シルダの店
今回から第一章!
張り切っていきますよ!
手を引っ張られるがまま外に出たが、どうやら町並みは素晴らしくいい。
ヨーロッパの、フランスあたりはこんな町並みなのだろう。
「?何を見とれてるの?」
カラがこちらを見つめてきた。改めて見るとけっこう可愛いが・・・性格がなぁ。
「そういえば、シルダ姉さんって一体どんな人なんですか?」
「シルダ姉さん?え~っとね・・・すごい人」
「どんな風に・・・」
「え~っと・・・言ってみればわかるよ!」
カラは説明力をつければいいと思う。
とはいえ・・・美しい街並みだ。それがおかしいのだが。
―――だが、スタートは流石にひどかったぞ。スラム街がそこらへんにあるような国からスタートだったんだ。戦闘よりも先に復興したくなったくらいにな―――
多原はそんな事を言ってた記憶がある。だが、この世界は随分と綺麗だ。スラム街があるようには到底思えない。
とはいえ、僕が理解してない情報もあるかもしれない。カラに聞いてみるとするか。
「ところで、治安はいいですよね?スラムとかは?」
「治安もいいし、ここは悪政もないから多分スラムもないと思うよ。だって、ここはロマネア。素晴らしい国なんだから!」
「ロマネア?」
「自分がいた国も知らなかったの?この国は、美食の国ロマネア。なんでも、2000年前から料理がとても美味しかったらしくて。ロマネア人は吐いてまた食べるために食べるとまで言われてるんだよ?そんなの古い考えだって!」
「そ、そうなんですか・・・」
前に本で『料理とは感じることができる政治である』という言葉を見たことがある。料理がおいしいということは、絶対とは言えないにしてもそれなりに豊かなのだろう。
というか、古い考えって・・・昔はあったみたいな言い方してもらったら困る。
で、思考を元に戻そう。ということは、スタート地点はプレイヤーによって違うのか?それともスタートの仕方が違うから別の場所からスタートしただけなのか?
・・・よくわからん。保留にしとこう。
「あ、着いたよ!ここがシルダ姉さんのお店!」
「あ、はい・・・なんだこれ!?」
吃驚した。それ以外に言葉が浮かばないくらいにビックリした。
武器屋って聞いていたから、てっきりそこら辺の家と大差ないくらいの店の大きさなのかと思っていたが。これは違う。明らかに、実家の近くにあるデパートの倍くらいの大きさがある。
「じゃ、シルダ姉さんは今の時間はここの7階に居るはずだから!」
カラは当然のように店の中に入っていく。いや、おかしいだろう。さっきまでまでも電気さえ見当たらないような世界だったのになんでいきなりこんな建物が。宮殿かここは。
入ってみてわかったが、ここは本当にデパートみたいな物らしい。
7階まで階段で上がったが、それまでに結構な種類の店が立ち並んでいた。
カラによると、ここは元々普通の武器屋だったらしいのだが、そこの売上が上々だった。そこで、店を建て増しして、店を建てたい人たちにスペースを分け与えた結果、こんな大きさになるまで繁盛したということだ。スペースを与えている間、少しずつお金を徴収しているので、シルダの利益にもなっている。
商売としては理にかなっているし、街の活気・経済も潤う。シルダの思惑は的中し、今や世界的に知れ渡る店となったみたいだ。
「あ、お姉さ~ん!おはよー!」
そんな事を話している間に、シルダ姉さんという人が見つかったらしい。
見たら、カラと違って垢抜けている印象を受ける、一目見てみて素晴らしい人間という事を理解できた。一つのグループを束ねるのには相応しい人間だろう。
「あら、カラじゃない!元気してた~?」
「うん!」
こうして見ると、カラが田舎娘の純粋な可愛さを持っているのに比べて、シルダは洗練された素晴らしさというべきものを持っている。
さしずめ、タンポポとバラだ。
そういえば、この二人。どこか似ているような・・・・。
「で、この男の人は?」
「え~っと、この人は・・・店の前に倒れてたから、その・・・武器を見立てて欲しいの」
「ふ~ん。でも、武器だけでいいの?あんな動きにくい服装じゃ、武器だけあっても使いこなせないわよ?」
「じゃぁ服も!」
「OK。姉妹のよしみである程度割引したげる。カラはそこら辺回ってなさい」
「はーい!」
そう言って、カラは階下に降りていってしまう。
「さて、今回は大仕事そうね・・・。貴方、名前は?」
「あ、え~っと・・・」
そういえば、この世界での名前を決めてなかった。とはいえ、深く悩む必要もないだろう。いつもMMORPGで使っている名前を使えば違和感もなさそうだ。
「アトって言います」
このアトという名前は、俺の名前と同じく数の単位から来ている。
1アトは命数法で一刹那。数字にすると10のマイナス18乗だ。ちなみに一六徳は1/10刹那。10のマイナス19乗である。
なんでこんな名前を親が付けたのかは知らないが、このプレイヤーネームは自分で考えて付けている。深い意味は無い。
「OK、アトね~。カラとはどんな関係なの?」
プライバシーとか存在しないのかこの世界には。いきなり見知らぬ人に妹との関係を聞いてくる姉が何処にいるだろうか。
「昨日会ったばかりですよ・・・。特に何かあるわけではありません」
「ふ~ん、そう?私がアトみたいな素晴らしい男の子見つけちゃったら、なりふり構わず奪いに行っちゃうけどな~」
「なっ!?」
大物というのは往々にして変人が多いのだろうか。シルダがそうみたいだが。
「ふふっ。冗談冗談。顔真っ赤にしちゃってさ~。初心ね~。」
「なんだ、驚かせないでくださいよ」
いいように遊ばれたのはショックだが。相手は僕を使って遊んでいる印象がある。だが、それでも不思議と嫌な気分にならない。
「さて、シルダ商会へようこそ!ここは多数の店が切磋琢磨して成り上がっていく様を間近で見れる素晴らしい店!そして私がそのトップ!与えられたスペースをフル活用して頭をひねらせる店主共をポテチ噛み砕きながら見物するシルダよ!以後よろしく!」
「よ、よろしく・・・」
やはり、気質はカラと似ているのだろうか。カラの強引さを二倍にして悪さを加えたらこんな女性になるのだろう。
「カラとは8歳差の姉妹よ。カラが16才で私が24才。貴方は見たところ16,7才?」
「16才です」
「へぇ~、カラと同い年?カラと全然印象が違うわね、カラが田舎娘だとしたら、貴方は知的な科学者って感じ?メガネといい、スーツといい」
スーツではなく、学生服なのだが・・・まぁいい。
「さて、世間話しましょっか?」
「え~っと・・・僕が分かる範囲なら」
~2時間後~
本当に世間話しかしなかった。とはいえ、この世界の世間話についていけるはずもなかった。
その反面、シルダは印象通りというべきか口調の反対というべきか、随分博識らしい。商人だから世間の流れについていけないといけないのか、最近のトレンドについてばっちり把握していた(っぽい)。
「う~ん、何も知らないのね。記憶喪失?」
「似たようなものです」
「ふ~ん」
そう言っている合間にも、シルダはメモ帳らしき物に何かを書き込んでいる。どうやら何かを記録しているようだが・・・。
「ふふん!さすが私!完璧な精神分析ね!」
「精神分析?」
「あぁ、私ね。武器屋をやってるんだけど、こういう道具って向き不向きが大きいのよ。戦士に向いている人が、杖持ったり。魔法使いに向いてる人が斧持ったりしてもダメでしょ?だから、ホラ」
彼女はさっきから握ってるメモ帳を見せてきた、そこには、さっきの世間話から自分の性格が丸裸になっている。
自分が知らず知らずの内に解剖されるというのはいい気分ではなかったが、書いてある物全てが正確なだけに咎めることができない。
「驚いた?私は精神分析士ってクラスでね。こういうのは慣れてるの。さて、アトに似合う武器。そしてその武器に似合う服装を見したげるわ!ついてきなさい!」
「あ、はい!」
そう言って、彼女はおもむろに立ち上がった。
7階を見渡してみると、武器が整然と並んでいて、武器屋の体をなしている。
「なに見てるの?こっちよこっち!」
シルダが手を振ってこっちに来いと仕草で示している。
僕は言われるがままに彼女についていった。