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大地奪還作戦

 ハーピー襲撃からはや2ヶ月。その後も幾回かの怪族襲撃があり、天空都市はクレーターのような大穴が何箇所も穿たれ、総人口も当初の約半分500万人までに減した。それを受けた天空都市の総合組織である空国協会オロジストが重たい腰を上げた。

「Shall we go with earth recapture operation?(大地奪還作戦といこうか)」

 協会最高支配者である元研究本部の最高責任者であったフライシュは各エリアの統括館に住まう代表者に伝達した。

 そしてその代表者たちが狂ったようにそれを実行するある条件(・・)をつけて……。



 エリアジャパンの統括者小郡海砂はそれを受けてエリアジャパンの人々に発した。

「貪欲にまみれよ。我が日本国の民たちよ。大地を奪還を望むモノよ、我が元に集い給え!!」

 同時刻に他エリアでも同じようなことが各エリアの統括者によって宣言された。

 大地奪還作戦ーーどんな手法でも良いから大地を怪族から奪い返し、その地を奪い返したエリアのものにするという作戦だ。

 前もって各エリアのドローンによって地上は調査済み。そして怪族はそれぞれ相容れなぬよう種族によって領土分けをしていることがわかった。そしてそれを鑑みてフライシュはこの作戦を打ち立てたのだ。

 資源の乏しかった国は資源のある土地を求めて、資源はあっても領土が少ない国は領土拡大を狙って、領土の広い国はさらに国土拡大を狙って、各エリア統括者は動き始めた。


「フユくん。ホントに行くの?」

 赤髪の子どもたちが軟禁されている名だけの児童養護施設のテント内で伸びてきた黒髪をポニーテール状に一つに纏めた清楚な雰囲気の美香が目に不安の色を浮かべ訊く。

「うん。俺の憧れなんだよ。この足で地を踏みしめることが」

 遠い未来を見据えた目には夢色が浮かんでいる。

 ハーピーを倒した後、フユは地を土を求めるようになった。

 怪族の一部を倒したことが自信になったのか、そんな年頃なのかそれは分からない。

「フユくんが行くなら私が行かないわけにいかないでしょ?」

 長かった髪を切りショートヘアにした赤髪が勝気な性格の彼女によく似合っている。アカネは無邪気な笑みを浮かべる。

「アカネちゃんまで……」

 美香は心配が表情だけでなく、全身から滲み出ている。

「大丈夫、心配すんな」

「でも……」

 フユの言葉に美香は弱々しく呟く。

「美香ねぇは心配しすぎなんだよっ!」

 フユは美香の肩をポンポンと叩きながら笑顔を向ける。

「そうよ。なんてたって私たち、『悪魔の子供』なんだから」

 アカネは不敵な笑みとともにそう告げた。


 フユとアカネは2人で空国協会日本支部であり、エリアジャパンの統括者である小郡海砂の住まう鋼鉄の家についた。家というにはおこがましく、100年近く前にあった人と人との殺し合いーー戦争ーーの時に戦場にあったトーチカといった方が近い。

 そこには既に100人近くの人がいた。現エリアジャパンの総人口は3000人近く。その30分の1もの人数がその場に集結していたのだ。内半分は赤髪の子供たちだ。残りは黒髪の青年や大人たちだった。

「皆のもの。よく集まってくれた」

 そんな群衆の前によく通る凛とした声の持ち主が現れた。

 毛染めなんてものができないこの都市で茶髪の日本人は珍しい。しかし、フユたちの目の前に現れた女性の髪は日本人にも関わらず薄茶色の髪をしていた。

 透き通るような漆黒の目に映し出される群衆を見て少女は嬉しそうな顔をする。年齢は19歳か20歳。そのあたりだろう。

「私は嬉しく思う。我が日本国を地上に再建するためにも皆の力が必要だ」

 そう言う少女こそがエリアジャパンの統括者小郡海砂。

 美香は年相応の可愛さ、というものを感じるが海砂からは見た目とはかけ離れた可憐さと強さ、そして美しさが感じられた。

「我々日本国の方針は一つ。第6世代を主要(メイン)とし、他を援助隊(サポーター)とする」

 ざわつきが起こる。どうして悪魔の子供をという声だ。

 海砂は一言でそれを一蹴する。

「これは決定事項だ。反するものはこの場から去れ」

 可憐な花のような見た目から想像できないドスの効いた声音だった。

 その場は各々の呼吸音が聞こえるほどまで静まり返った。

「よしっ。ならば今から隊を組む」

 海砂は自分も加わり、隊を作り始めた。フユとアカネは互いに離れず、一緒にいた。それが幸をなし、フユとアカネは一緒の隊に分けられた。

「第3部隊。隊長シズク、副隊長を私だ」

 第6世代の大まかな振り分けを終えた後、他の人々はあみだクジで振り分けが行われた。

 理由は「海砂様と一緒に!」という者ばかりで振り分けができない状況になり、そういうことならということであみだクジとなったのだ。

 そこでフユとアカネはエリアジャパンの統括者である海砂と同じ隊になったのだ。

「私が副隊長になった以上、貴方たちに死は与えません」

 隊ごとに別れてすぐ。海砂の第一声はそれだった。芯の通った人に希望を与える、そんな声だ。

「私はシズク。よろしく」

 隊長であるシズクはアカネと同じく6歳。物静かな印象をもたせるが髪色は赤。第6世代だ。タレ目が原因なのか眠たそうに感じ取れる。

「俺はフユ」

「私がアカネよ」

 続けざまに自己紹介を済ませる。この隊の総人数は5人。3人の第6世代に2人の援助隊だ。内1人は海砂。

「オラが河本隆(こうもとたかし)だ。海砂様を傷つけるやつはどんなやつでも許さん!」

 チャラい雰囲気を持つ男だ。黒髪を器用に編んでいる。そこそこに整った顔がまた腹立たしい。

「いま貴重な戦力を削ぐようなことをする人は私が許しません」

 海砂が堂々たる態度で言い放つ。

「それでは第1回大地奪還作戦を決行します。今回の目標は日本国の奪還です」

 海砂のよく通る声の後に獣のような雄叫びや咆哮と言ったものが続いた。

「それでは第1部隊から空震エレベーターでお願いします」

 その声を聞き届けるや第1部隊の5人は空震エレベーターの中に消えて行った。


 第2部隊が空震エレベーターで降り、それが上がってきてから第3部隊が空震エレベーターに乗り込む。そして降りるという表示をタッチする。刹那、短い浮遊感に襲われてから高度1000メートルからの垂直落下が始まる。一瞬にして群青色の晴れしかない空の世界から天気が存在する地上へと引きずり下ろされる。

 白い雲の中を抜けるや次に訪れたのは黒の世界だった。時間的にはまだお昼。故に外が暗いのは変なのだ。

「曇りですか」

 海砂が重々しく呟く。それに続けて河本が話す。

「しかも、今にも降り出しそうだ」

 フユたち第6世代には何を言ってるか分からない。晴れしか経験したことのない第6世代は曇りも雨も雪も何もかもが初めて見るものなのだ。

「降り出しそうって?」

 アカネが海砂の方を見る。

「そうですね。雨というのは水が空から降ってくるといったものです」

 海砂は少し困った顔を浮かべてから説明する。刹那、エレベーターを囲む壁からバチバチという何かが当たる音がした。

 フユたち第6世代は戦闘態勢に移行する。

 しかし、海砂と河本はシンプルな笑顔を見せる。

 フユにアカネ、シズクは揃いも揃って不思議そうに2人を見つめる。

「これが雨ですよ」

 海砂は微笑を浮かべて言う。かなりの強度を誇る強化ガラスの壁に水滴が着いている。

「本当だ……」

 フユが感嘆の声を漏らす。

「感心するのはいいですが、もう着きます」

 海砂の言葉が終わると同時に異様な浮遊感に襲われ、空震エレベーターは止まった。

 河本が開くの表示をタッチする。

 すると激しい雨が5人を襲う。

「これは……酷い」

 土砂降りの雨で視界が定まらない。河本が腕を顔の前に持っていき雨粒を防ぐような格好をとる。

 海砂もそれと似たような格好をしているが、第6世代は別だった。

 視界補正でもついているのかというほどクリアな視界だった。どんな雨でも関係ないようだ。

「えっ……」

 そんな彼らだからこそ発見できた。眼前に広がる数多の死体に……。

 皆顔くらいは知っている。ほんの数分前まで天空都市(うえ)にいた人たちだ。

 フユは大地の感触を存分に味わうまでもなく意識を戦闘に向ける。

 第1部隊からのタイムラグおよそ8分。第2部隊とのタイムラグおよそ4分。たったそれだけの間に2つの部隊は壊滅していたのだ。

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