私の先生 ~ある少女の物語~
今回から第二章でございます。
森の中で、私は一人で倒れてた。ただ一本の刀を持って。
だけれど、見渡せどここから見えるのは茶色と緑の樹海だけ。
ただ気の向くままにこの森を禿げさせてやろうかとも考えたけれど、よく考えたら私にそんな体力は残ってない。
頭に走る鈍痛から、私は殴られて気を失ってここに運ばれたらしいと推測できた。そんな事が起こったのだろうかと思って、思い付く限り思案を巡らせようとして、すぐに原因に思い当たった。
ここまで運んだのは、私の父・・・か、その手の者なんだと。
剣道の名家に生まれただけで、私の生き方は既に束縛されてた。そこからは、ただただ競い合う日々。私の親が無駄に厳しいから、実の子だろうと全然関係ない。
私に力が無ければ、親の愛さえも注がれない。
結果として、私の力は及ばなかった。それだけならば良かった。
私の親が切り盛りしている道場の経営が悪化して、かと言って私の親に子供を預けられるような仲の人間は居なくて、可哀想なことに私は愛されていなかった。
なるほど、私はただ捨てられたんだ。そう思えば、私の人生に意味なんて無かった。
読み飽きた本を燃やすように、私は人目につかず森に捨てられただけ。
そう思って、私は無気力なまま生きる気をなくした。 たとえ森から出て生き残ったとしても、やりたいことなんて何一つ思い付かない。そんな結論に思い当たったら、体が鉄のように固く重くなってしまっていた。
これは単に疲れのせいじゃない。多分、自分の死を受け入れたら、皆こうなるんだろう。
とりあえず、後はこの森で寝て過ごしていよう。私は目を閉じた。
・・・と思ったけれど、目を閉じたら、草を掻き分けるような音が私の耳朶を揺らした。
通りすがりの山賊だろうか・・・。 別に眠ったふりをしていても良かったんだけれど、どうにも気になった私は目を覚ました。
開けた目の前に居たのは、女の人だった。背中に、大小様々な枝を背負ってるのを見ると、ここで生活してる世捨て人だろうか。
「大丈夫? どうしたの?こんな所で」
その人は、心配げにこっちを見据えてきた。私が地面に寝転がってるから、必然的に私を見下ろす形になる。なのに、その人の目の中にある不思議な優しさが、私には少し眩しい・・・けれど、さっきまで死にそうだった私の心を繋ぎ止めてくれた。
「え、えぇっと・・・なんでも、良いじゃないですか・・・」
うっ、知らない人と喋るのは久しぶりだから・・・口が上手く動かない・・・。
「そう?変な子だね、森の中で行き倒れてる割には、持ってる刀は業物なんだから。家では何やってたの?」
この人、少しは刀に対して知識があるんだろうか。・・・確かに、これは私の家では結構な値打ちがあるっていう宝刀だ。
「これは・・・私の家の、刀です。 でも、こんな所じゃ・・・役には・・・」
「うん、そうだね」
そんな事を行ったかと思ったら、この人はとんでもない事を言ってきた。
「ねぇ、私の家に来ない?」
「え、えぇ!?」
そんな、いきなり知らない人の家に来いって言われても・・・。
「だって、これから行く所無いでしょ? こんな所で寝てたぐらいだし。だったら、私が引き取ってあげるよ」
「そんな、悪いですよ・・・。貴方にも迷惑がかかりますし・・・」
「迷惑だって思うなら最初っからこんな提案しないって! で、どうするの?」
・・・確かに、そうしてくれるなら有り難い。
絶対にここで死ぬ、そう思ってたから私はここで目を閉じていたんだ。でも、この生命が繋げられるなら、こんな所で沈む必要はない。
それに・・・この人になら、多分私の体を預けられる。そう思ったから。
この話は、受けようと思った。でも、言葉にすることは出来なくて、私は無言で頷いたんだ。
「そっか、良かった!」
その人が心底嬉しそうな表情をするものだから、私もつられて笑ってしまった。
そうして、二人で適当に雑談をしながら、その人の家に行ったんだ。
今から思えば、その時に私は本当に色んな意味で救われたんだった。
単に命がどうとかいう話ではない。私は、一生モノの先生をえることが出来た。この時に出会ったこの人こそ、私の恩師なんだ。




