打ち明けと光明
図書館は、僕の想像を絶する物だった。
広さもそうだが、本棚1つ1つがまるで一個のタワー。10mはゆうに越すだろう。それが10などでは事足りない数並んでいる。
「ね、凄いでしょ~! このロマネア国立図書館はね~、国内で一番おっきい図書館なんだよ~!本を読むのはここで十分!」
「へぇ・・・そんなに凄い図書館だったのか」
僕は、僕の隣りにあった本棚の肩の高さにあった本の1つを適当に取り、目を通してみる。
この世界の言語はラテン語に似た別の言語だ。少し違和感も有るが、むしろ異世界の言語を辛うじて読めるレベルだというのは少し驚いた。
「えぇっと・・・『人に危害を与える時は、復讐を恐れる必要がないように痛烈にやらなければならない』・・・か」
「あ、その本。よくスラスラ読めるね、学園の政治学科でやるような内容だから、結構難しいのに」
「まぁ、こういうのを良く読む機会があったから・・・かな」
「記憶喪失でしょ? 私が見つけた時は街に倒れてたし・・・一体何処で読んだの?」
記憶喪失!? 僕はそんな事を伝えたつもりは・・・いや、シルダの面接の時にそう説明をした覚えがある。まさか、シルダがバラしたのか? いやまぁ、姉妹内でこんな事を隠すようなことはしない。むしろ、泊まらせてる男の情報なのだから、この程度のことは伝えて然るべきだろうが・・・。
「さぁ・・・何処かで読んだんだろうか?覚えてない」
「ふ~ん・・・」
咄嗟にごまかしたが、『記憶喪失』という設定のままだと今後にどう響いてくるか分からない。理由もなく隠してきたが、異世界から来たって事を打ち明けるべきじゃないのか?
少なくとも、目の前に居るカラ。 それと、物をよく知っていそうなゴウラとシルダには打ち明けるべきだろう。
「なぁ、カラ。 少し良いかな? 僕が図書館に今日でも来たいって言ったのは理由があるんだ」
思い立ったが吉日。 迷うような案件でも無いから、今目の前にいる内に伝えようと思った。カラは、本棚を眺めていたが、すぐにこっちを向く。
「ん? どーしたの?」
「僕は、異世界から来た・・・って言ったら、信じるかな?」
突然のカミングアウトに、カラは目を見開く。そして、その一瞬後に、図書館の中であるのにも関わらず大声を上げて驚いた。
「えぇ!? 嘘でしょ!? 異世界から・・・って、初めて見た・・・えぇっと、異世界って・・・えぇっと、何だっけ。別の世界?」
どうやら、驚きのあまり少し混乱しているみたいだ。異世界が別の世界ってそれはただ言い換えただけなのではないのか?
「カラ、うるさくしてちゃいけないから・・・えぇっと。あそこで一旦落ち着こう、な」
「わ、わかったよぉ」
覚束ない足取りで、机と椅子だけで形成された窓際の休憩スペースに向かう。
「んで、異世界人って何!? アト君は一体何処から来たの!?」
「だから、別の世界で・・・要は、この世界のことは何も知らなかったんだって。ロマネアがどんな所かも、何が有名かも、昨日話してくれた童話も。」
「ホントに!? じゃぁ何知ってるの?基本魔術公式は?七皇は?もしかして、魔物の種類一個も言えない!?」
矢継ぎ早に質問されるが、全部聞き覚えがない。元の世界で全く聞かなかったことばかりだ。
「一個も言えないよ」
「驚いた・・・異世界人ってのがホントに居たなんて・・・」
「え?・・・ホントに居たって・・・どういう反応?」
「あぁ、異世界人は、この世界では理論的に居るんだよ。実例も数少ないけどある・・・らしいよ」
「らしいって、そんなに曖昧な・・・」
だけど、異世界人が・・・僕の仲間が世界に居るらしいと知れただけでも救いだ。
この世界にずっと居なければならないのかと思ったけど・・・いや、もしかしたら、それも良いのかもしれないと思っていたけれど。
「でも、当然多くの魔力を消費するらしいよ。それこそ、人が何百人いても足りないような・・・だから、そんなのが出来るのは神様か・・・」
そこまで言って、急に口を噤んでしまうカラ。分からないという様子でも無いから、口にするのもはばかられる、そんな内容なのだろうか。
だから、敢えて僕は待つことにした。30秒ほど悩んだ所で、カラはぽっと口に出す。
「ヒエロス・ガモスしか出来ないよ」
「ヒエロス・ガモス?」
「別名、神識会。この世界だったら、この名前を知らない人はいないよ。魔術は無限の可能性が有るけど、その中には知ること使うことが規制されてたり、そもそも使ってはならないと認定されたものもある。あと君をこの世界に入れるために使われただろう異界よりの召喚もその一つ。それは、世界のトップ7人・・・七皇が厳正に判断して取り決めた物で、それを破ることは重い刑罰に課せられる。でも、その協定を無視して只管魔術の研鑽をする組織が、神識会。魔術の研鑽と言っても、魔術による破壊行動も多く行ってるらしくて、組織に滅ぼされた街はいくつも有るんだよ」
「そんなのが・・・」
聞いていて、僕は恐怖とは別の感情が生まれてきた。
それは、希望。
その組織だったら、僕を元の世界に戻せるのではないだろうか?半ば諦めていた、『帰る』という行為に対して一筋の光明が刺した。
当然、その魔法を使わせるためには、その組織の信用を築くのが楽だろうけど・・・。
「ねぇ、その・・・神識会だっけ。もし、それに入りたいって人が居たら――」
「ダメだよ!」
すぐさま、僕の意図を察したのか、質問を言い切る前に否定されてしまった。
意図を理解しているのかは分からないけれど、それほど危険かつ非人道的なのかもしれない。
「入ってるってことが分かっただけでも厳しい罰なんだから! そんなこと絶対ダメ!」
「分かった、分かったよ・・・落ち着いてくれ」
ここまで強く否定されたら、それに反する行動をするほうが却って非人道的だ。
だが、この組織の存在は、僕が帰るために必要不可欠なものだろう。頭に入れておこう。
僕は、カラの注意を頭のなかで反芻しながら、適当な本を取りに行った。