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各々の闘い

 視界に映る限りのコカトリスの数は7体。

 この雨のせいで視界が悪いので多めに予測して20体ほどだろ。

 フユ、海砂、シズクは揃ってそう思っていた。


 コカトリスの猛攻に対し、シズクの能力(ちから)を使い、その掛け声に合わせフユは動いた。

「右です」

「おっけー」

 即座に左側へ回り込み、跳ぶ。そして、無毒であると言われているトサカを握り、宙へと投げる。

絡繰霧社(カラクリムシャ)

 地へ落ちる前、シズクが手を螺旋状に回転させながら前へと突き出す。

 そこから不可視の攻撃が飛ぶ。

 コカトリスが落ちる寸前、攻撃はコカトリスの頭に直撃し大量の血を噴射しながらその場に落ちた。

小郡流(おごおりりゅう) 九里独楼(くりどくろう)

 海砂が剣を上下に振ってから、フェンシングのごとく前に突き出し、叫んだ。

 刹那、切り裂いた空気から桜の花びらのようなものが姿を現す。

「えっ、何それ……」

 フユは思わず声を漏らした。

「これは小郡流九の型。大気を斬り、花弁の刃を放つ。ちなみに花弁は幻想よ。大気と切り裂いた大気が混じりあってそう見えるだけなの」

 花弁の刃を飛ばした張本人はフユの声に饒舌に答えた。

 コカトリスはそれらを避けることは無く、スパスパと四肢が切れていく。

 脚が落ちるもの、頭が落ちるもの、胴体から真っ二つにされるもの。

 脚だけが落ちたコカトリスは悶絶している。フユはジャンプし、脚を振り上げ、悶絶しているコカトリスの頭に向かって振り下ろした。

 ぐちゃ、という穢い音を立て頭が潰れた。

 脳が破裂し、飛び出る。

「危ない!」

 シズクが声を上げる。

 フユは咄嗟にその場から離れる。

 瞬間、フユのいたその場所にコカトリスが飛びかかった。

 尖ったくちばしがぬかるんだ地面を穿つ。

「あっぶねぇ……」

 フユは苦笑を浮かべながら呟く。

 それに合わせてシズクが両手を天に掲げる。

縛樹(ばくじゅ)

 囁きのような声を出し、そのまま手を振り下ろした。

 まるで刀を振り下ろすかのように。

 振り下ろされた手から光が直線上に迸る。

 光は地を穿いたコカトリスの腹部を貫いた。

 コカトリスは喘ぎのような声を出し、血とともに臓器の一部を吐き出した。

「ギギゴーン」

 謎の声とともにコカトリスは後退し始めた。

「何が起こったのかしら」

 海砂がそう放った瞬間だった。

 コカトリスが群れを成して突進してきたのだ。

 地震のように揺れる大地に立っていることさえままならない。

「嘘……でしょ。そんな……」

 シズクが言葉を濁す。

「どーしたんだよ!」

 じれったくなり、フユは声を荒らげる。

「数え切れないほどいるわ。多分……500体はいる」

 シズクは震え混じりにそう告げる。

 ようやく最前線までたどりついた第4部隊が戦況を見て嘔吐した。

 それほどまでに悲惨で、グロテスクな惨状だった。

「これはきつい……かも」

 第4部隊の隊長らしい赤髪の少年が口を抑えながら苦しそうに言う。

「来るわよ」

 そんな事はお構い無しに攻めてくるコカトリスを見てシズクが言った。

「おぉっ!!!」

 短い咆哮と共にフユが駆け出す。

 軽く跳ね、先頭を駆けるコカトリスの頭を蹴り飛ばす。頭を蹴られたコカトリスはそのまま体勢を崩し情けなく転ぶ。

 それに影響されて後ろを走る何体ものコカトリスが転げた。

 しかし、それは数十体に留まり、450体近くは無傷で向かってきた。

 フユは奥歯を噛み締め、後ろへ飛ぶ。

 第4部隊はあてにならない。そう読んだ海砂は小郡流を駆使してコカトリスを薙ぎ倒していく。しかし、その数にも限界があり、コカトリスはフユたちを襲いはじめた。

 フユやシズクの第6世代はコカトリスの攻撃をかわせた。海砂もギリギリのところでよけれていた。

 しかし、戦場を目にして動きが鈍くなっていた第4部隊はそうはいかなかった。

 襲い来るコカトリスになす術なく腕を喰いちぎられ、くちばしで穴を穿たれ、残酷な死にざまを見せた。

 雨にまみれて鮮血が飛び散る。

 紅が水に溶け、薄くなりピンク色にさえ思える。

「危ない!」

 シズクの声が走る。

 その声だけで危険を察知し、フユと海砂はより一層気合を入れ攻撃を避ける。

 ぬかるんだ大地をしっかり踏みしめ、フユは叫んだ。

「くらえーー!!」

 一体のコカトリスめがけて飛び蹴りを放つ。

 その蹴りで顔面が吹き飛ぶ。鮮血を全身に浴びる。

 先程も血を浴び、二度目の血まみれ状態である。

 飛び蹴りの威力は半端なものではなく、一体の頭を吹き飛ばしたにも関わらず、まだ突進を続けていた。

 止まることをしらない蹴りが二体目の頭を穿つ。また返り血を存分に浴びる。

「なんて威力なの……」

 それを見ていた海砂も思わず声が漏れた。

「私も……。絡繰霧社」

 シズクのいた児童養護施設で教えてもらったと言っていた空撃の術の一つが放たれる。

 遠く離れた場所にいるコカトリス数体がおおよそ真ん中の位置で半分に切り落とされる。

「小郡流 三失獏流(さんしつばくりゅう)

 海砂が大きな目を閉じてそう唱える。

 それは祝詞(のりと)のように安らかに述べられ、精錬された滑らかな動きで繰り出された。

 今までのような遠くの敵を斬るなどといった技ではなく、目の前の敵を確実に仕留める技であった。

 居合切りのようなそれは目には止まらない速さで目の前を飛び去るハエでさえ裁ち切りそうな速さで繰り出され、コカトリスを縦半分で切り裂いた。

 五体目を撃ち抜いたところでようやく威力が収まったフユは返り血で誰なのかよくわからないほどになっていた。

「やりすぎよ、血まみれじゃない」

 苦笑まじりに海砂が放つ。

「ごめんなさい」

 悪びれた様子もなくそう言う。

 しかし、この時フユの身体には異変が起こっていたのだ。誰も気づかない、フユ自身もまだ気づいてない異変が……。


 エレベーターに投げ入れられた河本が打った頭を摩りながら早く天空都市イスカーンにたどり着かないかと焦っていた。

「早く……、早く」

 最初は嫌いだった第6世代の赤髪の子どもたち。でも、実際一緒に闘い始めると普通の子どもとそう変わるところはない。力があるか、ないかの違いだ。

 それに気づいた河本はコカトリスの毒にやられたアカネを救いたいの気持ちでいっぱいだった。

 あの『終焉の悲劇』以来、何度か地上に降りたことはあるがここまで空震エレベーターが早く動けと思った事はなかった。

 強化ガラスに雨があたりバチバチと音を立てている。

 暗く、分厚い雨雲が段々と近づく。

 その音さえ河本を不安にさせ、焦る気持ちをより一層強くさせた。

 ようやく雨雲を抜け、雨の降ることのない上空まで上がる。辺りは一変し、地上の雨が嘘かのように澄み切った青が支配している。

「頼む……。早く」

 祈るようにまだ遥か上空にある雲の塊、天空都市イスカーンを見て両手を合わせ祈る。

 少し下を見ると暗雲がびっしりと敷き詰められていた。


 降り続く雨によって体が洗われ、浴びた血が流れていく。

「やっと落ちるよ」

 それを確認しながらフユは呟く。

 200体近くを倒したのだが、まだ半分以上は残っている。辺りは水溜りではなく、血溜まりができてる。

 頭のないものや、引っ付いてるはずの四肢があちらこちらに飛び散っているもの、身体が縦横に切れているもの様々なものがそこら中に散らばっている。

「海砂!」

 フユが声をかける。

「フユ!」

 それに呼応するかのように名前を呼ぶ。

 互いにそれを聞き終えると海砂は剣を握らず、エア剣で構えを取り始めた。

「小郡流 七顚八倒(しちてんばっとう)

 腰に剣は差してあるが、それは掴まずエア剣で行う。

 七顚八倒の性質は空を斬る。それが宙に浮かぶ分子の核を斬ることによって不可視の分子爆発を起こすことにより、先にいる敵を斬ることが出来るのだ。これを応用したフユと海砂の連携技。エアでやることにより、人体を傷つけることなく、斬撃を与えるより遥かに小さな分子爆発を起こせる。それに乗ってフユが移動し、フユ自身が斬撃となるのだ。

 フユは宙で高速回転しながら威力を増す。

絶対領域(インフィールド)

 それに合わせてシズクが目をつぶる。第6世代の能力である視力と第6世代ならではの感覚を同時に駆使したものを使う。

「そのまま左です」

 高速移動に高速回転しているフユの定まらない視界の代わりに能力を使ったシズクがサポートする。

 フユはきつく握った拳を前に突き出し、攻撃準備を整える。

 距離感が掴めないいま、早めから準備に入るのは当然のことだ。

「五体、入ります」

 シズクは視界の悪い中、第6世代の恩恵であり悪魔と呼ばれるゆえん力、絶対領域を駆使して的確な指示を出す。

 フユはキツくまぶたを結び、そのまま五体のコカトリスの頭をぶち抜いた。

 フユによって頭を突き抜かれたコカトリスがバタンと倒れた。

 フユもそのままの勢いでドロドロの地面の上に倒れた。


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