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輝かしい神話(になる予定)の物語  作者: カタストさん
第一章『自分のクラス』
7/24

夕べはお楽しみ

僕はあの後、気づいたら一度寝たベッド。つまり、ゴウラの酒場の2階のベッドで目を覚ました。

盗賊を倒したのは良いけれど、そこからの記憶が残ってない。

あの半分博打の弾丸を撃った後、すぐに全身から力が抜けたと思ったら、瞼が落ちてきてしまった。

そのまま誘われるようにして眠りに落ちた・・・記憶は残っている。そこから何時間眠っていたかさえ良く分からない。

まるで、この世界に来たときのようだ・・・と頭の中で情報を反芻しながら首をひねって周りを見渡すと、ここに来たときとは違うことがあった。

起きたらすぐ横にカラが居た。背もたれもない、スツールのような椅子に腰掛けて、寝息を立てている。

彼女を起こさないように静かに身を起こした・・・つもりだったが、結局彼女は瞼を上げてしまった。

「あれ・・・起きた?」

あんな騒ぎの後なのに、何もなかったかのように振る舞う。

こんな所で居眠りをしていた時点で既に『何もなかった』はずが無かったのだが、それでもそういう風に振る舞えるのは経った時間が長かったからなのか、それとも彼女の精神力が強靭だからなのかは僕には分かりかねる。

「う~ん・・・どうすれば・・・」

「え? 何か欲しい? あ、食べ物でも・・・」

「あ、いや、そうじゃなくて・・・」

僕は、少しだけ悩ましく思っている事柄があった。

それは『言葉遣い』。一度、敬語で会話していた以上、それを貫きたかったところだったが、あのときの騒ぎで敬語での仮面は一度剥がれてしまっている。

それはカラも十分知るところである。だからこそ、どちらの口調で話すべきなのか迷ってしまっているのだ。

シルダは、砕けた口調の方がいいと言っていたが・・・いいや。悩んでいても仕方がない。

僕は、この小さな悩みを打ち明けることにした。

「その・・・敬語。取ったほうがいい・・・です、か?」

小さい悩みだったことは重々分かっていた。でも、その理解と裏腹に僕の笑顔は激しくつり上がっているのが自分でもわかった。

だけど、カラは屈託のない笑顔を浮かべて言葉を返した。

「外してよ! 私も、敬語は必要ないなーって思ってたんだー。あ、メガネメガネ。はい」

「あ、ありがとう」

軽い乱視を写す網膜の映像の修正をするメガネを掛ける。自分でも乱視に気づかないほどの疲労が体に溜まっていたのか、カラと言葉を交わしていた時は自覚していなかった疲れが肩や首に響く。

「おかしいな・・・結構寝てたはずなのに」

「そりゃ、魔力欠乏を起こしたからだよ・・・。 ホントはあの1発だって撃っちゃダメだったんだからね?今更そんな事も言えないけどさ」

「そういえば、シルダもそんな事言ってたな」

魔力欠乏・・・あっち(・・・)に居た時は漫画やアニメの中に出てくる台詞だったから、まさか自分自身が聞くことになろうとは思ってなかった。

魔力という単位が一体自分の内面にある何を指しているのかは、今でも全然分からないが、確かに魔力というものが自分の中に存在することが認識できてしまった。

黒と銀の銃もどき・・・確か魔銃(マジックガン)とか言ってたっけか。初めて見た時もそうだったが、改めて自分の理解の範疇を超えたものであることが掴めた。

そう思うと、ふと目に入った一対の魔銃が気になり始める。今日一日がこれに吸い取られたようなものなのだから、仕方のないことなのだろう。

『来い』。そう銃に頭の中で命じると、魔銃(マジックガン)は真っ直ぐに飛んできた。小型犬を思い出させるような懐き方・・・いや、使い熟し方に、思わず口元が綻んでしまう。

「シルダ姉さんの言ってた通りだね。その使い熟し方、『ルーナ』の伝承にそっくりだね。割引にした判断は正解かも」

「ルーナ・・・何なんだ? それは」

「『ルーナ』って言うのはね。(いにしえ)の英雄なんだよ」

カラは、徐に立ち上がり、部屋の壁際にあった本棚を探る。そして、目当ての本を取ってベッドの側まで戻り、或るページを開いた。

少し厚手の絵本だったが、開かれたページには、両手に銃を持って悪魔のような見た目のザ・悪者と立ち向かう姿が描かれていた。冒険奇譚のようなものなのだろうか。

「その昔、私達のずーっと前の先祖様の時代、空から暗雲のように溢れる魔物が地上に舞い降りました」

そのページを開いたまま、何やら語りだす。その語り始めから、物語の始まりなのだと受け取ることが出来る。だが、始まりのページを開いていないということは、暗記するほど繰り返し読んだのだろうか。

僕の思索をよそにやって、カラはつらつらと語り続ける。

「人々は、次々と魔物に襲われました。或る人は魔物に捕まって無残に殺されました。或る人は大陸の端っこまで逃げ走りました。そうして三日三晩続いた魔物の大暴れで、人々は疲れ果ててしまい、生きることを諦めようとしてしまいました。そんな時に、街の少年のルーナのもとに二丁の拳銃が空から降ってきたのです。そして、天から声が聞こえてきました。『お前が魔物と、それらを統べる魔王を倒して、世に平穏を取り戻すのだ』と」

熱の入り方から、余程好きだということが伝わってくる。もしかしたら、全員が知っていて、全員が好きな物語なのかもしれない。

「ルーナは、世界の西から東、南から北までを駆け抜け、その度に魔物を何百何千と倒していきました。そして、ついに魔王を倒し、世の中に平穏を取り戻したのでした・・・ちゃんちゃん。っていう物語なんだよ!」

「カラがこの物語が大好きだって言うことは凄く伝わってきたよ。ありがとう」

童話でありがちなパターンだろう。主人公が特別な力を賜って、悪者を退治する冒険譚。

この話自体はよく響いてこなかったが、話を聞いているうちに悶々としてくる思いがあった。

本だ。

今日一日で、僕は多くのことを学んだ。だが、それはきっとこの世界で知るべき知識全体との比較で考えたなら埃ほどの大きさでしかないんだと思う。

言わば僕は、常識が欠落した存在。ならば・・・

「図書館・・・、カラ、この近くに図書館はないのか?」

「あるよ?それがどうかしたの?」

「言ってみたいんだ、連れて行ってくれないか?明日にでも」

そう言うと、カラは少し逡巡したような顔つきになったが、すぐに頷いてくれた。

「分かったよ。 でも、今日はしっかり寝てよ!魔力欠乏の一番の薬は、体力の回復なんだから!今、ご飯持ってくる!」

カラは怒りからか少し顔を赤らめて出ていってしまった。この部屋に一人取り残された僕は、明日の図書館で得られる知識がどのような事かに思いを馳せ、夕食が出来上がるまでの時間に仮眠を取ろうと少し目を閉じた。



まず、明日の出来事から先に話すことにしよう。

結果として、僕は知識の他にもう一個得るものがあった。ゲームの主人公と並び立つ『仲間』だ。

僕は、この世界で行動を共にする最高のパートナーを手に入れたんだ。

しかし、その出会いの形は僕の思いつく中で最悪だったということを除いて。

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