりは、しんとなる。

 ぼくたちは、急いで、ともくんを見つけに行く。

「ともくーん!」

 口々に、ともくんの名前を呼ぶ。かくれんぼは、鬼がみんな見つけないと、終わらない。

「もうかえろーよ」

 一番小さなゆうくんが、ぼくの服を引っ張った。

「おかーちゃん、先にいっちゃったよ」

「だめだよ、ともくんは、一人で待ってるんだよ」

 みきちゃんが言ったら、ゆうくんは溢れてきた涙を拭いてた。可哀相だけど、見つけてくれないともくんの方が、きっと、もっと寂しい。

 ゆうくんの手を、いねちゃんが繋いで、ぼくらはすっかり暗くなった森を歩き回った。

 暗いのは怖い。だから多分、明るいところに、ともくんもいる。

 そう思ってぼくは、薄い光が見える方へ、早足で進んだ。




 1995年 8月 12日

 午後五時六分。かくれんぼをしていた子どもたちから、通報。鬼役をしていた 佐々木 直人くん(11)が崖から転落。事故死と判断される。

 しかし、警察の調査により、学校でのいじめが発覚。転校して間もない佐々木くんへの嫌がらせが相次いでいた。主にいじめに加担していた五人の少年は、かくれんぼをやろうと佐々木くんを呼び出し、崖近くに来たところで突き落とし、殺害。少年たちは、本当に落ちるとは思わなかった、驚かすだけだった等と供述。現在、近隣の小中学校では、事件の起きた崖のみでなく、森に入って遊ぶことを自体を禁止している。




  じりじりと、日差しが背中を焼いていく。シャツの中で、汗が皮膚をなぞっていく。

「もういいかーい」

 やっと百まで数え終わって、ぼくは大きな声を上げた。

 もういいよー。

 声が聞こえたような気がして、腕を押し当てていた木の幹から手を離して、ぼくはみんなを探しに行く。

 みんみんみん、とセミの合唱に耳を潰されそうな気分になりながら、神社の裏山の奥へ入り込んだ。

 いねちゃんと、ゆうくんと、みきちゃんと、あと、ともくん。

 でも、何だか思う。

 もう一人くらい、遊ぶ友達が増えた方が、楽しいんじゃないかなって。絶対見つけるから。日が暮れてしまわないうちに、絶対に。すぐに、見つけてあげるから。

 ……あれ。

 あれは、誰の背中だろう。

 ……あっ、思い出した!

 そしてぼくは、大きな声を出す。


 みーつけた!



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[一言] あと一人……( ゜д゜) みーつけた…( ゜д゜ )
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